●リプレイ本文
●二者会談
「お久しぶりね、刃鋼。二者会談を行うべく、阿修羅の力の一端を以って参上したわ」
「あなたが刃鋼殿か。お初にお目にかかる」
十月某日、丹波藩南西部。
五行龍の長、金翼龍・刃鋼と二者会談をすべく、二人のパラディンがここを訪れていた。
依頼に参加した人数は総勢10人だが、レヴェリー・レイ・ルナクロス(ec0126)とアンドリー・フィルス(ec0129)が習得する阿修羅魔法、パラスプリントという瞬間移動魔法でもないと日程が厳しい。
よって、パラスプリントを連打し、二人が先行して刃鋼と会談の場を持つことになったのである。
『お久しぶり。レヴェリーさんやったね。不死城が出来た時以来か。元気?』
「また仮面呼ばわりされるかと思っていたけれど‥‥覚えていてもらえて嬉しいわ」
『あはは‥‥他の皆は物覚え悪いからなぁ』
体長10mの巨躯に、六枚の翼。顔もお世辞にも恐くないと言えない外見。
しかし、刃鋼は五行龍の誰よりも知的であり、穏やか。あまり会った事が無い二人でも、対話するのに何の支障も無い。
「旧交を暖めるのもいいが、時間が惜しい。早速今後について話し合いたいのだが」
『うん‥‥せやね。ウチもあんたらの意見が聞きたいし』
「では私から。今後、イザナミは貴女たち五行龍に脅しをかけ、私達と敵対させる等の策を講じるかもしれないわ。そうなった場合、ある程度はその流れに乗り逆転を狙ったほうが良いと思うの」
『従った振りしとくん? まぁ、その方が村人なんかへの被害を減らせれるかも知れへんけど‥‥』
「話が早くて助かるわ。とはいえ、あまり手を抜いたような戦い方をしているとバレるかも知れないけれどね」
『うーん‥‥そんなんであのイザナミを騙せるかなぁ。それに、『人間を捕らえるのを手伝え』なんて言われたら従えんよ、ウチは。多分他の五行龍のみんなもね』
「なるほど‥‥確かに、イザナミが何の目的を以って貴女に接触したか、まだ不明だものね‥‥」
「それより、根本的な解決をした方がいいのではないか? イザナミが戦略的勝利を掌中にしているのは明らか。ならば、従う云々よりも倒すなり封じた方が話が早い」
『それが出来たら苦労せぇへんやん』
「何か無いのか? 五行龍の配置と東雲城の位置から、地脈の力を借りての五行陣でイザナミを東雲城に封じるとか」
『‥‥‥‥あんた、それをどこで?』
「む? ただの思いつきだが」
アンドリーの言葉を聞いた刃鋼は、声のトーンを少し下げて呟いた。
別に怒ったわけではない。ただ、意外だったのだろう。
「刃鋼、何か心当たりでも?」
『‥‥あんたらは丹波に関ってまだ日が浅いから知らんかも知れへんけど、この藩には『五行鎮禍陣』ちゅう昔の術が使われ、まだ影響が残っとんねん。詳しい説明は省くけど、この失敗作の術のせいで、丹波には異常な確率で騒動が起こってまうんよ』
「名前から察するに、禍を沈める術のように聞こえるが‥‥それが失敗作だったのか」
『そういうこと。けど、その失敗作を完璧なものにすれば、あるいは。丹波全域の禍を封じる効果を、東雲城のイザナミを封印する効果に書き換えればなんとかなるかも知れへん』
「‥‥ちょっと待って刃鋼。その術、あなたたちに影響は無いの? あなたたちがこの世に復活したのは、確か‥‥」
『‥‥‥‥』
五行鎮禍陣が崩壊したことで復活した五行龍。
もし、またその類の術を使えば‥‥刃鋼たちは言うまでも無く―――
●三者会談
時は移り、イザナミとの三者会談。
丹波藩中央部、東雲城正門前で行われるのだが‥‥現在は敵地のド真ん中なのだ。
城下には不死者があふれる。使者の待遇で無ければ、いかな猛者達と言えど命は無い。
「‥‥どういうことじゃ刃鋼とやら。聞いてはいたが、人間を連れてくるとは。見知った顔もおるようじゃのう」
『そっちの勢力下に行くんや。用心棒つけてもえぇやん?』
「人間を呼んだ覚えは無いが‥‥まぁよい。要はうぬと話が出来ればな」
イザナミは相変わらず絶世の美女の姿をとっている。ということは、また一人、人の命が消えたと言うことだ。
そういえば、彼女の黄泉人本来の姿を見たのは封印が解かれた直後だけのような気がする。
そこでもすぐに生贄を見繕い、人間状態になっていたのだが‥‥何かこだわりでもあるのだろうか?
三者会談に参加する冒険者たちは、直接東雲城に向かい、途中で刃鋼と合流していた。
それぞれ礼服を着込み、厳かに控えている。
「アンリ・フィルス(eb4667)にございます。太母様には御機嫌麗しく‥‥」
「山王牙(ea1774)と申します。お見知りおきを」
「お控えなすって。あっし、伊東登志樹(ea4301)なるケチな野郎で‥‥はべっ!?」
「弁えよ!」
「チンピラ同士じゃこれが最大限の礼儀なんだよ!?」
イザナミ相手であろうとガンたれを忘れない伊東を制する(制裁する?)アンリ。
自己紹介の段階でこれなのだから先が思いやられる。
このやりとりを見たイザナミは、眉をひそませて露骨に嫌そうな表情をした。
「‥‥礼儀を弁えぬ上に雅も解せぬ輩が混じっておるようじゃの」
イザナミの配慮か、正門前には立派な赤絨毯が敷かれ、傘を立たせ、いわゆる『お殿様』な雰囲気の空間が出来上がっていた。交渉は座談の形をとる。
アンリが差し出した貢物はあっさり拒否。人を呼んだ覚えも無く、京都軍と交戦中ならば受け取る理由も無い。ご機嫌取りは不愉快、とのことである。
『気にせんといて(汗)。とっとと会談始めたほうがえぇんとちゃうかな』
「ふむ。では単刀直入に言おう。刃鋼、並びに全ての五行龍よ。人間と手を切れ」
『‥‥あんたの下につけ、とは言わんの?』
「言わぬ。精霊はこの世にただ在るもの。一つの種に拘るものではない、人にも我にも付かず、傍観しておれ。それがあるべき姿よ」
『そいでも、ウチらには結んだ絆がある。あんたが丹波の人々を傷つけるんなら、ウチらは戦わなあかん』
「異なことを。うぬらは人に使われ、封じられていたと言うではないか」
『ウチらを封印したんは丹波の人たちとちゃう。人間全部を恨むんはお門違いや』
「‥‥大精霊にもなれるモノが、人の都合でかくも歪むものか。人の為に、我と戦うか」
『せやけど、出会うてしもたんや。過ごしてしもたんや。今更見捨てておけるかい』
「うぬらに首輪をつけた者どもの思う壺じゃというに」
どうやら刃鋼とイザナミの意見はどこまで行っても平行線のようである。
「‥‥もうよい、無駄と分かった。無理矢理ついて来たのじゃ‥‥お前たちも言いたいことがあるのであろう?」
半ば呆れるように呟いたイザナミは、冒険者たちに話を振る。
「ではお聞きいたします、太母様。豪斬殿の安否、並びに太母様が東雲城に留まられる訳をお聞きしたく候。そして‥‥我らにはもう何も無いのか、お伺いしたくございます」
「丹波藩主は無事じゃ。お前たちのような馬鹿は気に入っていると言った筈。城に留まる理由もそちは聞いておったと思うが、忘れたか? 同じ事を何度も言わせるのは感心せぬぞ、アンリとやら」
「太母様程のお力を持つ方が、本当にそれだけの理由で動かれるとは思えぬもので‥‥」
「逆よ。力があるから偽する必要が無い。どうせ来る前にこちらに策や伏兵でもあるのではと調べたのであろう?」
「お恥ずかしい限りで‥‥」
アンリが呟くと同時に、山王が少し前に出る。
「では僭越ながら、この地でのブレスセンサーの使用許可をいただきたく思うのですが」
「構わぬが、うぬはそれほど広範囲を調べられるのかえ?」
「いえ、あちこち回って‥‥」
「試すのは結構じゃが配下の者に襲われても知らぬ。そこまで助ける謂れは無い。多少は出来るようじゃが、無駄に命を無くす事はあるまい」
「くっ‥‥ならば、十万の兵の真偽をお伺いしたく思います。何かの巨大な術なのですか?」
「いいや?」
「人質はその十万の兵のために捕らえているのではないのですか?」
「何の話か分からぬが」
「では、その真偽とは!?」
食い下がる山王に、イザナミは溜息をつく。
黄泉人の最大の武器は軍勢を増やすこと。イザナミには相当数の眷属があり、大和の眷属が敗れた事も聞いた彼女は数か月を支配圏拡大に努めた。一日千人を食らう程に。
「で、では‥?」
絶句する山王。
中国地方は人口の何割かを失い、黄泉の軍勢を生んだ。気の遠くなる大虐殺。
山王がちょっと折れてしまったので、伊東が引き継ぐ。
「とりあえず、今日のところはやりあう気はねぇ‥‥あぁいいや、ないのですね? んじゃあ、こちらには冷凍と戦う時には協力する意思があるということは言っておく‥‥いやいや、申し上げておくぜ‥‥おきます」
「普通に喋りや。その方が気持ちが悪いわ」
「こっちだって痒いの我慢してんだよ! で、なんか攻略のアテはあんのかよ?」
「‥‥それはそれで不愉快じゃの。アテなどない。例のカミーユとかいう悪鬼が手も足も出ないのではな。あの城は不死者の、不死者による、不死者のための対抗兵器じゃ。迂闊に手は出ぬ。‥‥あぁ、しまった。そう言えば忘れておった」
不意にイザナミがパチンと扇子を閉じ、話を変える。何事かと思っていると‥‥。
「我が配下の『八雷神』の一角を、お前の領域辺りに行かせたのじゃった。うぬが来ないようなら村を焼け、と命じてな」
『来とるやん』
「そやつは融通が利かん。お前が居ないと、逃げたと思うかも知れぬ」
『あんたわざとやっとん!?』
「さて。どうだったかの」
一応全員無事に帰された三者会談組み。
南西部に防衛部隊をまわしたのは、大正解だったと言えよう―――
●防衛組み
時は少々遡り、丹波南西部に場所を移す。
三者会談が行われていた丁度そのころ、防衛組みが滞在していた刃鋼の住む山の近くの村で異変が起こっていた。
「ちょっ‥‥何あれ!? さっき空から辺りを見回したときには何にも‥‥!」
「現に奴はここに居る。避難指示を出せ。迎撃するぞ」
「一匹だけみたいですけど、あれはかなりヤバそうですねー。料理してみたい感じはしますがー」
「イザナミ‥‥! やはり仕掛けてきましたか!」
「野良‥‥って考えるのは楽観的過ぎるよな、やっぱ!」
ヴェニー・ブリッド(eb5868)はついさっきまで上空で偵察を行っていたが、その時には目の前の敵は確認できなかった。
全長3mほどの、全身真っ黒な毛に覆われた四足歩行の獣。外見は虎に似ているか? それにしては毛が黒一色だが。
真紅の目をギラつかせ、パリパリと常時電気を迸らせているその姿は、あまり見たことが無いものであった。
しかし、すぐにその危険性を察知した琥龍蒼羅(ea1442)と井伊貴政(ea8384)は、ヴェニーに村人への避難指示を促し、御神楽澄華(ea6526)や鷲尾天斗(ea2445)と共に迎撃体制をとった。
ちなみに、レヴェリーとアンドリーは彼らと一度合流し、刃鋼との二者会談の様子を語った後、別の村々へと連携強化などのために移動してしまっている。
「村の中だ‥‥長引かせるのは避ける」
「とりあえず避難指示は撃ってからね!」
琥龍とヴェニーがライトニングサンダーボルトを続けざまに放った。
二条の雷光が獣を穿つ! しかし!?
「殆ど効いてない!?」
「電撃に耐性でもあるのか!?」
黒い獣は電撃を意に介さず、二人めがけて猛スピードで突っ込んでくる。
しかし、井伊が間に入ってその爪を受け止める!
「む‥‥意外と鋭いですねー。御神楽さんといい勝ぶぅぅぅぅぅっ!?」
刀で受け止めた井伊だったが、黒い獣が吼えた途端、常時発している電撃の出力がアップ。
触れなければ感電はしないようだが、常時ライトニングアーマーを発動させているようなものか。
黒い獣は鷲尾に目標を変え、再び地を駆ける!
「新撰組一番隊組長(代理)の鷲尾天斗、どんどんかかってきな! キバって行こうか!」
鷲尾も攻撃を受け流すが、一瞬だけとはいえやはり電撃のダメージは装備を貫通して襲ってくるから厄介だ。
もう向こうも動けまい、と思ったその時。
「ってまだ動くのかよ!?」
動きの素早い黒い獣は、まだまだ余力があるらしい。三度爪を振り上げ、鷲尾の頭部を狙うが‥‥!
「はぁぁぁぁぁっ!」
御神楽がまさに横槍を入れ、突き刺したまま地面を駆ける!
勿論電撃によるダメージは喰らいっぱなし。すぐに足に来て転倒してしまう!
「まだ、もう一撃っ‥‥!」
転んだ体勢から身体を捻り、黒い獣に攻撃を仕掛ける御神楽。
しかし、当たったはいいがCOも混ぜてないので大したダメージにならない!
しかも、黒い獣は転んだままの御神楽に四回目(!)の攻撃を仕掛けようとする‥‥!
「間に合って! ストーム!」
連続で魔法が撃てるヴェニーがストームで援護するも、黒い獣には抵抗する気配も無いのに通じない!
「風魔法そのものに対する耐性とでも言うのか‥‥!?」
「がっ‥‥ぐっ、うあぁぁぁぁっ!?」
何とか身体を捻ったが、左肩を爪で貫かれ、電撃で追撃される御神楽。
一瞬、『こんな時、最近ならカミーユ嬢が来るのに‥‥』と考えてしまった自分に腹を立てながら。
「だいじょーぶですか!? あいつ、思った以上にヤバいですねー‥‥(汗)」
「な、なん、とか‥‥!」
「んにゃろう、絶対まともな生物じゃねぇ。なんなんだあいつは‥‥!」
井伊と鷲尾が自分に向かってくるのを察知し、すばやく飛びのく黒い獣。
すさまじい闘争本能というか、野生の勘と言うか‥‥!
「カミーユめ‥‥こういう居て欲しいときに居ないのでは本気で邪魔なだけだな」
「愚痴はいいからヘブンリィライトニング撃って! レミエラで作ったマイ雨雲使わせてあげるから!」
「効果が見込めないのに三回だけ、か。分が悪いな‥‥!」
琥龍とヴェニーがHLを連発するも、やはり足止めにしかならない。
一応、井伊と御神楽がこの隙に体勢を戻したが‥‥どこまでやれるか。
と、そんな時である。
黒い獣が急に空を見上げ、明後日の方向を向いたかと思うと、放電を中止。
そのまま空を飛んで(!)どこかにいってしまったという。
「あの方向は‥‥東雲城か? イザナミが何か指令でも送ったのか‥‥」
鷲尾の台詞の真偽は分からないが、兎にも角にも黒い獣は退いていった。
ここに冒険者が防衛目的で居てくれたからいいものの、彼らが居なければ確実にこの村は壊滅していただろう。
今はただ、防衛する人間を残そうと言い出した人に感謝するべきか―――