【神話の黄泉女神】戦力増強‥‥?
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■シリーズシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:5 G 55 C
参加人数:10人
サポート参加人数:3人
冒険期間:07月12日〜07月17日
リプレイ公開日:2008年07月16日
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●オープニング
神話に名を残す、日本の神々や大地をも生み出したと伝えられる女神‥‥イザナミ。
混沌とした情勢にある現代のジャパンに再臨した彼女は、人類に害を撒き散らす黄泉の軍団を率いていた。
復活の地、出雲はすでに壊滅状態。藩丸ごとがイザナミとその軍団に支配されたといっても過言ではなった。
やがて、イザナミは京都へ向かって進軍を開始する。
その進軍スピードは非常に緩やかなものではあったが、死を、破壊を、悲しみを撒き散らし、それらを取り込んで更に戦力を増大させていくという、不死者ならではの不条理な行軍であるという。
この事態にあって、京都は神皇の意向に従わずに魔法戦力を保持していた丹波との戦線を打ち切った。
再び有耶無耶となった丹波の処遇だが、丹波は京都の命に従い、対イザナミ軍の先鋒を請け負ったという。
魔法戦力の解体や身柄送致は拒否するわりに、その他の命令には素直に従うのがなんと言うか。
とはいえ、相手は大きな藩にも匹敵する強大な戦力。
魔法戦士15人や精霊龍、はては悪魔までもが味方をしているとはいえ、丹波は所詮小藩。
まともにやりあえば勝ち目は薄いのは、誰の目にも明らかである。
そこで、イザナミ軍が丹波付近にまで迫っている今、藩主の山名豪斬は冒険者ギルドに依頼を出した。
京都からも兵の援軍はあるだろうが、それだけでは梨の礫。人外に対抗するにはやはり人外の戦力を‥‥という思考の下、平良坂冷凍という人物に協力を請いたいので、交渉してきてくれというのである。
平良坂冷凍とは丹波の大商人だった男で、数々の事件を経て『骸甲巨兵』なる巨大な怨霊を復活させた人物。
武装したがしゃ髑髏とも言われる全長18mもある妖怪は、敵とすれば脅威だが味方にできれば心強い。
が、冷凍なる人物は非常に食えない男だし、丹波と幾度なく刃を交えた存在。
また、黄泉人とも手を組んでおり、自分そっくりに化けさせて、二人の冷凍として骸甲巨兵を使役しているのだ。
問題点は二つ。
一つは、最近はその冷凍たちは表立って行動していないこと。何を画策しているのか分からない。
二つ目は、黄泉の女神と戦うのに黄泉人を含む勢力が協力するか? ということ。
冷凍たちも当然イザナミの復活は知っているはずだが、それに合流していないのが何を意味するのか‥‥。
とにかく、丹波及び京都に迫るイザナミと戦うために、少しでも戦力が欲しい。
戦力にならずとも、内側から骸甲巨兵のような化物に暴れられては困るので、休戦協定だけでも結んでおきたいのだ。
神話の軍団との戦いは、そう易々とは運ぶまい―――
●リプレイ本文
●インタビュゥ
「Q1! まずは自己紹介をお願いするわ」
『平良坂冷凍です。といっても、本物はどちらか一方ですけどね。ほっほっほ‥‥』
「うわー‥‥物凄くステレオ(汗)」
交渉の場で仲間内からいち早く発言したのはヴェニー・ブリッド(eb5868)である。
とある町の外れにある集会所の座敷にて座布団をつき合わせているのだが、冷凍と名乗った人物は、まるっきりそっくりな顔が二人並んでいる上に同時に喋るものだから不気味でしょうがない。
加えて、建物の外には例の骸甲巨兵なる巨大な武装がしゃ髑髏がそびえ立っているのだから始末に悪い。
まぁ、動く気配は今のところ無いのだが。
「じゃあQ2。今回、交渉の席に着いたきっかけは?」
『支配を狙っている丹波藩の、現藩主様直々の声かけですからね。無碍にするのも可哀想でしょう?』
「噂どおりの喰えないリアクションねぇ。じゃあ次。復活されたイザナミ神をどう思われますか?」
『光栄の至りじゃありませんか。この国を創造したと言われる女神様と時を同じくできるなど』
「ニヤついて言うもんだから説得力無いわねー。それじゃ最後。ズバリ、あなたの野望は?」
『丹波をこの手に収めることです。あぁ、ご心配なく。他所の藩や京都には興味ありませんから』
そういえば以前からそんなことを言っていた気もするが、どうして狙いが丹波藩だけなのか理解できない。
とはいえ、せっかくの交渉の席。色んな意味で滅多にない機会なので、次のメンバーが話を振った。
「お初にお目にかかります、冷凍殿。僧兵の琉瑞香(ec3981)と申します。立町殿‥‥十七夜殿には『色々と』お世話になっておりますが、まずは話し合いの席について下さった事に感謝いたします。‥‥その十七夜殿は隣のお部屋にいらっしゃるようですが、この席には?」
『おや‥‥探知魔法ですか。ほっほっほ‥‥ご心配なく。彼は本来の姿のままなので、控えさせているだけです。御要望とあれば入らせますが‥‥いらない遺恨を掘り返すだけでしょう』
「‥‥確かに。では早速本題に入らせていただきます。イザナミは生ける者全てを憎悪し、全てを破壊しようとしています。恐らくは貴方が利益を上げ、支配しようとする存在すら許容しないでしょう。ですから、私たちがイザナミ達をどうにかするまでの間、一時の和を乞いたいのですが、いかがでしょうか?」
『なるほど。予想はしていたので驚きはしませんが‥‥。それで? そちらからは何をいただけるのでしょう?』
「応じていただけるのであれば、そちらがイザナミ軍勢との戦闘を行う場合協力をさせていただきます。それとある程度の金品、もしくは援助物資が必要であればお渡しします。流石に領地まではお渡し出来ませんがね。ある程度の物でしたら便宜は図れるよう、こちらも上に掛け合ってみましょう」
セイロム・デイバック(ea5564)は、そら来たとばかりに代価について話す。
こちらから休戦を求めている以上、冷凍側から何かを要求されるのは当たり前。交渉とはそういうものである。
それに対する冷凍の答えは‥‥。
『金品も援助物資も必要ありませんよ。自前で用意できるようなものを提示されても仕方が無いでしょう。せめて領地の一角を譲渡する、くらいの気概を見せて欲しかったものですね』
「‥‥言い過ぎではありませんか? こちらとて、好き好んであなた方と共闘を‥‥いえ、休戦をしたいと申し上げている訳ではありません。例え現状イザナミ軍に組していないとはいえ、数々の歪んだ術を残し、五行龍様方を襲った連中と共闘するなど、正直ぞっとします」
『‥‥はて? 随分事情に詳しいようですが、貴女とは面識がありましたでしょうか』
御神楽澄華(ea6526)は、市女笠を目深に被り、普段とは違ったいでたちで居た。
冷凍も彼女が御神楽だとはわかっていないらしい。
へそを曲げられても困るが、あまりこちらが下手に出ていると思われても困るということで、いわゆる『ツン』の部分を担当しているようである。いや、『デレ』はいなさそうだが。
「そちらはアレの性状は知っているのか? 蘇らせた私たちが言うのもなんだがまともではなかったな。妄執に囚われている。これだから死人はつまらん」
『さぁて‥‥黄泉人のほうの私も、封じられていた地方が違うので面識はありませんからね。ただ、イザナミ様は決して人間の裏切りを許さないだろう、ということは聞いていますが』
「‥‥よくもまぁそれだけペラペラ喋っているのに音ズレしないものだ。シンクロ率が半端じゃないな」
『ほっほっほ‥‥褒め言葉と受け取っておきますよ』
「チッ‥‥約束の時間の5時間も前から現場に来ていたり、何かと面倒な輩だ」
ウィルマ・ハートマン(ea8545)もかなり早く現場に来たはずなのだが、冷凍たちは更に前に現場に来ていた。
おかげで鳴弦の弓や歌でのお出迎え(という名の嫌がらせ)や外での工作に失敗し、機嫌が悪いらしい。
「‥‥御託はいい。結論に向かおう。冷凍殿は丹波と休戦するつもりがあるのか否か? お答えいただきたい」
今まで沈黙を保ち続けていたアンリ・フィルス(eb4667)が、その重厚な雰囲気を動かした。
その本気具合を感知した冷凍たちは、少しばかり声のトーンを落とし、いつもの薄ら笑いを消した。
『‥‥先ほども言いましたが、私たちは丹波藩の覇権を狙う者。イザナミ様がこのまま進軍すれば、丹波は死者の軍団に押しつぶされるのが関の山でしょう。そうなっては利益も不利益もありませんからね。休戦しようと言われれば応じますよ。無償で協力してもかまいませんとも。まぁ、それは丹波の体面上よくないとみなさんお分かりになっているようですが』
「最初から受け入れるつもりだった、と?」
『そこまでお人よしではありませんよ。あまり下手に出るようなら毟れるだけ毟ろうと思っていましたからね。そこは流石に歴戦の冒険者‥‥よくわきまえていらっしゃる』
「では、休戦協定締結と言うことでよろしいでござるな」
『構いませんよ。まぁ、こちらはこちらでイザナミ様の軍と勝手に戦いますが。未来の領地を踏みにじられては困ります』
相互不干渉と言う形で締結された休戦条約。
冷凍は冷凍で、後々支配する土地を破壊だれるのを嫌い、防衛に回るつもりらしい。
黄泉人が黄泉の女神と事を構えてまで支配したがる何かが、この丹波にあるというのだろうか―――
●外では
集会場の外では、交渉の場に赴かず警備に回っている者が四名ほどいた。
最初は冷凍の部下や田他藩の密偵が現れるのではないかとの懸念からだったが、外にそびえ立つ骸甲巨兵の存在もあり、わりと本格的な警戒態勢を取っている。
そんな中、山王牙(ea1774)はとある確認の一手を打っていた。
「うーん‥‥これは無理そうですわね。何か強力な因果のようなものでコントロールされていますもの。多分、封印を解いた者にしか付き従わないと思いますの♪」
「‥‥そうですか。丹波は、これをどうにかできる算段があって冷凍氏を放っておいたわけではない、と‥‥」
「ちょっと待て、山王。何故カミーユ本人がここに居る。確か聞きに行くだけだと聞いていたが」
「‥‥申し訳ありません。直接見てみないと分からないと仰っていたので」
そう、琥龍蒼羅(ea1442)の言から分かるように、丹波の食客にして悪魔のカミーユ・ギンサまでここに来ていたのである。
山王はカミーユに色々聞きに行ったのだが、最終的に『連れて行ってくださいまし♪』と言われ、仕方なく連れて来たという。
「いやいやいやいや。あのデカブツだけだって神経すり減らすのに、余計な警戒対象増やすなよ!?」
「こいつが例のカミーユ? 女の名前なのに‥‥なんだ、悪魔か」
鷲尾天斗(ea2445)も鷹村裕美(eb3936)も、カミーユとは面識が無い。
だからなのか、それともカミーユがあまりに人間くさいせいか。悪魔がすぐ近くにいるというのに緊張感がない。
一応、骸甲巨兵も動かないし、集会所近辺に怪しい気配はなし。
後は中での交渉が上手くいくことを祈るのみだ。
と。
「ところで、何故わたくしに声をお掛けになったんですの? 鏡のことはわたくしが御紹介したので当然かもしれませんが、コレ(骸甲巨兵)をわたくしが何とかできると思われたのが不思議なのですけれども」
「‥‥いえ、なんとなく。悪魔であれば何か異様な手段でもあるのではないかと」
「くすくす‥‥まぁ確かに色々あることはありますけれど、今回は無理ですわ♪」
「何事も無ければいいと思ってたんだがな。悪い遊女と悪運は向うから擦り寄ってくるってのは本当だ、これがな」
「一応言っておくが、交渉を御破算にするような真似をするなよ。その時は容赦なく‥‥倒す」
「あらあら琥龍さん、そんなことするわけないじゃありませんか♪ この交渉は豪斬様の意向ですし、ここで妙な真似をするとアレ(骸甲巨兵)と皆さんを相手にしないといけませんもの。それは流石に遠慮いたしますわ」
「コレだのアレだの、随分骸甲巨兵を気にしているな。何かあるのか?」
「‥‥別に。ただ、ちょっと過ぎた玩具だなー、なんて思っているだけですから♪ あ、そんなことより鷹村さん?」
「何だ?」
「さっきおトイレに行かれたとき、転―――」
「ははははは、何の話かなぁ。ちょっと頭冷やそうか、いいからちょっと来い、異論は認めーん!」
「あーれー♪ どこで見てたとかお聞きにならなくても‥‥」
「それも含めて問いただーすっ!」
カミーユを連れ、風のように離れていく鷹村。
もはや相手が悪魔であることなどすっかり念頭に無いだろう。
「‥‥なぁ。俺たち、ひょっとしてとんでもないヤツと普通に会話してんじゃね?」
鷲尾の呟きに、山王と琥龍が頷く。
悪魔。本当は、もっと警戒しなければならない相手なのではなかろうか―――