【忘却の洞窟】断片
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■シリーズシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 80 C
参加人数:3人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月23日〜10月28日
リプレイ公開日:2008年10月28日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「さて‥‥分からないことだらけながらも、いくつかの断片が拾えたようですね」
「外に待機するメンバーを残しておいたのは大正解だったようだね。まさか本当に忘れてしまうとは‥‥」
ある日の冒険者ギルド。
職員の西山一海と、京都の何でも屋の藁木屋錬術は、つい最近発見された洞窟について話していた。
その名も『忘却の洞窟』。洞窟から一歩でも出たら最後、その洞窟のことを綺麗さっぱり忘れてしまうという、半ば都市伝説の眉唾物の話であったはずの場所である。
それが実在し、調査依頼が出されたのはつい最近。そして、都市伝説は事実であると確認された。
噂どおり、メモまで消えてしまうと言う不可思議な現象。
少なくとも、今のところは人間の犯人が居るというわけではないようだが‥‥その洞窟のことだけを忘れさせる現象など聞いたことが無い。無論、魔法などについても同様だ。
「えーっと‥‥まず、記憶やメモは消えてしまう。中と外では気配も感知できない。戦闘しなければ使わない方針だった矢が足りなかった。そして、知らないうちにできていたと言う斬り傷‥‥」
「中の詳しいことは入った方々が忘れてしまったので不明だが‥‥中に何か居ると考えるのが妥当か」
「しかし、そんなところにずっといるなんてどんな生物ですか。食料や水は‥‥」
「別に生物とは限らないだろう。もしかしたら宝を守る埴輪のような相手かもしれない」
「‥‥前回も思ってたんですけど、藁木屋さん、なんでそんなに財宝とか術にこだわってるんです? そりゃあ私だって夢見ないわけじゃありませんけど、藁木屋さんには似合わない気がします」
「はは‥‥自分でもそう思うがね。何、別に本当に宝があればいいと思うわけではないよ。ただ、また妙なものが復活したりする想像をするよりは精神上いいだろう?」
「気持ちは分かりますけど‥‥それは単なる楽観なのでは」
「‥‥かも知れないな‥‥」
再び出された忘却の洞窟の調査依頼。
果たして、その奥には何が眠るのか。闇の底に何があるというのか。
出来れば、多数の意見と力を合わせて挑んでいただきたいものである―――
●リプレイ本文
●再び
十月某日、曇り。
今にも雨が降り出しそうな灰色の雲が空を覆う中、冒険者たちは再び忘却の洞窟までやってきていた。
とは言ったものの、参加人数は前回より更に減ってわずか三人。
しかも、そのうち二人は前回洞窟の中に入って洞窟のことを忘れてしまったので、明確な道筋を覚えていたのは鳴神破邪斗(eb0641)という忍者ただ一人。
まぁ、道すがらには特に障害はなかったので、移動する分には問題はないようである。
「‥‥こうなったら洞窟の正体を突き止めるまで、とことん付き合ってやろうじゃないか」
「まさかとは思ったけど本当に忘れちゃうなんて、不思議よねぇ。私は洞窟の中で何をしていたのかしらぁ? 面白そうな事や気持ちいいことでも無かったのかしらん? ま、いいけど」
同じく忍者の梔子陽炎(eb5431)。
洞窟に関することだけを綺麗に忘れてしまうという仕様だったらしく、前回依頼を受けたことを忘れてしまった彼女も鳴神と出会ったことは忘れていなかった。
ならば順序だててしっかりと説明すれば、証拠も多いのだし忘却の洞窟の力を疑う余地は無い。
今回、彼女は多数の色違いの紐を用意して参加。どうやらこれを情報源として、後に残すつもりのようだ。
「こんなに綺麗さっぱり記憶を消せるとはすげーな。俺自身は記憶を消された事も思い出せないんで、なんか他人事な気分だが」
歴戦の勇士であるパラディンのバーク・ダンロック(ea7871)でさえ、記憶消去からは逃れられなかった。
オーラエリベイションなどの精神防御を備えた魔法を使っていても、である。
バークの読みでは、前回参加者の一人が怪我を負って洞窟の外に出てきていたことから『傷は消えない』としている。
そして、それを利用し、自らの背中に傷を文字として残して情報につなげるという、苦肉の策を取るようだ。
‥‥とても痛そうである。
そして、崖の陰の陰という非情に目立ちにくいところにひっそりと存在する洞窟へと一行は到着。
前回は快晴だったのでまだこの場所も明るかったが、今回は大分暗い。
それはまるで、この洞窟の存在そのものを暗示しているようであったと言う―――
●周辺
「それじゃ、行ってくるとするぜ」
「例の紐の色のことも覚えておいてねぇ。それじゃ」
しばし休憩して旅の疲れを癒した後、バークと梔子は洞窟へと足を踏み入れていく。
それを黙って見送るの鳴神だったが、別に彼はやる気がないと言うわけではない。
全員突入して、洞窟の秘密を掴めればいいが‥‥そうでなければ全員記憶をなくし、忘却の洞窟はまた歴史の闇に消えてしまうだろう。それでは拙い。
故に、少人数であることを考えると少々痛いが、鳴神が連絡役として今回も外に残ることになっているのだ。
「‥‥さて。外に残るのはいいがただ突っ立っているのも芸が無い」
鳴神はそう呟くと、目立つ場所に書置きを残して周辺の調査に向かう。
すぐに到着できるような場所に村があるわけでもないので、さほど遠出する意味はないが。
一応、京都を出る前に調べてみたが、やはり忘却の洞窟のことは全く記述が無い。
ならばということで洞窟の近辺のことを調べてみると、どうにも奇妙なことがわかった。
ここら一帯では、行方不明者の届出が多少多いが、いずれも必ず無事に発見され、戻ってきているというのである。
年間十人の行方不明事件が起こったとして、その全員が帰ってくる。しかも毎年。
良いことなので目立ちはしないが、よくよく考えると不自然だろう。
そして、鳴神が収穫無しで戻ってきたが、他の二人の姿も、書置きが動かされた気配もなかった。
「‥‥連中はまだか。遅すぎると言うことはないが‥‥」
今回、中ですることは多い。それを克明に記すことが出来ないのは歯がゆい限りである。
バークたちが出てくるまでには、そこから更に半刻ほどかかったという―――
●結果として
「あら? 私たち、なんでこんなところに‥‥」
「‥‥その反応は前回もやった。説明するからそのまま待て」
「こんな紐、いつ巻きついたのかしら」
「‥‥そのまま待てと言っている。外すなよ」
「ありゃ、鳴神じゃねぇか‥‥って、痛てて‥‥。なんだぁ? 背中が妙に痛むが‥‥この俺がダメージもらったのか? つーかなんで鎧着てねぇんだ?」
「‥‥それも合わせて説明する。いいか、回復薬を飲むような真似だけは絶対にするな」
「なんでだよ!?」
「‥‥何でもだ。その痛みを無駄骨にしたいのか?」
洞窟から出てきたバークたちは、やはり洞窟に関する記憶を失ってしまったらしく、テンプレートにでも書かれていそうなリアクションで辺りを見回す。
ここでさらにテンプレートどおりのことをされるとすべてが水の泡。
鳴神は的確に二人を制し、軽く事情を説明。
洞窟のことを忘れてしまっている二人には眉唾物だったが、予め自分たちが自分に言い聞かせるために書いておいた文章を読んで、嘘ではないと信じるに至る。
書いた覚えは無くとも、自分の字くらい判別可能だ。
そして、一行はまずはバークの背中を見た。
そこには‥‥。
「‥‥何? 『女』、『魔法』、『近寄るな』。『装備なし』、『理由は魔法』‥‥。どういう意味だ‥‥?」
「っておい、俺の背中に傷で字ぃ書いてあんのか!? どうりで痛ぇわけだぜ‥‥」
本人には見えないが、血の滴る痛々しいものであるのは間違いない。
普通の人間ならこんなことをされれば絶叫ものだろう。
「状況的に私が書いたのよねぇ。どういう意味なのかしらん」
「‥‥打ち合わせに照らし合わせて考えれば、普通は『魔法を使う女がいるから近寄るな、有効装備もなし、記憶を失う理由は魔法』ということになるが‥‥その割には悠長だ」
「おーい、もう回復していいか? つーか、悠長ってのは何でだ」
「‥‥好きにしろ。おまえほどの冒険者が『近寄るな』と感じた敵が中にいたとして、こんなメッセージを背中に残す暇があったのかと思ってな。それに、そうだとしたら背中の傷以外の傷が見当たらんのも不自然だ」
「確かにねぇ。じゃあ、私のあちこちに結んであるこの紐の意味は?」
梔子の紐には、つけている場所、色によって様々な意味を持つようあらかじめ打ち合わせしてある。
まず右腕の紐。これは中に何がいたのかを示すもので、色は黒。
「埴輪でもアンデッドでもない何かが居た、ってことかしらぁ」
左腕は、中にいた物が友好的かそうでないかを示す。
色は‥‥白。
「‥‥白だと? 友好的とはどういうことだ」
右足は、洞窟に入ることで、忘れてしまった洞窟に関する記憶が蘇るか否か。紐が巻かれていないので、答えは『否』。
「なんだなんだ、ケチくせぇなぁ」
左足は、前回の記憶が取り戻せていて、且つ洞窟の内部の様子が前回と同じなら白い紐を巻くという条件付けだったのだが、右足に紐が無いならここにも巻かれる道理は無い。
「‥‥やはり、洞窟内部に書置きをするしかないのか。お前たち、俺が頼んだ通りにやったんだろうな?」
「覚えてねぇや」
「右に同じねぇ」
「‥‥ちっ‥‥」
舌打ちした鳴神だったが、そこでふと気づく。
梔子の首に、黒い紐が結ばれていたことに。
「‥‥なん‥‥だと? 中の様子を漏らさない方が良い、だと‥‥?」
そういう合図として設定されていた紐があるということは、そういうことだ。
それが良い意味なのか悪い意味なのかはともかくとして、中に入った二人はそう感じたと言うこと。
冒険者たちの‥‥特に梔子のアイデアは秀逸で、洞窟内に重要な何かが隠されていることは判明した。
それを暴き出すのが良いことなのか、悪いことなのか‥‥それは、忘却の彼方に隠されている―――