鮮烈、堕天狗党! 〜蜻蛉奪還作戦其の壱〜
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■シリーズシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:1〜4lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 20 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月19日〜12月24日
リプレイ公開日:2004年12月22日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「さて‥‥皆さんこんにちは。今日は、またしても奉行所から堕天狗党がらみの依頼が来てるんですが、今回は今まで以上に厄介そうです」
依頼の紙を机に置き、若い衆は少し暗い顔をした。
どうやら先に捕まった『天の蜻蛉』こと柄這志摩が、そろそろ取り調べを終え、刑が確定することになったらしい。
罪状は『辻斬り』。騒乱罪でないのは、奉行所が散々苦汁を舐めさせられたことを民に知られないようにするのと同時に、堕天狗党に無用な感情を持たれない様にするためであろう。
「奉行所が察知した情報によれば、堕天狗党による彼女の奪還作戦が近々行われるみたいです。ただ、今回はいつもの『奉行所が攻めていく』のではなく、初の『堕天狗党が攻めてくる』形式の依頼ですから、情報が殆どありません。巡回日時は奉行所が指定してきていますが、どこに、誰が、どの程度の人数が来るか、どのようにして柄這さんを救出するかなどは不明でして‥‥」
「そこからは私から説明しよう。丁度密偵が新しい情報を得てきたところだ」
ふと振り返ると、入り口に武士風体の男が立っていた。
年齢は20代半ば〜後半くらいだろうか、袴の上から体をすっぽりと覆うマントを重ね着という、少々いびつないでたちである。
「自己紹介が遅れたね‥‥私は奉行所で堕天狗党の事件を担当している、藁木屋錬術(わらきや れんじゅつ)いう者だ。堅苦しいのは苦手なので、藁木屋でもわらっきーでも好きに呼んでくれていい」
どうやら今まで奉行所から出された依頼は、全て彼を通してギルドに送られていたらしい。
なんだか店の名前のような苗字だが、間違いなく武家の出身である。
「相変わらず誰が、どの程度の人数が来るか、どのようにして柄這志摩嬢を救出しようとするかは不明だ。しかし、江戸の東西南北のいずれか一方で、何らかの行動を起こすであろうという事が判明したのだよ。やつらがうろつくであろう場所も割り出されている」
と、懐から江戸の略図を取り出して説明を続行する藁木屋。
「つまり、今回は東西南北の一方に目星を付けて巡回してもらうことになる。江戸の西側にある富樫町、東側にある水上町、北の大暮町、南の鳥山町の四箇所だな。一応巡回を強化しているが、江戸は広いのでアテには出来ないと思って欲しい。君たちの勘と読みが頼りというわけだ」
現在志摩が囚われている場所は依頼を受ける冒険者にも秘密らしい。通常使われる牢獄に入れられていないのは、色々と警戒しての事だろうか‥‥それとも、志摩が志士であるため、一般の囚人と同じように扱っては諸々の圧例が生じるためか。はたまた、一応武家出身であることを考慮して、切腹でもさせるつもりなのかは定かではない。
恐らく堕天狗党は、江戸の東西南北で、志摩が囚われていそうなところを調査するのが目的なのではないだろうか。
「流石のやつらもどこに柄這志摩嬢が捕まっているか知らないのかも知れないな。ともあれ、これだけで対策を立ててくれとは言わん。実は奉行所に例の如く挑戦状のようなものが届いてね‥‥どうやら奴らが現れる場所を暗号で示してあるらしい。写したものを渡すから、解読して依頼に望んでくれ」
そう言って、懐から書状のような物を取り出す。
広げてみると、そこには挑戦の意思を示す文面と、下記のような暗号らしき文が書いてあった。
『朱雀が流星の如く地に落ちる時、夜の闇に白虎と青龍が膠着する。玄武はただ速やかに道を開け、朱雀の身を案じるだろう』
もちろん奉行所でも解読は試みたが、意見が割れてこれという回答が結論付けられなかったらしい。
ちなみに読みが外れて違う方角のポイントに堕天狗党が現れた場合、当然依頼は失敗‥‥その場合、後で正解の方角に向かい、『堕天狗党の取った行動を調べて奉行所に報告する』というようなスタンスになってしまうであろうから要注意だ。
要は意地でも暗号を読み切れ、ということらしい。
「堕天狗党を世直し、義賊と呼ぶ人もいます‥‥その気持ちは私にも分かりますが、それでも今の平和を乱す権利はありません。皆さんの手で、江戸を守ってください!」
いつになく真面目な表情で呟く若い衆。
いや‥‥今ばかりは『冒険者ギルドの若い衆』ではなく、一個人、西山一海(にしやま かずみ)と呼ぶのが礼儀だろうか。
「ふ‥‥君も熱いな。兎に角、これからも世話になることも多いだろう‥‥よろしく頼む」
そう言って、ばさりとマントを翻してギルドを出て行く藁木屋。
何にせよ、情報があまりに少ない中で行われる奪還作戦‥‥野望阻止の鍵は、あなたたちが握っている―――
●リプレイ本文
●不意の遭遇
「さて‥‥どうすっかね。敵ではないが味方と言うにも、なあ‥‥」
夜の闇に包まれた、江戸の北側にある町‥‥大暮町。事前の作戦会議で暗号は北を示すものと結論付けた8人は、藁木屋錬術に頼み、大暮町の地図を手に入れていた。
そして江戸を流れる川の一つに架かる橋に目星をつけ、そこに張り込んでいたのだが‥‥。
「貴様は‥‥確か以前にも会ったな。嵐馬殿からも噂を聞いている」
一刻ほど経った時点で、ある程度の人数を橋に残し、思い思いの行動を取る人間が出てきたのである。
鎌刈惨殺(ea5641)はその筆頭‥‥奉行所が情報提供をしないので、独自にこの近辺の大きな屋敷を調べ、柄這志摩が囚われている場所を見つけ出そうとしたのがまずかった。
今彼の目の前にいる4人の男たち‥‥即ち、桜田門の悪夢こと穴鈴牙闘と黒い三連刀の三人とばったり鉢合わせしたのだから、お互いにたまらない。
名を知った冒険者と出くわせば、堕天狗党でなくても驚くというものだろう。
「ただうろついてたってわけじゃなさそうだな‥‥あの暗号を解いたということか?」
「ちっ‥‥あのお方も何故わざわざ暗号など送ったのやら」
「いいじゃねぇか、どっちだってよ‥‥出会った以上戦うしかねぇだろ。近くにお仲間もいるんだろうしなぁ」
黒い三連刀‥‥大地丸、茸ノ丞、折手矢で構成される、恐らく偽名の三人組だ。どちらにしてもその筋では名うての武芸者たち‥‥たった一人で戦うには厳しいとしか言いようがない。
「俺も死ぬわけには行かないからな‥‥やるっていうなら抵抗はするぜ? いっそお前らが依頼出してくれれば楽なんだがな‥‥」
「まったくじゃのう‥‥こんな街中ではファイヤーボムは使えんのじゃ」
突如、物陰から三月天音(ea2144)が歩み出る。彼女も橋から離れて行動していたため、近くを通りかかったところで会話を聞いたか、気配にでも気付いたのだろう。
「噂をすれば影ということか。読めたぞ‥‥近くにある橋を拠点にしているわけだな。集合場所としてはあそこが一番適している」
「悪いけどな、俺たちはまだ志摩の居場所を知らないんだよ。それを調べるために今回俺らがやってきたんだからなぁ。骨が折れるぜ、一つ一つ大きな屋敷を調べてくのは」
「‥‥折手矢、いつも思うがお前は喋りすぎだ」
大地丸が折手矢をたしなめた次の瞬間。
「ホントに喋りすぎだよっ! 見回してた甲斐があったね‥‥近くにいた人を引っ張ってきたよ♪」
「へへ‥‥会いたかったぜ、穴鈴牙闘! 俺は戦人! 強き者と戦ってこその傾奇者よぉ!」
状況は常に目まぐるしく変わる‥‥偵察も兼ねて屋根の上から辺り一帯を眺めていた草薙北斗(ea5414)が、これまた近くを歩いていた虎魔慶牙(ea7767)を呼び寄せたのだ。これで橋に残ると言ったメンバー以外は集合したことになる。
「若き猛虎‥‥虎魔慶牙か。私も戦ってみたかった‥‥以前は鞘で打ち合っただけだからな」
「嬉しいじゃねぇか! 今回のアンタ等の目的は志摩の捜索・救出といったところかい!?」
「ふん‥‥それは私を倒して聞きだすがいい!」
ガギィンッ! 抜刀した虎魔と牙闘の刀が火花を散らす。一方、草薙・三月・鎌刈の三人は黒い三連刀と相対していた。
もっとも、お互い相手の出方を伺い、虎魔たちのようにいきなり切り結んだりはしなかったが。
「むぅ‥‥まずいのう。流石に拙者たちだけではあの三人を抑えるのはきつそうじゃ」
「おまえさんが魔法を詠唱する隙なんて与えてくれないだろうしなあ‥‥どうするか」
「僕が隙を作るよ。天音さんは魔法の詠唱、惨殺さんはその護衛をお願いするね。ついでに他の人も呼んでくる!」
三連刀へと飛び出していく草薙。当然やつらは迎撃しようと構えるが‥‥。
ドンッ! と、突如爆発が起きて視界を遮る。草薙の高速詠唱による微塵隠れ‥‥先頭にいた大地丸が軽傷を負い、術を仕掛けた本人は言葉どおり他のメンバーを呼びに移動したのだろう。
「邪魔されたくないけどなぁ‥‥この楽しい戦いをよぉ!」
「確かにな。だが調査に来た私たちまで捕まるわけにはいかんのだ!」
少し離れたところで刃を交えていた虎魔たち‥‥お互いギリギリのところで、刀で攻撃を受け止め・受け止められを繰り返している。
暗い夜道に、舞い散る火花がただ美しかった―――
●橋の袂から
「しまった‥‥そうか! 暗号を北と解読したのはよかったが、ヤツらがいきなり救出作戦に出るとは限らなかった‥‥!」
「‥‥つまり、あの暗号は彼らが調査に出歩く場所を示していたわけだな。柄這志摩の居場所は依頼を受けた私たちにも教えないほどの機密事項‥‥藁木屋君が言っていた通り、ヤツらもその所在は知らなかったわけか」
蛟静吾(ea6269)と蒼眞龍之介(ea7029)。堕天狗党追跡の第一人者とも言える師弟は、橋の上で草薙から連中が現れたことを聞かされた。
蒼眞の提案であった『わざと志摩を救出させる』という手は、奉行所の人間である藁木屋さえも知らされておらず、実行は不可能であったのである。
というか、やはり奉行所は『確実に成功する』と言い切れなければ危ない橋は渡れないのだ。
「‥‥心情的には、見て見ぬふりでもいいんだけど‥‥そうもいかないよね。死人が出かねないし」
「急ぎましょう‥‥怪我で済んでいるなら私が治療できます。皆様、お気をつけ下さいませ」
赤く塗った皮鎧を着た女戦士、ヘルヴォール・ルディア(ea0828)と、袈裟を身につけた僧侶、御月守優奈(ea1480)の二人も事態を把握し、四人は現場へと急ぐ。
道案内は専ら草薙任せ‥‥何しろ蒼眞たちは、他の3人が戦っている現場がどこか知らないのだ。
「しかし先生‥‥そうなると、連中は本当に東西南北の一方にしか調査部隊を出していないんでしょうか。どう考えても分担して四方を調査した方が効率的だと思うんですが‥‥」
「やつらがそう言うのならそうなのだろう。こうやって自分たちを不利な状況に追い込めば、それを成功させることによって二倍三倍の効果を得られる。奉行所の鼻を明かす事にもなるし、な」
「‥‥じゃあやつらは、柄這志摩の居場所が分かるまで同じ事を繰り返すって言うの?」
「確証はありませんが、恐らくそうでしょうね。途中で方針を変えてしまっては最大の効果を得ることができないでしょうし‥‥何より、このやり方のほうが成功させやすいのではないでしょうか」
ヘルヴォールの問いに、蒼眞の代わりに答えた御月守。つまり『下手に四方に調査隊を出しては、いきなり志摩の居場所を警戒され、固められかねない。隠密行動である以上、東西南北の一方にのみ出向くことで、ある程度の撹乱になる。さらにいつ志摩の居所を特定できても、奉行所に悟られにくくなる』ということなのだろう。
「居場所が特定できてから、総員で志摩が囚われている場所を襲撃する可能性もある‥‥何にせよ、やはり情報が少なすぎるな」
「そんなことより、もうそろそろ着くよ! 警戒して!」
草薙の言葉に、5人は走りながらも戦闘体制をとる。角を曲がった先が、虎魔、鎌刈、三月が戦っている場所‥‥!
「みんな、応援を連れて来‥‥」
ギィンッ! 草薙が台詞を言い終わる前に、鍔迫り合いから大きく後方へ後退した三月が、角から姿を現す。
見れば虎魔も牙闘と距離をとっており、鎌刈は今まさに茸ノ丞と刃を打ち合わせたところだった。
「おっ、御到着か! けど穴鈴牙闘は俺の得物だぜぇ‥‥邪魔だけはしてくれるなよ!」
「ちぃっ‥‥どうする蒼眞、別に捕まえろって依頼じゃなかったよな、今回は!」
「フレイムエリベイションを使って、やっとついていけるとは‥‥やはり厳しいのう‥‥!」
奇跡的に三人とも軽傷であるのは、堕天狗党の面々も積極的な攻撃に出ようとしていないためだろうか。
連中にとっても、今回の目的はあくまで調査‥‥殺し合いをしに来たわけではないらしい。
「おい大地丸、応援が来ちまった!」
「例の『穏やかなる伏龍』と、その弟子だかもいるぜ! あいつら強ぇ!」
「わかっている。牙闘、ここは撤退だ! 調査どころの騒ぎじゃなくなってきたぞ!」
「そうだな‥‥是非にも剣を交えてみたいところではあるが、仕方あるまい。蒼眞龍之介殿‥‥蛟静吾殿‥‥いずれ、また。そうだな‥‥紅蓮の闘士と自負する貴様の力も知りたい‥‥ヘルヴォール・ルディア」
一礼をして、すでに撤退を開始している黒い三連刀を追う牙闘。少し離れたところから聞こえてきた複数の馬の鳴き声を聞いた蒼眞たちは、追撃を諦めざるを得なかった。
今から追っても、馬には追いつけないだろう。
それに暗号を正確に読みきり、連中の調査活動を阻害できれば今回の依頼は成功なのだから、無理をする必要はないのである。
「やはり街中というのは制限が厳しいのう‥‥虎の子のファイヤーボムが使えんのじゃ」
「それに、基本的な戦闘力も連携もヤツらが上っぽいもんな‥‥蒼眞と虎魔は別としてよ」
「へっ‥‥ゾクゾクしたぜ! あれこそ俺が求めてた戦い‥‥穴鈴牙闘、やっぱり面白ぇ!」
三月、鎌刈、虎魔‥‥それぞれ感想はあるようだが、これから先戦況がどうなっていくのかは分からない。
そして、鎌刈の裏目的もまた、気になるところではある。
何にせよ、御月守のリカバーのおかげで怪我が残るようなこともなく‥‥奪還作戦の初戦は、冒険者側の勝利に終わる―――