【多田銅銀山】スーパー埴輪大戦?

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 4 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:04月23日〜04月28日

リプレイ公開日:2008年04月25日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

 先日、京都を襲った脅威‥‥埴輪大魔神。
 屈強な冒険者を多数相手にその絶大な戦闘力を見せつけ、圧倒的な火力を持ってしても倒しきれなかった古代の戦士。
 しかも空を飛んで逃げるという埴輪にあるまじき芸当まで平然とやってのけ、そこに痺れて憧れた少年も少なくないとか。
 閑話休題。
 その埴輪大魔神が逃げた先が、丹波藩南部に位置する『多田銅銀山』という鉱山だというのである。
 どこからどう出入りしたのかはまだ不明だが、その近辺にヤツが着陸したのを鉱山で働いていた人足が何十人と目撃していたのだから間違いはないだろう。
 多田銅銀山と言えば、鉱山事故で奥から毒ガスが噴出し、一時全ての作業を中止していた場所。
 しかもその毒ガスは、鉱山の奥と繋がった古代遺跡から流れてきたもの。
 時間が経ち、毒ガスの濃度もかなり下がったことで、丹波藩は独自の調査を決行。
 その結果、遺跡内部は恐ろしい数の埴輪が徘徊するところであったという。
 しかも種類が多いらしい。持っている武器が剣だったり斧だったり槍だったり、馬型だったり犬型だったり鳥型だったり(でも飛ばない)多種多様なのだ。
 まるで埴輪のバーゲンセールである。
 結局、調査隊は埴輪に阻まれて殆ど進めず、丹波藩は冒険者ギルドに再び依頼を出したのである―――

「‥‥と、いうわけです。今度こそ依頼が成立して、埴輪遺跡の謎を解き明かして欲しいものですね!」
「あぁ‥‥例の聖徳太子の財宝が眠っているかもしれない、とかいう鉱山か。しかし‥‥こんなことを聞くのも野暮なのだが、京都と敵対状況にある丹波藩の依頼を出していいのかね? ギルドとしては」
 冒険者ギルドの職員、西山一海と、その友人であり京都の何でも屋、藁木屋錬術。
 丹波藩の現状を鑑みるに、丹波からの依頼では冒険者も受けてくれないのでは、との懸念が拭えない藁木屋である。
「鉱山の人が困っているんですから構いませんよ。まあ、鉱山の埴輪達を京都の兵にぶつける話にでもなれば別ですが。困ってる人が居たら、その人の代わりに依頼を出して助けてあげる‥‥それが冒険者ギルドの仕事であり、存在意義です」
「ふむ、ギルドの仕事は依頼人から仲介料を取って冒険者を斡旋する事だと思ったが、代わりに依頼を出して助けてあげるとは随分と偉そうだな。‥‥ふむ、その心意気やよし、といったところではあるが‥‥。まぁいい、一海君がその気なら、私も全力で依頼補助に当たろう。情報収集は任せたまえ」
「‥‥! ありがとうございます! 是非にもよろしくお願いします‥‥!」
「しかし、埴輪が多数居る遺跡に埴輪大魔神が逃げ込む、か。傷ついた身体を修復する施設でもあるのだろうか‥‥?」
 銅銀山の奥から繋がる、謎の埴輪遺跡。
 その規模は、今まで見つかったどの埴輪系の遺跡よりも深く、広く、手強いという。
 果たして、聖徳太子の財宝とは? 埴輪大魔神の目的は?
 謎に包まれたスーパー埴輪大戦が、今始まる―――?

●今回の参加者

 ea1774 山王 牙(37歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ea3190 真幌葉 京士郎(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea6381 久方 歳三(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb2018 一条院 壬紗姫(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)
 eb6553 頴娃 文乃(26歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ec0154 鳳 蓮華(36歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)

●サポート参加者

御神楽 澄華(ea6526)/ 護堂 万時(eb5301)/ 元 馬祖(ec4154)/ リリー・リン(ec4638

●リプレイ本文

●毒霧の中を
 丹波藩南部、多田銅銀山。
 晴天にもかかわらず、その周辺だけ空気が淀んでいるように見えるのは、毒霧のせいだけではないかもしれない。
 鉱山に近づいただけで空気が悪いと分かるというのに、工夫たちは今日も毒霧の中、作業を続けていた。
 それは多田銅銀山が丹波の大きな収入源であるのと同時に、彼らが生きるための仕事場であるからに他ならない。
 体が痺れるくらいなんだというのだ。後遺症が出るわけでなし、奥まで行かなければ埴輪も出ないのだから。
 現場の人間たちからは、そんな意見ばかりが聞いて取れた。
 しかし、今回冒険者に課せられたのは、その埴輪がゾロゾロいる鉱山奥の遺跡の調査。
 たまたま鉱山の上に遺跡があったのか、鉱山掘りと称してわざとその下に遺跡を作ったのかは不明。
 今はっきりしていることは、多数の埴輪を相手取らなければならないということだけである。
 そして、冒険者たちは準備を終えつつ、まだ安全エリアである坑道を進んでいく。
「うー、やっぱりけっこう身体がピリピリするねー。作業してる人たちは大変だよー」
「本当に。解毒剤を染みこませたマスクを使っててもこれじゃ、対策していない人たちはどうなるのかしら‥‥」
「毒にはリカバーは効かないしねェ。息苦しいことを我慢すれば、これは良い手だと思うけど」
「ガスの噴出しているところはもっと奥なのでしょうか。正直、バキュームフィールドでは吸いきれません」
 鳳蓮華(ec0154)を始めとする冒険者一行は、こぞって解毒剤を染みこませたマスクで口を覆っている。
 ステラ・デュナミス(eb2099)の言うとおり、対策無しで奥へ進めば重傷時と同じくらいの動きになってしまうかもしれない。
 窒息しないよう工夫しているので、頴娃文乃(eb6553)も不満はあれど文句はない。
 毒霧は坑道中に充満していて新鮮な空気がないため、いくらエアマスターと呼ばれるベアータ・レジーネス(eb1422)が魔法で吸引しようとしても限度があるというわけである。
「‥‥道が狭くなってきましたね。所々坑道の施工も拙くなってきたように思えますが‥‥」
「道は合っているのだろう? ということは鉱山部分の終わりが近いと言うことだ」
「はにきんぐさん‥‥お怪我の具合はいかがなのでしょう?」
「いやいやいやいや。これはお見舞いではなく調査でござるよ? というか、怪我なら拙者の方がよっぽど‥‥(泣)」
 山王牙(ea1774)と真幌葉京士郎(ea3190)のやりとりから伺えるように、坑道部分の終わりは近い。
 遺跡は坑道が最も掘り進んだ三箇所から通じているが、以前の丹波藩の調査で二箇所は途中で行き止まりになることが判明している。原因は落盤だと言うから、あまり派手な魔法などを使うとまずいのかも知れない。
 一条院壬紗姫(eb2018)は灯り持ちを務めながらも、まるごとはにわを持ち込んでいたりとちょっと動機が怪しい。
 ツッコミを入れつつ涙する久方歳三(ea6381)。その重みは、埴輪大魔神に星のトッシイにされた彼だけが知っている。
 やがて一行の前に、人一人がやっと潜れる程度の穴が開いた壁が立ちはだかる。
 その付近には、『これより危険地帯。立ち入り禁止』と書かれた立て札があった。
 いよいよ調査開始である―――

●埴輪わらわら
 今更思い返すと、坑道内では埴輪と一体たりとも出くわさなかった。
 また、工夫たちも埴輪が鉱山側へ出てきたことはないと言う。
 目の前の穴は埴輪なら悠々と通れる大きさなのに、だ。
 その理由は不明だが、穴から遺跡を覗き見た瞬間、一行は絶句する。
「な、ななな、なんでござるかあれはっ!? 目に見えるだけでも軽く十体は居るでござるよ!?」
 遺跡は坑道と違い、壁や床なども人の手が入った形跡があるものの、通路は狭い。
 ハンマーなどの大型武器を振り回すのは無理そうなくらい、と言えば想像できるだろうか?
 そんな場所に、穴から左右を見るだけで軽く十体。
 目的があるわけでなく、ただうろうろとランダムに動く埴輪たちは、侵入者があれば確実に襲い掛かるだろう。
「最初に穴を通った人間がタコ殴りにされるねェ、あれは。どうする? やめとくかい?」
「‥‥石を使った陽動も効果が無いようです。一瞬反応はしますが、動かない石では囮にはならないようですね」
「こんな地形じゃ隠れる場所もないわね‥‥。戦闘は絶対不可避ってところかしら」
「ならやるしかあるまい。俺がまず突破口を開く。あとは鳳、久方のバーストアタックを使える人間が左右に展開、後続が中央に入って援護。俺は一人で左を担当しよう」
「‥‥ならば俺も左の担当を」
 採掘知識も技術もない一行では、迂闊に入口の穴を広げることも出来ない。
 侵入するのも一工夫しつつ、真幌葉を一番槍としていざ遺跡へ!
「大魔神戦での教訓を生かし生まれ変わった‥‥これが道を切り開く新たな技だっ!」
 オーラパワーを付与された日本刀から繰り出されるバーストアタック。
 この依頼のために習得したと言う真幌葉だが、これが効果抜群。
 固い埴輪の胴体を、刀であっさりと切り伏せる!
 しかし!?
「うおっ‥‥集まるのが速い!? くっ、援護を!」
「こっちはこっちで手一杯だよー!?」
「来るわ来るわ、色んな形のがいっぱいでござるよ!?」
「‥‥ちぃっ! 狭いから並んでは戦えない‥‥!」
 大柄な人間が二人並べるほど道は広くない。
 鳳と久方のように、あまり体格が大きくなく、獲物も短いか持っていないのであればなんとかならなくもないのだが。
「入れました。アイスコフィンで固めます」
「アイスブリザードで押し戻すわ!」
「あたしは真幌葉さんの怪我を担当しておくよ」
「では私は応援します。フレー、フレー、は・に・わ」
『って、埴輪の応援するなぁぁぁっ!?』
 一体倒されても、後続の埴輪がすぐに追撃を仕掛けてくるので、回避が不得意な面々はダメージが積もる。
 また、いくら避けられると言っても後衛が攻撃されては意味がないので、結局受けに回ったりと殲滅速度は上がらない。
 リカバーが使える人間が居たことに心から感謝したいものである。
 総ツッコミを受けた一条院は、仕方なく最終手段に出ることにした。
 即ち‥‥まるごとはにわの着用。
「ふもっ! ‥‥間違えました‥‥。こほん。はにー!(まるごとはにわ着用で決めポーズ)」
「はにーもあれだけどさァ、ふもって何よ?」
「触れちゃいけない話題だと思うの。スルー推奨‥‥」
 が。頴娃やステラのやりとりをの方を無視し、周囲に異変が起こっていた。
 なんと埴輪たちが躊躇し(?)、動きが緩慢になっているのだ。
 とにかく戸惑っているのは確か。理由は‥‥やはり『はにわーぷりんせす』たる一条院の存在なのだろうか?
「いいや限界だよーッ! 壊すねーッ! 今だーッ!」
「遠慮無しでござる!」
「破片になれぇぇぇぇっ!」
「‥‥六角棒‥‥使い慣れない武器ですが、砕くには適しています‥‥!」
 埴輪たちの隙を突いて、Bアタック持ちの鳳、久方、真幌葉、山王がここぞとばかりに攻勢に出る。
 このメンバー相手に致命的な隙を見せた埴輪たちは、言うまでもなく次々と破壊されていく。
「あぁぁ‥‥そんな‥‥。私、そんなつもりで埴輪さんたちに語りかけたわけでは‥‥(涙)」
「あのね、今はそんな場合じゃないの。もう少し余裕があるときにして。ね?」
 何はともあれ、一旦勢いがついてしまえば、周囲の制圧にさして時間はかからなかった―――

●しかし
「またですか。ちっとも進めませんね」
 ストームの魔法で埴輪たちを吹き飛ばしながら、ベアータが溜息を漏らす。
 様々な武器を持っていたり、色んな動物の形をした埴輪たちは、角を曲がればまたぞろぞろ出現する。
 大分倒してきたが、遺跡内の調査はお世辞にも進んでいない。
 距離にして、まだ100メートル程度しか進んでいないだろう。
「だ、だいぶ、へばってきたで、ござるよ‥‥!」
「影響が少ないって言っても、多少なりと痺れてるしねー」
 背後を気にしなくても良い分、いくらかやりやすくはあるのだが、如何せん道が狭いので一度に倒せる数も少ない。
 防毒マスクのおかげで大分マシだが、痺れは確実に一行の身体に起こっている。
 そのせいか、いつもより体力の減りも激しいようだ。
「‥‥無理は禁物です。余力が残っているうちに撤退するのも勇気かと」
「こっちの魔力も大分なくなってきちゃったからねェ」
「ま、どこまで進めと言われたわけでなし、今回のところは様子見と言う事にしておくか」
 と、真幌葉が言った時である。
「‥‥いえ。感じます。近くに、高い埴輪力を」
「はにわちから? はにわりょく、じゃなくて?(汗)」
「はにわちからですっ。多分‥‥あちらの角を曲がった先のような気がします。ベアータさん、ストームの連続使用で一気にあちらへいけませんか?」
「やってみます。抵抗した埴輪の処理はお任せしますので」
 言って、ベアータが連続で嵐を巻き起こす。
 こと埴輪に関して、一条院の勘や言動は、どんなに突拍子がなくても笑い飛ばせない。
 すでにそのことを身をもって体験した一行は、彼女が感じた埴輪力とやらを頼りに進み、角を曲がると‥‥!
 飛ばされてこの部屋に転がってきた青銅製の埴輪たちをよそに、悠然と構えた茶色に輝く埴輪が一体‥‥!
「青銅じゃない!? 銅‥‥カッパーゴーレムみたいなもの!?」
「長い間放置されてた割にはずいぶん綺麗だなァ。自分で磨いてるのかねェ」
「つかぬことをお伺いするのでござるが、青銅と銅と、どっちが強いのでござろう‥‥(汗)」
「強度的にはどうか知らんが、見るからに茶色いヤツのほうが強いだろう。まずいな、今はかなり消耗しているぞ‥‥!」
「わっ、わっ、飛ばした埴輪たちが起き上がってくるよー! 逃げるのー!? 戦うのー!?」
「仕方ないわね‥‥今回は撤退しましょう。‥‥だから一条院さん、危ないから迂闊に近づかないの!」
「あぁぁ‥‥折角の珍しくて素敵な埴輪さんが‥‥(泣)」
 ステラにずりずりと引きずられ、一条院もこの場を後にする。
 山王と久方に殿を任せ、ステラの案でつけた目印を頼りに遺跡を戻った一行。
 鉱山部分に逃げ込んでしまえば、埴輪は追ってこない。
 残念そうなそぶりも見せずまたうろうろしだすだけ。
 とにもかくにも、一刻も早くこの毒霧から逃れたい8人であった―――