【多田銅銀山】赤銅埴輪を突破せよ

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 4 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:05月06日〜05月11日

リプレイ公開日:2008年05月11日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「うーん‥‥バーストアタックさえあれば、埴輪一体一体はそんなに脅威じゃないみたいなんですけどねぇ」
「数が多すぎるっていうんでしょー? アタシも嫌いなのよねー、ゾロゾロ鬱陶しいのって」
 ある日の冒険者ギルド。
 丹波藩南部、多田銅銀山の奥と繋がった埴輪遺跡の調査一回目は、正直あまり芳しくない結果だった。
 どこまで続いているか分からない遺跡に対し、何体いるかわからないほど多い埴輪。
 狭い通路までもが冒険者たちの行く手を阻み、思うような進撃を拒んでいると言う。
 第二回の調査依頼が来たこともあり、ギルド職員の西山一海は頭を痛めていた。
 が、その隣で呑気に煎餅をかじっているのは、一海にとっても意外な人物であった。
「ところでアルフさん、なんで一人でこんなところに? 今日はアルトさん来てませんよ」
「そーなのよ! お姉ちゃんったら、私に内緒でどっか行っちゃったの! 藁木屋のやつも仕事だとか言って出かけてたから、きっとどこかで逢引してしっぽりキメてるんだわっ!」
「女の子がそんな台詞言うもんじゃありません!?」
「ぶー。一応ここにも来てみたけど、やっぱ居ないし。もう疲れちゃった」
 京都の情報屋の居候、アルフォンス・ブランシュタッド。
 お姉ちゃん至上主義のレズっ気満載娘だが、いざとなれば滅法強いナイトである。
 もはや何のために日本に来たのか覚えている人間は少ない。
「で? なんかブロンズの中にカッパーなゴーレムが居たんでしょ?」
「ゴーレムじゃなくて埴輪なんですけどね‥‥(汗)。実際問題、カッパーゴーレムってどれくらい強いんですか?」
「んー、アイアンやブロンズと大差なかったような気がするんだけど。あ、でもちょっと機敏だったかな」
「どっちみち油断は出来ない、と‥‥。雑魚の埴輪もいるでしょうから、全員でフルボッコというわけにも‥‥」
「藁木屋でも連れてけばぁ? あいつ、避けるのだけは人外なレベルだから、体力の続く限り囮として散々使い倒して、最後はボロ雑巾のように捨ててくれると助かるかな。主にアタシが♪」
「‥‥却下します」
 聞けば、例の茶色く輝く埴輪は、埴輪大魔神同様、鎧兜で武装した姿形だという。
 ならばヤツは、埴輪大魔神を作るためのプロトタイプだとでもいうのだろうか?
 埴輪たちが支配する遺跡の謎は‥‥まだまだ、先が見えていない―――

●今回の参加者

 ea1774 山王 牙(37歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ea3190 真幌葉 京士郎(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea6381 久方 歳三(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea9689 カノン・リュフトヒェン(30歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb2018 一条院 壬紗姫(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb6553 頴娃 文乃(26歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ec0154 鳳 蓮華(36歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)

●サポート参加者

タケシ・ダイワ(eb0607)/ メグレズ・ファウンテン(eb5451)/ 木下 茜(eb5817)/ 雀尾 嵐淡(ec0843

●リプレイ本文

●ハニワパラダイスへ
「‥‥しかし、この有毒ガスが何処から出て来たのでしょうか? この異常な数の埴輪といい、まさか埴輪を修復・製造している際に発生したガスなのでは」
「右手に十手、左手に提灯、心に愛(キュン)。‥‥こほん、もとい。埴輪が産み出される時に毒なんて発生するわけがありません。埴輪と一緒に生まれ出のは、幸せだけです」
「どんな新興宗教だ。にしても、相変わらずの埴輪の群れか‥‥しばらくは焼き物を見るのも遠慮したくなるな」
 丹波藩南部、多田銅銀山。
 相変わらず麻痺性の毒霧が充満している坑道だが、山王牙(ea1774)を始めとした冒険者たちが歩き回れることからも分かるように、大分薄まってはいる。
 が、手製の防毒マスク(解毒剤を染みこませた布を口に巻いている)がなければかなり動きが制限されるだろう。
 一条院壬紗姫(eb2018)が主張するように、埴輪が作られたから発生したと言うわけでもないだろうが‥‥果たして。
 真幌葉京士郎(ea3190)は、前回遭遇した様々な形の埴輪の群れを思い出して軽く溜息を吐く。
「困りましたね。今やってみたのですが、クリエイトエアーは意外と範囲が狭いです。2〜3人が余裕を持って入れる範囲にすると、魔力の消費が激しくなってしまいます」
「ただでさえストームの魔法を連発してもらわねばならないのに、それは辛いな。回復アイテムもただではない」
「流石に魔法力はリカバーで回復できないしねェ。かと言って、何時間も寝てられる場所でもないし」
 赤銅埴輪と戦う時、クリエイトエアーで新鮮な空気のエリアを作ろうと思っていたベアータ・レジーネス(eb1422)は、練習のつもりで軽く魔法を使ってみた。
 確かに魔法の範囲は毒霧がない清らかな空間になったが、どうも狭い。
 カノン・リュフトヒェン(ea9689)が言うように、アイテムで魔法力を回復することは出来るが、それらはどれも貴重な品。できればあまり使いたくないのが人情だろう。
 物理的なダメージならば頴娃文乃(eb6553)が何とかしてくれるかもしれないが、彼女にもやはり魔法力の限度がある。
 ここがとても休んでいられない場所なのは、嘆いても仕方のない現実であった。
「皆様方、着いたでござるよ。ここから先は遺跡‥‥気を引き締めていくでござる」
「おー。前回結構倒したおかげかなー。見て見てー、あんまりいないよー?」
 久方歳三(ea6381)の言葉に、全員が頷く。
 鉱山部分と遺跡部分が分かれる、人一人が通るので精一杯の穴。
 埴輪たちは何故かこっち側には出て来ず、遺跡内の埴口密度を上げている。
 鳳蓮華(ec0154)がひょいと覗いて確認すると、見える範囲には3体しか埴輪がうろついていなかった。
 やはり、前回あれだけ叩き壊したのは大きいのだろうか。
「‥‥‥‥(しゅん)」
「残念そうな顔をしないように。さて‥‥ではまた俺から行かせて貰おうか」
 今回は調査の他にも、武将級(と呼んでいいものなのだろうか?)の埴輪の撃破を成さねばならない。
 青銅よりも強いという赤銅埴輪の実力とは―――?

●集団戦
「今気付きましたが、防毒マスクがなかったらさぞ盛大に毒霧を吸い込んだでしょうね」
 ストームで通路にうろつく埴輪を吹き飛ばしながらベアータは言う。
 確かに充満する毒霧を滅茶苦茶に引っ掻き回すのだから、対策がなければかなりヤバかっただろう。
「よし‥‥やはり面制圧は効果がある。狭い通路もアイデア次第ということだ!」
 幅の広い盾で埴輪を弾き飛ばすカノン。
 ストームを耐え凌いだ埴輪を相手とし、盾と剣のバーストアタックで着実に撃破していく。
 数が多ければ厄介な埴輪も、一体一体であればこのメンバーの敵ではないのだ。
「そういえばここって塞げたり出来ないのかねェ? 次回以降もまた最初からっていうのも何だし、進めた距離分はこっちの陣地にしたいって感じかな」
「材料があればいけると思うけどー。でもさー、埴輪の残骸を集めて積み上げるのも結構骨だよー?」
 頴娃の言うように、なるべくなら埴輪の居ない『占領区域』を広げたいのは事実。
 が、鳳ではないがバリケードを作るのも手間である上、作っている最中に埴輪に出てこられても困るし、次に来た時にそれを撤去または移動させるのもしんどい。
 一応、前回より数は大幅に減っている。
 埴輪がまばらに出てくるのであれば、いっそ今回のように撃破して進んだほうが速いかもしれない。
 赤銅埴輪に対応するメンバーの体力温存のために、カノン、鳳、一条院の三人が埴輪の相手をしていたが、それで充分。前回の何倍もの速さで目的地へ向えているからだ。
 そして一行は、前回赤銅埴輪と出くわした空間の手前に到着する。
 一行はここで補助魔法などの準備をしたいところであったが‥‥。
「のぉぉっ!? へ、部屋の中の埴輪が凄いことになってるでござる‥‥!」
「‥‥前回無理矢理押し込んだのがまずかったのでしょうか。いや、あれは奥からも出てきた感じか」
「101匹はにはに大行進‥‥。(キュン)」
「洒落にならん。ならんがやるしかあるまい。通路では満足で戦えなかった分、ここでしっかりと働かせて貰うとしよう」
 久方と山王のリアクションからもお分かりのように、空間の中には赤銅埴輪は勿論、例のごった煮埴輪が20体ばかりうろついていたのである。
 通路から比べれ部屋は大分広いが、それでも20体もの埴輪が占拠すればすし詰め状態。
 迂闊に踏み込めばあっという間に圧殺されかねないが‥‥?
「予定通り、まずはストームを撃ちます。クリエイトエアーも、できれば実行したいと思っていますので」
「頼りにしよう。一度吹き飛べば埴輪は体勢を立て直すのに時間がかかるはず‥‥。いくぞ!」
 果たして、ベアータとカノンの作戦は上手く行くのか―――

●誤算
「な、に!?」
「ぶつかってブレーキが‥‥」
 ベアータの魔法と同時に部屋に踏み込んだ一行だったが、抵抗できずに吹き飛んだ埴輪も、近くに居た別の埴輪にぶつかって止まり、思ったより距離を稼げなかったのだ。
 当然、侵入者に気付いた埴輪たちは、一斉に冒険者を目指して殺到する!
「させるか! 我が槍‥‥岩をも砕かん!」
「埴輪大魔神の修復が終わる前に、何としても遺跡の最深部に辿り着かなければ、再び京に奴が現れる。何としても、この場は突破させていただきましょう‥‥!」
 真幌葉と山王が迎撃に回るが、やはり数の多さが如何ともし難い。
 この二人なら一撃で埴輪を粉砕することも可能だが、そんな大技を使ったら後続に殴り飛ばされるのがオチである。
 そうでなくとも、毒霧の影響で動き難いというのに。
「レンと久方さんが囮やるよー! 少しでも注意を逸らせればー!」
「ただの埴輪ならば、どう下手を踏んでも星にされることもないでござるよ!(泣)」
 回避に優れた二人が埴輪数体の注意を引くが、焼け石に水。
 一体に攻撃する、三匹に殴られる、頴娃に回復してもらう。このサイクルを二人同時に行っていたら、頴娃の身が持たない。
「ちょっとちょっと、アタシを過労死させる気!? っていうか、なんでそんなにダメージ貰うのさ!?」
 防具などで武装している二人は、本来ならば埴輪程度の攻撃くらいなんともないはずなのだが‥‥。
「恐らく、物理的な圧力でしょう。埴輪たちは身を省みず突進してきますから、その質量と衝撃を防ぎきれないのでは」
 と、ベアータが冷静に状況を分析した、次の瞬間。
 若干一名を除いて、一同は我が目を疑った。
 部屋の中央で仁王立ちのまま、ストームにも微動だにしなかった赤銅埴輪が‥‥跳んだ。
「なっ‥‥どういう理屈だ!?」
「あの重量がそのままのしかかってきたら‥‥くそっ!」
 カノンの動揺も、真幌葉を救う手段にはならない。
 ただのしかかってくるだけなので、全力で移動すれば避けられる。が、彼はすでに攻撃を終了している‥‥!
「すごい‥‥じゃんぴんぐはにわ‥‥!(キュンキュン)」
「アホか! えぇい、ならば!」
 高速詠唱でオーラマックスを発動、なんとか身を翻して回避!
 しかし!?
「まだ動く‥‥ちぃっ!?」
 聞いていた通り、他の青銅製の埴輪にはない機敏さで、剣による二回目の攻撃を放つ赤銅埴輪。
 ダメージ自体は防具に阻まれ、普通の埴輪たちの突撃より効かなかったが、吹っ飛ばされた場所が悪かった。
 部屋の中央に向って地面を滑った真幌葉に埴輪が殺到し‥‥ただただのしかかってきた。
「ぐっ!? お、重‥‥! い、息が‥‥!」
「ちょっ!? ま、まずいよあれー! 潰されちゃうってー!」
「ベアータ殿、ストームでござる! ストームでのしかかっている埴輪を吹き飛ばすでござるよ!」
「無理です。ああも重なってしまうと先ほどの二の舞でしょう。むしろ山王さん、お願いします」
「‥‥しかし、俺がこいつから目を離しては‥‥!」
「赤銅は私と一条院でなんとか抑える! 死人を出すつもりか!?」
 カノンの言葉で、山王は真幌葉を救出すべく赤銅埴輪に背を向けた。
 カノンと一条院にターゲットを移した赤銅埴輪は、その茶色に輝く剣を振り上げる‥‥!
「くっ‥‥鋭い! 毒霧がなくても厳しいレベルだぞ‥‥!」
「埴輪さん‥‥お見せしましょう、埴輪への愛で新たに習得した力を!(レミエラはすでに発動中)この程度の危険など、愛の前には無意味だと証明してみせましょう!」
 一条院は、レミエラの効果なのか先ほどから何やらハイテンションである。
 その状態から、どんな攻撃が繰り出されるのかと全員がごくりと息を飲む‥‥!
「えい、えい、えい、えい、えい」
 ぽかぽかぽかぽかぽか。
「よりにもよって素手で殴るなっ!? うあっ!?」
 ガゴン、と嫌な音がしてカノンが直撃を貰う。
 そして、今度は容赦なく一条院が蹴り飛ばされて地面を転がった。
「あれー、意外ー。って、そんな場合じゃないよー! 久方さんー、これってまずくないー!?」
「こんな状況で真幌葉さんのオーラマックスが切れたら、それこそ大事でござる! 山王殿、救出は!?」
「‥‥これで、四体目‥‥! もう動けるはずですよ、真幌葉さん‥‥!」
「あぁ、助かった! 皆、すまんが今回は退くぞ! 集団戦を甘く見た‥‥!」
 いざ逃げるとなれば、通路までは赤銅埴輪は追ってこないので逃げるのは容易。
 息が上がれば上がるほど身体の痺れが強くなるので、あまり走りたくは無いのだが‥‥。
「こりゃァもうちょっと作戦考えないと駄目だねェ。青銅だけ通路におびき寄せて先に倒しちゃうとかサ」
 今回のところはもう遅い。
 赤銅埴輪と青銅埴輪‥‥別段連携しているわけではないのだが、思いの他に強敵であった。
 流石は埴輪大魔神の試作型―――(?)