●リプレイ本文
●行動
『全部が全部、空を飛ぶわけじゃねぇだろし。足で移動するなら歩き易い所を通るだろ。わざわざ歩き難い所を行けと言う程、干物ババァ(イザナミ)も阿呆じゃあるめぇよ』
道中、そう言っていたのは伊東登志樹(ea4301)。
冒険者一行は、空を飛べるペットなどを活用し、丹波藩北東部を目指していた。
途中、不死者たちを偵察するため、レインコントロールで快晴にした空をリトルフライで飛ぶヴェニー・ブリッド(eb5868)。途中までは馬に乗っていたのだが、偵察のために飛行に切り替えたのだ。
彼女が見たものは、伊東の予想に反し、恐ろしく『統制の取れていない』不死者たちの数々であった。
「なぁにこれぇ。ほんっと野良状態なのね‥‥。あっちと‥‥あっちにも集団? グゥレイト! 数だけは多いわ」
テレスコープとインフラビジョンのスクロールも併用しているため、その視認能力は確かである。
野鳥を数えるがごとくカウントしてみると、300はくだらなさそうだった。
「というわけで、今すぐ襲われそうな村は無いけれど、油断は禁物ってところね」
「御苦労様。なまじ統制が取れているより厄介のようね」
パラスプリントという瞬間移動魔法(!)を連続使用し、誰よりも先に丹波に到着していたレヴェリー・レイ・ルナクロス(ec0126)と合流し、報告。
熱破及び凍真、屠黒、緑葉たちの滞在している村では、すでに自発的に柵などを作って防衛準備ができてはいるが‥‥。
『ケッ、俺一人で充分‥‥と言いたいところだが、流石に他の村まで手は回んねぇ。まぁ頼むぜ、仮面』
「‥‥いえ、仮面は仮面だけれど‥‥前にも会ったでしょう? レヴェリーよ」
『覚えてねぇよ! 刃鋼のアネキ以外は物覚え悪ぃって聞かなかったのか!?』
「威張れることじゃないでしょーに。‥‥っと、レヴェリーさん、皆も着いたみたいよ」
見ると、後続の冒険者たちがこの村に到着したようである。
この依頼に参加しているのは合計十人だが、当初の作戦通りここから二班に分かれると五人となり、途端に心細くなってしまうのだがどうなのだろうか?
「やー、どーもどーもー。丹波も久しぶりですねー。他の皆さん程ではないですけど、やっぱり丹波に係わりのある者として、不死者の跋扈する現状を何とかしたいですし、微力ながら貢献出来る事があればと思い参上致しましたー」
「俺、参上‥‥ってか。よう、二人とも。敵の配置はどんな感じだ?」
井伊貴政(ea8384)と鷲尾天斗(ea2445)を筆頭に、全員遅れは無い。
ヴェニーたちは、すぐに襲われそうな村は無いということを伝えておく。
「‥‥しかし、驚きました。簡易とはいえ、すでに柵などで防護策を実行しているとは」
「戦う気満々だな。逃げるという選択肢は無かったのか?」
「士気が高いことは歓迎するべきなのでしょうが‥‥例えば小型がしゃ髑髏と言わず、骨車が一体来ただけでも戦力的に厳しいと思われます。推奨はできかねますが‥‥」
山王牙(ea1774)や琥龍蒼羅(ea1442)は、村が思った以上に防衛色に染まっていることに驚いていた。
正直なところ、御神楽澄華(ea6526)が言うように、生半可な防衛意識はお勧めはできない。
しかし、村人たちは信じている。丹波藩は必ず蘇ると。
そして、どうせ未来があるか分からないなら故郷に留まりたいとも言っていた。
「聞きゃあ他の村もほとんど同じ考え方っていうじゃねぇか。いいねぇいいねぇ、漢なら負けっぱなしじゃいらんねぇぜ!」
「それも命あっての物種だがな。しかし、意気込みや良し。この藩の民は強いな、兄者」
「そうだな。我らにできるのは、彼らが生き延びる可能性を少しでも高めること。我らがいなくてもなんとかできるよう助力あるのみ」
「そういうこった。なーに、村人がはなっから信じてくれてるなら話は早い! 藩主はまだ生きている。丹波は俺達が絶対取り戻すからそれまで生きてくれ。生き残る事が負けない事だからな!」
伊東とアンリ・フィルス(eb4667)、アンドリー・フィルス(ec0129)の兄弟は、率先して村の備えについて助言や補助を買って出、村人たちに戦う術も教授していく。
その極意は、危険を感じたら素直に逃げる。
実力の伴わない一般人には勿論、冒険者にも通じる教えであったという。
鷲尾の鼓舞に、村人も歓声で応える‥‥!
と、そんな時である。
『なんだ!? 妙な気配が近づいてくるぞ!? かなり速ぇ!』
「怨霊や骨車の類か?」
「いいや違うぜ琥龍ッ! この丹波で、そんなスピードでかっ飛べるやつと言やぁッ!」
どぉん、と盛大な着地音と砂埃を撒き散らし、地面に降り立ったのは‥‥!
「‥‥カミーユ、嬢‥‥!」
青く輝く炎に包まれた馬‥‥悪魔、ガミュギン。
確かに事前の情報で丹波のあちこちを奔走しているとは聞いているが、なんとも嫌なタイミングで現れたものである。
今から不死者退治に赴こうとした出鼻を挫かれた感じだ。
が。
「うわーん、御神楽さーん! 会いたかったですわぁー!」
「は? え? わわっ!?」
いきなりハーフエルフの女性の姿に変身したかと思うと、一目散に御神楽に抱きつくカミーユ。
御神楽はと言うと、わけもわからず普通に押し倒されてしまっていた。
「ど、どうなさったのですか、カミーユ嬢」
「どうもこうも、いくら囚われの身になったとはいえ、わたくしと豪斬様が交わした『丹波を守って欲しい』という契約は有効なんですもの! 仕方が無いから、日々藩民を助けて回る毎日ですの! 知ってるでしょう!? わたくし、悪魔なんですのよ!? 悪魔が人助けなんて、名折れもいいところですわぁー! うわーん!」
山王「‥‥いいことだ、と素直に言えないのがなんとも」
「あのー、勝手に反故にするって言うのは無しなんですかー? その方が悪魔っぽいのではー」
「それはわたくしのプライドが許しません! 契約を自分から反故にするなんて、品性の無い低級がやることですわ! 人間一人の願いも叶えられなくて、何が悪魔ですか!」
「‥‥世界に仇為す悪魔と言えど、独自の美学はある‥‥と。パラディンとしては見過ごしては置けないけれど‥‥」
「なんですの? あなた、わたくしのことが個人的に嫌いですの? いいですわよ? やりますわよ?」
「あぁもう、カミーユ嬢! イライラしているからって喧嘩をふっかけるのはお止めください! 例の約束、私も反故にするつもりはありませんから、憑依していただいて構いませんから!」
「んー、それも素敵なんですけれども‥‥今日は、御神楽さんとエッチなことでもしたい気分‥‥♪」
「い い か ら 入 っ て く だ さ い」
なんだこれは‥‥。
日々のストレスで変なテンションになっているのか、カミーユは周辺の雰囲気まで粉々にしてしまった。
アンリやアンドリューなどは固まってしまい、場の空気に付いていけていなかったが‥‥。
アンリ「まぁ、なんだ。愛の形はそれぞれと言うことか」
アンドリー「非情に便利な逃げ口上だな兄者」
アンリ「流石だよな拙者ら」
鷲尾「収集付かねぇー! つか御神楽、何普通に憑依させてんだ!」
ヴェニー「なぁにこれぇ。シリアスな雰囲気を返して頂戴‥‥」
紆余曲折あったが、一行は村々での防衛策の補助を終え、本題である不死者撃退へと乗り出していく。
御神楽に憑依し、無邪気な満面の笑みを浮かべる悪魔を連れたまま―――
●壱班
こちらに所属しているのは、アンリ、ヴェニー、琥龍、山王、鷲尾の五人。
熱破たちは元々居た村を拠点とし、他の村が襲われそうになったら急行する係りになったようだ。
壱班は、村の一つの方へ移動している不死者のグループを壊滅させるべく出撃している。
「こやつらの相手より、後々のことを考えるほうがよほど難儀と言うもの!」
「まったくよねぇ。数は30くらい? こんなのあっという間だわ」
「不死者の数を減らせばそれだけ今後の村の防衛もやり易くなる。可能な限り減らしておきたい所だ」
「‥‥俺としては、カミーユ殿にイザナミ暗殺を頼めば早い気もするんですがね」
「あー、無理無理。前回、イザナミの動きをちょっと止めるだけでもほぼ全力だったみたいだからなぁ」
普通の人間ならともかく、彼らレベルの冒険者が5人も集まれば、怪骨や死人憑き程度が20〜30ではお話にならない。
イザナミがもう少し気合を入れて不死者に指示を出していたならまだしも、これでは各個撃破されて終了である。
まぁ、こちらとしてもカミーユのせいでやる気がかなり殺がれていたので、丁度いいと言えば丁度いい。
やがて、琥龍が最後の死人憑きをライトニングサンダーボルトで撃ち抜いて終了。
「え、これで終わり? なんだよ、あっさりしすぎだろ、常考」
「もう一部隊、いっとく?」
「‥‥酒屋をはしごするんじゃないんですから」
「だが、これはあくまで我々ならという話だ。仮にこれが村に入れば、被害者は馬鹿にならんでござる」
「やはり根本的な解決策が必要か。アンリ、お前が言っていたとおり、刃鋼との連絡は必要になりそうだな」
五行龍の長、金翼龍、刃鋼。
知性に長けた彼女(?)とならば、いいアイディアが浮かぶかもしれない。
遊び半分のイザナミには、無闇に命を狩り取らせるわけにはいかない―――
●弐班
こちらに属するのは、アンドリー、井伊、伊東、御神楽、レヴェリー。
壱班の所でも述べたが、バラバラに動く複数の不死者のグループは、彼らレベルの冒険者なら撃破は容易。
が、一般人に戦闘力を期待するのは無理だし、冒険者は丹波の常駐はできない。
結局の所、脅威を全て取り除くことにはならないのが実情である。
しかも、こちらの班には‥‥
「ふんふんふーん♪ 御神楽さんの身体は程よく引き締まってて、カミーユとはまた違った良さがありますわね。刀を振り回すのも楽ですし、身体が軽い感じですわ♪」
「おい固羅てめぇ。ふつーに戦うんなら別に御神楽の身体でなくてもいいだろーが!?」
「あらいやだ、野暮なこと仰いますのね。それとも‥‥御神楽さんの身体、触ってみたいんですの?」
「そりゃあまぁ‥‥って、そうじゃねーだろ!」
「登志樹‥‥あなたにも天斗同様、不埒なことを考えるが故のお仕置きが必要かしら」
「違ぇーっての!?」
「あら、凄いのに」
「何が!? 何がだ!?」
「アンドリーさんー、僕たちだけは真面目にやりましょーねー(汗)」
「まったくだ。いかに楽な戦闘とはいえ、あのようなやりとり、聞くに堪えん」
「待って。同じパラディンとして言っておくけれど、私は阿修羅に誓って遊んでなどいないわ」
「お堅いんですのね。わたくしがほぐして差し上げましょうか? イ・ロ・イ・ロと‥‥(邪笑)」
「澄華の口で、声でそういういかがわしい台詞を吐くのは止めてもらえるかしら。今にも滅したくなるもの」
「くすくす‥‥やってみます? 今攻撃しても、御神楽さんが死ぬだけですわ。勿論、そんなことをしたらあなたの命も無くして差し上げますけれども‥‥♪」
「オィィィッ! てめぇら戦闘中だってわかってんのかァァァッ!」
一応彼らの名誉のために言っておくが、彼らも30近い不死者の集団相手に、圧倒的な戦闘力を示していた。
問答しながら、果てはちょっとにらみ合いまでしながらも、きっちりと仕事はこなしている。
本当に、今日のカミーユはどうしたと言うのだろうか。
御神楽の身体に憑依し、優雅な立ち振る舞いで刀を振るうその姿は、お世辞にも悪魔らしいとは言えない。
加えて言動もおかしいし。
井伊とアンドリーだけで半分くらい倒し、折角だからと近くにいる別グループの討伐に向かう。
この数減らしが、少しでも村人たちのためになると信じて―――
●疑問
「‥‥しかし、何故ここまで散発的なのでしょうね。一気にやっては面白くないとでもいうんでしょうか」
「黄泉人としちゃあ、餌である人間を全滅させちまうのも拙いって思ってるんじゃないのか?」
「それはどうかな。丹波以外にも人間は多々居る。別に丹波一つ滅ぼしても変わらぬ」
「折角京都の目の前に来て、いきなりゲームを始めるっていうのも妙よね。っていうかこれ、やっぱり増援来るのかしら」
「消耗戦に出られては勝ち目は無いが‥‥」