【外法の村】巻き戻る時

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 4 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月13日〜07月18日

リプレイ公開日:2009年07月20日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「そういえばですね‥‥藁木屋さん、例の噂聞きました?」
「また唐突だな。昨今の情勢下、噂話には事欠かないが‥‥どれのことを言っているのかね?」
 ある日の冒険者ギルド。
 職員の西山一海は、わりと真剣な様子で目の前の友人に話題を振った。
 情報屋を生業としている藁木屋錬術としては、噂も立派な飯の種だ。逐一チェックをしているが故に、候補が多すぎて一海がどの噂について聞きたいのか判断が付かない。
「丹波の東のはずれにある村のことですよ。魔法でも妖怪でも説明のつかない怪奇現象が起こってるっていう‥‥」
「‥‥あれか。別の依頼で冒険者の囮組みが向かった先だったね」
「偶然とはいえ、もし着いてたらびっくりしたでしょうねぇ‥‥」
 結局、その冒険者たちは八雷神との遭遇戦となり、その村へと辿り付く事は無かった。
 事が発覚したのは、京都上層部が忍びを放って、取り返した丹波領の近辺を調査させていたことに起因する。
 件の村に潜入した忍びが見たものは、凄惨な殺人事件であったという。
 借金を苦にした男が、村の庄屋を滅多刺しにして殺害。
 目撃者である庄屋の娘も殺害し、逃亡しようとしたが、たまたま庄屋の家に滞在していた冒険者によって阻まれ、激しい抵抗の末斬り殺された‥‥というのがあらましである。
 が、これだけでは人と人が起こした惨劇の一つに過ぎない。
 説明不可能な怪奇現象とまで呼ばれる不可思議な出来事は、その翌日、忍びが目を覚ました後に起こった。
 なんと、死んだはずの庄屋とその娘、果ては殺した側の借金男までが生き返り、元気に歩き回っていたというのだ。
 その日に帰還しようと考えていた忍びだったが、これには流石に肝を冷やし、調査を続行。
 すると、昨日話を聞いたはずの村人たちが忍びの存在をすっかり忘れており、まるで昨日初めて来た時と同じ初対面の人間に対するリアクションをとったという。
 自分は夢でも見ているのかと思った忍びであったが、その日の夜、またしても庄屋が例の借金男に殺された。
 庄屋の娘が殺され、犯人も冒険者に殺される。昨日出くわした事件とまるで同じだ。
 そして翌朝‥‥目を覚ますと庄屋たちが生き返っており、まるで時間が巻き戻ったかのように何事も無く日常が始まる。
 しかし、確実に時は流れているのだ。まして同じ殺人事件が毎日繰り返されるなどと、実際に目の当たりにしなければ信じられるわけがない。
 だが、こんな人知を超えた現象を語る上で、藁木屋と一海にはとある名前が脳裏によぎった。
 数々の未知の奇術悪術を操る、古の陰陽師にして黄泉将軍。
 丹波に蠢く勢力の一つ、平良坂冷凍軍に所属するその男の名は‥‥
「十七夜(たちまち)‥‥。しかも見計らったかのように、冷凍の不死城は丹波の東から動いていない‥‥」
「また何かの術の実験でもしたってことでしょうかね‥‥?」
「その可能性は高いが、疑問も湧く。『何故今か』ということだ。丹波は言わずと知れた混沌状態で、価値の低い術を研究する意義は薄い。つまり、例の村で使われた術は、冷凍軍が有利になるべく開発されたものと思うのが妥当だね」
「ですよね‥‥。事態を重く見た京都上層部は、この村及びこの村に仕掛けられている術の正体を調査せよという依頼を出してきてます。陰陽師が開発した術なら、解析すれば陰陽寮で再現して、人類の力にできるかもしれませんしね」
「前例があるからな‥‥そう期待するのも分からんではないが‥‥」
 加速していく丹波での争いは、丹波のあちこちで散発的に不条理を撒き散らす。
 京都に被害が及ばないようにするためにも、近場の危険は速めに排除しておく必要があるだろう。
 古の陰陽師と、それが開発した外法。
 時の流れさえも歪めるというその術が、歴史にどのような影響を与えるのだろうか―――

●今回の参加者

 ea2445 鷲尾 天斗(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)
 eb3797 セピア・オーレリィ(29歳・♀・神聖騎士・エルフ・フランク王国)
 eb6553 頴娃 文乃(26歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ec0154 鳳 蓮華(36歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ec2108 春咲 花音(23歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ec6384 フェザー・ブリッド(31歳・♀・ジプシー・エルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●一日目
「これでよし‥‥っと。幻術か、本当に同じ日の繰り返しか‥‥ある程度判別できると思うよ」
 木から飛び降りて綺麗に着地した春咲花音(ec2108)は、若葉生い茂る木を見上げて呟いた。
 幹の高い場所に『平』という文字を五つ書き、本当の時間の流れを確かめるつもりだという。
 件の村に日の高いうちに到着できた一行は、先に村に潜入する班と後から合流する班とに分かれた。
 よそ者である冒険者たちにも分け隔てなく笑顔を向けてくれる気さくな村。
 とても殺人事件が起きたようには‥‥また、起きるようには思えない。
「村自体に何かしら施してあるのかと思ったけど、後から来た忍者さんには何も起きないとなるとそうでもない感じだしねェ‥‥。ほんとにこんないい村で殺人なんて起きるのかしら」
「庄屋さん、いい人だったよねー。泊めてってお願いしたら、快く『どうぞ』って言ってくれたしー。貸す側は業突く張りの嫌な人、っていうイメージは捨てた方がよさそうだよー」
 村への出入りが術で制限されたりしないことを確かめた頴娃文乃(eb6553)は、あまりに穏やかな村の風景や雰囲気に、事件の発生そのものに疑問符を浮かべる。
 京都が派遣し、しっかりと帰還した忍者からの情報という確かな筋ではあるのだが、自分の目で見なければ時間の巻き戻しなどというものを信じられるわけが無い。
 事件の近場に居た方が何かと便利と、鳳蓮華(ec0154)が宿の提供を願い出たが、人当たりのいい庄屋は笑顔で応じた。
 金貸し=悪徳といったイメージはどんな時代でもありがちだが、今回はそのパターンには当てはまらないようである。
「逆に、加害者の方は駄目ね。あいつ、真面目に働く気ないもの。大きな町の賭場に出ては借金を増やして、まともに畑を耕そうともしてない。『勝って借金がチャラになったら止める』なんて、すでに負けてる台詞よ」
 加害者を訪ね、その人となりや十七夜の入れ知恵が無いかをチェックしていたステラ・デュナミス(eb2099)であったが、借金男が想像以上にダメな男であったことを思い出してため息を吐く。
 運が悪かっただけだとかもうそろそろ運が向いてくるとか、これでもかというくらいの博打中毒っぷりで、そういうことを口走る人間が勝てた例は限りなくゼロに近い。
「とりあえず花音たちにできることは、今日の行く末を見守ることくらい?」
「んー、十七夜って人が何を企んでるのかまでは分かんないけど、毎日殺され続けるなんて可哀想だから、何とか助けてあげたいねー。というわけで、レンは今日の時点で阻止に一票かなー」
「正直、繰り返しって言うのが信じられないのよねェ。僧侶がこんなこと言うのは問題だけど、どうせ巻き戻るっていうんなら一度くらい状況を把握しておきたいって気も‥‥」
「うーん‥‥どっちにも一理あるわね。私としては、十七夜が絡んでるなら何があってもおかしくない。そんな風に思ってるから、巻き戻りはあると思ってるけど‥‥」
 結局、四人は巻き戻りの真偽を確かめるべく、一日目は静観する事で合意した。
 穏やかに、ゆっくりと過ぎる時の河。
 悲劇の未来が待ち受けるという夏の一日は‥‥夕暮れにもまだ遠い―――

●外では
 村の外では、『事件が起きてそれに先発組みが介入したら合流する』という取り決めの下、残りのメンバーが待機している。
 勿論、ただ指をくわえて待っているわけではなく‥‥村の周囲に何か術の痕跡のようなものがないかと調査しているのだ。
「術の境界線はこの辺りね。発生源はよく分からないけど、これだけ大掛かりな結界術なら何かしらの媒体が必要なんじゃないかと思うんだけど‥‥それらしいものは見当たらないのよねぇ」
 リヴィールマジックの魔法で村の周辺にある魔力物品を調査していたフェザー・ブリッド(ec6384)であったが、判明したのは術の範囲くらいのものであった。
 村をすっぽり覆う正方形で、村を出て30m程進むと範囲外となるようなのだが、その術の根源が分からない。
「十七夜が使う術は、基本的に何かしらの媒介が必要らしいんだがなぁ。いや、その媒介を使わなくても済む様な術を作ろうとしてるのかもしれないが、開発途上にしちゃあ大掛かり過ぎる」
「特殊な印みたいなものもなかったしね‥‥。一度発動してしまえば媒介はなくなってもいいのかしら?」
 十七夜と縁が深く、面識すらもある鷲尾天斗(ea2445)に言わせると、今までの傾向から察するにどこかしらに何かしらの媒介があるのではとのこと。
 それを聞いたセピア・オーレリィ(eb3797)の脳裏には『媒介は村の中』という可能性がよぎったが、とりあえず自分たちは外担当なので自重する。
 先ほど春咲がやって来て、『今日は巻き戻りを確認して、介入は明日行う』という旨の伝達を受けている。
 無理に初日から事件を止めなければいけないという意見は出なかったし、鳳が聞いたという『村人にとっての今日の日付』が文月(七月)の八日であったことを考えれば、繰り返しが起こるのはほぼ確実。焦らずとも後発組みも村に入るのは時間の問題だろう。
「終わらない八日、ね‥‥。さしずめエンドレスエ―――」
「言うなっ! なんかヤバイ気がするからその先は言うなぁっ!!」
「色々な意味で終わらなさそうだから! 場所が京都なのも嫌な感じっ!?」
「‥‥意味分からないんだけど」
 フェザーの台詞を慌てて妨害する鷲尾とセピア。何か毒電波でも受信したのだろうか?(謎)
 例えゆっくりであろうとも時は進み続ける。それが自然の摂理。
 いつしか空はあかね色に染まり、やがて日が沈み‥‥夜の帳が落ちることで、悲劇への幕が開く―――
 
●欠落
 すっかり日が暮れ、農民が人口の大半を占めるこの村は静かな夜を迎えていた。
 まだ秋も遠く、虫が鳴く声すらしない静寂の闇。その闇の中を一人の男が歩いていく。
 やたらと辺りをキョロキョロして周囲を窺い、その懐には鈍く光る包丁がしのばせてある。
 目指す先は、言わずと知れた庄屋の家。
 鳳を筆頭に先発組みはこの動きを察知済みであり、やろうと思えば今すぐにでも男を取り押さえることが出来るだろう。
 が、まずは様子見であると合意した以上、今回は手を出さない。
 本当に時間の巻き戻りが起きるのか。それを確かめるためとはいえ、起きると分かっている殺人事件を見過ごさなければならない冒険者たちの心は重い。
 やがて男が現場にたどり着き‥‥トントンと戸を叩く。
「こんな夜更けに、どなただい?」
 夜間に外出する者が少ない田舎の村。庄屋がいぶかしむのも無理は無い。
 男は努めて自然に、
「すんません、左吉です。少しばかり金ができましたんで、少しでもお返ししようかと思いやして」
「おいおい、また博打かい? 感心しないねぇ」
 呆れたように言いつつも、庄屋は戸の閂を外してしまう。
 待って! と春咲が叫んでしまいそうになるのを頴娃が手で口をふさいで止める。
 身を潜めて成り行きを見ていることは、庄屋やその娘にも内緒なのだ。
 そして‥‥戸が開いた瞬間、男は素早く屋内に踏み込み、迷い無く庄屋を刺した。
 娘は角度的に何が起こったのか判断がつかなかったが、父親がただ事でない呻きを漏らした事で瞬間的に危険を悟る。
 が、父親の下に駆け寄ろうか、脇目も振らず逃げようか、それとも家に泊めている冒険者に助けを求めるべきか。
 そのわずかな迷いが災いし、初めから目撃者は始末しようと考えていた男から逃げ切ることができなかった。
 身を隠している春咲、頴娃、ステラ、鳳の胸を、娘の悲鳴が抉る。
 男は娘を殺すと、予め調べておいたのか証文の在処をすぐに突き止めて回収した。
 が、そこでふとステラに疑問が生じた。
「ちょっと待って‥‥そういえば、犯人は『たまたま庄屋の家に滞在してた冒険者に斬り殺された』んだったわよね‥‥?」
 さぁーっと血の気が引いていくステラの顔。
 いない。いなかったのだ。
 今の今まで忘れていたが、『ステラたち以外に庄屋の家に泊まっている冒険者は居なかった』のである。
 それが意味すること。それは―――


「一通り見て回ったけど、不死者の反応は無いわ。とりあえず村の人は全員普通の人間。‥‥例の被害者も、ね」
 デティクトアンデッドで村人全員を調べ、村人が不死者化していないか、十七夜は紛れ込んでいないかなどをチェックして回ったセピアであったが、結果はシロ。
 殺されては生き返りを繰り返している庄屋とその娘も生身の人間であり、ごく普通に生きている。
 先発組みは昨日すでに事件を一回目撃しているはずだ。
 話を聞こうと、合流場所である村の広場に向かった後発組みが見たものは、気まずそうに沈黙し続ける先発組みの姿。
「何やってんだお前ら。その様子だけだと、巻き戻りが起こったのかもわからん」
「‥‥起こったさァ。『ステラさんが焼き殺した』犯人もピンピンしてるよ」
「だから違うって言ってるでしょ!?『レンさんがヌンチャクで殴り殺した』んじゃない!」
「嘘だー!?『花音ちゃんが杭でグサ』ってやったの、みんな見てたよねー!?」
「花音、そんなことしないです!?『頴娃さんがホーリーを連打』して‥‥!」
 鷲尾の質問を口火に、自分の行いの否定と犯人を殺したメンバーの名前が次々と挙げられる。
 共通するのは、『犯人の行いが我慢ならなかったメンバーが犯人を殺してしまった』ということ。
 何にせよ、一晩明けて目を覚ましてみたら庄屋とその娘が昨日と変わらぬ姿で生活しており、『泊めた覚えは無い』と不法侵入扱いされて追い出されてしまったというのが現状のようだ。
「つまり、ステラさんたちは悲劇の舞台に無理矢理役者として立たされた‥‥というわけね。誰が殺したにせよ、術の歯車として動いてしまった‥‥と」
「あー、十七夜っぽいわー。あいつ、そういうの好きだぞ。絶対」
「でも巻き戻りの効果は受けてないのよね? 外部から来た人間が参加させられるっていうのは上からの情報にはないわけだから、それも踏まえて今度は全員で泊まってみる?」
 フェザー、鷲尾、セピアの後発組は極めて冷静で、少なからず混乱している先発組みを置き去りにして協議を進める。
 その結果‥‥。
「結論。庄屋さんに不審者扱いされた以上、この村で宿を取るのは難しいと思うわ」
「日程的にもギリギリだものね。まずは様子見ってことで、今回分かったことを次回に活かしましょ」
 フェザーとセピアの意見に、渋々ながら同意する先発組みの四人。
 村を出て帰路に着いた時‥‥一人、鷲尾は振り返って呟いた。
「次に来た時は、不審者ですらない初対面の人‥‥ってか。よっぽど『絆』ってもんを警戒してるなぁ。ま、それで何度も痛い目見てるわけだし‥‥今回も痛い目見せてやるさ」
 輪廻の輪すら歪める謎の結界。
 果たして、永遠の七月八日から村を救うことはできるのであろうか―――