【忘却の洞窟・終】人のサガ

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:11月08日〜11月13日

リプレイ公開日:2008年11月18日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「というわけで、冒険者さんたちの知恵と忍耐(主にパラディンさんの)により、断片的ながらも大分情報が出てきたわけです。参加者のお一人は、中にいるのは月の精霊アルテイラではないか、との推測をしているようで」
「ふむ‥‥悪くない推理だね。しかし、中に何かが居て、それが友好的とは‥‥」
 ある日の冒険者ギルド。
 職員の西山一海と、その友人で何でも屋の藁木屋錬術は、忘却の洞窟について話していた。
 二度目の調査にあたり、得られた情報は思いのほか多い。それは冒険者の功績に間違いなかった。
 しかし、それにより分からなくなったことも多い。
 中に女性が居て、近づいてはいけなくて、記憶を失うのは魔法のせい。
 しかも、その女性は友好的であり、中のことは外部に漏らさない方が良い、というメッセージが残された。
 ずっと洞窟に閉じこもっているならば、その女性はまともな生物ではあるまい。普通は餓死する。
 まぁ、中に知的生命体がいるのであれば、色々説明がつくことも多いが‥‥。
「害があるわけではないようだし、世の中にはそっとしておく方がいいこともある。これ以上の調査は不要だろう」
「いえ、それが‥‥依頼人はいたく興味をそそられたようで(汗)」
「‥‥続けるのか? 状況が状況だけに、洞窟内に居る女性にも耐え難い理由があったのだと思うのだが」
「それでもそれを暴こうとするのが、人のサガ‥‥なんでしょうかねぇ‥‥。どうも、綺麗どころだったら自分のそばにおいておきたいって意見が結構寄せられたそうで‥‥」
「‥‥まるで人身売買だな。この情勢下でよくやる‥‥」
 話によると、依頼が成立しようがしまいが今回で依頼人は手を引くと言う。
 平穏に暮らす何かを侵略してまで自分たちの好奇心を満足させようとする人間たち。
 そんな輩ばかりではないとはいえ‥‥忘却の奥に隠された真実の行方は、どうなってしまうのだろうか―――

●今回の参加者

 eb0641 鳴神 破邪斗(40歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb1655 所所楽 苺(26歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb4667 アンリ・フィルス(39歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb5431 梔子 陽炎(37歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb7143 シーナ・オレアリス(33歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)

●サポート参加者

ネフィリム・フィルス(eb3503

●リプレイ本文

●是か非か
「‥‥泣いても笑っても、これが最後の探索と言う事か。中に居る女とやらが何者なのか分かるのか、それとも真実は闇の奥深くへと消えゆくか‥‥」
「やっと都合がついたと思ったら最後の依頼なのだ(汗)。それでも、まっすぐ進めば結果も後からついてくるのだ!」
 京都近郊の山岳地帯。
 すでに名を知られて久しい忘却の洞窟は、存在する場所からして人に知られたくないという意図が見え隠れする。
 そして、中に入って外に出ると、忘却の洞窟のことだけを忘れ、メモした字まで消えるという徹底振りだ。
 真実を闇の中に抱えたままの洞窟を前に、鳴神破邪斗(eb0641)や所所楽苺(eb1655)は思いを新たにする。
「不思議なこともあるんですね。興味津々です。いろいろ試してみたいですね」
「この洞窟に関する依頼もこれが最後ねぇ。最後って言っても、最初を覚えてないから実感湧かないけど。まあ依頼として引き受けたんだし、やるだけやってみましょ」
「少々不純かも知れぬが、一期一会の出会いに未来へ繋ぐ手掛かりがあるやも知れんと、藁にもすがりたい一心に候」
 今回、新たに参加した冒険者は三人。
 シーナ・オレアリス(eb7143)もその一人で、魔法使いならではの作戦を考えているようだ。
 梔子陽炎(eb5431)は継続参加者だが、記憶を失ってしまうので気分的には初参加だ。
 アンリ・フィルス(eb4667)もまた新規参加者だが、どうやら目的はこの依頼の達成だけではないようである。
 晴天の下にあっても薄暗い洞窟前。そしてぽっかりと口を開けた洞窟そのもの。
 各々思うことは違えど、やることは同じ。
 この闇の奥にいる存在に接触し、あわよくば連れて帰ること―――

●真実を
「そういや破邪斗さん、なんか、前回洞窟内に何か埋めたとか聞いたのだー?」
「‥‥そうらしいな。俺は外にいたし、梔子は記憶を失った。とりあえずやるべきことはやったのだろうから、中の様子が変化していなければ見つけられるだろう」
「大丈夫だと思うけどねぇ。それじゃ、入ってみましょうかぁ」
「了解です。それじゃ鳴神さん、後のことはよろしくお願いしますね」
「‥‥分かっている。こちらも魔法の力とやらにせいぜい期待させてもらおう」
「うむ。よい報告ができるよう尽力しよう」
 こうして、鳴神以外のメンバーは洞窟へと入っていった。
 その後、どれくらい時が経っただろうか。
 鳴神は一人、辺りに気を配って警戒しながらも、依頼人のことについて考えていた。
 京都近辺を取り巻く情勢は、正直言ってかなり切迫している。
 にもかかわらず、綺麗どころがどうかズレた依頼を押し進める依頼人とは、いったい何者なのだろうか?
 中に居るのが何かも判明していないし、断言はできないが‥‥鳴神の脳裏にはとある商人の名が浮かんでいた。
「‥‥まさか、平良坂冷凍とは言わんよな?」
 詳しい説明は省くが、それは丹波北部に不死城を築いた大商人の名前である。
 もっとも、黄泉人と手を組んでいる彼がギルドに依頼を出しても受理されまい。
 代理人を使ったのだとしても、それなら配下の黄泉人にやらせた方が手っ取り早い気もする。
 何はともあれ、杞憂であることを祈るのみなのだが。
 そして、さらに時が過ぎ。
 不意に洞窟入り口のほうから『ガツン!』という大きな音がし、巨大な氷の塊が出現、倒れていた。
 思わず身構えた鳴神であったが、すぐにそれが自らにアイスコフィンをかけたシーナであることに気づく。
「‥‥これを引っ張り出して溶かせ、と?」
 愚痴を言っても始まらない。
 どうやら洞窟の内部からも押し出しているようで、意外とすんなり全身を洞窟の外に出すことに成功。
 すぐに火をおこし、氷を溶かし始めた。
 その作業を始めた直後に、洞窟内から他のメンバーも帰還した。
「あれれー? おいらたち(略)」
「‥‥いいから黙ってこれを読め。お前からお前宛だ」
「あ、破邪斗なのだー。って、おいらがおいらに手紙なのだー?」
 やはり記憶を失ってしまっているようだ。
 所所楽、梔子、アンリの三人は、鳴神と知り合ったことは覚えているので、彼から渡された自筆の手紙で状況を知る。
 無駄骨を折ったか、と鳴神が思っていると‥‥。
「う‥‥ん‥‥? ちゃんと外に、出られたんですか‥‥?」
 まだ希望はあった。
 アイスコフィンは対象の時間をほとんど時間を進まなくさせる魔法故、結界の影響を受けないのではないかというシーナの推理は的を射ていたのだ。
 彼女の一言だけで、策が成った事を理解する冒険者たち。
 一応確認の意味も含めて、シーナが完全回復するまで所所楽のアイテムをチェックする。
 予めアイテムを指定し、それを携帯しているなら肯定、バックパックに入れているなら否定の意味を持たせる。
 そして結果は、以下のとおり。

ハリセン…友好的な存在かどうか。携帯
火打石…敵対的な存在かどうか。バックパック
勾玉…外に出る意志の有無。バックパック
扇子…近辺で起きていた行方不明との関連。携帯
メダル…女=洞窟の守護者の図式。バックパック
調理器具…守るべきものかどうか。携帯
帯…忘却魔法の解除の可否。バックパック
草履…洞窟に残る意思は硬いか。携帯
防寒服…前回埋めた地図等の有無。携帯

「ふむ。これだけ見ると争う理由がないように思えるが、拙者の武器には使用した形跡があるのだが」
「彼女を守る何かでも居たのかしらねぇ。そういえば、私は首に何も巻いていないけど‥‥何かヤバいものがこの洞窟に封印されているっていうことはないわけね。よかったような、残念なような」
 流石に、京都近辺で妙なものが復活するのはもう打ち止めであってほしい。
 要は、この洞窟は中に居る女性がただただ隠れ住みたい一心で住み着いたものということなのだろう。
 それが何者で、どういう経緯があるのか。
 それは、シーナが語ってくれるだろう―――

●不足
「彼女の正体は、鳴神さんの予想通り、月の精霊アルテイラ。大昔にジャパンに来て、理由があって今はこの洞窟に隠れ住んでいると言っていました。その理由は教えてもらえませんでしたけれど。でも‥‥凄く、悲しそうな顔をしていました」
 精霊である彼女が、何故京都にいたのか。そしてそこから何故こんな洞窟に閉じこもっているのか。
 アルテイラは語らなかったという。
「ただ、そっとしておいて欲しいとだけ‥‥」
「‥‥それなら何故洞窟内に敵が居る?」
「あぁ、それがですね、あれも洞窟の防衛機能らしいのです。侵入者に対して幻影と混乱の魔法をかける仕掛けになっていて、もう幻影騎士やら同士討ちやらで大変で‥‥何度来ても引っかかるのがズルイですよね」
「ほう、恐るべき月魔法の要塞というわけかい。それで? お前たちは何故その女を連れてこなかった」
 話を聞いていた鳴神は不満をあらわにする。
「無茶言わないで欲しいのだー。本人にその意思がないのに無理やり連れ出したら、おいらたち誘拐犯なのだ(汗)」
「そうよねぇ。それに、彼女はそっとしておいたほうがいい気がするのよねぇ。覚えていないけれど‥‥女の勘ってやつ」
 ぶちっと鳴神の血管が切れる音がした、気がする。
「ガキの使いか! 怪しい洞窟の女がちょいと顔を伏せて涙を見せれば、信じて大人しく帰るのか? そんなもの、引きずり出してから吐かせればよいだろう」
「そう言われても、本人にその意思が無いなら、これ以上はアルテイラと戦う事になるもの。やりたければ鳴神さんだけでどうぞ。アイスコフィンなしで洞窟を出入りする覚悟があるなら、ですけれど」
「‥‥ちっ‥‥」
「貴殿の気持ちも分かるが、拙者らの任務は制圧ではない。洞窟の主に協力を拒まれては、それまでよ。してシーナ殿、拙者は五行鎮禍陣や太母様について聞いたはずなのだが、精霊殿は何と答えておられた?」
「陣については何も。ただ太母? イザナミでしたか? 会ったことがあるそうです」
 シーナの答えに、アンリは息を飲む。
「何! まことか?」
「はい。彼女はイザナミ様と呼び、懐かしいと」
 シーナはデジャブを感じた。アンリは洞窟の中でも同じ反応を示したのだ。
「何処ででござる、と貴方が聞いて、彼女は出雲の社と答えて‥」
 立入られたくないのかアルテイラは言葉を濁したが、当時のイザナミは出雲に立派な社を持ち、人々に崇められていたらしい。
「それで拙者は何と問うたのでござるか? まさか引き下がった訳はない」
「おいおい、さっきと云ってる事が違うんだが?」
 鳴神が文句を言うがアンリの耳には入らない。
「あなたは御心を取り戻す方法を熱心に聞いたけど、アルテイラは‥‥分からないと」
「そうか‥‥是非も無い」
 アンリは嘆息した。
「‥‥ないないづくしか。とにかく、連れ出しは失敗したという報告はせんとな」
「できれば、精霊さんのことも伏せたいんだけれどぉ‥‥」
 そっとしてほしいと言われたらしい。覚えてはいないが、気にはなる。
「それほどの義理は無い。向こうは理由を話す気は無いというしな、俺たちは依頼を果たすためにここに居る。口止めしたいなら、それなりの対価は払えって話だろ。それが世間の道理だ。俺は報告するぜ、馬鹿馬鹿しい」
「空気読まない人なのだー」
「仕方あるまい」
 京都近郊の山岳地帯に、美しい女性の姿の月精霊がいる。
 この話は冒険者ギルドに報告書が保管されて打ち切りとなった。
 冒険者達はもやもやを抱えて。何かの拍子に再び話が続く予感めいたものを感じたが、
 勿論‥‥今の京都に、そんな余裕があればの話だ―――