【激動の刻・終】反撃への攻防
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■シリーズシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 4 C
参加人数:10人
サポート参加人数:2人
冒険期間:05月12日〜05月17日
リプレイ公開日:2009年05月19日
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●オープニング
イザナミが復活し、丹波藩を壊滅させ掌握してから、それなりの時が流れた。
人類はイザナミ軍と平良坂冷凍という商人一味との戦いの隙を突き、丹波南東部の城を占拠。
なんとか反撃の糸口らしきものを手に入れた人類であったが、丹波にはあまりに強敵が多い。
イザナミ軍には、イザナミ本人と八雷神という強大な親衛隊。
冷凍軍には、不死城、骸甲巨兵、十七夜という元陰陽師の黄泉将軍。
そして、時には敵、時には味方(?)の不死者を操る悪魔、ガミュギン。
これらは互いに争いあっているものの、潰しあいを待っていては先に人類が滅んでしまう気がする。
十七夜の五行龍複製に始まり、イザナミ軍の埴輪大魔神接触を聞きつけた人類は、それの妨害に当たった。
なんとか埴輪大魔神への接触は阻止したものの、麻痺性の毒霧が漂う遺跡の中では持久戦が出来ず、勝てそうな戦いを惜しくも引き分けとしてしまったのは悔やまれるところだ。
しかし、そこでまたしても事態をややこしくしそうなことが判明する。
かつて京都を目指して驀進した埴輪大魔神であったが、テレパシーのようなもので交信を試みた結果、会話こそ成立しなかったものの『護る』とか『王』とか『主』といったワードが読み取れたのである。
埴輪大魔神が多田銅銀山の奥の遺跡を護るために存在しているのなら、何故京都まで行こうとしたのか?
そもそも埴輪大魔神クラスの筆舌に尽くしがたい埴輪は、いつ、どこで製造されたのか‥‥?
イザナミと人類の関係、埴輪大魔神の出自。そして尾張で明かされた平織虎長の正体と悪魔たち。
今の日本に考えることは多いが、考えている暇もない。
故郷である地獄に里帰りし、帰ってきた悪魔・ガミュギンは、悪魔としての使命より自分の契約や気分を優先させたいらしく、冒険者たちの提示した条件に同意し、味方になると約束した。
悪魔の言動なのでどこまで信用していいかは不明瞭だが、先の五万の兵力によるイザナミ大攻勢の際に現れ、イザナミ軍の動きを抑制したという報告もある。
さて、そのイザナミ大攻勢で無視できない被害を被った京都は、丹波での依頼を一時凍結中であった。
そんな折、京都の商人である『銀砂家』から丹波へ出向いて欲しいと言う依頼が冒険者ギルドへ舞い込んだ。
不穏なものを感じつつも多田銅銀山に向かった冒険者たちを待っていたのは、カミーユ・ギンサ‥‥即ちガミュギン。
地獄で手に入れてきたと言う謎の黒い石を用い、埴輪大魔神のコントロールに成功したのはいいが‥‥以前、厳重に封印工事を行った出撃口の解除作業はまだ終わっておらず、今すぐ埴輪大魔神を戦力に数えることは出来ない。
それを聞きつけた京都御所は、これ幸いと丹波での依頼を再開。一刻も早く埴輪大魔神を使えるようにして、イザナミ軍への有効な手段として用いよとの依頼が出されることとなった。
この際、積極的に京都を攻撃してくるわけでもないのでガミュギンに埴輪大魔神を使わせておき、丹波でイザナミ軍と戦わせ‥‥漁夫の利を狙うのが賢いやり方だと判断したようである。
確かにその通りなのだが、他人に利用されるのを酷く嫌うガミュギンの性格をまだ認識していないのだろうか?
兎に角、出撃口の工事の再開をするのが先決。
話を聞きつけ、イザナミ軍も多田銅銀山に戦力を差し向けたと言う報告もある。
激動の刻‥‥今までのことを無駄にしないためにも成功で最後を締めくくり、反撃の狼煙としたいものである―――
●リプレイ本文
●我侭
「あらぁ、いるわいるわ。結構な規模だわね‥‥」
五月某日、雨。
春とはいえ、底冷えする冷たい雨が降りしきる中、冒険者一行は多田銅銀山付近に到着していた。
ヴェニー・ブリッド(eb5868)がテレスコープの魔法で遠距離観察を行ってみると、多田銅銀山の外には100ではきかないほどの不死者が展開しているのが見て取れた。
数えるのも馬鹿馬鹿しくなるその数は、わずか十人で相手取るのは到底不可能に思える。
相手取れたとしても、肝心の出撃口の確保に支障が出るのは火を見るより明らかだろう。
「そんな時のためのわたくしですわ。みなさんが突撃するのと同時に、それなりの数のアンデッドをコントロールして無力化して差し上げますわ♪」
さらりと怖いことを言うのは、現地で合流したカミーユ・ギンサ。
丹波までの道中で散々不死者と遭遇し、その度に戦わず振り切ってきた冒険者たちは、いくら馬などに騎乗しているとはいえそこそこの疲労に襲われている。
敵地では安心して休むことも出来ないため、カミーユの申し出はありがたかったのだが‥‥次の言葉で事情が変わる。
「その代わり‥‥一人、憑依させてくださいまし。仮面をライドしちゃいますの♪」
「カミーユ、今日は一人でも人数が惜しいのは分かるでしょ? できれば遠慮してくれないかしら」
「やっぱり仮契約した面子からってことなんだよな? 個人的には構わないけど、作戦に支障が‥‥」
南雲紫(eb2483)や鷹村裕美(eb3936)を始め、冒険者の何人かは、悪魔ガミュギンと仮契約している。
立場上、無理に突っぱねるわけにも行かないが、折角話し合って決めた作戦に穴を空けられるのは困るのだ。
「えー、だってだって、最近皆さんが来られなくて寂しかったんですもの。それに、どうせわたくしの能力も込みで作戦を立てているのでしょう? 嫌ならわたくしも協力しませんわよ」
「そ、それは困ります。ではカミーユ嬢、また私でいいですか?」
「うーん‥‥今回は別の方で。どんな極上の料理も、そればかりでは飽きてしまうでしょう?」
本契約(?)している御神楽澄華(ea6526)が自分に憑依すれば良いと申し出たが、さらっと拒否された。
正直、こんな問答をしているのは時間の無駄だ。今回は他にやることが山ほどあるというのに。
「時間が惜しい。蚊帳の外からすまないが、さっさと決めてくれないか」
「わかりました。じゃあ‥‥南雲さん。お願いしますわね♪」
「はぁ‥‥仕方ないわね。なりふり構ってられないものね‥‥」
琥龍蒼羅(ea1442)にせっつかれ、カミーユは南雲に近づき‥‥溶け込むように二つの影が一つになる。
一瞬痙攣した南雲だったが、次の瞬間には、普段の彼女の優しい笑みとは違う、優雅なそれを浮かべていた。
「あぁ‥‥南雲さんもいいですわねぇ♪ 戦いのときだけに顔を覗かせる黒い衝動。熟れていながらも引き締まったこの身体。んー、食べちゃいたいくらいですわ♪」
「いやはや、同じ南雲殿の体でも中身が違うとこうも印象が変わるのですね‥‥」
「‥‥醜悪だな。悪趣味としか言えん」
「あら‥‥当然でしょう? わたくしは悪魔なのですから‥‥♪」
島津影虎(ea3210)やアンリ・フィルス(eb4667)といった南雲となじみの深い面子からしてみれば、正直気持ちの悪いくらいの変化である。
しかし、憑依をさせなければ仕事をしないと言われては折れないわけにもいくまい。
「‥‥準備はよろしいですか? 封印解除のために‥‥いざ」
山王牙(ea1774)の諦め半分の音頭を受け‥‥一行はイザナミ軍へと吶喊していく。
ヴェニーのおかげで手薄なところを突く事はできるようになったが、それでも数の差は大きい。
降りしきる雨の中‥‥狼煙を上げることはできるであろうか―――
●雨の戦場
「広がれ、雷!」
「薙ぎ払え、光」
『双雷・連扇舞!(そうらい・つらねおうぎまい)』
ヴェニーと琥龍が同時にライトニングサンダーボルトを放ち、戦闘の口火を切る。
レミエラで拡散できるようになったLTBは、射程こそ短くなるが多くのアンデッドを巻き込み、炸裂した。
同時に、カミーユ南雲が多数のアンデッドをコントロールし、付近から遠ざけるよう工作する。
わずかの間だというのに、多田銅銀山に布陣していた不死者たちはどんどん数を減らしていった。
「これは重畳。あとは斬り捨てていくのみ」
「後始末のための始末ですか。いやはや、それも悪くはありますまい」
アンリと島津が先頭を切り、LTBに巻き込まれなかった不死者を切り捨てていく。
他の面々も続き、一刻も早く出撃口を確保すべく進軍する。
だが、そのまま進ませるほどイザナミ軍も甘くは無い。
ただならぬ殺気と共に、不死者の間から一本の槍が突き出される!
「っ! 電撃を纏った槍‥‥土雷ですね!?」
「ちっ、素早い! 人様の領土に土足で踏み込んだんだ‥‥ただで済むとは思ってねぇよなぁ!?」
「先に人の領土に踏み込んだのはどちらですかっ!」
月詠葵(ea0020)は、事前に土雷専任で戦うと決まっていた。
土雷の存在を確認した山王と御神楽は、封印解除に向かいがてら、土雷の周りにいる不死者たちを撃破していく。
「後はお任せします! 封印解除の方はお任せを!」
「‥‥大魔神の往く道、切り開いて見せましょう」
駆け抜けていく二人と、それを追おうとする怪骨や死人憑き。
しかし、それを鷹村とカミーユ南雲が間に入って遮ってしまう。
「悪いが通すわけには行かないな。砕き、引き裂く。牙であり爪であるこの刀でな!」
鷹村たちは、同時に月詠と土雷とを一対一に持っていくための掃討役も兼ねている。
アンリや島津、ヴェニーと琥龍も加わってくれたため、月詠は気兼ねなく土雷と戦える!
「やるじゃねぇか‥‥最近の女は強くなったもんだなぁ!?」
「ボクは男なのですっ!」(がずんっ!)
「げっ、マジかよ!? 何モンなんだ、テメェは!」
「‥‥だ‥‥」
「あぁ!?」
「ボクが新撰組だ!」(がしゅっ!)
「何言ってんだ!」
土雷が女の子と見間違うくらい、月詠の外見は可愛らしい。
だがその戦闘能力は、土雷ではほぼ対抗できないほどの驚異的なもの。
事実、土雷はフルヒットで攻撃をもらっているが、月詠は回避だけで土雷を翻弄している。
それだけの攻撃を喰らいながらも土雷は倒れない。それどころか、レミエラの効果なのかポイントアタックすら通用していないようで、疲れを知らぬ不死の身体を武器に月詠の体力を削っていく。
斬っても叩いても、『痛い』で済ましてくる脅威の耐久力。何か秘密があるのではと疑っていた月詠も、少しずつ悟る。
種も仕掛けも無い。レミエラで多少強化してはいるが、この耐久力と体力が土雷の特殊能力なのだ。
閃く白刃が顔面にヒットし、手応え的には確実に頭蓋骨を叩き割ったと思っても、実際にはほぼ効いていない。
攻撃と回避。そのどちらも大きく上回る月詠だが、その二つを何度も繰り返すが故に体力が保たない。
息が上がり始め、動きも精彩を欠いていく。
「はぁっ、はぁっ、ふ、不死身だなんて、自称するだけのことは、あるのです‥‥!」
「当たり前だぜ! 俺は模擬戦二千回無敗の、八雷神様なんだよ!」
月詠の頭上に、土雷の槍が振り上げられる。
雨でぬかるんだ地面に足を取られ、回避が間に合わない。かといって、受けても電撃を喰らってしまう。
月詠が歯噛みをした、次の瞬間!
「そんな腕でよく言うぜ!」
「んがぁっ!?」
側頭部に刀の直撃を受け、吹っ飛ぶ土雷。
やったのは‥‥刀とオーラソードの二刀流で武装した、浅黄色にだんだら模様の羽織を纏う男‥‥鷲尾天斗(ea2445)!
「その二千回、お前があんまりにもしぶといから相手が根を上げただけだろ? ま、充分驚異的だがな」
「天斗お兄ちゃん!? 他の八雷神に向かったんじゃ‥‥」
「見当たらないんだからしょうがないだろ。それに、こっちで派手に暴れた方が牙たちのための囮になる」
後半は小声で月詠にだけ聞こえるように呟く。
実際問題、戦闘が始まってから三十分は経過している。
月詠は見かけよりよほど体力があるが、人間が連続で戦い続けられる時間は一時間もないのだ。
消耗を見かねた鷲尾が助けに入ったのはいいが、まだまだ封印解除工事の完了には遠いはず。
そして、周りを抑えていた鷹村たちもまた‥‥
「く、くそっ、何体居るんだ!? 毎度毎度、数ばっかりでさ!」
「いやはや、これでもかなり減らしているはずなのですが‥‥」
確かに、十人ばかりとは思えないくらいの戦果を上げている面々ではあるが、ヴェニーたちの魔法を込みでも今までで100倒したかどうかというところ。
派手に暴れている分、山王と御神楽の作業に邪魔が入っていないので、当初の目的としては充分だが‥‥。
当の工事現場では。
「早く‥‥一刻も早く! 火鳥よ、反撃を阻む壁を打ち砕け!」
「‥‥御神楽さん、無理はなさらず。先ほどからぶっ続けじゃないですか。身が保ちませんよ」
「はぁっ、はぁっ、よいのです! 今の私に、死したものを悼む暇も、ましてや立ち止まっている暇もないのです‥‥!」
バーストアタックを修得している山王はつるはしなどで石の層でも構わずガンガン掘削していくが、修得していない御神楽はファイヤーバードの魔法を連続使用して封印箇所を叩いている。
すり鉢状になっているとはいえ、穴の底は狭い。山王が休憩して隅っこにいる間にのみ出来る芸当である。
先の工事と合わせ、すでに穴の深さは十メートル近い。
上で持ちこたえてくれているメンバーのおかげで、邪魔こそ入らないが‥‥とにかく歯痒い。
もう一人二人欲しいところだが、贅沢は言えないか。
「まったく‥‥わたくしにこんな土木作業をさせるなんて。南雲さんの身体が汚れてしまうじゃありませんか」
「‥‥文句は後で聞きます。早く土砂を上に運んでください」
「わかってますわよ! 男に命令されるの嫌いですのに‥‥」
不満たらたらといった具合ながら、カミーユ南雲は土砂や燃え殻などが入った袋を手にふわふわと飛んでいき、穴の外へと運搬する。彼女は同時に、工事現場付近に不死者が近づかないようにもしているのだ。
工事を始めてからまだ一時間足らず。しかし、休憩無しで戦闘するには限界に近い。
「づぁっ! 火雷‥‥もう一匹はおまえかよっ!」
「つれない発言だな。幾度と無く運命を交錯させた私に対して」
「生憎、この死ぬほどしぶとい模擬戦の相手で忙しいんだ! 決闘なら後にしろ!」
「ふっ‥‥あくまで邪険にするつもりか。ならば! 君の視線を釘付けにするッ!」
オーラパワーがけの二人がかりですら、土雷に有効打を与えることは出来なかった。
そんな時、もう見慣れた八雷神‥‥骨馬に乗った骸骨武者、火雷が戦列に加わり、土雷をサポートする。
オーラ魔法無効のレミエラでも使っているとしか思えない二体の強力なアンデッド。
アンリたちは群がる雑魚に手一杯で助けには入れない。誰か一人でも欠ければ戦線は決壊する。
電撃を纏う刀が閃き、鷲尾を襲う。
しかし!
「思い通り! 鷲尾流二天奥義『無影刀』! オーラ魔法そのものの剣なら、電撃なんざ関係ねぇー!」
「なんと! そうだ‥‥そうでなくては戦う意味もなし!」
「さぁさぁ、今回は最初からクライマックスなんだぜ!」
灰色の雲に覆われ、雨が降りしきる中‥‥オーラと電撃、二つの異なる光を放つ剣がぶつかり合う。
土雷は月詠を振り切り、琥龍を標的にしたが‥‥
「いつまでもやられっぱなしでいるつもりは無いんでな」
「ちっ、そういう台詞は降りてきて言えよ!」
危険を察知し、ペガサスを呼んだ琥龍は、上空からアイスブリザードを放つが、やはりダメージは薄い。
それより、土雷にとってもっと厄介な相手は。
「足元がお留守ですよ」
「おあっ!? っの野郎!」
「残念、後ろです」
「どぉぉっ!?」
疾走の術でスピードを上げている島津が、接近しての足払いなどで撹乱しているのだが‥‥これがよく効く。
そもそも格闘の腕が他の八雷神に劣り、槍という長物を使っているので超接近状態に持ち込まれると離脱も難しい。島津にも決定打がないのが惜しまれるところか。
と、そんな時である。
「御苦労様でした。もう埴輪大魔神の力で破れるくらいにはなったはずですわ♪」
御神楽たちが穴から退避し、カミーユ南雲が例の黒い石を空に掲げた。
ずん、ずん、と突き上げるような地響きと共に大地が揺れ‥‥バキバキという破壊音を上げて地面を貫き、埴輪大魔神がその姿を地上に現した!
「馬鹿な‥‥早過ぎる!」
「さぁ、お行きなさい。苦労させた分、キッチリ働いてもらいますわ―――」
脈動する黒い石に応えるように、埴輪大魔神は手当たり次第に不死者を駆逐していく。
作戦目標の失敗を悟った火雷と土雷は、すぐさま撤退していった。
埴輪大魔神を味方につけた一行も、残った不死者を突破して安全を確保する。
大魔神、人類の味方として再び大地に立つ。
この報は、イザナミは勿論、丹波中にも京都中にも知れ渡ることとなる。
強大な力を得た人類。反撃の狼煙は、今、ここから上がるのだろうか―――