【休戦】丹波に巣食う悪魔の真意

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 4 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月11日〜06月16日

リプレイ公開日:2008年06月15日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

 丹波藩は長年に渡り、志士や陰陽師といった精霊魔法を駆使する魔法戦士たちを神皇家に許可なく召抱えていた。
 いよいよそれを咎められ、それらの集団を京都に送り裁きを受けさせよという命に、藩主の山名豪斬は異を唱えた。
 魔法戦士達を丹波から引き剥がして事を済ませようとした楠木正成の策は失敗し、都は藤原満定を大将とする軍勢を丹波に派遣する。
 丹波は八卦衆や八輝将といった魔法戦士集団、それに丹波に棲む五匹の精霊龍の力を借りて対抗し、旧知の相手に都の冒険者の士気は低く、満定の軍は容易に丹波を屈伏させる事ができなかった。
 その間に、事態は思わぬ方向へ向かう。
 丹波の西、山陰出雲の地でイザナミを名乗る黄泉女神とその軍勢が復活。
 イザナミの詳細は不明だが、数年前に大和に現れた黄泉大神が畿内に甚大な被害を与えた事を考えれば憂慮すべき事態である。
 都の混乱もあり、満定は已むなく軍を引いた。またしても丹波の処遇はうやむやになってしまった感がある。本来なら、丹波はもっと早くにお咎めを受けているはずなのだが、その度に乱がおきて都は丹波どころではなくなった。
 しかし、比叡山の件や源平藤の複雑な情勢など問題が山積みの京都の現状では致し方のない所だろう。

 そして、冒険者の偵察の結果、イザナミ軍は被害者と自軍戦力を同時に拡大しつつ、ゆっくりとだが京都方面に向かってきていることが判明。
 イザナミの配下には幹部級の黄泉人も複数確認されており、決して看過できない状態なのである。
 そこで、丹波の件を任せれていた京都軍の上三位、藤原満定は考える。
 山名豪斬は、京都軍と戦いながら神皇様に忠誠を誓っているとうそぶく男。一方で出雲の黄泉人は亡者を増やしながら東進を続けている。二つの敵を共に相手するのは無理だ。なおかつ、この二つは場合によっては手を結ぶ可能性も考慮しなければならない。
「已むをえんな‥‥」
 満定は丹波に休戦を持ちかけた。
 その上で、都を脅かす邪悪な黄泉の者に備えるよう伝える。
「関白様が云われたように、今は国家の危機じゃ。お主達の罪は許し難いが、それは黄泉人を葬った後にでもゆっくり話すと致そう」
 満定の腹は分からない。
 おそらく丹波を使えるだけ使い倒して、ボロ雑巾のように捨ててやろうぐらいに思っているのだろう。
 或いはこれで豪斬が満定を頼るなら、世渡りの仕方を教えてやれば丹波も元の鞘に収まるだろう。雨降って地固まるというやつである。
 そうした京都側の思惑はともかく、丹波はこの休戦を受け入れたようだ。
 残るはイザナミ‥‥その前に片づけておくべき問題がある。
 今回は、藤原満定からの個人的な依頼のようである。

 満定の言によれば、御所に出入りしている銀砂家を通じ、丹波の食客である‥‥カミーユ・ギンサに連絡を取ったという。当然、彼女はもう居ないだろうから足跡を辿るための行動だったが、意外なことに銀砂家はカミーユと連絡がついたという。
 彼女は、冒険者たちの報告で悪魔‥‥西洋でデビルと呼ばれている魔物であることが判明している。
 そんなものがなぜ丹波にいるのか、また、丹波が悪魔と知ってなおカミーユを藩に留めているのか‥‥それは不明だ。
 ならば本人に聞くのが一番手っ取り早かろうということだが‥‥。
「わしはイザナミが護国母神と信じていた。が、何故カミーユの云う事を信じたのか、今に思えば狐に化かされた気分じゃが‥‥奴が悪魔だというなら、納得のいく話じゃて。
 つまり、おぬし達の領分という事よ」
 カミーユ本人は、イザナミ復活を幇助したり、かと思えば冒険者を助けたりと真意が見えない。
 この呼び出しに逃げるそぶりもない。丹波の動向もひっかかる。
 果たして、彼女の真意は? そして正体は?
 一連の丹波の行動は、彼女が裏で糸を引いていたのか‥‥それとも―――

●今回の参加者

 ea1442 琥龍 蒼羅(28歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1774 山王 牙(37歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ea3210 島津 影虎(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea4301 伊東 登志樹(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6526 御神楽 澄華(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8545 ウィルマ・ハートマン(31歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 eb1758 デルスウ・コユコン(50歳・♂・ファイター・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb2483 南雲 紫(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb3529 フィーネ・オレアリス(25歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec3981 琉 瑞香(31歳・♀・僧兵・ハーフエルフ・華仙教大国)

●サポート参加者

玖耀 藍月(eb5510

●リプレイ本文

●午後のティータイム?
「まぁまぁみなさん、よくおいでくださいました。さ、お茶の準備は出来ておりますわ。紅茶でよろしいかしら。それとも、やっぱり緑茶の方がお好みかしら♪」
 丹波藩と京都の境にある関所‥‥その近くにある休憩所。
 やってきた冒険者一行を満面の笑顔で迎えたカミーユ・ギンサは、木製の机や丸太を輪切りにして作った椅子などが並ぶこの休憩所で、すでにお茶会の準備を万端で終えていた。
 焚き火にはお湯を沸かしていると思われる鉄瓶がかけられ、テーブルにはクッキーらしきものもある。
 個人的には、テーブルクロスが用意できなかったのが残念だとか何とか。
「驚き半分、呆れ半分ね‥‥。まさか本当に、しかもこんなに本格的にお茶会の用意をしてるなんて」
「結果的に前回は救われたといえ悪鬼は悪鬼、心を許せば破滅が待つのみ。申し訳ありませんが、飲食物は遠慮いたします」
「同じくです。悪魔は悪魔でしかないのですから、地上から放逐しなければなりません」
「あら‥‥お堅いこと。残念ですわ、せっかくの手作りですのに」
 ちっとも残念そうに見えない笑みを浮かべるカミーユ。
 一応、南雲紫(eb2483)はカミーユときちんと話し合いをするつもりでいるらしいのだが、御神楽澄華(ea6526)やフィーネ・オレアリス(eb3529)を始めとする他の面々はあまり乗り気ではない。
「このヤロウ‥‥悪魔のくせに手作りクッキーだぁ!? 初っ端から舐めたマネしくさりやがって‥‥ツブすっ!」
「‥‥待ってください。気持ちは分かりますが、それでは色々ぶち壊しになります」
「道理を無理でこじ開ける方針の方なのは知っていますが、自重してください」
 いきなりポン刀を抜いた伊東登志樹(ea4301)を止める山王牙(ea1774)。
 まぁ、諌めた琉瑞香(ec3981)も、伊東の気持ちは分からなくもないのだが。
「まぁ端からそうだったが、どうも私には馴染まん事態になっていくな。もっと、こう、陰謀というものは人情相絡めて迂遠かつ紆余曲折の末にだな。まったく京都の有象無象にしろ何にしろ‥‥」
「『ちゃんと戦争しろ』ですか? くすくす‥‥♪」
「‥‥‥‥」
 興味なさそうに見えて、実は伊東と同じくらいカミーユを攻撃する気満々だったウィルマ・ハートマン(ea8545)。
 しかし自分が言おうとした台詞を先にカミーユに言われ、とぼけるより先に敵意が増大する。
 心を読まれたというわけではないようだが、手に持った弓をいつでも使えるように握りなおした。
「まぁまぁ、一応全員分紅茶を淹れておきますわ。お菓子もよろしければどうぞ。さぁさぁ、お座りになって。お茶を飲むにしろお話しするにしろ、立ったままでは優雅じゃありませんものね」
 その笑顔は、年相応の少女の笑み。
 邪悪な気配など感じさせない、無邪気な笑みだ。
 しかし、無邪気が悪ではないとは言い切れない。
 一行は警戒は解かないながらも、各々丸太椅子に座ったのだった―――

●丹波、それぞれの意見
『ウチらもカミーユって娘がヤバいもんやて知ったんは最近なんよ』
「しかし、知ったからにはどうにかできただろう。多少の違いはあれ、悪魔は黄泉人とさして変わらない人類の敵だ。お前たち精霊龍にとっても、それは同じなのではないのか?」
『それはちゃうかな。勘違いされがちやけど、ウチらみたいに人間と仲良ぅしとる精霊の方が稀なんや。人間にとっては敵でも、精霊にとってはそうでない場合は多いんよ』
「刃鋼殿の言が正しいのであれば、豪斬様も一連の事件が起き、私たちが『カミーユ殿は悪魔です』と忠告するまで御存じなかったとか。ならば知った後もカミーユ殿をそのままにしているのは何故なのでしょうか」
 冒険者は、全員が全員カミーユとの会談に向かったわけではない。
 琥龍蒼羅(ea1442)と島津影虎(ea3210)の二人は、悪魔と知ってなおカミーユを追放しない丹波の意見を聞きに来ていた。
 精霊龍の金翼龍・刃鋼と会うことが出来た二人が聞いたのは、かなり微妙な回答であった。
 どうやら山名豪斬は、カミーユが悪魔であると聞き、当然ながらそれを本人に追求したらしい。
 したらしいのだが、それでもなおカミーユを城に住まわせているとのこと。
 二人の間にどんな会話がなされたのかは不明だが、悪く言えば匿ったということになるのだろうか。
 精霊龍としては、自分たち(五行龍の場合は人間びいきなので、丹波藩のことも含む)に害を及ぼすのでなければ悪魔だとしても排除しようとは思わないとのこと。
「基本的に、悪魔と共存出来るとは思えませんが‥‥。明確なお考えがないのであれば遠ざけた方が無難かと」
「しかし、今カミーユと敵対するのは上手くない。イザナミと同時に正体の分からん悪魔の相手は正直避けたいからな。‥‥そういえば刃鋼、お前たちはイザナミと面識でもあるのか? 向こうはお前たちのことを知っているような素振りだったが」
『いや、知らんよ。全員あったことも無いはずや。多分、イザナミからしてみればウチらみたいな精霊龍が人間と仲良ぅしとるのが気に食わんかったんやないの? 昔は他の精霊からよう邪険にされたもんや‥‥』
 本来、自然の化身である精霊は人間にだけ積極的に関わりを持とうとはしないもの。
 それが何匹も人間とベタベタしている事を、奇異に思う者は少なくないという事らしい。越後屋がペットを売り出してから精霊や魔獣を身近に感じる冒険者には理解し難いが、本来の人と精霊の関係はそういうものらしい。
 豪斬の真意は読み取れないが、カミーユは丹波で目立つ行動――少なくとも警戒されるような事はしていないらしい―――
「そんな事は無いだろう。近頃、様子がおかしくなった人とか、町や城の雰囲気が少し悪くなってるとか、目に見えない何か影響が」
『いや別に』

●Q&A
「貴方の戦う理由と、貴方が考える互いの妥協点を教えて下さい。あと、貴方の真の名を、俺だけに教えて貰えますか」
「理由はわたくしが歯牙ない中間管理職だからですわ。妥協点云々は、お互い必要以上に干渉しないのがよろしいのではなくて? 真名については、一昨日きやがれですの♪」
「私も聞くけれど、どうして前回私たちを助けたの? あなたの台詞じゃないけど、あそこで私たちを見殺しにしてもあなたには利しかないと思うのだけれど。正直、あなたの意図がちっとも読めないわ」
「あなたがたは面白い玩具ですもの♪ ‥‥というのが半分。もう半分は、豪斬様に言われたからです。あなたがたを助けてやって欲しい、と。ほら、わたくし居候ですから断れないんですの♪」
「また煙に巻くような言い草を‥‥! では、私はこれを正直にお答えいただきたいです。あなたは‥‥本当に銀砂紙遊様なのですか? そうでないなら、本物のカミーユ様は‥‥!」
「正直に、ですか。ならイエスでもありノーでもあります。わたくし、基本的にはこの身体に憑依していますから」
「ってぇことはなんだ。本物のカミーユはまだ生きてんのか!? カミーユぅ〜、知ってること、こっちが聞くことにゃ全部答えろぉ〜ぅ! でねぇとお前を題材にした春文同人(誰かの新刊らしい)を朗読すっぞ!」
「きゃん、エッチ♪ 聞いてみたい気もしますけれど素直にお答えしますわね。たまに身体を抜け出して、本来の姿からカミーユに変身したりもしますけれど、カミーユはちゃんと生きていますわ。ちなみに今日は憑依中ですの♪」
「それは一人の少女の人生を弄んでいると言う事に他ならんわけだが‥‥それは本人の身体で、しかも笑顔で
言わせる台詞か? ハッ、なかなかどうして反吐が出る」
「ギンサ家は利用するのに便利だったんですもの。御所に出入りはあるし、ハーフの娘はいるし、地位もそれなりに高い。おまけに、カミーユはなんとなく気に入る容姿でしたので♪」
「理由になりません! では、丹波に協力する理由は? 銀砂家と同様、利用しているだけなのですか?」
 様々な質問にスパッと答えていたカミーユだったが、フィーネの質問で珍しく表情を曇らせた。
 しばし沈黙し、真面目な顔でこう言った。
「豪斬様のお考えに感銘を受けたから‥‥では理由になりませんか? わたくしは確かにデビルですが、心が無いわけではありません。口先だけの決意だったならともかく、あの方は行動でも自分の意思を押し通した。無論、善意で協力するほど落ちぶれてはいませんが、わたくしのやるべき事を為すついでに御協力して差し上げているまでですわ。要は、気に入ったのです。丹波と、豪斬様が。‥‥お笑いになりますか? デビルが人間を気に入ったなどと」
「空気を読まないようですが、続けてお聞きします。カミーユさん、悪魔である貴方自身は世の中が戦いで満ちていた方が都合がいいという事はなんとなく私も理解できます。しかしイザナミ復活後の貴方の行動は、黄泉人達と敵対してでも、自分の正体をばらしてでも何かをなそうとする意図が見える。貴方が単なる個人的興味とかで私達の行動を手助けしている、などとは思えません。私達に今後も『誰かの依頼』という形で何かをさせる、そしてそれは『貴方』にとって都合のいい事である、と考えた方がまだ納得がいきます。ここから先は推論ですが『対抗手段』という名目でイザナミの対となる神々を私達に復活させ、神々の争いをこの世で行わせ、この世を荒廃させる‥‥そういう事ではないでしょうね?」
 琉の質問は、それまでの中で一番しっかりしていて具体的だ。
 一瞬ぽかんとしたカミーユであったが、やがてふと我に返り、いつもの表情でくすくすと笑って答えた。
「あら凄い。当たらずとも遠からずといったところでしてよ? でもこれ以上のヒントはあげられませんわ。わたくしは、丹波だけは守る。でも他は知ったことじゃありません。カミーユの身体は、安全を買うための保険。必要が無くなれば開放しますわ。まとめはこんなところでよろしくて?」
「最後に聞かせて頂戴。中間管理職と言うなら‥‥あなたの上司と、あなたの為すべき事っていうのは?」
「くすくす‥‥ヒミツです♪」

●京都では
「先ず、悪魔を利しようとする商人貴族は西洋にも未だ後を立ちませんが、碌な結末を迎えない事。人を堕落させる事自体を目的とするような輩ですから、救済の余地は欠片ほどもないでしょう。この点に関して、ジャパン人は認識不足の点もありますから幾らか酌量の余地はあるでしょうが‥‥関わる事自体を厳しく取り締まるべきかと思いますぞ。アレは隙あらば何処にでも入り込みます」
 デルスウ・コユコン(eb1758)はただ一人京都に残り、護衛を兼ねて藤原満定にデビルに対する意見を述べていた。
 流石に失敗で少しは懲りたのか、満定も無碍にすることは無く、黙って耳を傾けている。
「また、丹波ですが志士を登用しおおっぴらに働かせていたのは、あちらも唆されていた可能性もあるでしょうか。しかし、根本的な所で山名殿の目的は神皇家への反逆ではなく、訳あって都を追われた不遇の志士達の救済にあったのではないでしょうかな。私が見た所でも神皇家への忠誠に偽りなく、それどころか満定殿は神皇家の忠臣で、争わねばならぬのは心苦しいと仰せでした(超解釈)。罰は罰として必要でしょうが、彼に腹切らせても得る物は少ないでしょう。それよりも、慈悲と寛大な処置を示すことでの神皇家の得を考えては如何でしょうかな」
「得、じゃと? 悪しき前例を作れと申すのか、日本人でもない者が!」
「必ずしも悪しきとは限りませんぞ。もしかしたらよい前例となるやも知れません。何せ、西洋のデビルが日本で跋扈し始めたわけですからなぁ。労役という方法もありますし、志士達も結果として彼の下で働けるなら形式に拘る事もないでしょう。一旦は犯罪者として都に召し上げ、その後、丹波で無期奉仕活動に従事、など。言うまでもないかと思いますが、神皇家がなくなってしまっては、面子も上三位も何もないでしょう」
「むむ‥‥むぅ‥‥」
 明確な返答こそ無かったが、藤原満定はかなり感じ入るところがあったようだ。
 仮に、丹波がイザナミ討伐に力を貸さず、京都だけが滅びるようなことがあれば。
 考えたくない可能性だが、昨今の時勢を考えると、可能性はゼロではない‥‥。

 カミーユは、もって行き方次第で協力できるかもしれないということはわかった。
 行動理念は不明。目的は不明。
 それでも協力できるというのならば、したほうがよいのであろうか―――?
「ちなみに、その春文同人でのわたくしのお相手って誰ですの?」
「俺」
「わー‥‥是が非でも御遠慮願いたいですわ」
「どーゆー意味だ固羅ぁっ!?」