【激動の刻】狙いは五行龍

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 95 C

参加人数:10人

サポート参加人数:3人

冒険期間:01月26日〜02月01日

リプレイ公開日:2009年01月31日

●オープニング

 イザナミが復活し、丹波藩を壊滅させ掌握してから、それなりの時が流れた。
 人類はイザナミ軍と平良坂冷凍という商人一味との戦いの隙を突き、丹波南東部の城を占拠。
 なんとか反撃の糸口らしきものを手に入れた人類であったが、丹波にはあまりに強敵が多い。
 イザナミ軍には、イザナミ本人と八雷神という強大な親衛隊。
 冷凍軍には、不死城、骸甲巨兵、十七夜という元陰陽師の黄泉将軍。
 そして、時には敵、時には味方(?)の不死者を操る悪魔、ガミュギン。
 これらは互いに争いあっているものの、潰しあいを待っていては先に人類が滅んでしまう気がする。
 悪いことに、丹波南東部を人類の手に奪回したことは、イザナミや冷凍の不興を買った。
 特に冷凍にして見れば、せっかく手に入れられそうだった領地を掠め取られた格好なので当然だが。
 そこで、冷凍は新たな動きを見せる。
 またしても不死城を移動させ、丹波北部に戻った冷凍たちは、十七夜に五行龍の一角、木鱗龍・森忌の捕獲を命じた。
 それを聞いた事情を知る者たちには、嫌な予感が走ったという。
 かつて丹波の地に、禍を鎮めるために封じられたのが五行龍。
 その五行龍を封じたのは、昔の陰陽寮の陰陽師たちだという。
 そして、黄泉将軍の十七夜も古の元陰陽師。
 もしや十七夜は、五行龍たちを媒体として、イザナミを封じるべく再び五行鎮禍陣を行おうとしているのではないか?
 真偽は定かではないが、今まで丹波で人類と共存していた精霊である五行龍を失うのは惜しい。
 面識のない人間からしてみれば駒かもしれない。しかし、彼と友となった者たちもいるのだから。
 激しく事態が動き始める丹波。
 新たな八雷神の出現も危惧しつつ‥‥今は、森忌の救出に急いでいただきたい―――

●今回の参加者

 ea0020 月詠 葵(21歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1442 琥龍 蒼羅(28歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2445 鷲尾 天斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3210 島津 影虎(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea4301 伊東 登志樹(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6526 御神楽 澄華(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb2483 南雲 紫(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb3936 鷹村 裕美(36歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb4667 アンリ・フィルス(39歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb5868 ヴェニー・ブリッド(33歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

ネフィリム・フィルス(eb3503)/ ルーフィン・ルクセンベール(eb5668)/ ニセ・アンリィ(eb5758

●リプレイ本文

●KY?
「ちゃお。皆さん御機嫌いかが?」
「よくよく君たちとは縁があるらしいな。あえて名乗らせてもらおう! 八雷神、火雷であると!」
 丹波藩北部を目指し、イザナミの支配地域である丹波を全員一丸となって進んでいた冒険者たちは、まだ道半ばというところで、会いたくない連中と同時に遭遇してしまった。
 即ち‥‥。
「カミーユ嬢‥‥! 今回は何をしに‥‥!?」
「あら、冷たい反応。酷いじゃありませんの、城取りに協力してあげましたのに」
「いよう。不死者ならぬ不死鳥ってな感じで戻ってきたぜ。黄泉路とやらからなぁ!」
「ほう‥‥惜しいな。君ならよい不死軍の精鋭となれただろうに」
 のっけから空気を読まずに道のりを邪魔する二人。御神楽澄華(ea6526)や鷲尾天斗(ea2445)をはじめ、一行の中には仮契約していたり一度殺されたりしているくらいの因縁を持つ者もいる。
 御神楽と契約的なもので繋がっている(?)というカミーユはともかく、火雷は常に冒険者一行を探しているのではないかと思えるくらいよくかち合う。
 実際そういう節はあるが、よく他の八雷神と出会わないものである。
「押し通る。此度の遠征の目的に貴殿らはない。それでも邪魔をするとあれば戦うしかあるまいな」
「駄目だって。先はまだ長いんだ。森忌を助けなければいけない以上、構っていられる時間はない!」
「っていうかカミーユさん、五行龍を助けることはその周辺に住んでる人たちを助けることにも繋がるのよ? 藩民を守ってるならむしろ私たちの味方をするのが筋なんじゃない?」
 アンリ・フィルス(eb4667)や鷹村裕美(eb3936)は得物を抜いて臨戦態勢をとるが、ヴェニー・ブリッド(eb5868)だけは一応理攻めでカミーユに交渉を試みる。
 その言葉で、一行の目的を察したカミーユは‥‥。
「なるほど。いいですわ、正論過ぎるのがちょっと癪ですけれども‥‥今回も普通にお手伝いしましょうか」
「あれっ、そうなのですか!? うみ‥‥なんか聞いてたより話せそうな人なの。綺麗だし」
「あら嬉しい。でも坊や、残念ですけれど、わたくし男には興味ありませんの。あなたが女の子だったらよかったのに♪」
 月詠葵(ea0020)の言葉にも、本気か冗談かわからないリアクションをするカミーユ。
「女の子と見まごうばかりの月詠殿を男と見抜くとは‥‥。いやはや、こういうのはお目が高いと言うべきでしょうか」
「そんなことより‥‥これで一気に形勢が悪くなったな、火雷。俺たち全員とカミーユを同時に相手にしてみるか?」
「つーかよう。カミーユじゃねぇが、おめぇさんも俺たちの邪魔すんのは上手くねぇんじゃねぇのか? 十七夜の目的が何にせよ、ヤバい術でイザナミに危害を加えようってぇのは俺でも分かる。俺たちの邪魔するより、十七夜と戦ってイザナミを守るのが親分と子分の仁義なんじゃあねぇのかい!?」
 島津影虎(ea3210)から琥龍蒼羅(ea1442)の台詞の流れは、流石に火雷も理解している。
 そして、伊東登志樹(ea4301)の言は多少ピントがズレているが、間違ってはいない。
 冒険者の邪魔をして十七夜の企みを成功させてしまうくらいなら、ここは捨て置くべきだ。
「ふむ‥‥一理も二理もある。正直なところ、苦手な相手も混じっているようだからな」
 ちらりと、瞳の代わりに紅い光の点った髑髏武者が南雲紫(eb2483)に視線を送る。
 ここにいる冒険者は誰もが名の知れた手練。
 名乗らなくとも、風貌だけで誰と分かることもあるだろう。
「光栄ね。本当は戦り合ってみたい気持ちもあるけれど、森忌のことが優先なのよね」
「フラれたな。いいだろう、今回は預けておくとしよう」
 言葉通りに去っていく火雷に、ほっと息を吐く一行。
 相手は独自の奇妙な術を使う十七夜。正直、ここで戦力を削りたくはない。
 その後、誰に邪魔されることもなく、一行は丹波北部へと進んだ―――

●北部にて
 やがて一行は、最寄の村にて一旦休息を取り、八卦・八輝の三人と合流。
 続いて森忌とも再会し、十七夜の再度の襲撃を警戒する。
『久しぶりじゃのぉ、登志樹! 蒼羅! 紫(むらさき)ぃ!』
「字は違ってないけど‥‥ゆかりよ、ゆかり」
『がっはっは! わかっとるわい! 軽い冗談じゃあッ!』
 森忌はいたって元気そうであった。一度十七夜を撃退したことで、勢いに乗っているのかもしれない。
 が、油断してやられましたでは話にならない。
 一行はそれをしっかり伝え、決して一人にならないようにし、見知らぬ人間との接触を断つ。
 合言葉、割符と二重の警戒策も講じてあるので、仲間に成り代わられることはないだろう。
 直衛と迎撃の二班に分かれたはいいが、十七夜は現れない。
 徐々に焦りを感じ始める一行。もし、このまま‥‥。
「んー‥‥よく考えたら、十七夜は皆さんがいることを確認した時点で、手出しを控えるんじゃありませんの? で、皆さんがこの近辺にいられるタイムリミットを過ぎてからゆっくり‥‥というのが賢いですわ」
「縁起でもねぇこと言うなよっ! おい鷲尾、オーラセンサーはどうだよ?」
「うんともすんとも言わないな。こりゃあ本格的にヤバいか‥‥?」
「くっ‥‥士気向上の魔法も、永遠に使い続けられるわけもなく‥‥」
 防寒服を持ってこなかった面々も、焚き火に当たることで暖は取れている。
 が、御神楽の言うとおり、魔法力はそんなにすぐには回復しない。
 アイテムで回復はできるが、来るかどうかもわからないタイミングで使うのは惜しい。
 このままカミーユの言うとおり、時間切れということにならなければいいのだが‥‥?
 やがて、日が沈み‥‥夜の帳が訪れて久しくなった頃。
『‥‥臭うぞ。前にも嗅いだ事のある、いけ好かん死臭じゃあ!』
 森忌の一言で、全員に緊張が走る。
 ちょうど全員一箇所に固まっていた時だったのだが、十七夜が真正面から挑んでくるとは到底思えない。
 が。
「久しぶりと言うべきか。あいも変わらず忌々しいやつらよ」
 闇の中から、焚き火の光の中に歩み出てきたのは‥‥古の陰陽師にして黄泉将軍、十七夜。
 台詞とは裏腹に、十七夜の口元は嬉しそうに歪んでいる。
 ミイラのような外見でも、対象が笑っているかどうかくらいは分かるものだ。
 その絶対的な自信の出所は‥‥。
「ひ、人質なのですか!? 随分単純というか、ありふれた作戦ですよね‥‥!」
「有効だからありふれるのだ。特に、貴様たちのような連中には良く効く」
 十七夜の腕の中で、がたがた震える一人の少年。
 もはや叫ぶ気力もないらしく、パッと見でもかなり長い間拉致されていたことが分かる。
 月詠は勿論、これを想定していたヴェニーでさえも手出しは躊躇われた。
『権六か!? きさん‥‥相っ変わらず姑息なやつじゃのォ!』
「勝手な倫理観を押し付けられてもな。さぁどうする。今度は以前のように再生能力で奇跡の生還はさせんぞ」
 過去に一度、十七夜に生気を大量に吸われ、死に掛けたことのある森忌。
 しかし、今回と前回とでは状況が違う。
 メンバーの違いもさることながら、各人の腕も確実に上がっているのだ。
「以前のような醜態はもう晒しません! 汚名を返上させていただきます!」
「手伝うわ、御神楽さん。ストームで上手く人質を引き剥がせればいいんだけれど‥‥!」
「私もいこう。ソニックブームが役に立つはずだ‥‥!」
 御神楽、ヴェニー、南雲が構え、人質救出の意欲を示す。
 しかし、それに対して十七夜は‥‥。
「ほう‥‥『どの』人質を解放するのかね‥‥?」
『!?』
 闇から歩み出る、十七夜と全く同じ姿の黄泉人たち。
 いや‥‥それはおそらく、十七夜の写し身。なぜなら、人質にとられている子供も全く同じ容姿だからだ。
「『探』‥‥ってなんじゃこりゃあ!? 範囲内だけでも軽く三十はいるぞ!? 全部十七夜の反応だ!」
「イリュージョンの亜種か? 本物は一人だけと見たが‥‥!」
「全部叩き斬る‥‥というわけにもいかないか。どれが本物の人質なのだ‥‥!」
 鷲尾の言葉は、琥龍によって大方判明する。
 が、判明したところで、アンリが言うように手が出ない。
 偽者を暴いているうちに本物が人質を殺してしまうのは火を見るより明らかだし、これだけ偽者がいると、人質を失ったとしても逃走されるのは確実だろう。
 この様子ではムーンアローでも暴くのは難しいはず。
「いやはや、八方塞ですな。しかし、経験上、十七夜に時間は与えたくないのですが‥‥」
「お前は何が望みだ!? 本当に森忌たちを五行鎮禍陣の生贄にするつもりか!?」
「! ほう‥‥お前たちがその名を知っているとは。ならば話は早い。いかにも五行鎮禍陣。かの術を改良してイザナミを再び封印する。お前たちにも悪い話ではあるまい? 多少の犠牲は目を瞑ってもらいたいところだな」
「冗談抜かせ! てめぇには多少の犠牲で済むかも知れねぇが、俺たちにゃでっけぇ犠牲になっちまうんだよ!」
「それに、お前は信用できない。イザナミ封印と同時に何かしら人間に害をもたらす追加効果を付加しそうだしな」
 島津の言うとおり、企み云々より未知の術が怖いため、この問答の時間さえ惜しい。
 しかし、人質がいる以上無理な行動はできない。だからこそ、せめて何か聞き出せないかと鷹村はあえて聞くのだ。
 あっさり白状した十七夜だが、その計画を伊東も鷲尾も承諾できない。
 これまでの行いが、少しなりとの協力体制をも許せなくしている。
「信用できなくとも結構。さぁどうする森忌。この子供を見捨てるか?」
『ぐっ‥‥!』
 一斉に少年の喉元に手をやる多数の十七夜。
 すべて同時に、全く同じ動きをするので気持ち悪いくらいだ。
 誰も動けない。動こうにも、周囲全部に十七夜の姿があるのだから妙な真似ができない。
 そして、どれだけの時が経っただろうか。
「よし‥‥このくらいでいいだろう」
 不意に十七夜が呟き、見たことのない印を組んで何やら詠唱し始める。
 聞いたことのない言霊。少なくとも精霊魔法ではない。
 そして、多数の十七夜が木製の人形を取り出し、放り投げた瞬間。
 辺りの精霊力がスパークし、森忌と全く同じ外見の風精龍が姿を現した!
『なんじゃこりゃあ!? ワシ‥‥だと!?』
「ククク‥‥六道辻は人道の一部応用と言えば分かる者もいるだろう。人形を媒介として、対象と全く同じ存在を作り上げる術よ。どうせ素直に従うとは思っていなかったのでな。この方が手っ取り早かろう。この術が成功したならお前にもこの餓鬼にも用はない」
 そう言って、子供を解放する十七夜。
 しかし子供の姿は逃げ出した途端にふっと掻き消えただけ。
 どうやら本物は闇の中か‥‥それとももっと遠くか。
「偽者と戦わされたあれか! 要は時間稼ぎだったわけだ! ‥‥けどな!」
「お前は馬鹿か? 目の前に本物の森忌がいるのに、偽者を作ってどうする!」
「今この場で、倒しちゃいますですよー!」
 鷲尾、南雲、月詠がいち早く動き、ニセ森忌に攻撃をしかける!
 見事に命中した、その瞬間!
『ぐがぁっ!? なん‥‥じゃと‥‥!?』
 偽者が傷ついた箇所と全く同じ箇所から出血する森忌。
 一方、偽者は傷こそあるものの血も出ず健在だ。
「あぁ、言い忘れていたが写し身が受けた傷は本物にも同じだけのものが与えられる。写し身を破壊すれば森忌も死ぬ」
「ば、バーロー! そういうこたぁ早く言え!」
「これでも反吐が出る程譲歩しているのだがな。本物と同じ精霊力を持つ写し身。しかし、写し身は傷を移すだけで、封印しても森忌本体は封印されない。それを使ってやろうと言うのだ。何が不満だ?」
「貴殿のことは良く知らんが、やり口が気に入らん。それでは足りんか?」
「それに鷲尾も言ってただろう? お前は信用ならないんだよ! 五行鎮禍陣がイザナミだけに向けられるとは思えない!」
「勝手にするがいい。私は平良坂様の御命令どおり、五行龍の写し身を作り、陣を形成するまで」
 その言葉の直後、次々と消えていく十七夜の質量のある残像。
 やがて森忌の写し身も、翼を広げて上空へと飛び去ってしまった。
「私だけに構っている暇は貴様らにはないぞ。イザナミが埴輪大魔神の話を聞いて手を回し始めたそうだからな」
「嘘っ!? なにそれ、もう何でもありじゃないの!?」
「‥‥丹波に関わる全てを巻き込み、事態は動くというのか」
「いやはや、まさに激動。一先ずのところ、森忌殿はお守りできた‥‥と言っていいのでしょうか(汗)」
 森には静寂が戻り、十七夜の声もやがて聞こえなくなったという。
 十七夜による五行龍の写し身作成は、激動のほんの一端。
 彼の言を信じるとすれば‥‥あの埴輪大魔神が復活してしまうのだろうか―――

「‥‥これは、流石に楽しんでばかりもいられないかもしれませんわね‥‥」
「カミーユ嬢‥‥あなたも、私たちの敵となるのですか?」
「さぁ‥‥それはあなた方次第でしてよ。‥‥とりあえず」
「とりあえず‥‥?」
「来週辺りから本気を出しますわっ♪」
「引きこもりですか、あなたは!?」
「うふふふ。丁度、地獄への道も開かれていることですし、ね―――」