●リプレイ本文
●調査と
丹波藩東部には現在、平良坂冷凍が居城とする『不死城』が存在する。
現在、という言い方をするには理由がある。
この不死城は不死者を材料に構築されており、石垣から巨大な白骨の足を出現させて移動することができると言う、恐ろしくも非常識な城なのである。
そして、その不死城の門番にして守護者と言うべき存在が、今回の攻撃目標である『骸甲巨兵』というわけだ。
「何々‥‥『骸甲巨兵。天地八聖珠と呼ばれる八個の勾玉を用いた儀式で蘇えった武装がしゃ髑髏。圧倒的な破壊力と防御能力を誇り、幾度となく人類の前に立ちふさがる。その正体はだいだら法師の骸とも言われていたが、後に怨霊化の能力を獲得していることから複数の怨念の集合体であることは確定的である』‥‥か。どちらにせよ、規格外の化物と言うことに違いは無いじゃないか。お前たち、よくこんなのを相手にしてきたな」
ここは京都、陰陽寮。
予め寺社仏閣などを回り、骸甲巨兵と関わりのありそうな文献や、聖水などの対策道具を分けて貰いに回った冒険者たちは、最終的にここに集まり、情報の最終確認を行っていた。
マナウス・ドラッケン(ea0021)がパタンと閉じた本には、冒険者ギルドから送られてきた骸甲巨兵に関するこれまでの経緯や情報なども含まれている。
「まぁね。でも、今まで散々調べまわっただけに目新しい情報は出てこないわね‥‥」
「だって、今更『致命的な弱点が!』なんて言われてもご都合主義なのですよ。とりあえず、もらったアイテムとかで頑張ってみるしかありませんです!」
南雲紫(eb2483)がため息を吐いているところに、月詠葵(ea0020)明るい励ましが飛ぶ。
この二人に限らず、今回の依頼には骸甲巨兵と因縁浅からぬものが多い。
その破壊力も重々承知した上で‥‥それでも放置は出来ないと、戦いを挑むのだ。
月詠は寺院を回って分けてもらったお札などを整頓していて、琥龍蒼羅(ea1442)もそれを手伝っていたが‥‥。
「こうしていても仕方ない、そろそろ現地に向かおう。後は先発組みに合流して戦うしかないだろう」
ため息を一つ吐き、天井を見上げる。
できることなら戦いたくはない。特に、弱点などの攻略の糸口さえない相手だけに。
生死をかけた骸甲巨兵との戦い。もう何度目かのそれが、また始まる―――
●巨大なる武者
場所は移って、丹波藩東部。
先発組みとしてこちらに先んじたメンバーは三人。
冷凍一派は幅を利かせているとはいえ戦力が極端に少なく、偵察すらも出しはこない。
その分、骸甲巨兵、十七夜、不死城など、少数精鋭が揃っているのだが。
「今はイザナミよりも冷凍というのは、より大きな問題を後にまわした感もありますが‥‥今、イザナミに手を出す余力がないのもまた事実。早々にこちらに決着をつけ、イザナミに集中できる状況作りを」
「ふむ‥‥しかし、実際に見るとまた圧倒的だな。あれほどの巨刀‥‥人の身で受けきれる者はいないだろう」
「実際受けて、腕を持っていかれたのがここにー(汗)。力自慢三人が集まってようやく、といった感じでしたしね〜」
御神楽澄華(ea6526)を初めとする三人は、不死城の周りを巡回している骸甲巨兵を遠巻きに眺めながら後発組みの到着を待っていた。
力自慢であり、人類の中では巨漢であるアンドリー・フィルス(ec0129)や井伊貴政(ea8384)でさえも十分の一でしかさえない巨体の骸甲巨兵は、遠くからでも一目瞭然である。
兜、鎧、籠手、具足‥‥そして巨大な鈍刀と言える骨刀。
眼球があった場所に点る紅い光に捉えられた時‥‥大半の者の運命は決したと言えるだろう。
「遅くなりました! 準備完了です!」
「調べた成果はなかったけどな。あとはやるだけだ」
月詠やマナウスたちが合流し、七人全員が揃う。
しばしの休憩の後‥‥作戦は実行に移されることとなる。
七人の戦士たちは準備を万全に整え、歩を進めた。
地形は平原が広がっており、見通しはいい。
故に‥‥敵からもこちらからもお互いを認識するのは容易だ。
冒険者たちが近づいてくる気配を察知した骸甲巨兵は、巡回していた足をピタリと止め‥‥ぎろりとこちらを見下ろす。
そしてずんずんと地響きを立てながらこちらに向き直って屈み‥‥跳んだ。
「何っ!? 白耀、避けろ!」
「くっ、瑞鶴!」
飛行ペットに騎乗して空を進んでいた琥龍と御神楽だったが、突然の事態に思わず力いっぱい手綱を引いた。
勿論、その下を進んでいた徒歩組みもまた、二十メートルほどもある化物が骨刀を振りかざしてジャンプしてくれば逃げる以外の選択肢は無い。
当初、月詠や井伊は攻撃されたら蜘蛛の子を散らしたように散開しようと提言していたが、まさかいきなりやる羽目になるとは思っていなかった。
重力が加わった骨刀の一撃は、誰にも命中こそしなかったが凄まじい風圧と砂埃を巻き上げ、大地に一文字の線を刻む。
「相変わらずの化物っぷりだな‥‥!」
南雲はすぐに攻撃することをせず、骸甲巨兵の注意を引きつつ後退する。
「まずは拠点と引き離さないとな。さぁ、ついて来い!」
それは他の仲間も同様で、マナウスもペガサスの上から矢を射かけつつ不死城から離していく。
しかし一定距離離れると骸甲巨兵が立ち止まり、警戒しながらも前を向いたままじりじりと戻っていこうとする。
その距離、およそ五百メートル。それ以上は不死城から離れたがらない。
「ここら辺が限界点みたいですね。なら‥‥お化けを斃すのは何時だって人間だ、と征きましょうか!」
月詠は右側から回り込み、骸甲巨兵の足を斬りつける。
が、彼の真骨頂はカウンター攻撃にこそあるのであり、通常攻撃ではまるでダメージが入らない。
かと言ってこの戦いでカウンターなど狙おうものなら先に真っ二つになるのは明白だ。
「ふむ‥‥バーストシューティングで鎧は砕けそうだな。まぁ、あの大きさだけに何本射ればいい具合に砕けるか分かったもんじゃないがな‥‥勿体無い勿体無い」
マナウスが空中から放つ矢は、鈍い音を立てて骸甲巨兵の鎧をあっさり貫く。
しかし、矢自体が小さすぎて針の穴程度の穴しか開かず、大きく砕くにはかなりの数の矢を正確に撃ち込む必要がある。
骸甲巨兵は射撃攻撃を意に介さず、地上の面々を薙ぎ払うように骨刀を振りぬく!
ガリガリと言うより、ゴガガガといった大音響を伴って、地面が大きく抉られる。
「舐めるな! そんな大雑把な攻撃で、戦女神のペルソナは剥がせはしない!」
横から迫り来る骨刀。南雲はタイミングを合わせ、刃紋の部分に手をついて骨刀の上を転がり回避する!
続けて疾駆し、バーストA+スマッシュで右足首を狙い撃ちする。
「やっぱり近寄るのは簡単じゃありませんねー(汗)。しかし、腕をやられたことお返しはしませんとー!」
以前の戦闘経験を生かし、骨刀の射程ギリギリの距離を保っていた井伊は薙ぎ払いに巻き込まれなかった。
そして、南雲の攻撃に続いてソニックブーム+スマッシュ+バーストAで骸甲巨兵の右腕の間接を狙う!
太刀から放たれた衝撃波が脇あたりに命中し、骸甲巨兵は思わず一歩後ろに下がる。
その隙を突き、グリフォンで空を往く御神楽が畜生道・解という槍で骸甲巨兵の肩を攻撃する。
この槍は六道の武器と呼ばれる武具の一つで、冷凍軍の十七夜の術に対して絶大な効力を発揮するのだ。
御神楽の見立てでは、骸甲巨兵は十七夜の術で強化されていて、この槍が有効であると睨んでいるのだが‥‥?
「はぁぁぁっ!」
がつ、と槍が左肩の鎧に触れた瞬間、マナウスの矢とは比べ物にならない大きさの穴が開く。
それだけではない。肩の鎧を貫通し、あっさり骨にまで達する。
「思い通り! ‥‥よりも随分効果がありますね、これは(汗)」
試した御神楽の方がびっくりしてしまうくらい、畜生道・解は骸甲巨兵に効果があった。
その脅威を敏感に感じた骸甲巨兵。御神楽をグリフォンごと掴もうと、その豪腕を伸ばすが‥‥
「甘いな。俺の奏でる風が、その怨念に満ちた腕を通しはしない」
琥龍がストームを発動し、骸甲巨兵の腕の軌道を逸らす。
そして‥‥!
「空を往く者はまだいるぞ。この不浄‥‥パラディンの力によって浄化して見せよう」
フライの魔法で自在に空を飛ぶアンドリーが、アンデッドスレイヤーとカオススレイヤーの二刀流で骸甲巨兵の顔面を狙う。
巨体の割にはよく反応したが当然避けられるわけも無く、アンドリーの剣が目尻にバッテン傷を刻んだ。
しかしスレイヤー効果はおろかオーラパワーの効果も出ていないのは何故なのか?
形勢不利と見たのか‥‥はたまた癇癪を起こしたのか。
身体全体を大きく震わせ、自らにたかる虫を払いのけるかのように暴れる骸甲巨兵。
地上にいる者には地震が、空中にいる者には乱気流が襲い掛かる。
冒険者が身動きできず、攻撃を躊躇していたその時‥‥!
『っ!』
突如として骸甲巨兵が巨大な黒いモヤに変化したかと思うと、怒涛の勢いでマナウスの方へ突っ込んでく。
怨霊化。何度見ても、あれだけの質量のものが一瞬で霞のようになるのは反則だと思う。
「大罪の指輪なんて役に立っていないじゃないか! クラウディアス!」
主の声に応え、ペガサスがホーリーフィールドを展開。
それに阻まれ、黒い霧はマナウスに近づくことが出来ない。
しかし、それを悟った黒い霧はあっさりと標的を変えた。
地上にいた月詠。丁度マナウスの直下辺りにいたのがまずかった。
「速い‥‥! 身代わりにもなれん!」
アンドリーが歯噛みするくらい黒い霧のスピードは速く、あっという間に月詠に向かっていってしまう。
御神楽にFエリベイションをかけて貰ったし、京都でもらった御守りやお札もある。
憑依されても、聖水を呑んでダメージを与えられるかなどの実験になる‥‥と、月詠は思っていた。
だがそれが恐ろしく甘い認識であったと気づいた時はもう遅かった。
「う‥‥あぁぁぁぁぁぁぁっ、がぁぁぁぁぁぁっ!?」
月詠とは思えない獣のような咆哮を上げて、地面をのた打ち回る。
全長十八メートルの骸甲巨兵を構成する怨念。それは一体何人分なのだろう?
ただでさえがしゃ髑髏は怨念の塊。それに、更に強い力を持たせるためもっともっと怨念を集めたのが骸甲巨兵。
数百‥‥いや、千人すら超えそうな怨念が身体の中に侵入してくれば、まともな人間は一秒だって正気を保っていられない。
それは士気高揚の魔法ごと精神を飲み込む黒い濁流に他ならないのだ。
「葵!」
「駄目です、近づいてはー! いつこっちに矛先が向かうか分からないんですよー!?」
南雲を止める井伊も、月詠を助けたいのは同じ。
だが、それで自分も意識を飛ばされては話にならない。
あの様子では、中に入り込まれた時点で聖水がどうだとか言っていられないだろう。
やがてぴくりとも動かなくなった月詠の中から、やはり怒涛のように黒い霧が噴き出し‥‥再び骸甲巨兵となる。
大地に立った骸甲巨兵は‥‥砕けた肩の鎧も、目尻につけられたバッテン傷もなくなっている。
「おいおい‥‥ダメージ自体は残ったままと聞いてるんだが、回復していないかい?」
「いや、見た目だけだ。傷ついたところが脆くなっている事に違いは無い」
マナウスと琥龍が会話している間にも事態は悪化する。
気絶して動けない月詠に向かって、骸甲巨兵が足を上げる‥‥!
「やらせん!」
アンドリーが素早く地上に降り、迫り来る骸甲巨兵の足を両腕を掲げて受け止める!
ズドンと地面に足がめり込み、両腕の血管が切れそうな凄まじい圧力がアンドリーに襲い掛かる。
「は、早く、月詠殿を‥‥!」
アンドリーが耐えている間に南雲が敏捷性を活かして突っ込み、月詠を助け出す。
そして、琥龍がトルネードで骸甲巨兵を少し浮かし、アンドリーも脱出する。
「ちぃっ、撤退するぞ! 気絶した人間を抱えて相手を出来るやつじゃない! 澄華、殿を頼めるか!?」
「お任せを! 皆様、お早く!」
「あいも変わらず‥‥骨だけに、煮ても焼いても喰えないお相手でー‥‥」
「誰が上手いことを言えと? そんな暇があったら走りたまえ!」
マナウスの声を頭上に聞きながら‥‥井伊たちは後退した。
骸甲巨兵が追ってこなくなるラインまで逃げればいいので、不死城から引き離したのはこんなところでも役に立った。
御神楽も無事に帰還し‥‥様子見というには激しい初戦が、終了した―――