【神話の黄泉女神】その日、僕らの藩は‥‥

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 4 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:09月24日〜09月29日

リプレイ公開日:2008年09月29日

●オープニング

 神話に名を残す、日本の神々や大地をも生み出したと伝えられる女神‥‥イザナミ。
 混沌とした情勢にある現代のジャパンに再臨した彼女は、人類に害を撒き散らす黄泉の軍団を率いていた。
 復活の地、出雲はすでに壊滅状態。藩丸ごとがイザナミとその軍団に支配されたといっても過言ではなった。
 やがて、イザナミは京都へ向かって進軍を開始する。
 そこで迎撃に出た丹波藩と交戦、歴戦の冒険者たちの協力さえも飲み込み、丹波を壊滅させた‥‥かに見えた。
 しかし、丹波の食客の悪魔カミーユ・ギンサの力により、北部と南部にその軍勢を分断。
 これに対し、丹波藩は苦しいながらも二面作戦を展開。
 冒険者の活躍や藩士、特殊戦力の奮闘もあって、どちらもイザナミ軍を押しとどめることに成功。
 特に北部は、型にはまったというか、幹部の一人を含むかなりの戦力を打ち倒したのだった。
 しかしそこに、不可侵条約を結んでいた平良坂冷凍一派が介入。
 初めは真面目にイザナミ軍と戦っていたのだが、時が過ぎ、丹波軍が限界に達した辺りでその企みを現した。
 冷凍一派には、常時冷凍に化けている黄泉人と、その部下の十七夜という元陰陽師の黄泉人がいる。
 十七夜は独自の怪しげな術を使うことで一部のものには知られていたが、この戦場で新たな術を披露。
 なんと、黄泉人の生贄と大量の不死者を材料に城を構築するという、これまた正気を疑う術であった。
 さて、この報を受けたイザナミは当然面白いはずがない。
 軍勢が大打撃を受けたこともそうだが、何より黄泉の女神たる自分に黄泉人が刃向かっているのが我慢ならないようだ。
 そして、いざ冷凍の不死城に攻撃を仕掛けたイザナミであったが、冒険者を含む丹波藩の妨害に遭い、戦力を微消耗。
 挙句、不死城は材料が材料だけに、城自体が巨大な白骨の足を生やして移動したりすることも出来、石垣から出現した巨大な白骨の手でイザナミ軍を文字通り掴んだりしたのである。
 イザナミでさえ見たことも聞いたことも無い異常な術。それを前に無謀に突撃するほど、イザナミは愚かではなかった。
 こうして、何度目かの戦闘はまたしても膠着状態を脱することが出来なかったわけである。
 が、前回の戦闘では思わぬ波紋が広がったことを知る者は少ない。
 丹波の食客にして悪魔、カミーユ・ギンサが、平良坂冷凍の不死城をかなり不愉快に思ったらしいのだ。
『壊れかけ』が好きな彼女にしてみれば、不死城は壊れきった材料の集合体。
 その成り立ちも、存在も、能力も不愉快極まりないようなのである。
 そして、思ったら即実行に移すのがカミーユという悪魔。特に自分の気分を害するものには冷酷非情。
 なんと、不可侵条約を結んでいるはずの平良坂冷凍の城へ、一人で乗り込むべく出て行ってしまったという。
 これ以上揉め事を増やしたくない丹波藩は、即座にカミーユを連れ戻すべく依頼を出す。
 不死城に侵入してまでの作戦となったこの依頼は、一人の冒険者の犠牲によって成功する。
 犠牲と言っても死んだりしたわけではないが‥‥やはり、悪魔の言動は人間には御しがたいものなのだ。

 さて、ここからが本題。
 依然として丹波藩北部と南部に待機しているイザナミとその軍は、冷凍の不死城を目の仇にしていた。
 黄泉の女神たる自分に従わない黄泉人が二人もいる冷凍軍を許せないのはまぁ想像に難くない。
 実際、何度も小規模な戦闘を仕掛けてはいたのだが、その度に不死城の防衛機構に阻まれた。
 イザナミは、激情に流されやすいが一軍の総大将である。
 不死城侮りがたしと判断したイザナミは、いちいち目障りな行動に出る丹波藩の方を先に潰すことを決意。
 元々人間を平伏させる事が彼女の目的。これは避けて通れなかったとも言える。
 かくして、北部と南部のイザナミ軍は示し合わせたように丹波藩中央部へと移動を開始。
 目指すは丹波藩の主城にして、藩主・山名豪斬のいる東雲城。
 圧倒的な兵力の差。北と南からの挟み撃ち。
 果たして、丹波藩はこの危機を乗り越えることが出来るのだろうか―――

●今回の参加者

 ea1442 琥龍 蒼羅(28歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2445 鷲尾 天斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea6526 御神楽 澄華(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8545 ウィルマ・ハートマン(31歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb2483 南雲 紫(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb3936 鷹村 裕美(36歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb4667 アンリ・フィルス(39歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb5868 ヴェニー・ブリッド(33歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec3981 琉 瑞香(31歳・♀・僧兵・ハーフエルフ・華仙教大国)

●サポート参加者

磯城弥 魁厳(eb5249

●リプレイ本文

●篭城戦、開始
 ついに始まった篭城戦。
 それはすなわち、北と南から襲い来る計3000ものイザナミ軍を、400強ばかりの丹波軍+特殊戦力+冒険者で迎撃しようと言う、極めて不利な戦いであった。
 それでも、黙ってやられるわけには行かない。諦めるわけには行かない。
 事前に避難を終え、無人となった丹波の城下町を進む不死者たち。
 すでに万端準備を整えていた丹波側は、すぐさま迎撃を開始した。
「いいか、引き付けろ。引き付けて、火点の交差する地点で一気に浴びせ掛けろ。まだまだ‥‥。まだだ‥‥!」
 ウィルマ・ハートマン(ea8545)の指揮を受け、弓兵たちが一斉に矢を番える。
 銀の矢尻が光り‥‥そして。
「‥‥今! 放て!!」
 合図の下、十字砲火で次々と放たれる矢の嵐。
 狙う必要すらなく、面白いように命中するが殲滅には至らない。
「ぬぅ‥‥オーラパワーを付与をして回ったというのにどういうことだ? さして効果が見て取れんが」
 アンリ・フィルス(eb4667)は、事前に達人級の魔法を弓兵に付与して回ったのだが、どうやら人でも弓でもなく、矢にかけないと意味が無かったらしい。
 すぐに魔力が尽き、富士の名水を使って無理矢理回復しながらやったというのに、残念である。実際に矢にかけて回ったらそれこそ回復アイテムがいくらあっても足りないだろう。
 一応、こちらには丹波の魔法部隊、砂羅鎖、宵姫、旋風、井茶冶、屠黒、緑葉の他に、熱破、芭陸、氷雨の五行龍もいるので、この失敗で戦線が瓦解するようなことは無い。
 まぁ、小粒ながら数が圧倒的なので有利とは言えなかったが。
「おうおう、まだまだ見えるわ見えるわ。死に損ないの有象無象どもがうじゃうじゃと。まさに退路無し待った無し、背水の陣というやつだな。ククククッ、ハハハハハッ! ではお互い、丹波に出費の請求をできるよう気張るとしよう!」
「是非もなし。戦を決するのは死力を尽くす兵の群である。いざ参らん!」
 弓兵の射線を避けつつ、丹波軍と共に前線に立つアンリ。
 テレパシーで聞こえてきた伝達によれば、南側から迫っていたはずのイザナミ軍は未だ姿を見せないと言う。
 こちらには万々歳の情報ではあるが‥‥果たして、カミーユと冷凍たちだけで本当に抑えられているのだろうか―――

●空からの脅威
「んもう! 真昼間じゃ幽霊のありがたみも無いってものよ!」
「戦況は厳しいといえ、ここを凌ぎきればこれからのイザナミ軍戦に勢いをつけられるはず‥‥正念場、です!」
 北側の空から迫る怨霊たちを魔法で撃ち落していくのは、ヴェニー・ブリッド(eb5868)と御神楽澄華(ea6526)。
 ヴェニーがレインコントロールのスクロールを使用したことで、空は快晴。
 そんな青空を怨霊が進んでくる姿は、ある意味滑稽である。
 しかし、壁などをすり抜ける怨霊たちを無視することは到底できない。
 二人は五行龍の刃鋼と森忌の力も借りつつ、奮戦する。
「御神楽さん、そういえば京都からの援軍の話はどうなったの!?」
「そ、それが‥‥『丹波だけでなく、不死者は畿内に広がっているのだぞ。丹波だけに兵は割けぬわ』とのことで‥‥!」
「京都の隣を見捨てるつもりなの‥‥!?」
「それも気になるのですが、『畿内に広がっている』とはどういうことなのでしょうか!? イザナミの戦力は、この丹波にいる3000だけではないと考えるしかないのですが‥‥!」
「でも、今は東雲城を守ることだけ考えなくちゃ! 御神楽さんのあの決意、無駄にしたくないでしょ!?」
「無論です! 悪鬼に身を委ねても掴もうとした未来‥‥手放して、なるものですか‥‥!」
 もう何度目かの火球と扇状の電撃が瞬く空。
 テレパシーで伝え聞く伝令では、怨霊は完全に喰い止められているとの事―――

●魔法部隊
「やれやれ‥‥斜め上を行くこの戦の行方に何処まで抗えるかねぇ。南は‥‥大丈夫だろうか。まぁ、他所を心配するうちはまだまだ大丈夫だがな」
「専守防衛が基本の篭城戦だけど、今回は守ったら負けるわ。気持ちの上だけでも攻めないと、千載一遇の好機を逃すことになる。援軍の期待も出来ない篭城戦。そしてこの戦力差。絶対的な劣勢。でもこれを覆すことこそが面白いと思わない?」
「ふ‥‥違いない。この状況を打破するのは難しいのかもしれない。でも打破しないと明日はないな。イザナミ軍を必ず撃退しよう。今回は退くわけにはいかない。これ以上は下がれないんだ。この前線で必ず食い止めてやる!」
「地中を敵が進むような反応はありません。皆さん、怪我をしたら無理をせず私にご相談を」
 鷲尾天斗(ea2445)、南雲紫(eb2483)、鷹村裕美(eb3936)、琉瑞香(ec3981)が担当するのは、小型がしゃ髑髏や骨車などが多く含まれる主力と思わしき部隊との戦闘。
 特に小がしゃは、城壁を軽々と乗り越えてしまう体躯と強烈な攻撃力を有する難敵。
 そこで、事前の打ち合わせでこの戦場に展開している魔法部隊の出番となる‥‥!
 八卦衆と八輝将の中でも、威力と射程に恵まれた面々‥‥炎夜、凍真、明美、岩鉄、電路、真紅、牙黄が魔法を連打し、敵戦力を削っていく。彼らはレミエラも使用しており、その制圧力は以前よりも増している。
 しかし、相手は多勢。どうしても撃ち漏らしてしまうこともあるし、小がしゃのように耐えて抜けてくることもある。
 そんな時こそ‥‥!
「ふ‥‥なるほど、流石は音に聞こえた丹波の魔法部隊。真価を発揮したのがこんな瀬戸際だというのが惜しいな!」
「小がしゃや骨車は私たちに任せておけ! おまえたちは撃ちもらしの不死者を確実に撃破しろ!」
「あの宣言をするためにも、こんな連中にゃ負けられないってな。どけどけぇっ! てめぇらの親玉出しやがれ!」
「思ったより被害が出なさそうですね。なら私はアンリさんたちのほうへ向かいます。あちらの回復手段が不安なので」
 超越レベルではないものの、これだけ魔法に精通した人物がいれば、戦術レベルでの戦果はかなりのものだ。
 そこに歴戦の冒険者が加われば、突破は至難である。南雲の指揮の下、丹波藩士もよく戦っていた。
 これが出来るのは、ウィルマが魔法部隊にソルフの実を提供してくれたからというのはあまり知られていない―――

●南から
「カミーユはともかく冷凍軍にはあまり頼りたくは無いが‥‥抜けてくるのが怨霊だけなのは喜ぶべきか恨むべきか‥‥!」
「よく喰い止めてくれていると思いましょう。もし南からも地上部隊が来ていたら、確実に東雲城は落ちています‥‥!」
 ペガサスとグリフォンを駆り、魔法で怨霊を撃破して回る琥龍蒼羅(ea1442)とベアータ・レジーネス(eb1422)。
 二人は物見と伝令を担っている金兵衛と水銀鏡からの連絡により、南方面から飛んでくる怨霊の迎撃に当たっていた。
 一番面倒な怨霊が相手の上、こちらには五行龍の援護も無い。
 数そのものが北側よりは少ないとは言え、二人だけで相手取るにはかなり必死にならないといけない。
 とはいえ、よくよく考えれば更に南では1500もの不死者を実質二人(と言うにはかなり語弊があるが)でなんとかしているのだから、恐ろしいと言うか無茶苦茶と言うか。
 水銀鏡からのテレパシーによれば、戦局は我が軍有利。
 各方面、城の地形や戦力を有効活用しイザナミ軍を確実に撃破しており、防衛に危うい気配は見られないとのこと。
 圧倒的であった数の差も、堅固な城と策による陣形、分担などで覆せそうである、とも。
 しかし、優れた知力を持つ二人には、どうにも引っかかるというか不安が拭いきれずにいた。
 本来喜ぶべきこの優勢を、安堵しつつも喜びきれない。
「‥‥琥龍さん。どうも腑に落ちないのですが、ここまで戦局が不利なのにイザナミが何も仕掛けてこないのは何故でしょう? 単に攻めあぐねているというには、イザナミの力は大きすぎます」
「‥‥それは俺も考えていた。聞けば幹部らしき黄泉人の姿も確認されていないというが‥‥どういうことだ? いくら戦力を消耗しても次から次へ呼び出す自信があるのか‥‥それとも‥‥」
「もしくは、いくら戦力を消耗しても最終的に勝てる策がある、とか」
 こちらの敗北条件はなんだ?
 城を防衛しきれず不死者に飲み込まれれば言うまでも無く負けだ。
 が、戦局がこちらに有利ならその線はない。
 考えろ。他に、丹波が負けになる理由を。
 怨霊との空中戦をしながらでは考えが上手くまとまらない。
 やがて‥‥二人は同時にある結論に行き着き、背筋に冷たいものを走らせる。
「‥‥しまった‥‥! 水銀鏡、各部隊から手の開けられる冒険者を二、三人本丸へ戻らせろ!」
「イザナミの本当の狙いは‥‥!」
 二人が伝えたイザナミの狙い。
 果たして、間に合うかどうか―――

●敗北条件
「ぎゃああっ!」
「ぐあぁぁっ!」
 天守閣に藩士の悲鳴が木霊し、次々と打ち倒されていく。
 丹波藩主山名豪斬は、歯噛みをしながらもその光景を見ていることしかできなかった。
 突如現れた、女神とも見紛うばかりの美しい女性。
 その女が優雅な仕草で放った魔法は、わずかに残しただけの護衛をいとも簡単に撃破したのだ。
 豪斬も腕に覚えが無いわけではないが、下手に手を出しても護衛の二の舞になるだけ‥‥!
「ほう‥‥思ったより冷静よな。流石、我に兵を退いてくれなどとほざいた男よ」
 黄泉の女神‥‥イザナミ。
 そのイザナミが、敵陣の最奥‥‥天守閣に姿を現していたのである。
 思えば、黄泉人がスクロールを使えるという事例はあった。
 そして、イザナミが進み、滅ぼした経路では、スクロールの一つや二つ手に入れるのは造作も無いことであっただろう。
 インビジブルで姿を消してしまえば、戦場という混乱の中で空を往くことは黄泉人には簡単であったはずだ。
「便利なものよ。こういう点では人間とて評価せねばなるまい。まぁ、我は好かんがの」
「‥‥イザナミ殿。まさか全軍を捨て駒にして余を討ちに来るとは‥‥!」
「これが一番手っ取り早い。頭を潰すのが戦の究極的な勝ち方よ。うぬらも何度も考えたのではないか? それに、中に入り込んで不死者を召喚するだけでもよいからのう。外で戦っている連中は、突如城の中から現れた不死者と挟撃に遭い‥‥あえなく全滅じゃ」
「くっ‥‥!」
「止しや。無駄と承知しておろう」
「それでも‥‥我が藩の危機に立ち上がってくれた藩士を! 民を! 冒険者たちをそんな目に遭わせる訳には!」
 刀に手をかけた豪斬に、哀れむような視線を送るイザナミ。
 彼女には理解できない。豪斬のように、他人のために命を投げ出すような行動が。
 あるいはかつては理解できたのかもしれないが‥‥神話での彼女は、それを信じられなくなるような目に遭っている。
「間に合ったか!? ‥‥太母様‥‥!」
「畜生‥‥嫌な予想ばっかり当てやがって、あいつら!」
「これは‥‥くっ、間に合ったとは言えないぞ、まったく‥‥!」
 アンリ、鷲尾、鷹村が天守閣に上がってくるも、状況の打破には至らない。
 何故なら、すでに豪斬はイザナミに背後に回られ、首筋に手を当てられている。
 イザナミがその気になればすぐにでも精気を吸われ、不死者の仲間入りだ。
「ほう‥‥知恵の回る者がおったようじゃのう。少々遅かったようじゃが。見てのとおり、うぬらの総大将は我が手中。この戦、我の勝ちよ。異論があるかえ?」
「冒険者たちよ、余のことはいい! 余ごとイザナミ殿を倒せ!」
「無理じゃな。そちが死ねばどのみち丹波は消える。それに‥‥この連中はそこまで非情になりきれぬ。仮になれたとしても、たった三人で我を倒せるとでも?」
 ぐうの音も出ない冒険者たち。
 実際、この状況になってしまった時点で負けだ。総大将の防衛を疎かにしすぎた。
 この場でイザナミを倒せる保障も無い以上、無闇に豪斬の命だけを刈り取ることになりかねない。
「ほう‥‥いつぞや我を謀った使者もおるな。名は?」
「‥‥アンリと申します。しかし太母様、あれは‥‥」
「冗談じゃ。それくらい我とて承知しておるわ。ふふ‥‥我はそちとこの豪斬が嫌いではない。愚直で愛すべき馬鹿であるからの。命まで取ろうとは言わぬ」
「しかし、丹波藩は潰すのだろう!?」
「無論じゃ。丁度京都を攻めるための拠点も欲しかったところじゃからな‥‥この城は悪くない。『我が十万の兵』を束ねるからには、威厳ある場所に住まうのも一興よ」
「じゅう‥‥まん‥‥!? お、おいおい、どんなハッタリだよ。最初の五千の二十倍だぞ!」
「ハッタリ‥‥? このイザナミの言葉がハッタリと思うのかえ?」
 鷹村と鷲尾は思わず絶句してしまう。
 丹波に現れたのは、イザナミ軍のほんの一部だと。まだまだ数がいるのだと聞かされては、最早この戦場で打つ手は無い。
 イザナミも退かない。退く理由が無い。
 このまま、ここで丹波藩もろとも運命を共にするのか‥‥。
 と。
『思い通りにはいかなくてよ?』
「ぬ‥‥! 貴様‥‥!」
 天守閣の壁をぶち破って現れた蒼い炎に身を包んだ馬。
 悪魔、カミーユ・ギンサの真の姿‥‥!
『皆さん、逃げるなら今ですわ。イザナミの動きはほぼ封じました』
「ちっ‥‥文字通り、どこの馬の骨とも知れぬ悪鬼風情が我に対して!」
『早く! さ、流石のわたくしも長くは止めていられません! 豪斬様はわたくしが何とかいたしますから!』
「なんで悪魔のお前が私たちを助けるような真似を‥‥?」
『勘違いなさらないでくださるかしら。御神楽さんは私の大事な身体の一つ。あなたたちは彼女を助けるついでですの☆』
「口の減らぬことだ。だが‥‥退くしか‥‥いや、逃げるしかあるまい」
「くそ‥‥くっそぉぉぉ!」
 叫ぶ鷲尾は、どうしても憤りを抑えられず‥‥階段を下りる直前、イザナミに振り返ってこう宣言した。
「我は新撰組一番隊組長代理、鷲尾天斗! これより我は組長になり、京都を脅かす魑魅魍魎に正義を執行する! 我、その執行に、命をかける『覚悟』あり! その結果、たとえ我が身に何があろうともそれを受け止める『覚悟』あり! その覚悟と正義‥‥必ず貴様にも向けることをここに誓うものなり!」
「ふん‥‥その負け犬の遠吠え‥‥そうでなくなる日が来るとよいがの」
 水銀鏡のテレパシーによる伝令で、各部隊はそれぞれの判断で逃走を始める。
 連絡もつかず散り散りになったのは、最早丹波藩そのものであると言っていいだろう。
 かくして、東雲城と山名豪斬はイザナミの手に落ち‥‥冒険者も命からがら戦場を脱出する。
 その日‥‥僕らの藩は崩壊した―――