【激動の刻】大魔神、大地に立つ!?

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:7 G 30 C

参加人数:10人

サポート参加人数:6人

冒険期間:04月16日〜04月21日

リプレイ公開日:2009年04月25日

●オープニング

 イザナミが復活し、丹波藩を壊滅させ掌握してから、それなりの時が流れた。
 人類はイザナミ軍と平良坂冷凍という商人一味との戦いの隙を突き、丹波南東部の城を占拠。
 なんとか反撃の糸口らしきものを手に入れた人類であったが、丹波にはあまりに強敵が多い。
 イザナミ軍には、イザナミ本人と八雷神という強大な親衛隊。
 冷凍軍には、不死城、骸甲巨兵、十七夜という元陰陽師の黄泉将軍。
 そして、時には敵、時には味方(?)の不死者を操る悪魔、ガミュギン。
 これらは互いに争いあっているものの、潰しあいを待っていては先に人類が滅んでしまう気がする。
 十七夜の五行龍複製に始まり、イザナミ軍の埴輪大魔神接触を聞きつけた人類は、それの妨害に当たった。
 なんとか埴輪大魔神への接触は阻止したものの、麻痺性の毒霧が漂う遺跡の中では持久戦が出来ず、勝てそうな戦いを惜しくも引き分けとしてしまったのは悔やまれるところだ。
 しかし、そこでまたしても事態をややこしくしそうなことが判明する。
 かつて京都を目指して驀進した埴輪大魔神であったが、テレパシーのようなもので交信を試みた結果、会話こそ成立しなかったものの『護る』とか『王』とか『主』といったワードが読み取れたのである。
 埴輪大魔神が多田銅銀山の奥の遺跡を護るために存在しているのなら、何故京都まで行こうとしたのか?
 そもそも埴輪大魔神クラスの筆舌に尽くしがたい埴輪は、いつ、どこで製造されたのか‥‥?
 イザナミと人類の関係、埴輪大魔神の出自。そして尾張で明かされた平織虎長の正体と悪魔たち。
 今の日本に考えることは多いが、考えている暇もない。
 故郷である地獄に里帰りし、帰ってきた悪魔・ガミュギンは、悪魔としての使命より自分の契約や気分を優先させたいらしく、冒険者たちの提示した条件に同意し、味方になると約束した。
 悪魔の言動なのでどこまで信用していいかは不明瞭だが、先の五万の兵力によるイザナミ大攻勢の際に現れ、イザナミ軍の動きを抑制したという報告もある。
 さて、そのイザナミ大攻勢で無視できない被害を被った京都は、丹波での依頼を一時凍結中であった。
 そんな折、京都の商人である『銀砂家』から丹波へ出向いて欲しいと言う依頼が冒険者ギルドへ舞い込んだ。
 銀砂家と言えば、御所出入りの宝飾屋であると同時に、悪魔ガミュギンの依代とされているカミーユ・ギンサの生家。
 今までカミーユのことについて口を閉ざしていた銀砂家から、『丹波の多田銅銀山へ向かってくれ』という依頼が出ると言うのは、タイミング的にも何か作為的なものを感じる。
 そう言えばカミーユは、埴輪大魔神を味方につける方法を知っているような口ぶりだった。もしかすると大魔神を遺跡の外に出す作業を手伝えと言っているのかもしれない。
 戦わなくて済むどころか、味方につけられれば大きな助けになるのは間違いないが‥‥その手段を握っているのが悪魔というのが今一つ不安な要素ではある。
 兎に角、今は多田銅銀山へ向かうことが先決である―――

●今回の参加者

 ea0020 月詠 葵(21歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1442 琥龍 蒼羅(28歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1774 山王 牙(37歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ea2445 鷲尾 天斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3210 島津 影虎(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6526 御神楽 澄華(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb2483 南雲 紫(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb3936 鷹村 裕美(36歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb4667 アンリ・フィルス(39歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb5868 ヴェニー・ブリッド(33歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

円 巴(ea3738)/ デフィル・ノチセフ(eb0072)/ 斬煌 劉臥(eb1284)/ ジークリンデ・ケリン(eb3225)/ 磯城弥 魁厳(eb5249)/ 木下 茜(eb5817

●リプレイ本文

●爪痕
「冗談じゃねぇ、美人の女の子が襲われてるわけでもないのに構ってられるかよっ!」
「いやはや、後始末を見逃していくのは名折れなのですがねぇ‥‥」
 京都から丹波へと向かう道すがら。丹波街道はすでに慣れた道となっていたはずの鷲尾天斗(ea2445)たちであったが、今回の遠征はいつもとは似て非なるものと化していた。
 先の京都決戦の最終局面で、イザナミは多数の不死者を無差別に放ち、京都西部は現在でも不死者が多数出現する。
 島津影虎(ea3210)に限らず、少しでも先の合戦の後始末をと思う者は多いのだが、如何せん件数が多すぎる。
 頭数はまぁ、広域に展開しているらしく十匹の集団などに会う程度だが、無視した集団が見えなくなる前に次の集団が現れることなどざらだったのだ。
 それでも、いちいち相手をしていたらきりが無い。一行は当初の予定通り、馬などを駆ってあくまで無視を決め込んだ。
「この分じゃ、商隊なんかはどう足掻いても行き来できないぞ。並みの護衛をつけたくらいじゃ役に立たないだろう」
「そうねぇ。野良アンデッドの駆逐作戦でも計画しないと無理なんじゃないかしら」
「あら、それならギルドに並んでたわよ。まぁ、こうあちこちに出没するんじゃ残党狩りも骨でしょうけど」
 鷹村裕美(eb3936)が後ろを振り返って、小さくなっていく怪骨や死人憑きを見ながら呟いた。
 基本的に馬を走らせれば追いつかれはしないが、荷を積んだ台車などを連れていたらまずアウトだろう。
 断続的に出くわすアンデッドたち。現在でも、京都から西の地方の物流は著しく制限されている。
 ヴェニー・ブリッド(eb5868)が呟いたアンデッド狩りは、南雲紫(eb2483)が告げたようにすでに手配されている。
 しかし、それは大きく弱体化した京都軍では賄いきれなかった故の冒険者頼みなわけだが。
 イザナミ軍の被害も少なくなかったとはいえ、いつまた襲い掛かってくるか分からない。
 その時のためにも、今は埴輪大魔神を味方にすべく急ぐしかないのである―――

●封印除去
 多田銅銀山に到着した一行は、埴輪大魔神の元に向かう班と、埴輪大魔神の出撃口を封じた施工を取り除く班の二手に分かれ、それぞれ別行動を取ることになっている。
 依頼主の銀砂家からは、多田銅銀山にくれば分かるとしか言われていなかったが、そこで待っていたのはカミーユ・ギンサ‥‥つまりは悪魔、ガミュギンであった。
 それを予想していた者は多いが、ヴェニーや鷹村のように『彼女が依頼を出すためだけにわざわざ銀砂家を使うような回りくどい真似をするか?』という疑念を持つ者も居る。
 しかし、カミーユはいつもの優雅な微笑を浮かべると、
「そんなことはどうでもいいじゃありませんか。さぁ、早く埴輪大魔神のところへ行きましょう♪」
 と言い、さっさと坑道の中へと入っていってしまったのだ。
 ろくろく話も聞けなかった大魔神班は、仕方なくその後に続く。
 そして地上に残された封印解除班は、仕方なく作業に取り掛かることにしたのである。
「また随分と厳重に封印したものだ。折角のいい仕事を壊すのは気が引けるが、な」
 ライトニングサンダーボルトを放ち、アイスコフィンで固められた巨大な木の蓋の上に敷き詰められた藁や草木に点火するのは、琥龍蒼羅(ea1442)。
 石などならまだしも、アイスコフィンのかけられた物体を砕くのは容易ではない。
 ならば溶かしてしまえばよかろうというのが冒険者の作戦で、石の蓋は破壊、アイスコフィンがけ木の蓋は溶かすという手順を踏み、何重にもなっている封印工事を除去していく。
「しかしまぁ、予想通り地味な作業ではありますが‥‥こうして火を扱うとまるで地獄の釜の蓋を開くようですね」
「まったくで。鷲尾殿、周辺の様子はいかがですか?」
「あん? 音沙汰ねぇよー。しょうがないから、俺もせいぜいキバッて穴掘りすっかねぇ」
 山王牙(ea1774)は、わざわざツルハシとスコップを持参しており、バーストアタックの効果も相まってか非常にスムーズに工事を進めている。
 また、前述の焚き火の際には扇子や団扇で空気を送り込み、燃焼効率を上げていくという火の番までこなしていた。
 惑いのしゃれこうべで付近にアンデッドが居ないか索敵していた鷲尾は、島津に聞かれた後、不機嫌そうに解除作業へと参加した。その様子に、島津が訝しんで聞く。
「どうかしたのですか? 私はてっきり、『多田銅銀山よ、私は帰ってきた!』とでも叫ぶものかと」
「ま、それも悪かないがな。本当のところ、埴輪大魔神が少し不憫でさ。ゴーレムみたいなもんだからかもしれねぇが、何百年前の使命を頑なに守るその姿勢に真っ直ぐな士道を感じたんだよね。それを、俺達の理由であいつの使命を知らずに曲げるかもしれない。そうしなきゃイザナミに対抗できないって判ってても、なんかなぁ」
「平常時ならそれを考慮するのもいいだろう。だが、俺たちの現状では埴輪の心を論じている暇は無い」
「んなこたわかってらい。きちっとお仕事しますよーっと」
 相変わらず不満そうではあったが、山王からスコップを借りて石片を穴の中から掻き出していく鷲尾。
 全長五メートル以上の埴輪大魔神が自由に出入りするための作業は、まだまだ終わりそうになかったという―――

●縛
 坑道に入った面々は、当然のように解毒剤を染みこませた布などの防毒対策を取っていた。
 途中、ヴェニーがクリエイトエアーで新鮮な空気を作り、休憩時間を挟む事で体力の温存を図る。
「ここほど、この魔法が有効な場所も少ないでしょうねぇ」
 苦笑いするヴェニーだったが、それが大きな助けになっているのは間違いない。
 一行は、道順を忘れたなどとぬかしたカミーユの手を引きつつ、埴輪大魔神の元へと向かう。
 途中、どこかに遺跡の正規ルートの入り口へ向かう道がないかと探しては見たが、やはり手がかり無し。
 今までの往復の際にきちんと地図を作っておいた冒険者たちは、埴輪に妨害されることも無く大魔神の間のすぐ手前に到着した。と、そこで。
「カミーユお姉ちゃん、突入の前に聞きたいことがあるのですが」
 月詠葵(ea0020)は、さっさと中に入ろうとするカミーユの左手を掴み、静止する。
 すると、カミーユはちょいちょいと月詠がはめている指輪の一つを指差した。
「うみ‥‥や、やっぱりやれと(汗)」
 禁断の指輪に念じ、女の子の身体になる月詠。
 元々女の子と見まごう外見だったので、余計に可憐に見えるのが女性陣には腹立たしい。
「やーん、かーわいいー! やっぱり女の子はいいですわ〜♪ お肌すべすべ〜♪」
「い、いいから話を聞いてなのです! 埴輪大魔神は操作できるのかとか、操作できるならどうやって操作するかとか、操作は誰でも可能かとか、聞きたいことは山ほどあるのですよー!」
「そうですね‥‥私もはっきりさせておくべきだと思います。カミーユ嬢、わざわざ私たちを呼び出してまでここに来たのですから、大魔神を操作する算段はついているのでしょう?」
 御神楽澄華(ea6526)の場合、操作できる可能性はほぼ確実と思っているようだ。
 一度地獄に戻ってまで何かをしていたのだから、その時に操作手段を手に入れたと推理したのだ。
「うふふ‥‥それはまぁ当然ですわ。これで手段無しなんて言ったら皆さんに殺されてしまいそうですもの♪」
 そう言って、懐からドス黒い色をした手に平にすっぽり収まるくらいの石を取り出す。
 黒曜石か? とも思ったが、たいまつの火にも光を反射しないあまりの光沢の無さに不気味さを感じる。
「詳細は秘密ですが、これであの不細工に命令を下せるはずですわ。ただ‥‥」
「不細工とはまた酷い言われようだな、大魔神も。しかし、お前が言うと『ただ』って言葉はえらく恐くなるな」
「何か副作用でもあるの? できるなら操作権の譲渡を、って意見もあるんだけど」
「うーん‥‥譲渡するのは構いませんけど、死んでも知りませんわよ? 悪魔が使うように作ったものですから♪」
 鷹村と南雲の質問に、意地の悪い笑みを浮かべるカミーユ。
 悪魔には影響が無いが、人間が使うと極度に消耗するか、運が悪ければ死ぬとまでいう黒い石。
 契約者候補や丹波関係者に死なれては困るので、できれば渡したくないとの事。
「‥‥もういいだろう。拙者は護衛埴輪を叩き伏せる。大魔神は任せた」
 そう呟いて、アンリ・フィルス(eb4667)は埴輪大魔神の間へと入っていってしまった。
 直後、ばぎゃん、と鈍い音がして金属が地面に叩きつけられるような音が続く!
「んもう、せっかちさんね! アンリさんは私が援護してるから、話がつき次第何とかしてね!」
 入り口付近から魔法で援護に回るヴェニーだったが、前衛が一人だけではいくらアンリでもきつい。
「おびきだすって作戦はどうしたんだよ! 仕方ない、私も行く!」
「アンリ‥‥。私はカミーユのこと信じてるけど、受け入れられない人もいるものね‥‥」
 鷹村と南雲も得物を取り出し、アンリの後を追った。
 埴輪大魔神もすぐに動き出すはずだ。議論は後回しにしないと無用な被害を出すだけである。
「と、とりあえず話は後にして、みんなを助けなきゃ! カミーユお姉ちゃん、お願いしますです!」
「はいはーい。‥‥ところで月詠さん、あなた大事な人は居て?」
「はい!? な、なんなのですか、こんな時に!?」
「うふふ‥‥景気付けにキスでもさせてもらおうかと思ったんですけれども‥‥駄目かしら?」
 月詠の脳裏に、御神楽とカミーユが交わしていた濃厚なキスが浮かぶ。
 思わず赤面すると同時に‥‥心に、大切な人の顔と、明らかな躊躇が生まれる。
「‥‥カミーユ嬢、そういうことならあとで私がいくらでもお相手いたします。今は‥‥」
「それも素敵ですわね♪ でも、これだけは言っておきますが‥‥半端な覚悟は身を滅ぼしましてよ‥‥?」
 邪悪な笑みを浮かべたカミーユに、内心慄きながら‥‥月詠と御神楽は、彼女を群がる護衛埴輪の攻撃から守りつつ埴輪大魔神に近づいていく。
 ふと見れば、アンリが白銀埴輪と青銅埴輪五体に囲まれて苦戦しているのが見えた。
 そして、埴輪大魔神にあと数メートルと言うところまで近づいた時‥‥!
「穿て、恨みの念。飲み込め、悔いの念。捕らえよ、執の念。その心‥‥黒き負の念で束縛する‥‥!」
 ドクン、ドクン、と脈動する黒い石。
 邪悪な波動と黒い光が石から放たれ‥‥埴輪大魔神の身体に直撃した。
 同時に、埴輪大魔神の動きが大きく鈍り、さながら苦しむように前のめりになる!
「‥‥カミーユ嬢‥‥もしかして、その石を使うのは本意ではないのでは‥‥?」
 御神楽は、石を掲げるカミーユの表情が何故か悲しげなものに見えた。
 別に心を読んだわけではないが‥‥何故かそんな気がしたのだ。
「‥‥心は率先して『折る』ものじゃありませんもの。生きていく過程で『折れた』心こそが美しいのですわ」
 やがて、黒い石からの光が途切れたころには、埴輪大魔神は動かなくなっていた。
 しかし周りの埴輪たちはまだまだ動き回っており、襲い掛かってきている。
「埴輪大魔神さん。五月蝿い格下たちを黙らせてくださいまし」
 カミーユが呟いて黒い石がドクンと脈打つと、大魔神が再起動して立ち上がり‥‥近くに居た青銅埴輪を叩き壊した。
 大魔神のことを襲わない埴輪たちを、容赦なく駆逐していく大魔神。
 その一方的な破壊に、南雲や鷹村もあっけに取られるしかなかったと言う。
 埴輪大魔神を掌握したことを確認した一行は、周辺の埴輪の破壊を任せ、撤退することに。
 あとは出撃口の封印解除が終われば、丹波開放の戦力として使えるようになるだろう。
 三分の二くらいは進んだが、地味な工事は期間中に終わりきらなかったのである。
 果たして、埴輪大魔神を無事に味方にすることは出来るのであろうか―――