【神話の黄泉女神】戦端、開く‥‥!

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:13 G 3 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月27日〜08月03日

リプレイ公開日:2008年07月31日

●オープニング

  神話に名を残す、日本の神々や大地をも生み出したと伝えられる女神‥‥イザナミ。
 混沌とした情勢にある現代のジャパンに再臨した彼女は、人類に害を撒き散らす黄泉の軍団を率いていた。
 復活の地、出雲はすでに壊滅状態。藩丸ごとがイザナミとその軍団に支配されたといっても過言ではなった。
 やがて、イザナミは京都へ向かって進軍を開始する。
 その進軍スピードは非常に緩やかなものではあったが、死を、破壊を、悲しみを撒き散らし、それらを取り込んで更に戦力を増大させていく、不死者ならではの不条理な行軍であるという。
 この事態にあって、京都は神皇の意向に従わずに魔法戦力を保持していた丹波との戦線を打ち切った。
 再び有耶無耶となった丹波の処遇だが、丹波は京都の命に従い、対イザナミ軍の先鋒を請け負ったという。
 魔法戦力の解体や身柄送致は拒否するわりに、その他の命令には素直に従うのがなんと言うか。
 とはいえ、相手は大きな藩にも匹敵する強大な戦力。
 魔法戦士15人や精霊龍、はては悪魔までもが味方をしているとはいえ、丹波は所詮小藩。
 まともにやりあえば勝ち目は薄いのは、誰の目にも明らかである。

 先日、冒険者に要請された案件‥‥丹波に潜む黄泉人を含む勢力、平良坂冷凍一派との休戦協定は上手く事が運んだ。
 必要以上に下手に出ないことで、支出も抑えられた。
 かといって不必要なほどの挑発や挑戦的態度もなかったので、休戦を拒まれもしなかったのである。
 嘘か本当か分からないが、冷凍一派も丹波を滅ぼされるのは面白くないらしく、黄泉人を擁する勢力であるにもかかわらずイザナミ軍と独自に戦うつもりであるらしい。
 が、丹波が黄泉人を仲間にしたとあっては世間体が悪い。
 それは冒険者も藩主も冷凍も共通の懸念事項らしく、最初からあくまで『相互不干渉』という形なので、必要以上の協力はしあわず、お互い勝手にやろうというのに留まっている。

 そして、ついにイザナミ率いる黄泉の軍勢は丹波の西側国境付近まで接近してきていた。
 これに対し、丹波側は持ちうる戦力を惜しまずに投入している。
 八卦衆、八輝将の魔法戦士たち。
 五行龍と呼ばれる精霊龍たち(これは有志の参加。純粋な戦力ではない)。
 食客の悪魔、カミーユ・ギンサ。
 しかし、それでもまだ足りない。小藩である丹波では、兵士たちとそれらの特殊戦力をつぎ込んでも苦しい。
 そこで、歴戦の勇者たる冒険者たちにも協力が求められる。
 丹波が抜かれれば京都まで不死者たちが押し寄せる。少なくとも丹波藩は壊滅するだろう。
 いよいよ丹波藩直前で開かれる戦端‥‥黄泉の軍団との戦いは、熾烈を極めることだろう―――

●今回の参加者

 ea1442 琥龍 蒼羅(28歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2445 鷲尾 天斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea5564 セイロム・デイバック(33歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea6526 御神楽 澄華(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8545 ウィルマ・ハートマン(31歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb3936 鷹村 裕美(36歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb4667 アンリ・フィルス(39歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb5868 ヴェニー・ブリッド(33歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec3981 琉 瑞香(31歳・♀・僧兵・ハーフエルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

●開戦
「よいか、危険を感じたらすぐに下がれ。例え敵を100倒してもお前たちが100倒されては意味が無いのだ。此度の戦、退く事は恥ではない。希望を繋ぐ為の勇気ある決断と心得よ!」
 おぉー! と兵士たちの怒号が上がる。
 丹波藩主山名豪斬は、自ら戦場に立って兵を鼓舞していた。
 藩西部、丹波藩と但馬藩の国境、遠阪峠。
 高みから見下ろしている格好の丹波軍からは、すでに津波の如く押し寄せるイザナミ軍の姿がはっきり見えている。
 進軍スピードは遅い。統率が取れている様子も無い。しかし、その圧倒的な数が絶望感を起こさせる‥‥!
「弓隊、前へ! 一斉射の後、第一、第三軍が斬り込め! 第二、第四軍はすぐに交代できるよう準備! 気後れるすることはない! 我らには八卦・八輝に加え、五行龍も歴戦の冒険者もついている! いざ‥‥かかれぃ!」
 それを振り払うかのように、山名豪斬は戦闘開始の指示を出す。
 広範囲に展開しているイザナミ軍。対して、軍を250名×4に分散しつつ応戦する丹波軍。
 地の利はこちらにあるが‥‥果たして―――

●独立部隊
「始まったようですわね。で、皆さんは何故わたくしのところにいらっしゃるんですの?」
 独立部隊として準備を整えていた冒険者一行は、何故か悪魔‥‥カミーユ・ギンサの近くを張り込んでいた。
 戦闘開始後、各々別行動を取ることもあるらしいが‥‥。
「よぉ、元気にしてたかい? まぁまぁ、そう邪険にするなって」
「デビルさんにインタビュゥっていうのもいいかなー、なんて思ってね」
「ハッキリ言ってやればいいだろう。『お前が信用ならんから見張っているんだ』とな」
「身も蓋も無いが‥‥まぁ、そういうことか」
「私の役目はどこででも果たせるので。雨の前に使ったサンワードではイザナミはかなり遠くにいると出ましたが」
 鷲尾天斗(ea2445)を筆頭に、全員カミーユを信用ならないらしい。
 ヴェニー・ブリッド(eb5868)が誤魔化そうとしたのを、ウィルマ・ハートマン(ea8545)がさらっとバラし、琥龍蒼羅(ea1442)もそれを否定しなかった、
 ベアータ・レジーネス(eb1422)だけが、黙々と自分の役割に従事している様子。
「くすん‥‥傷ついちゃいますの♪」
「笑顔で言うな笑顔で。しかし、正直、カミーユにばかりかまっていられんぞ。そろそろ出撃せねば」
「了解しました。皆さん集まってください。魔法を付与しますので」
「忝い。さて‥‥この戦、是非もなし。この期に及んで迷う筈もなし。今、この時、生まれてきた意味が試される」
「私は八卦衆や八輝将の方々の護衛に当たります。みなさん、ご武運を!」
 鷹村裕美(eb3936)の音頭で、一行も戦闘に加わる準備を始める。
 その筆頭が琉瑞香(ec3981)のレジストデビルで、あとは各々魔法で自己強化などを行っていた。
 アンリ・フィルス(eb4667)は、戦場の天候を雨にした張本人。ナイトなのにスクロールを使うという変り種である。
 セイロム・デイバック(ea5564)は接近戦に弱い魔法使いの面々を護衛に当たるつもりらしい。
 冒険者たちに要請され、物見係となった水銀鏡と金兵衛は特に危ない。割り当てられた兵士が少ないからである。
 全員がその場を離れていく中、御神楽澄華(ea6526)だけがその場に残っていた。
「? どうかなさいまして?」
「‥‥本当のカミーユ様には、以前は驚かせてしまい申し訳ありませんと、お伝えください。これだけは、どうしても申し上げておきたかったのです」
「‥‥カミーユと、話をしましたの? くすくす‥‥可愛かったでしょう?」
「あれが、可愛い‥‥!?」
「可愛いじゃありませんか。物でも、自然でも、人間でも、なんでもそう。『壊れかけ』が一番美しいですもの。んふふ‥‥だからわたくしは、丹波藩も大好き。御神楽さんも大好きですわ♪」
「っ‥‥! 私は、壊れかけてなどおりません!」
「あぁ‥‥いいですわぁ。ゾクゾクしちゃう。カミーユの代わりに、御神楽さんに憑依しちゃいたいくらい‥‥♪」
「くっ‥‥! し、失礼します! カミーユ嬢の本気のお手伝いとやら、期待しておりますので!」
 そう言って、御神楽はその場を去っていった。
 くすくす笑うばかりのカミーユだったが、ふと首をかしげる。
「カミーユ、嬢? 様ではなくて‥‥?」
 悪魔であるカミーユには、御神楽の心の機微など分かろうはずも無いということだろう―――

●人と不死者の間で
「奴らは馬鹿力だぞ、柵の補強には気を配れ! 持てる者は槍を持て。いいか、奴らは痛みに鈍く、力が強い。だが頭がとろい! 穴にはまった阿呆どもを、慌てず騒がず落ち着いて突き殺せ!」
「わぉ。ホントに数が多いわねぇ。上の撃墜で手一杯かも!」
「地上は他の連中に任せればいい。意外にイツマデンの数が多い‥‥制空権の確保は必要だ」
「ずぉぉっ!? ベアータ、ストーンウォールはよせ! 不死者どもの突進で逆に倒されっぞ!」
「ではストームで応戦します。Lトラップは単体用ですので」
 ウィルマ、ヴェニー、琥龍、鷲尾、ベアータ。
 混沌とする戦場に身を投じた冒険者たちは、今までに無い激戦を繰り広げていた。
 倒しても倒しても次から次へと襲い来る死人憑きや怪骨たち。
 ウィルマが貸した銀矢による弓隊の攻撃も、鷲尾たちの剣閃による攻撃も、氷山の一角を削ることにしかならない。
 加えて、魔法を使える面々は上空のイツマデンという航空戦力を撃ち落すため、ヘブンリィライトニングを連射中。アンリが天気を雨に変えたのは、このためである。
 敵方の黄泉人もHLを使えるようになってしまうが、この際気にしてはいけない。
 空中では、五行龍の森忌と刃鋼がイツマデンと格闘中。
 何度もHLで攻撃されているが、再生能力(と気合)でカバーしつつ、空からの襲撃を防いでいた。
『まずいのだわ。敵軍が例の小型がしゃ髑髏を前面に押し出してきてるのだわ。こっちもセイロムと五行龍の氷雨が応戦してるのだけれども、敵の数が多すぎるのだわ!』
 水銀鏡からテレパシー(スクロール)で連絡が入り、戦局の不利を伝える。
 事実、こちらもじわりじわりとだが後退し始めている。一体倒して5体に攻撃されてはお話にならない。
 しかも数の有利を前面に押し出している敵軍は、段々とこちらを包囲しつつある‥‥!

「どけい! うぬら雑魚に用は無い! 我を阻むもの無し!」
「アンリ、そっちは丹波兵と八卦衆に任せろ! 私たちでないとあのデカブツの相手は無理だ!」
「くっ‥‥敵の指揮官の姿も見えないと言うのに!」
「イツマデンは私の火弾(ファイヤーボム)で迎撃します! お三方は小型がしゃ髑髏を!」
「鳴弦の弓を‥‥! 伝令殿、鷲尾さんが用意してくださった薬がまだあるはずです。こちらへ移送させてください」
 鬼神の如き強さを見せ付けるアンリ。小型がしゃ髑髏の攻撃を避けつつ反撃する鷹村。盾を器用に使い、危なげなく戦うセイロム。
 その三人を敵の航空戦力から守るべく、珍しく魔法の連発で戦う御神楽。
 琉は鳴弦の弓を使用し、周囲の不死者たちの行動を制限してはいるが、消耗が激しくアイテムに頼る場面も。
 小型がしゃ髑髏は、危なくなると骨車に飛び乗り(!)、後退してしまう。
 その代わりに別の小型がしゃ髑髏が現れるので、さっぱり問題の解決にならないのである。
 一体一体は弱い死人憑きも、数が多かったり同時にこられたりするとかなり厄介。
 それが、上級の不死者のまわりをぞろぞろ取り巻いているのだから始末に悪かった。
『伝令! 第三軍方面の被害が拡大中なのだわ! 死人はそんなに出ていないけれど、このままでは突破されてしまうのだわ!』
「まずい! 第三軍にいるのは誰だ!? 水の凍真と黒曜の屠黒と‥‥後は!?」
「向かえる五行龍はいないのですか?」
「刃鋼様と森忌様が空にいるので、第三部隊だけは五行龍様がいらっしゃらないようです!」
「この混戦の中、出向けと言うのも難しい話か‥‥。拙者たちも同義だぞ」
「カミーユさんは何をやっているんですか!? 全然報告を聞かないんですが!」
『カミーユはさっきから姿が見えないのだわ。やられたというわけではないと思うのだわ』
「大事なときにいないのではやられてしまったと同義だろうが、あの覗き魔アンポンタンめっ!」
 悪態を吐く鷹村にも余裕がなくなってくる。
 敵は疲れを知らない死人の集団。それに対し、こちらには体力の限界もダメージの蓄積もある。
 善戦はしているが、不利。まさに、当初の見解どおり―――

●勝手に
『‥‥!? 何なのだわ、金兵衛!? え!? 骸甲巨兵が第三軍方面に!?』
「聞こえましたわよ、水銀鏡さん。それは敵として? 味方として?」
『イザナミの軍と戦っているそうなのだわ! 結果的にこちらは助かっているようなのだわ!』
「約束は『相互不干渉』であって『協力』ではなかったはずですが?」
「ククク。やつらも俺も、些か割りに合わんアフターサービスになりそうだな。だがかつてやり合った者たちと並ぶのも戦の興趣というもの。ベアータ、無粋な台詞を吐くものではない」
「なんでもいい。それでも数の波は抑えられん。今度は、第三軍だけ持ちこたえても他の軍が押されることになる」
「泣き言ぁいいんだよ! 武名はこちらの方が上だ、負けるはずがねぇぞ! さぁ!こちとら最初からクライマックスだぜ!」
「勢いは大切だが勢いだけでは勝てんぞ。今回は退く機を見極めるのも重要だ」
 戦場では、基本的に高所に陣取っている方が有利である。
 少数でも大軍を相手に出来る有効な策なのだが、それはあくまで人間同士でのこと。
 不死者の大群に人間同士の戦争の理論が必ずしも有効とは限らない。
 じりじりと後退する第三軍以外の戦線は、藩主である山名豪斬のいる本陣へと近づいている。
 それは同時に、丹波への進入のカウントダウンと同義。
 丹波軍と八卦衆、八輝将、五行龍、骸甲巨兵‥‥そして冒険者を以ってしても止められないのか!?
 と、そんな時である。
『お下がりあそばせ。わたくしの力‥‥見せて差し上げますわ‥‥!』
 カミーユの声。いや、声ではない。全周囲に発せられた思念であろう。
 雨降りしきり、雷雲覆う空に浮かぶ、五行龍でもイツマデンでもない飛行物体。
 日本には存在し得ない、神と対を成すという存在。それは‥‥!
「あ、青い炎の‥‥馬‥‥!?」
「フン‥‥あれが真の姿か。人間を装っているより好印象だぞ」
「憑依を解いたのか。信じないではなかったが‥‥本気で俺たちに協力する気とはな」
「馬の姿の悪魔‥‥心当たりはありませんが」
「何するつもりなんだ、あの嬢ちゃん‥‥じゃねぇか。あの悪魔さんはよ‥‥!」
『くすくす‥‥黄泉人のみなさん、聞こえていて? あなた方はアンデッドを操りきれていない。そんな半端な使役では、わたくしには遠く及びませんわ。例え全軍を掌握できなくても‥‥ほら』
 カミーユ(?)の目が真紅の光を放ったかと思うと、丹波軍と戦っていた最前線の不死者たちが妙な移動を開始する。
 それは地上にいる人間にはすぐには理解できない動きであった。
『こ、これは‥‥!?』
「どうした、水銀鏡! カミーユは何をしたんだ!?」
『ふ、不死者の群れが‥‥割れたのだわ‥‥!』
「な‥‥に‥‥?」
『見た感じだけだと、丹波を避けるような軌道なのだわ。このままいくなら、丹波だけは助かるかもしれないのだわ。けれど‥‥』

「カミーユさん、それは根本的解決になっていなくありませんか!? どうせなら退治してください!」
「追撃戦を仕掛けろとでも言うつもりでしょうか」
「カミーユ様! 以前言っていたとおり、丹波以外はどうなっても構わないと仰るのですか!? それではあまりに‥‥!」
「いや‥‥違うな。あの目‥‥わりと必死だ」
「何? 流石の悪魔も、あれだけの数の不死者を操るのは骨だと言うことか‥‥?」
 別の部隊の方からも、水銀鏡を通してカミーユに野次が飛ぶ。
 わざわざ本来の姿をさらしてまでの本気モードでなければ出来ない芸当と見るのが妥当である。
 不死者に与えられた命令を片っ端から上書きし、丹波を避けさせる。
 連続で絶え間なくそんなことをすれば、例え悪魔であっても気が触れるかも知れない。
 それをさも簡単なように見せているのは、カミーユなりの意地か、見栄か。
 兎に角、これを為しえただけでも悪魔・カミーユの実力は恐るべきものである。
 やがて、一旦陣形を立て直すべく、丹波軍は全軍を本陣近くまで後退させた。
 イザナミ軍はそれに追撃をかけるでもなく、左右に分かれ、丹波藩だけを避けるような軌道のまま進んでいったという。
 およそ半々に分かれたイザナミ軍。どちらにイザナミがいるかすらも、今は判明していない。
 相変わらず移動は遅いとはいえ‥‥このままでは、京都が挟み撃ちにあってしまうだろう―――