【激動の刻】古に縛られて
|
■シリーズシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 4 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:02月11日〜02月16日
リプレイ公開日:2009年02月19日
|
●オープニング
イザナミが復活し、丹波藩を壊滅させ掌握してから、それなりの時が流れた。
人類はイザナミ軍と平良坂冷凍という商人一味との戦いの隙を突き、丹波南東部の城を占拠。
なんとか反撃の糸口らしきものを手に入れた人類であったが、丹波にはあまりに強敵が多い。
イザナミ軍には、イザナミ本人と八雷神という強大な親衛隊。
冷凍軍には、不死城、骸甲巨兵、十七夜という元陰陽師の黄泉将軍。
そして、時には敵、時には味方(?)の不死者を操る悪魔、ガミュギン。
これらは互いに争いあっているものの、潰しあいを待っていては先に人類が滅んでしまう気がする。
悪いことに、丹波南東部を人類の手に奪回したことは、イザナミや冷凍の不興を買った。
特に冷凍にして見れば、せっかく手に入れられそうだった領地を掠め取られた格好なので当然だが。
そこで、冷凍は新たな動きを見せる。
またしても不死城を移動させ、丹波北部に戻った冷凍たちは、十七夜に五行龍の一角、木鱗龍・森忌の捕獲を命じた。
しかし、歴戦の冒険者が多数現場に来て防衛網を張っていることを察知した十七夜は捕獲を断念。代わりに、持ち前の奇妙な術で森忌のコピーを作り上げる。
傷つければ本物も傷つくコピーは、元が強力な精霊だけに純粋な戦力としても有用。
質は高いが数が圧倒的に少ない冷凍たちにはなおのこと嬉しいことだろう。
十七夜はこの術で他の五行龍もコピーし、五行鎮禍陣という古代の術式でイザナミを封じるつもりだという。
しかし、どうも信用ならない。
イザナミを封印しようとしているのは本当だと思うが、ついでに人類にも危害を加えるような気がする。
かといって、イザナミをどうにかできるかもしれない手段の一つであるのは確か。無理に妨害するのも‥‥という意見が出るのも仕方のないことであった。
どのみち、人類に十七夜だけを追う余裕はなかった。
十七夜が言うには、イザナミがかの『埴輪大魔神』の話を伝え聞き、興味を持ったという。
埴輪大魔神とは、かつて京都のすぐそこまで迫った、圧倒的な力を持つ、全長5m程の特別な埴輪。
からくも撃退したものの、空を飛び(!)、本来の住処であるらしい多田銅銀山に帰還、傷を修復していた。
イザナミも埴輪大魔神も古に在ったモノ。もしかしたらまみえた事もあるのかもしれない。
その後の調査で、火雷を多田銅銀山に向かわせ、埴輪大魔神に何かをしようとしているようだということが判明。
丹波の財政に大きく貢献したかつての鉱山も、丹波藩の陥落とイザナミの支配で、今では人っ子一人いない廃墟となっており、麻痺性の毒霧が漂う遺跡でしかなくなってしまったという。
幸いというか、内部に大量に徘徊していた埴輪は、殆どが過去に冒険者によって撃破されており、地図も存在するため、イザナミ軍が何か仕掛けていない限りは奥まで真っ直ぐ向かえるはず。
これ以上イザナミ軍の戦力を増やすわけにはいかない。埴輪大魔神を人類の味方にできる算段がないなら、いっそ破壊してしまうしまった方が安心できる。
丹波に関わる全てを巻き込んで激動する運命。
埴輪大魔神で打ち止めと思いたいが‥‥はて、まだ何か残っていただろうか―――
●リプレイ本文
●足跡と歴史と
二月某日、冒険者一行は、丹波南部に位置する多田銅銀山へとやってきていた。
と、一口に言っても道中不死者と何度か小競り合いをやったのだが、八雷神と出くわしたわけでもなく、無事たどり着いて現在に至るわけである。
つい何ヶ月か前までは、麻痺性の毒霧が発生しこそすれ、丹波の重要な財源として活気に満ちていた場所。
今は猫の子一匹おらず、シーンと静まり返るだけ。
放り出されるように散乱する採掘道具などが、鉱夫たちがイザナミ軍から慌てて逃げ出したであろうことを物語っていた。
「ふむ‥‥あれが以前固めたと言う出撃口跡か。近づくなと言う看板もそのまま、変わった様子も無いか」
「ぜぇっ、ぜぇっ、や、やっと、追いついたわ‥‥! もう、クタクタ‥‥!」
アンリ・フィルス(eb4667)がテレスコープのスクロールで工事跡の確認をしていたころ、ヴェニー・ブリッド(eb5868)が息も絶え絶えで合流する。
ヴェニーは一人、京都で調べ物をしてから他のメンバーの後を追ったのだが、やはり今の丹波藩内を単独行動するのは大変危険であった。
不死者とかち合って戦闘と言うパターンは先発メンバーもやったが、ヴェニーは一人っきり。
空を行こうとしてもし黒雷にでも見つかれば、アンリでさえ危険だったのだから結果は推して知るべし。
今回は運が良かったのだろうか。まぁ、体力気力をかなりすり減らしたようではあるが。
「ご苦労様なのです、ヴェニーお姉ちゃん。何か収穫はありましたですか?」
「こく‥‥こく‥‥はぁっ、生き返るわぁ。ごめんなさいね、バーニングマップじゃ埴輪大魔神の目的地は探れなかったの。情報量が少なすぎたのか、もしくは魔法的にそもそも無意味だったのかも不明」
「いやはや、こんなこともあろうかと水を多めに持ってきておいて正解でしたね。まだ要りますか?」
「いただくわ。で、こっちの状況はどんな感じかしら?」
月詠葵(ea0020)がとてとてとヴェニーに近づき、水を差し出しながら成果を聞くも芳しくなかったようだ。
後始末屋の面目躍如とばかりに、細かいところに気の利く島津影虎(ea3210)。どうやらまだまだ水はあるらしい。
さて、ヴェニーの質問に対し、伊東登志樹(ea4301)は振り向きもせず、ついついと背後の坑道入り口を指差す。
そこには‥‥。
「うわ‥‥」
「しょーじき入りたくねぇってぇのが本音だな、ありゃ」
入り口からは紫色の淀んだ空気が流れ出し、外に出ては霧散していく。
やはり以前より濃度が濃くなっているようで、無対策でも死にはしないだろうがかなり体が重くなりそうだった。
というか、ものすごく体に悪そうである。
「そんなときはこれだ。ぱらぱぱっぱぱ〜。解毒ボロ布〜」
「なんだよその口調は。いつにも増して気持ち悪いぞ」
「いつも気持ち悪いみたいに言うなよ!(笑)」
鷲尾天斗(ea2445)と鷹村裕美(eb3936)のいつものやりとりはスルーするとして、ボロ布など取り出してはいるが、鷲尾はふざけているがふざけているわけではない(何)
先人たちが残した足跡。丹波のこれまでの歴史から生み出された解決法の一つ。
布などに解毒剤を染み込ませ、それを口に巻くことで多田銅銀山の麻痺毒霧を大幅軽減する。
以前、この鉱山及び遺跡で死闘を繰り広げた人々がいたからこそ、今日有効打が打てるのだ。
「人に歴史あり‥‥か。ならば俺たちがその歴史に幕を引いてしまうわけにはいかんな」
「はい‥‥。時系列を察するに、火雷はすでにこの奥。気を引き締めてまいりましょう」
「みんな、準備はいいわね? 天斗はオーラセンサーをよろしくね。こっちには地図って言う理があるんだから、不意打ちで先手を取られるのも癪だからね」
琥龍蒼羅(ea1442)も御神楽澄華(ea6526)も、今日の戦いも決して楽には行かないと直感している。
だからと言って、安易に人類の歴史を終わらせるわけにも行かない。
一同は、南雲紫(eb2483)の音頭の下、解毒マスクを装備して坑道へと足を踏み入れた。
地図に従い、奥へと進み‥‥やがて、遺跡部分へと到達する―――
●再び時の渦に
遺跡内の通路は想像以上に狭かった。
華奢な女性陣でさえ二人並ぶときつく、戦闘に入って構えるとなると一人でさえ手狭。
大型の武器はおろか小太刀でさえ上手く使わないと壁にぶつけてしまいそうな雰囲気だ。
そんな狭い通路に、青銅製の埴輪の残骸と思わしきものがこれでもかと散乱しているのだ。
これも、先人たちの死闘の跡。押しつぶされんばかりの量の埴輪も、今ではただの金属片。
もしこれが全部健在だったらと思うと、とてもではないがやっていられない。
「‥‥いるぞ。地図上で言うと‥‥この辺りか。他に部下を連れてるか知らんが、火雷の反応だ」
地図を指し示し、鷲尾はオーラセンサーでの索敵の結果を知らせる。
遺跡内はほぼ一本道なのだが、意外とぐるぐる回ってしまうような脇道が多い。
それに迷ったか、火雷は冒険者より随分先に到着したはずなのに、最奥まで辿り着いていないらしい。
しかし、ほぼ一本道というのが逆に仇となり、火雷がそういう脇道に入ったところを追い抜きでもしない限りはどうしても通路で戦う羽目になってしまう。
せめて、赤銅埴輪がいたという部屋の部分を火雷が通過していなければそこを使えたのだが。
「う‥‥ごめんなさい。私がみんなを待たせちゃったからかしら‥‥」
「気にするな、水掛け論に過ぎん。全員で行動していても間に合わなかった可能性は充分ある」
「蒼羅の言うとおりだ。逆に言えば、この状況は好機でもある。火雷を取り逃がさずに済む、な」
「クックック‥‥南雲の姐さんの言うとおりだぜぇ。逃げるにしても俺たちを突破しなきゃいけねぇんだもんなぁ!」
「そうだな。出来ることなら火雷にはそろそろご退場願いたいかな」
全員頷きあって、歩を進める。
奥に進めば進むほど濃度を増していく麻痺性の毒霧。
防毒マスクをも少しずつ貫通して体に侵入してくるが、このメンバーならまだまだ遜色なく戦えるだろう。
やがて‥‥!
「ほう‥‥こんなところまで追ってきてもらえるとは。三顧の礼もあながち捨てたものではない」
「ほう。貴殿の知る三顧の礼は刀を交えるものであったか。顛末を享受願いたいものだ」
一行が火雷と接触したのは、埴輪大魔神のいる空間が目と鼻の先の場所。
もう少し進めばあわやと言うところだったので、仕掛けざるを得なかったというのもあるが‥‥。
「あえて名乗らせていただこう! 八雷神―――」
「諸君、ボクは埴輪が好きなのです。諸君、ボクは埴輪が好きなのです。諸君、ボクは埴輪が大好きなのです。‥‥‥‥‥‥えぇっと、続きは何でしたっけ?」
『知るかっ!』
アンリと火雷の緊迫感溢れるやりとりをぶち壊す月詠のボケ。どうやら意地でも火雷の名乗りを遮りたかったらしい。
しかし序盤の方しか言えず、火雷も含めた全員からツッコミを受ける始末であった。
「えっと‥‥はーにわー、はーにわー、たーっぷーりー‥‥」
「月詠殿の処遇はこの後始末屋に任せて、皆さんは火雷を」
「わーん、放してなのー!?」
間が持たなくなったので埴輪の歌(?)を歌い、さらに場を気まずくする月詠。
島津にずるずると引きずられて退場する。
「‥‥‥‥もういいだろうか?」←火雷
「‥‥‥‥うん、もういいと思うわ。‥‥みんな下がれ、予定通り私が相手する」
切り替えの早い南雲さんであった。
火雷は狭い通路だというのに例の骨馬に騎乗しており、雷撃刀と十手を手に戦闘準備万端である。
不死者‥‥詳しく分類するなら骸骨である火雷とその愛馬には、当然毒霧の影響はないのがずるいところだ。
「さて‥‥火雷。やりあう前に一つ聞いておく。この場はお互いにやりにくいと思うが、場所を変える気はないか?」
「お断りする。出会った瞬間から我らの蜜月の時は始まっている。わざわざ場所変えするなど興ざめも甚だしい」
半分以上本音だが、火雷も気づいているのだ。広い場所に移動すれば南雲が手強くなるだけでなく、他の冒険者に包囲される可能性があると。
冒険者と戦うことは大切だが、イザナミの命令を優先させるのは火雷にとって当たり前のことなのだ。
「ふん‥‥まぁいい。前回フッてしまったからな。今日はとことん相手をしてやる!」
「それは僥倖!」
先手を打ったのは火雷。この狭い通路で、骨馬を器用に駆って刀を突き出す!
「ちぃっ、身体が重い‥‥!」
「それでも避けるか! 大したものだ!」
「苦手と認められた相手にあっさりやられるものか!」
南雲も反撃するが、いくら武器が忍者刀とはいえやはり普段のように振り回すのは厳しく、突き主体となってしまう。
骸骨武者と骸骨馬。鎧に当てるだけでは意味はないし、骨と骨の間をすり抜けてしまうこともあって歯痒い。
「ぐっ、運動量が、増えると、毒霧が‥‥!」
「生きているとは不便なものだ。貴様も死ねばそんなものを気にせず戦えるぞ」
「生憎、亡者の仲間入りをするつもりは、ない!」
時間が経てば経つほど南雲は不利になる。持ってきた勾玉も、何回も電撃を貰えば結局は梨のつぶて。
やはり、場所が悪い。誘導するにも、火雷が南雲を無視して奥に進んでしまっては意味がない。
しかし、そこは歴戦の冒険者たち。不利のまま終わりはしなかった。
「クリエイトエアー、よ! 道が狭いなら、道を全部覆って清浄な空気を作ればいいじゃない!」
ヴェニーが機転を利かせ、戦っている南雲の辺りの空気を新鮮なものにする。
元々体力がない者から毒霧の影響を受けやすいこの場所では、ヴェニーにとってはスクロールを使うのもしんどいが。
「ふむ。では拙者も参加させてもらおう。自分だけでやるなどとは言うまい?」
アンリが窮屈そうにしながらも南雲の前に出て、火雷と相対する。
無理をしてやれれては洒落にならない。特に、ここで死んだら面子的にも蘇生は絶望的だ。
「そうだな。お前たち、そろそろいいだろう。ここは私たちに任せて行け!」
「合点承知の助よぉ!」
「何!?」
なんと、冒険者たちの半数ほどが角を曲がってどこかに行ってしまう。
気づけば南雲と戦っているうちに少しずつ誘導され、火雷自体が封じていた埴輪大魔神への道を開けてしまったのだ。
しまったと思ったときにはもう遅い。地図と言う絶対的なアドバンテージの存在を考えなかったのは失策だった。
火雷の相手はするのは、南雲、アンリ、御神楽、鷹村、月詠(開放されたらしい)。
残りのメンバーは埴輪大魔神の下へと移動する‥‥!
「オーラの盾ならば、電撃は関係なかろう」
「狭いなら狭いなりの隊列変更をするまでだ‥‥!」
「火鳥の術ならば、通路内でも空間攻撃が可能なはず‥‥!」
「足止めとは言わない。倒しきるつもりでいく!」
「あなたの視線を釘付けにしますですよー!」
●大魔神、時を越えて
「おぉぉぉっ!? こ、これは厳しい!」
天井の穴がふさがれ、真っ暗闇となってしまった埴輪大魔神の間。
疾走の術などで島津が灯りを持ちつつ強行偵察を行うも、青銅埴輪がわらわら寄って来る上、赤銅埴輪が二体、白銀埴輪が一体、そして埴輪大魔神までもが島津に標的を定める。
振り切って入り口に戻るだけで命からがらである。
「あれではインタプリティングリングを使っている余裕もなさそうだな」
「にゃろう。やっぱこの入り口ブッ潰してやっか?」
「最終手段だろ、それは。ここまで来て手ぶらで帰れるか。やれることはやったほうがいい」
琥龍、伊東、鷲尾の流れで、やはり交信くらいは試みてみるべきであろうと判断。
折角屈強な戦士たちが揃っているのだ‥‥やらずにおくのはもったいないだろう。
一行はヴェニーだけを入り口付近に残し、中へと入る。
するとすかさず寄ってくる埴輪埴輪埴輪!
「まさに埴輪のバーゲンセールだなってかぁ!? おら、急げ鷲尾!」
「ライトニングソードを灯り代わりにする。これならリングを使えるだろう」
「私もこっちで援護するわ!」
「いやはや、後始末屋は中継ぎは苦手なのですがね‥‥」
「わぁってらい! って、やっぱでっけぇ!?」
広間の全てが明るくなったわけではないが、金属製でキラキラ輝く埴輪たちは良く目立つ。
その中でも、白銀埴輪の倍はあろうかという埴輪大魔神は嫌でも目を引いた。
立派な角飾りがついた兜。鎧に書かれた神の文字。そして、立派なヒゲ。
完璧に修理を終え、毒霧の発生源であろう紫色の液体の風呂(?)を出て元気に活動する埴輪大魔神。
間抜けな外見だが、その一騎当千の戦闘力を4〜5人で相手するのは無理だ。
だからこその交信。埴輪に意思があって、会話できるかは最早賭けだが。
「なん‥‥だと‥‥!?」
「どうした鷲尾!? ナシはついたのか、つかなかったのか!? どぉぉっ、赤銅が、赤銅がぁぁぁっ!?」
「い、いや‥‥それがなぁ。『王』『主』『護る』とか、断片的な思考みたいなのが流れ込んでくるだけなんだわ。会話にはとてもならんなぁ」
「どういうことだ? 主を護るのに、外に出る必要があるとは思えんが!」
「嘘‥‥大魔神って超威力のライトニングサンダーボルトで足止めにしかならないの!? 効いてはいるみたいなのに!」
「神威力では撃てないのですか!? だ、大分麻痺してきましたが‥‥!」
「無理! こっちも麻痺で上手く集中できないのよ‥‥!」
圧倒的に多勢に無勢、しかも麻痺。青銅埴輪を何体も倒さないうちに5人は撤退することになってしまった。
一応入り口の封鎖はしないことにしたようである。
一方、火雷と戦っていた5人は火雷を相手に互角以上の戦いを展開、追い込んだが、やはり時間経過の麻痺で徐々に不利となり‥‥最終的には骨馬の強引な突撃で背後に抜けられてしまったようだ。
火雷は口惜しそうにしつつもそのまま撤退。
一行もまた、時折痙攣する身体を引きずって、多田銅銀山を後にしたのだった。
埴輪大魔神の行動と思考に、疑問と謎を残したまま―――