【黄泉の国、丹波・終】城VS城

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 4 C

参加人数:10人

サポート参加人数:2人

冒険期間:01月05日〜01月10日

リプレイ公開日:2009年01月16日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

 京都に入り込んだイザナミは、一部の人間にとって恐るべき事実を陽光の下に晒した。
 先代酒呑童子がタケミカヅチという神であったという話を京都上層部が知っていたのかは分からない。
 しかし、冒険者やギルド関係者に大きな衝撃を与えたことだけは確かである。
「‥‥なんかもう、手に負えない次元まで話が進んでません? イザナミだけでもお腹いっぱいなのに、今度はタケミカヅチですか。いや、もう死んじゃってるみたいですが、酒呑童子が名を継いだのなら同じことですかね‥‥?」
「うーむ‥‥聞いた様子だと、イザナミと酒呑童子の同盟は成立したも同然か。また厄介だな‥‥」
 ある日の冒険者ギルド。
 職員の西山一海と情報屋の藁木屋錬術だけに留まらず、ギルド内ではイザナミ関連の話題がかなり幅を利かせていた。
 イザナミ軍は丹波だけでなく、山陰山陽の中国地方全域で活動し、最近では瀬戸内海に黄泉の幽霊船が出没しているという噂さえある。
 そこに例のタケミカヅチ発言まで加われば、何気にジャパン存亡のピンチである。いっそイザナミに降伏してしまおうと言い出す者もいようというものだ。
「で、私、最近思ったんですけど‥‥そもそもイザナミって、なんで怒ってるんですかね?」
「んー‥‥? 地中に封じられてたみたいだから、そりゃ怒るだろう?」
「今の状況を思えば、封じられるほどの災厄だった事も確かですしね」
 イザナミがいつ封印されたかは不明である。
 そもそも、黄泉人という存在自体が、最近まで忘れられた魔物だった。少なくとも数百年以上は前の話だろう。
「話し合いで解決できないものでしょうか?」
「‥‥無理だろう。どう見ても向こうは人間を滅ぼす気満々だぞ。それに人間の生気を餌にするアンデッドと和平なんて、出来るわけがない」
 生者の敵という点で、不死者は悪魔よりも絶対悪と言える。また人を食らう者と講和することを、人間社会が許すとも思えない。
「ですが、腑に落ちないんですよ」
「‥‥ふむ。続けてくれ」
「イザナミは、豪斬様を生かしたまま捕らえてるって云う話でしょう。黄泉人支配下の村々も、イザナミに従えば滅ぼされる事は無いそうですよ。生贄は要求してるという話ですがね」
「ほほぅ。なるほどな、君はイザナミは話せば分かる相手だと思っているのだな」
 相変わらず甘い男だなと錬術は苦笑した。
「無いとは言いませんが、気にはなりませんか? 今の酒呑童子が二代目で、先代が建御雷神だなんて話をされたんですよ。これが冒険者なら気になって夜も眠れません」
「相手は正体も定かでない神だ。正直何を考えているか分からないことだらけなんだが、あまりに状況が切迫していて気にするゆとりも無いがね。なるほどな」
 先日の依頼は惨敗だった。
 だが、ギルドの冒険者の目の前に、重大な何かを残していた。
 イザナミの正体と過去の因縁を知る事が出来るかもしれない。或いは、最後の機会。
「これは一度整理して‥‥探索を行わねばならぬかな」 
「それに私、気になっているんです。前も言ったかも知れませんが、どうしてイザナミが人間の姿にこだわるのか。彼女は戦場でも人の姿で出てきますが、他の黄泉人はミイラなのに変じゃないですか? 復活直後しか彼女のミイラ状態を見たという報告はありませんし、それもすぐに―――」
 と、そんな時である。
 藁木屋の相棒、アルトノワールというハーフエルフが現れ、面倒くさそうに恐ろしいことを言った。
「‥‥錬術。例の不死城が移動して、丹波南東部の城とやりあう構えみたいよ」
「何‥‥!? こんな時に平良坂冷凍だと‥‥!?」
 平良坂冷凍とは、丹波の大商人でありながら黄泉人と通じ、武装がしゃ髑髏の骸甲巨兵や、大量の不死者を材料にして作られた不死城を有する第三勢力である。
 最近動きを見せていなかったが、城でありながら蟹のような形状の白骨の足を生やして移動することもできる非常識な城の機能を活用し、丹波南東部へ移動していたのだ。
 丹波南東部といえば京都のすぐそば。まさか彼らの狙いは、不死城で京都に乗りつけることか‥‥!?
「この年末年始になんて真似を! ‥‥あれ? でも、イザナミ軍が占拠した城を取りにかかってるんですか?」
「‥‥みたいね。本格的に丹波を平定したいんじゃない? ちなみに、イザナミ軍は八雷神を何匹か城に向かわせて迎撃させるつもりみたいよ」
「っていうかですね‥‥それ、ほっとけばいいんじゃありません? 潰し合いしてくれるならその方が‥‥」
「いや、無理だろう。恐らく京都の上層部から依頼が来るさ。『漁夫の利を狙い、丹波南東部の城を占拠せよ』とね」
「無茶な!?」
「この機を逃せば、丹波の一部なりと切り取れるのはいつになるやらわからないだろうしな‥‥」
 藁木屋の予想は的中し、そう経たないうちに京都上層部から依頼が持ち込まれた。
 果たして、イザナミ軍と冷凍軍を出し抜き、城を占拠することができるのであろうか―――

●今回の参加者

 ea1442 琥龍 蒼羅(28歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1774 山王 牙(37歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ea2445 鷲尾 天斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea4301 伊東 登志樹(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6526 御神楽 澄華(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8087 楠木 麻(23歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea8384 井伊 貴政(30歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb4667 アンリ・フィルス(39歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb5868 ヴェニー・ブリッド(33歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec0129 アンドリー・フィルス(39歳・♂・パラディン・ジャイアント・イギリス王国)

●サポート参加者

ステラ・デュナミス(eb2099)/ ニセ・アンリィ(eb5758

●リプレイ本文

●不確定要素
「了承♪」
「‥‥は? え‥‥あ、いえ、その‥‥了承していただけるのはありがたいのですが、随分と即断ですね(汗)」
 丹波藩南東部、とある森の中。
 御神楽澄華(ea6526)は、他のメンバーと別れ、単身でカミーユとの交渉に当たろうとした。
 不死者を自在に操る悪魔、ガミュギン。カミーユと呼ばれるのは、彼女(?)が憑依している女性の名に由来する。
 しかし、交渉も何もない。カミーユは御神楽が話を持ちかけ、説明を終えた一秒後には了解の意思を示す。
 即ち‥‥イザナミ軍、冷凍軍の衝突に乗じた、両軍への干渉。俗な言い方をすれば嫌がらせである。
「御神楽さん、自分で仰ったじゃありませんの。確かにわたくし、どちらも嫌いですもの。そこに御神楽さんのお願いとあれば、一暴れも二暴れもいたしますわ♪」
「‥‥‥‥」←自分にも都合のいい願いしか聞いてくれないくせに、と思っている。
「あ〜、なんですのー、その顔〜。ムカツキますわ〜」
「い、いえ、お気になさらず!」
「まぁ本音を出せば、京都の上役が絡んでいるのでしょうから、突っぱねてやりたいという気持ちもあるのですけれど。前にも言いましたわよね? わたくし、侮られるのはあまり好きじゃありませんの‥‥♪」
 カミーユは右手で右目を覆い、露出している左目を真紅に染めていく。
 本人は冗談のつもりなのだろうが、御神楽にすれば背筋が凍る。
「では、こちらはこちらで好きにやりますわ。御神楽さんも御自分のお仕事を頑張って下さいまし」
「‥‥カミーユ嬢、一つだけお聞かせください。あなたは‥‥誰の味方なのですか‥‥?」
 悪魔は絶対悪。だが、カミーユは人助けも厭わないように思える。親切な悪魔など聞いた事が無いが、今回も、なんだかんだ言いながらも協力(?)している。
 実に不思議な悪魔であった。
 御神楽の質問に、カミーユはきょとんとした後‥‥右手の人差し指を自分の唇に当て、優雅に笑って言う。
「もちろん‥‥わたくしはわたくしの味方ですわ‥‥♪」

●漁夫の利
「ったく、事件は宮中じゃなく現場で起こってるんだ! と言いたいよ。この場合、どの陣営が一番非常識なのか是非とも論じたい所だが」
「そうねぇ。実際問題、どこも違った形で非常識だし、一番を決めるのは難しいかも」
「‥‥というか、神皇様の軍である我々をあれらと比べること自体不敬かと思いますが」
 新撰組一番隊組長代理、鷲尾天斗(ea2445)の嘆きはもっともである。
 というか、ヴェニー・ブリッド(eb5868)をはじめ、冒険者の大半が思っていることだろう。
 無論、山王牙(ea1774)のように真っ向から異を唱える人物もいるにはいるが。
 冒険者たちを含む京都軍本隊は、イザナミ軍と冷凍軍が激突した後に行動を起こすべく、丹波藩の城近辺で待機中。
 冒険者たちの要請した数に対し、実際に送られてきた数は115名。
 少々すくない。
 主に魔法を使える面々が削られたようだが。
「索敵班から不死城が目視できたと報告が入った。まもなく戦闘になるぞ」
「腕が鳴りますねー。お城をどう料理してあげましょうかー」
「上手いこと言ってどーすんだ。俺としちゃあ、こういうこそこそすんのは嫌ぇなんだがなぁ」
 アンドリー・フィルス(ec0129)の言葉で、全員が装備の最終点検にかかる。
 戦人に分類される井伊貴政(ea8384)や伊東登志樹(ea4301)などは、戦うとなればひたすら相手を打ち倒すだけと思っているようだが、伊東は以前にいい作戦を提案した実績もあるだけに何か惜しい気もする。
「‥‥さて。是非もなしと言いつつも、気になってしまうものよ」
「言わんとすることは分かるがな。『自分たちに非があったのでは』などと考えていては戦えんぞ」
 アンリ・フィルス(eb4667)がふと呟いた言葉を聞いた琥龍蒼羅(ea1442)は、その知力と洞察力で趣旨を読み取る。
 ギルドの職員が呟いていたという、『イザナミが怒っている理由』。
 その理由に、人間が絡んでいたなら? 仮に、過去に人間が黄泉人を迫害していたとすれば、悪者になるのは人間のほうかもしれない。
 無論、そんな推論で迷っていられる状況ではないのだが。
「フフ‥‥ご安心を。今日はボクも真面目にやりますから。例えお偉方が、『援軍だと? 私が魔法の壷を持っていて、そこから兵が涌き出て来るとでも奴らは思っているのか!?』と思っていてもねッ!」
 ビシィッ! と奇妙なポーズで格好をつけた楠木麻(ea8087)だったが、今日の雰囲気は彼女に合わなかったらしく、もうふざけてるじゃないかというツッコミすら入らなかった。
 彼女がそのままのポーズで泣いているその時、御神楽が合流し、索敵班から新たな報告が入る。
 丹波の城の城門が開き、八雷神の黒雷と思われる獣と共に不死者の軍勢が出撃。
 同じく、不死城からも骸甲巨兵が出撃、交戦状態になった、と。
 ここまでは作戦通り。あとは漁夫の利狙いで、丹波の城を占拠するだけだ。
 なるべく目立たないようにしつつ、冒険者と京都軍は、密かに進軍を開始したのだった―――

●作戦開始
 索敵班の陰陽師たちや水銀鏡は、主戦場で行われている戦闘を目の当たりにして全員絶句していた。
 不死城が戦闘に参加していないのに、骸甲巨兵一体だけでイザナミ軍はガリガリ数を減らしていく。
 まさに一騎当千のその力は、黒雷が相手をしても足止め程度にしかならないという非常識っぷりである。
 正直、あれと戦うこともあるかもしれないと思うとぞっとする。
 が、そんな戦場に蒼い炎に包まれた馬のような物体が参加、更に場が混乱する。
 御神楽の要請を受け、カミーユが本当に両軍を相手にしに来たのだ。
 悪魔、骸甲巨兵、八雷神。勝手に争っているからいいようなものの、これらは全て人間の敵なのだから頭が痛い。
 イザナミ軍の指揮官はそれをよしとしなかったようで、虎の子の航空戦力など、追加の不死者を出撃させた。
 どれくらいの数が出撃したのか分からないが、城にはもう大した数は残っていないであろう、と索敵班の言。
「よし‥‥奇襲班、雷光の準備を。本隊、前へ! 門でも壁でもいい、ウォールホールで穴を空けろ!」
 鷲尾の号令の下、いよいよ城への突入が開始される。
 派手な雄たけびなどはない。ひたすら静かに‥‥それでいて確実な奇襲が必要なのだ。
「それじゃ、私たちは空からね。本当は不死城のほうに雷神の槌を振り下ろしてあげたいんだけれど」
「余裕があったらにしろ。鷲尾、先に行くぞ」
 ヴェニーがリトルフライ、琥龍がペガサスを駆り、空から直接天守閣へ攻撃を仕掛けるべく空に舞い上がる。
 鷲尾も遅ればせながらフライングブルームで続き、それを風の志士たちが援護する。
「っしゃあ! 俺たちは地上戦だぜぇぇぇっ!」
「芭陸様も地中から奇襲をかけてくださるそうです。確実に取りにかかりましょう!」
「‥‥八雷神が引き返してきたり、不死城に近づかれれば不利。その前に城を落としましょう」
 伊東、御神楽、山王たちは京都軍の本隊と共に、地上の裏門方面から侵入する。
 事前の報告どおり、城内に不死者はいるにはいるがあまりに数がまばら。
 なだれ込んできた京都軍を押し留める事は到底不可能であり、多少手強いのがいても‥‥
「あなたたちじゃ、料理するにも値しませんよー!」
「アイスブリザードをプレゼント! マサクゥル(皆殺し)、なんちゃって♪」
「不謹慎なことを言いながら戦うな。ついでに不死者はすでに皆殺しにされた後の状態だ」
「ヒジョーニキビシー! でもツッコミが嬉しい今日この頃‥‥」
 井伊、楠木、アンドリーたち歴戦の冒険者がちょいと手を貸してやればあっという間に制圧できる。
 もともと、小型がしゃ髑髏などの主力がほぼ出払っているのだから当然といえば当然だが。
 数の差もあるが、純粋な戦闘力や知略で勝った冒険者たちを止めるには、残存勢力では役者不足だ。
 裏門付近、城外部、内部と、地上部隊が怒涛の進撃を見せていたそのころ。

「ぐがっ! く、くっそぉ! てめぇ、待ち構えてやがったな!?」
「こそこそ動いている輩がいるようだったのでな。ここに突っ込んでくるのは少数だろうと踏んではいたが、まさかお前たちに出会えるとは。運命論者の―――」
「そのくだりはもういいわよ! エックスレイビジョンで何度も確認したけれど、あなたの姿はなかったのに‥‥!」
「作戦指揮を私がやらなければならない道理はない。天守閣でふんぞり返る趣味もない。私は戦うことこそが本分なのでな」
「おまえたちには風魔法が全く効かないんだったな‥‥! ちぃっ、三人で戦える相手ではないぞ‥‥!」
 天守閣に突入した鷲尾、ヴェニー、琥龍であったが、階下から現れた八雷神・火雷によって大苦戦を強いられていた。
 流石に骨馬からは降りているが、それ故に骨馬のほうも相手にしなければならない。
 風魔法を全く受け付けない敵が二体。正直、鷲尾一人で戦っているに等しい。
 その鷲尾も‥‥!
「や、やべぇ! 電撃で手が痺れてきやがった‥‥!」
 攻撃を仕掛けても刀で受けられれ電撃が走るし、斬られても勿論感電する。
 薬で傷は癒せても、麻痺までは回復しない。ポーションも万能ではないのだ。
 ヴェニーたちは援護すらできない。かと言って、逃げ出したら逃げ出したで鷲尾の死期を早めるだけ。
 いつぞや東雲城の天守閣でイザナミと対峙した事を思い出す鷲尾であった。
 ただ、その時と決定的に違うのは‥‥!
「今の私は、阿修羅すら凌駕する存在だ!」
「畜生! 相打ちにもってったって、こいつは総大将じゃねぇから意味が‥‥ねぇぇぇっ!」
「鷲尾! 効かなくてもいい、撃つぞ!」
「お任せ!」
 琥龍とヴェニーが魔法を放つが、狙い済ましたかのように骨馬が割って入って魔法を遮断する!
「ふ‥‥改旗(かいき)を侮ってもらっては困る。私の愛馬は凶暴なのだよ!」
「混ざってんだ‥‥よぉッ!」
「聞く耳持たぬッ!」
 ザンッ‥‥!
 剣閃が交錯し、鮮血が舞う。
 鷲尾が胴を深く斬られ、火雷の首がその胴体から離れた。
 倒れ付す鷲尾。しかし、不死者である火雷は悠々と首を拾うと、何事もなかったかのように胴体とくっつけてしまう!
「くそっ‥‥たれぇ‥‥!」
「この城は落ちるだろう。我々の油断と作戦負けだ。しかし、せめて貴様の命を手土産にいただいていく」
「がぐっ‥‥!」
 鷲尾の心臓に刀が突き立てられ、動かなくなるまで電撃を流し続ける火雷。
 他の二人は見ていることしかできない。
「さて‥‥そろそろ退き時か。退き際を間違えれば包囲されるな」
「私たちは眼中にないってわけ‥‥!?」
「全員で占拠に当たっていればよかったものを、無理に少数で別行動など取るからこうなる。同じ轍を踏む気はない」
 そう言って、火雷は改旗にまたがり、鷲尾たちが突入のために壊した場所から場外に出ようとする。
「‥‥一つだけ聞かせろ。アンリというイザナミのお気に入りが気にかけていた。『人間が滅ぼされるべき存在ならば、我らの祖先が太母様に何を為したのか教えていただけないだろうか』とな‥‥」
「貴様らに言っても無駄な話だが‥‥城を落とした褒美に教えてやる。遠い昔、貴様らの父祖は己が神と崇めていたイザナミ様を騙し討ちにし、地底に封印したのだ」
「これだけ暴れたら、封じられても仕方ないだろ」
「愚かな。イザナミ様ほど慈悲深き御方は他に居ない。黄泉族の長として常に人間との共存を唱えられ、人はおろか禽獣の命すら奪われぬ方だった。それを、自分達が長年神として崇めていたものを、人は不浄の魔物と罵り、裏切って滅ぼそうと図ったのだ。その薄汚さを目の当たりにして‥‥私は人であることを捨てた」
 と、その時、階下から多数の人声と足音。
 どうやら味方がここまで上がってきたようだ。
「話はここまでだ。続きは大和の王の末裔にでも聞くのだな。お前たちの大好きな神皇にな‥‥!」
 改旗は器用に城の屋根を駆け下り、あっという間に地面に降りて駆けていってしまう。
 戦場のほうでは不死城が前面に出てきたこともあり、この方面に展開していたイザナミ軍はほぼ壊滅の憂き目に会ったようだ。
 火雷の口から語られた話。その真偽を考える前に、今は‥‥!
「鷲尾!? おい‥‥おいおい!? 冗談じゃねぇ、目ぇ開けろ! いや、開けてるか。んじゃ瞬きしろ!」
「何気に錯乱してますねー?(汗) 誰か、応急処置をー! アイスコフィンが望ましいですー!」
「アイスブリザードで我慢してもらえるならボクが!」
「頼む。あとは俺がパラスプリントで京都まで運ぼう。兄者」
「わかっている。富士の名水を持っていけ」
「‥‥城攻めに勝利しても、こんな大きな犠牲を払っては‥‥!」
 鷲尾が助かるかどうかは神のみぞ知るといったところだろう。
 しかし、純然たる事実として‥‥丹波南東部の城は、京都軍、ひいては人間が一矢報い、取り戻したのである。
 果たして、これが今後にどう生きるのか。混迷極める丹波の行く末は?
 激動の予感が、冒険者の胸に去来する―――