【神話の黄泉女神】カミーユを連れ戻せ!

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 4 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:09月13日〜09月18日

リプレイ公開日:2008年09月16日

●オープニング

 神話に名を残す、日本の神々や大地をも生み出したと伝えられる女神‥‥イザナミ。
 混沌とした情勢にある現代のジャパンに再臨した彼女は、人類に害を撒き散らす黄泉の軍団を率いていた。
 復活の地、出雲はすでに壊滅状態。藩丸ごとがイザナミとその軍団に支配されたといっても過言ではなった。
 やがて、イザナミは京都へ向かって進軍を開始する。
 そこで迎撃に出た丹波藩と交戦、歴戦の冒険者たちの協力さえも飲み込み、丹波を壊滅させた‥‥かに見えた。
 しかし、丹波の食客の悪魔カミーユ・ギンサの力により、北部と南部にその軍勢を分断。
 これに対し、丹波藩は苦しいながらも二面作戦を展開。
 冒険者の活躍や藩士、特殊戦力の奮闘もあって、どちらもイザナミ軍を押しとどめることに成功。
 特に北部は、型にはまったというか、幹部の一人を含むかなりの戦力を打ち倒したのだった。
 しかしそこに、不可侵条約を結んでいた平良坂冷凍一派が介入。
 初めは真面目にイザナミ軍と戦っていたのだが、時が過ぎ、丹波軍が限界に達した辺りでその企みを現した。
 冷凍一派には、常時冷凍に化けている黄泉人と、その部下の十七夜という元陰陽師の黄泉人がいる。
 十七夜は独自の怪しげな術を使うことで一部のものには知られていたが、この戦場で新たな術を披露。
 なんと、黄泉人の生贄と大量の不死者を材料に城を構築するという、これまた正気を疑う術であった。
 さて、この報を受けたイザナミは当然面白いはずがない。
 軍勢が大打撃を受けたこともそうだが、何より黄泉の女神たる自分に黄泉人が刃向かっているのが我慢ならないようだ。
 そして、いざ冷凍の不死城に攻撃を仕掛けたイザナミであったが、冒険者を含む丹波藩の妨害に遭い、戦力を微消耗。
 挙句、不死城は材料が材料だけに、城自体が巨大な白骨の足を生やして移動したりすることも出来、石垣から出現した巨大な白骨の手でイザナミ軍を文字通り掴んだりしたのである。
 イザナミでさえ見たことも聞いたことも無い異常な術。それを前に無謀に突撃するほど、イザナミは愚かではなかった。
 こうして、何度目かの戦闘はまたしても膠着状態を脱することが出来なかったわけである。
 が、前回の戦闘では思わぬ波紋が広がったことを知る者は少ない。
 丹波の食客にして悪魔、カミーユ・ギンサが、平良坂冷凍の不死城をかなり不愉快に思ったらしいのだ。
『壊れかけ』が好きな彼女にしてみれば、不死城は壊れきった材料の集合体。
 その成り立ちも、存在も、能力も不愉快極まりないようなのである。
 そして、思ったら即実行に移すのがカミーユという悪魔。特に自分の気分を害するものには冷酷非情。
 なんと、不可侵条約を結んでいるはずの平良坂冷凍の城へ、一人で乗り込むべく出て行ってしまったという。
 まさかそんな真似はすまいと‥‥いや、そんな行動を取るとすら思っていなかった丹波藩の面々は、止める間もない。
 ここでカミーユが妙な真似をして冷凍を敵に回してしまっては、丹波藩は非常に困る。
 とはいえ、冷凍たちの勢力を壊滅させてしまったらそれはそれでイザナミとの戦いが苦しくなる。
 できれば、何事も起こらないうちにカミーユを連れ戻してもらいたい、とのことである。
 幸いと言えるかどうかわからないが、先日、不死城への潜入偵察を目的とした依頼も出され、不死城の闇は多少なりと判明しており、色々と対策はできるだろう。
 イザナミのことは一時置いておいて、今回はカミーユの連れ戻しに全力を注いでいただきたい―――

●今回の参加者

 ea1774 山王 牙(37歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ea2445 鷲尾 天斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea6526 御神楽 澄華(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8545 ウィルマ・ハートマン(31歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb2483 南雲 紫(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb3936 鷹村 裕美(36歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb4667 アンリ・フィルス(39歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb5868 ヴェニー・ブリッド(33歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec3981 琉 瑞香(31歳・♀・僧兵・ハーフエルフ・華仙教大国)

●サポート参加者

木下 茜(eb5817

●リプレイ本文

●移動
「あれって、黄泉大神なんじゃねぇだろうな‥‥」
 丹波藩北部の山間部。
 不死城を遠目に見、先日の事を思い浮かべて呟いたのは、鷲尾天斗(ea2445)。
 石垣(?)部分から多数の白骨の足が生え、昆虫のような動作で城が動いたときには驚きを通り越して呆れたものだ。
 挙句、巨大な白骨の手が伸び、更なる不死者を取り込んだりする恐ろしい城‥‥それが風雲平良坂城である。
「って、それ処じゃないか。え〜っと、『探』」
 オーラセンサーを発動、カミーユの気を広範囲で捜してみる。
 鷲尾がオーラの探知魔法を使うのは珍しい。逆に言えば、それをしなければならない状況であるということ。
 そして鷲尾は、あちゃー、とばかりに顔を覆い、天を仰いだ。
「あらあら‥‥その反応を見る限り、カミーユはもう城の中みたいね」
「残念、間に合わなかったってわけねぇ。‥‥でも、これで『ある可能性』が高くなったんじゃない?」
「ある可能性? ‥‥すまんが、拙者には見当がつかない。分かりやすい説明を求む」
「我々は、出来る限りの加速をしてここまで来ました。しかし、先に向かったとはいえ女性の足であるはずのカミーユさんの方が先に着いていた。カミーユさんの性格上、魔法アイテムやペットで移動したとは考えにくいのに‥‥です。ならば、カミーユさんが自前で出来る加速と言えば‥‥」
 南雲紫(eb2483)がやれやれと肩をすくめていると、ヴェニー・ブリッド(eb5868)がそれに同調しつつもその知力を生かし、皆に『ある可能性』なるものを示した。
 アンリ・フィルス(eb4667)を始めとする数人はさっぱりだったので、ベアータ・レジーネス(eb1422)が解説に入る。
 カミーユは、デザインが気に入らないなどの理由でセブンリーグブーツなどを倦厭する癖がある。
 それに加え、健常なペットなどカミーユが飼っているはずもないだろうし、健常でなければ移動には使えない。
「とどのつまり、カミーユさんは『歩いていない』ということですね。本来の悪魔の姿‥‥あの蒼く輝く炎に包まれた馬の姿で飛んでいったのでしょう。憑依を解いて」
「もしかすると、流石に豪斬様も悪鬼であるカミーユ嬢の動向に気を配っており、部屋に眠ったままのカミーユ様がいることを知って‥‥という流れでしょうか。長すぎる眠りは、憑依を解いて活動している証拠のようなものでしょうし」
「しかし、カミーユを連れ戻すというけどもアレを連れ戻すって相当骨が折れるんじゃないのか‥‥? 私もあの城の存在は危険だと思う。だけど、あの城があるからこそ現状があるのも事実だから今壊されては困る。やるなら色々終わったあとにしてくれ」
「‥‥俺も同感ですが、カミーユ嬢の暴走は、あの城の惨状を見る限り止む得ないものとも覚えます。戦いの中、我等の目の前で起きた光景を見る限り、連中のやり方には吐き気を覚えますが、今戦うのは早計です」
「なんたる泥沼‥‥。折れるな私の心。京の政治に関わるよりはましと考えるんだ‥‥(ブツブツ)」
 琉瑞香(ec3981)の言葉を受け、御神楽澄華(ea6526)はかねてより疑問だったことの推論を出す。
 しかし、それはあくまで推論。もう一つ考えた可能性、『自分達を追撃に引きずり出し、なし崩し的に冷凍一派と事を起こさせる』というのもありえなくはない。
 鷹村裕美(eb3936)と山王牙(ea1774)は、今は普通の城と変わらない状態の不死城を見やりながら議論する。
 その横で一人、自分を無理矢理納得させているのは、ウィルマ・ハートマン(ea8545)。
 苦手というフライングブルームを使ってまで現地に来たのに、結局間に合わなかった上、最近不死者の相手ばかり。
 カミーユに対し呟いた台詞ではないが、感情を見せない連中の相手などつまらないのだろう。
 不死城に目をやれば、自然と視界に入る巨大な怨霊‥‥骸甲巨兵。
 瘴気が発生している100mの範囲を周回するように歩き回り、警備に当たっているようだ。
「‥‥気は乗りませんが‥‥動きましょう。カミーユ嬢が中に入ってしまっているなら急がねば」
「澄華‥‥大丈夫? グリフォンを貸してくれるなら私がやるわ。今のあなた‥‥凄く辛そうよ」
「‥‥大丈夫です、紫様。賊に白旗など、納得は出来ませんが‥‥これが、私に出来る精一杯ですから‥‥」
 思い出の槍に大きな白い布をはためかせ、白旗代わりとした御神楽は、ペットのグリフォンに乗って空へ。
 その背中を見送る一行。
 ふと呟いたのは、御神楽に興味を示していなかったはずのウィルマ。
「難儀よな。唯人が背負いきれるものではない―――」

●侵入
『ほっほっほ‥‥そうですか。私たちも困っていたのですよ。カミーユさんの噂は聞いていますが、まさか一人で乗り込んでくるとは。今は丹波藩と事を構えたくないのはこちらも同じです。骸甲巨兵は下がらせますので、速くカミーユさんを連れて帰っていただけると助かります』
 御神楽が白旗を持ってグリフォンで城に近づいた瞬間、城の外壁から巨大な白骨の手が出現したり、骸甲巨兵がジャンプするような体勢を取ったため、御神楽は勿論他のメンバーにも背中に冷たいものが走った。
 しかし、冷凍の声(相変わらずステレオ)が響き、『お止めなさい』と言われたことで不死城たちは停止。
 御神楽が交渉するまでも無く、冷凍は城への侵入を許可したのであった。
「ちぇっ、裏に何があるかわかったもんじゃないのが気に入らないなぁ」
「アレと戦わずに済んだことを素直に喜べ。‥‥って、なんだこりゃ。カミーユがやったのか?」
 鷲尾と鷹村が、滅茶苦茶に破壊された城門を見つける。
 入るのに楽ではあるが、カミーユはずいぶん荒っぽく侵入したらしかった。
 骸甲巨兵は冷凍の言葉通り冒険者一行に手出しをしなかったが、襲い掛かりたくてたまらなさそうな仕草をしていたという。
 さて、一行は無事に城内へと入ったわけだが‥‥カミーユはどこにいるのだろう?
 木製の床(に見えるが‥‥)をぎしぎし軋ませ、手当たり次第に調べてみるしかあるまい。
 と。
「な、なぁ。なんかこう‥‥寒くないか、この城。ゾクゾクっとするというか‥‥」
「む‥‥拙者の勘違いではなかったか。瘴気の影響かとも思ったが、体力の低下と寒気は違うと思うのだが」
「‥‥気にならない方々もいらっしゃるようですね。何が違うのでしょうか?」
 鷹村、アンリ、山王、南雲、ベアータ、御神楽は先ほどから息苦しいような冷たいものを感じている。
 逆に言うと、鷲尾、ヴェニー、ウィルマ、琉は全然普通。何故かと言うと‥‥。
「馬鹿か貴様ら。魔除けの札はどうした」
「私は静寂の指輪で代用しています」
『‥‥あ』
 城に入ってからしばし経ってからの事。今更言っても仕方がない。
 時間が立てば経つほど心を侵していく恐怖心。
 素で影響が無いウィルマが貸せる札は一枚のみ。
 立っているだけで体力が低下していくこの瘴気の中‥‥猶予は無い。
 救いであったのは、冷凍が侵入を許可しているためか不死城がちょっかいをかけてこないこと。
 ベアータの言を信じるならば、この城を構成する全てが不死者であるため、どこからでも攻撃される。
 そして、全てが敵意の塊故、探知も全てに反応し、判別不可能。
 それがないだけでもかなりマシではあるが‥‥。
「ま、魔除けの風鐸が鳴っても効果がありませんね。遠ざかろうとする気配もありません。一応‥‥これも試してみますか」
 ちょっと声が上ずっているベアータが取り出したのは、清らかな聖水。
 蓋を開けてみても瘴気は消えない。なら、次にすることは一つなのだが‥‥。
「え? ちょ、ちょっと待って! そんなことして、もし―――」
 ヴェニーの静止もすでに遅し。
 恐怖心で焦っているのか、ベアータは床に聖水を撒いてしまう。
 ごばっ! という擬音でも当てられそうなくらい、すさまじい勢いで無数の白骨の手が出現、一行を拘束する!
「どぉぉぉっ!? わざわざ蜂の巣を突っつくような真似すんなぁぁぁっ!?」
「迂闊なり! 軽率な行動がこの事態を招いたのだぞ! それでも知者か、馬鹿者が!」
「お、落ち着いてアンリ! そんなに怒鳴るなんてあなたらしくないわよ!? っていうか、なんであなただけ手が襲わないのよ!?」
 四方八方から冒険者を襲う白骨の手。しかし、アンリにだけはそれがない。
 もしや、彼がつけている七つの大罪の指輪のせいか‥‥?
「じょ、冗談じゃない! こいつら、斬っても斬っても生えてくるぞ!?」
「それはまぁ、切り落としてもまた城に吸収されて再利用されているわけだからな」
「ウィルマ様もずいぶん余裕ですね!?」
「ふん‥‥この七徳の桜花弁とやらが効果があるようでな。かざせば退く」
 アンリとウィルマは無事だが、8人が白骨の手と格闘しているのでは先に進めない。
 しかし、今回は助っ人がいる。
「待たせたわねッ!」
「助けに来たわよん。これぞ救出美!」
 丹波のくのいち、緑葉と旋風。到着が遅れていたのだが、このタイミングで合流。
 事前にアンリから嫉妬の指輪を借りており、彼女たちにも不死城は文字通り手を出してこなかった。
 しかし、不死城が一行に手出しを止めるころには、殆どのメンバーが瘴気の影響が深刻になっていたのだが―――

●身命
「止まれ、警告は、一度だけだ。止まらんと、撃つ」
 やっと発見したカミーユ。その足元に、ウィルマは威嚇でホーリーアローを放‥‥とうと思ったが、先ほどのように城に襲われてはたまらないと判断、番えただけに留める。
 すでに息が上がっている面々。多少余裕があるのは、『聖者の護り』をつけている面々のみ。
 どうやらこれだけは瘴気に対し、多少の効果があるようである。
「‥‥あら皆さん。こんなところまでご苦労様ですの♪」
 いつもと変わらない姿、服装のカミーユ。
 しかし、笑顔の裏に漆黒の憎悪があることは、熟練の冒険者たちにはまる分かりであった。
「はぁっ、はぁっ、くそっ、御託は良いからさっさと帰るぞ!」
「御冗談。平良坂冷凍の首根っこを引っこ抜かないと気が治まりませんわ」
「いい加減にしろ‥‥それが丹波の情勢を悪化させると、分からんお前ではあるまい! 丹波を守ると言ったのは嘘か!?」
「あらあら、南雲さんたら戦闘モードで恐ーい♪」
「貴様‥‥!」
「正直なところ‥‥イザナミも冷凍もわたくしにとっては同じ。どちらも玩具を壊して回る不愉快な連中です。どちらか一方でたくさん。なら、潰しやすいほうを潰してしまったほうが精神安定上よろしいですわ」
「し、しかし‥‥いくらカミーユさんでも、この城や、骸甲巨兵は、操れないのでしょう‥‥?」
「‥‥そうですわね。悔しいですけれど。でも‥‥ほら」
 にこやかに‥‥あくまでにこやかに、壁を素手でブチ抜くカミーユ。
 その壁が黒く変色し、粉々に砕け散っていく‥‥!
「わたくしには再利用を許さなくさせることができますし。まぁ、焼け石に水なんですけれどもね。だから、大元の冷凍をですね‥‥」
「‥‥カミーユ、嬢。その不快に代わる興味を提供する‥‥と言えば、冷凍軍への手出しを止めていただけますか?」
 アンリから聖者の護りを借りて、多少の余裕のある御神楽がすっと前に出る。
 カミーユは、その意図が読めず首をかしげた。
「それはまぁ、物にもよりますけれど‥‥何を提供してくださるのかしら。わざわざここまで来て、私の行く手を阻んでおいて、生半可なものを提示するようなら‥‥冷凍の前にあなた方を壊しますわよ」
 この先の台詞は、言ってはいけないような気もする。
 しかし、御神楽はそんな迷いを振り切り、自分を捨て、護る道を選ぶ。
 そんなに抱え込んで、自虐的になることはないと、誰もが言うだろうに‥‥!
「気に入った、と仰る私の身命‥‥はどうですか? 丹波の戦線での憑依も受け入れましょう。平時は、今はまだ、カミーユ様の下にいてあげて欲しいですが」
「‥‥御神楽さん、自分が何を言っているか、わかっているのですか‥‥!?」
「イザナミを復活させ、進軍を止められず、今また丹波の、ひいては京の為とはいえ黄泉人とつるむ輩を背に置く‥‥もはや我が身と心を守る道理無し。丹波とこの国を守る為、私の涙と血ならばいくらでも流します。故に、ここはどうか‥‥お譲りください」
 山王たちの動揺を手で制し、御神楽は続ける。
 カミーユはぽかんとしていたものの、ふっと真面目な顔をする。
「‥‥どうしてそこまでできるんですの? どうしてあなたは‥‥豪斬様と同じようなことを仰るの‥‥?」
「豪斬様が‥‥?」
 しばらく真面目な顔で考えるカミーユ。冷凍を倒すことと、御神楽の願い。その間で揺れている。
 そして、ため息一つ。
「‥‥あぁもう、わかりました! わかりましたわよ! 帰ればいいんでしょう!?」
「カミーユ嬢‥‥!」
「でも、わたくしは悪魔。説得されてはいそうですかと帰るわけには行きません。あなたの言葉‥‥確かめさせていただきますわ。まぁ、あなたに限って嘘はつかないとは思いますが‥‥悪魔相手に嘘をつくと、それこそただでは済まなくてよ?」
「おい‥‥おいおいおい!? 鷲尾、アンリ、誰でもいいから止めろよ!?」
「鷹村様‥‥いいのです。‥‥カミーユ嬢」
「くすくす‥‥大丈夫ですわ。今回はお試しですから」
 カミーユが御神楽に近づき、その手で御神楽の頬をなでる。
 その笑顔は、とても無邪気で‥‥。
 そして、吸い込まれるように御神楽の中に消えるカミーユ。
 やはり、憑依を解いて本体で行動し、変身していたのだ。
 一瞬痙攣した御神楽の身体。他のメンバーからは、御神楽の表情は窺い知れないが‥‥?
「ふ‥‥ふふ‥‥うふふふふふ‥‥!」
 御神楽の声。御神楽の身体。しかし、今その身体を操っているのは彼女でなく‥‥悪魔、ガミュギン‥‥!
「あぁっ‥‥はぁ‥‥! 凄い‥‥凄くいいですわぁ‥‥! この絶望感! この矛盾! この危うさ‥‥カミーユにも匹敵する極上の味ですの‥‥♪ くすくす‥‥思っていたとおりの逸材ですわぁ‥‥♪」
 御神楽が発しないであろう、艶かしく愉悦に満ちた声。
 振り返った御神楽(?)は、頬を紅潮させ、明らかに悦んでいた。
「御神楽殿‥‥! カミーユ、これで帰るのだろうな! やっぱり嫌だなどと抜かしたら‥‥!」
「私たちが、ただではおきません。例え勝てなくても、絶対にです‥‥!」
「嫌ですわねぇ、みなさん恐い顔をして。悪魔だからこそ約束は守りますわ♪」
 無邪気かつ優雅な仕草の御神楽。しかし、事情を知るものから見ればこれは凄惨とさえ言える。
 いくら御神楽が死んだり消えたりするわけではないとはいえ‥‥!
 カミーユはすぐに御神楽の身体を出、一行と共に帰路に着いた。
 次に御神楽が目を覚ましたのは、仲間に京都に連れて帰ってもらってからのことだったという―――