鮮烈、堕天狗党! 〜蜻蛉奪還作戦其の弐〜

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月30日〜01月04日

リプレイ公開日:2005年01月06日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「いやぁ、前回は流石でした! 依頼を受けてくださった皆さんの読みは見事的中‥‥迎撃、撃退に成功したわけで、何事もなく終わって本当によかったです♪」
 にこやかにお茶などを啜りながら、冒険者ギルドの若い衆こと、西山一海は呟いた。
 客に茶を出さずに自分が飲んでいるというのはいかがなものだろうか。
「ふむ‥‥中々いい葉を使っているな。あぁ、お邪魔させてもらっているよ。前回はご苦労だったね」
 前言撤回。先客として、またもやギルドに顔を出していたらしい藁木屋錬術が、一海同様茶を啜っていたのである。どうやら若い衆は、彼に出したついでに自分も飲んでいただけらしい。
「さて‥‥奉行所で堕天狗党担当の私がここに居るということは、どういうことか分かるね? そう‥‥またしても連中から挑戦状と行動日、そして暗号が届けられたわけだ。本来なら奉行所だけで何とかするのが筋なのだろうが‥‥前回冒険者の諸君が見事に連中を撃退して見せたものだから、奉行所内で『前回依頼を受けてくれた面々に任せれば安心だ』という風潮が広まってしまったのが頭の痛いところだよ」
 ため息をつきながら、懐から地図を取り出す藁木屋。ついでに書状のようなものも一緒に手に持っていた。
 彼の話では、堕天狗党は今回も江戸の東西南北に位置する町の一つで行動を起こすらしい。ただし前回とは指定されている町が異なり、『北は次原町、東は原町、南は宮下町、西は和月町』となっている。
「むむ‥‥これまたどこもこれといって名物のない、面白みのない町ばかりですねぇ」
「連中は観光に来るわけではないのだぞ。それはともかく、こっちは暗号を書き写した書面だ。煮るなり焼くなり鍋布きにするなり好きにしてもらっていい。しっかり解いてくれるなら、ね」
 堕天狗党を軽く見る奉行所の風潮のせいか、今回は奉行所内での解読すら行われなかったらしい。なんでも、『自分たちが必死に考えなくても、依頼を受けた冒険者たちならきっと解ける。我らは町の巡回に力を入れればいい』との意見が多数出たためだ。
 蛇足だが、堕天狗党の構成員を冒険者が捕まえられるのに、何故お前は捕まえられないのかと、藁木屋への風当たりが強くなってきているとか何とか。
「で、こっちが暗号ですか。何々‥‥『心に剣を持つ者は、輝く勇気で敵を討つ。しかし心せよ‥‥鏡の国の姫君は、変わらぬ物が嫌いである。心を脳裏に映し出し、右手の剣と輝く左手で立ち向かえ。勇気を持って足を進めよ』‥‥どこかの国の御伽噺か何かですかね?」
「さてね‥‥それを読み解いてもらうのも冒険者の諸君の仕事だ。ちなみに前回は成功したからいいが、今回も読みを外して堕天狗党がいない間違った方向に行くと、単なる調査・報告のみになってしまうだろうから気をつけてくれたまえ。‥‥それとすまないが、やはり柄這志摩の居場所は私にも教えてもらえなかった。どうやら色々な圧力やら思惑やらが絡んでいるらしくてね‥‥情けない話だよ、まったく」
 そう言って、ばさりとマントを翻してギルドを出て行く藁木屋。もしかたら半分くらい、お茶飲みを兼ねてサボりに来たのかも知れなかった。
 何にせよ‥‥冒険者と堕天狗党の知恵と技比べ第2章が、今始まる―――

●今回の参加者

 ea0828 ヘルヴォール・ルディア(31歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea2144 三月 天音(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea2246 幽桜 哀音(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea5414 草薙 北斗(25歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5641 鎌刈 惨殺(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6269 蛟 静吾(40歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea7029 蒼眞 龍之介(49歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7767 虎魔 慶牙(30歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●一歩の差
「新年あけましておめでとう。今年も何かとお世話になることも多いだろう‥‥よろしくお願い申し上げる」
 ここは江戸のとある料亭。必死の捜索にもかかわらず堕天狗党の面々を発見することができなかった一同だったが、年の明けた今日、突然藁木屋錬術にここへ呼び出されたのである。
「あぁ、おめでとう。だが藁木屋君、何もわざわざ年始の挨拶をするために我々を呼んだわけではあるまい。できれば速やかに本題に入って欲しいのだが」
「ですね。藁木屋君、僕たちは北の次原町を二班に分けて東西から捜索した。前回連中がやっていたように大きな屋敷を重点的に調べていったが、結局連中は見つけられずじまいだった」
 蒼眞龍之介(ea7029)と蛟静吾(ea6269)。二人の真っ直ぐな視線を受け、藁木屋はしばし考えた後切り出した。
「‥‥率直に言うと、堕天狗党の面々が現れたのは『東の原町』だったのですよ。幸か不幸か巡回自体は強化してあったため、連中を発見したのはよかったのだが‥‥残念ながら巡回隊は、負傷者6名を出して撃退されてしまった。相手はトニー・ライゲンと、白い忍者服の男だったらしい」
「むぐむぐ‥‥白服の忍者だぁ? そんなやつ今まで見た事ないよなぁ(ガツガツ)」
「僕はまだ堕天狗党と関わって日が浅いけど‥‥忍者もいるんだね、堕天狗党って。会ってみたいかな」
 雑煮をかき込みながら話半分で聞いている虎魔慶牙(ea7767)と、行儀よくおせち料理の重箱をつついている草薙北斗(ea5414)。また新しい堕天狗党の構成員が登場したようだが、今回は刃を交える事はなかったようである。
「しかし錬術殿、それでは暗号の意味はなんだっだのかのう? 拙者の推理は見当違いだったのじゃろうか」
「‥‥それはあたしも知りたいところね。結構いい線行ってたと思うんだけど‥‥毎回毎回、頭が痛いね‥‥私は難しい事を考えるのは苦手なのに」
 推理の根本を考案した三月天音(ea2144)と、ヘルヴォール・ルディア(ea0828)も藁木屋に問いかける。
「いや、いいところを行っているどころかほぼ正解だったのさ。方角を人間の身体に照らし合わせたり、カギとなるものを鏡に映す等、非常に核心を突いていた。だが惜しむらくは、最初の一文‥‥『心に剣を持つ者は、輝く勇気で敵を討つ』という一説を、意味のないものと考えてしまったのはまずかった。どうやらこれが『トランプに使われる4つのマーク』を意味する文面であり、東西南北の漢字ではなく、そのマークを基準に考えなければいけなかったようなのだ」
「そういや蒼眞が似たようなこと言ってなかったか? 仮面乗り手がどうとか」
「‥‥それ‥‥変‥‥。‥‥トランプのマークは‥‥全部、左右対称‥‥」
 お猪口を口に運びながら言う鎌刈惨殺(ea5641)。料理には見向きもせず、ぼそっと呟く幽桜哀音(ea2246)。どちらも藁木屋の説明に合点がいかないようで、それは他の6人も同様であった。
「確かにトランプのマークは、どれも鏡に映しても変わらないものばかりだ。だが逆に言えば、『鏡に映さなくても変わらない』ということになる。ならば何故その4つのマークが引き合いに出されるのか‥‥そして、何故正解が東の原町だったのか‥‥諸君ならすぐにお分かりいただけると思うが」
「‥‥そうか、そういうことだったのじゃな! つまり、『見方が変えられるのは左右だけとは限らない。天があれば地がある』と、そういうことじゃろう!」
「なるほどな‥‥正解は『違う見方ができないもの』ということか。確かに鏡に映しても、上下を変える事はできるな」
 三月、蒼眞はすぐに正解に思い当たったようだ。
 クローバー、スペード、ハートは逆さまにしてしまえば元の形を失ってしまうが、ダイヤは違う。上下左右のどこから見ても形は同じ‥‥鏡の国の姫が嫌いな『変わらぬ物』ということか。
「くっ‥‥分かってみれば単純だが、今回の場合、九割正解していても残り一割外してしまっては意味がない! やつらは今回のことで志摩の居場所を探り当ててしまったかもしれないんだ‥‥!」
「‥‥静吾、熱くなりすぎちゃ駄目よ。確かに探り当てたかもしれないけど、探り当ててない可能性の方が大きいんだから」
「そうそう、もっと気楽に考えた方がいいよ静吾さん。次は間違えないようにすればいいんだからさ♪」
 飲みながら聞く者(鎌刈)、食べながら聞く者(虎魔)、聞いてるんだか聞いてないんだかよく分からない者(幽桜)と反応はそれぞれだが、一同はしばし談義を続ける。
 折角の機会ともあって、蒼眞、蛟に堕天狗党の面々の人相、得意技、人物像などの情報交換も積極的に行われていた。
 と、不意に障子の外から声がかけられる。どうやら店の女中のようで‥‥何やら来客のようだが、藁木屋は8人以外を呼んだ覚えはない。いぶかしみながらも通してもらうことにする。
「ふっ‥‥聞いたぞ藁木屋。一回目は成功したようだが、今回は駄目だったそうではないか。余裕ゆえの油断か‥‥それとも、前回のがまぐれだったか‥‥」
 障子を開けて顔を出したのは、細面で縮れ毛の男。お世辞にも顔色がいいとは言えなく、タレ目が特徴的である。
「あん? なんだなんだ不景気なツラしやがってよぉ。折角のメシがまずくならぁ」
「‥‥誰‥‥? なんだか‥‥嫌な感じが、する‥‥」
「‥‥間殿、何故あなたがこんなところに。私はあなたを招待した覚えはないが」
「何、私も『偶然』この料亭に来ていたのだよ。厠の帰りに聞いた声を耳にしたものでな‥‥声をかけてみたら案の定というやつだよ」
 くっくっく、と含んだ笑いをする。
「‥‥藁木屋君、彼は?」
「直接的ではないにしろ、私の上司ですよ、蛟殿。間九塀(はざま きゅうへい)‥‥事務方で活躍なさっている、切れ者と評判のお方です。色んな意味でいい趣味をお持ちだとか」
 間があまり好きでないのか、藁木屋は皮肉っぽく答える。間は特に気にした様子もなく、それどころかにやりと笑って懐から拳大の小皿を取り出した。
「お褒めに預かり光栄だ。今日は九谷焼の皿を持ってきていてね‥‥君たちにも聞かせてあげよう」
 そう言って、指先で小皿をキンッと弾く。小気味のいい乾いた音が、すぅっと消えていった。
「いい音色だろ?」
「へぇ‥‥いいモノなのかい?」
「まぁな。我が家には古今東西の皿があってね‥‥まぁ、君たちには高級すぎるかもしれないが‥‥くっくっく」
 鎌刈の言葉に気をよくしたのか、またしても含み笑いをする間。もう終わりだとばかりに皿をしまい、元居た部屋に戻ろうとする。
「予てより近年江戸を騒がせている堕天狗党を追う冒険者とやらに興味があってね‥‥今日はお会いできて光栄だよ。まぁ今回の失敗はたまたまということにしておいて‥‥これからもせいぜい頑張ってくれ。少なくとも返り討ちにあって無様な屍だけは晒さないようにな‥‥ふっふっふ‥‥はっはっは‥‥!」
 盛大な皮肉と高笑いを残して去っていく間。冒険者一同は勿論、藁木屋も気分が良いわけがない。
「‥‥申し訳ない。間殿の非礼は私からお詫びさせていただく。どうか気を悪くしないで欲しい」
「藁木屋殿も大変じゃのう。部署は違えどああいう人間が上役とは」
「‥‥あの人‥‥変な感じがする‥‥。なんだか‥‥嘘をついてるような‥‥何かを、隠してるような‥‥」
「哀音さん、それってどういうこと? 僕たちに対するあの態度が嘘ってことかな?」
「‥‥そうは思えないけどね。あれは本気であたしたちを見下してる目だったよ、絶対」
 ヘルヴォールの呟きに全員が頷く。どうやら満場一致で『間久塀は嫌な奴』という認識が出来上がったようだ。
「まぁまぁ、戦えなかったのは残念だったが、美味いメシに酒も飲めた! 年始としては悪くなかったぜぇ!」
「急いては事を仕損じると言う。蛟君、ゆっくりでもいい‥‥確実に追い詰めていこう」
「はい、先生。今年もよろしくお願いします」
「では、そろそろお暇するかのう。読みきれぬ暗号ではない‥‥次は外さないのじゃ」
「じゃ、僕も帰るね。惨殺さん、また今度ね〜♪」
「‥‥仕方ないね。戦うだけが戦いじゃない‥‥いい情報が入ることを祈ってるよ」
「‥‥我に過去なし、未来なし‥‥。また今日も‥‥生き延びちゃった‥‥」
 興が冷めたのか、次々と帰路につく冒険者たち。まぁ料理も酒も平らげてしまったのだから、することがないといえばないのだが。
 そんな中、鎌刈だけがまだ座敷に残っている。
「よぅ、志摩が潰した抜け荷は背後関係まで洗えたのか? お主は今回の志摩の件、その圧力や思惑をどう思う?」
「‥‥正直、分からないことだらけさ。被害者が被害者だけに名乗りもなく‥‥沈んだ荷も引き上げるには難しい。さらに堕天狗党担当の私にも教えられない柄這志摩の居所‥‥君でなくとも不審に思うよ」
「俺には堕天狗が大悪の前の小悪に思えてならぬ‥‥まあそれは依頼とは無関係か。俺ももう武士では無いしな‥‥それに、そういうのに首を突っ込んで死ぬ奴も多い」
「不吉な事は言うものではない。君たち‥‥そして私たちは、脅威からこの国を守れればそれでいいのだから。きっとそれが、君の一族への弔いになる‥‥」
「脅威‥‥ね。この国にとって何が脅威で、何が脅威でないか‥‥それは歴史が決めることなのかもな―――」
 やがて鎌刈も席を立ち、宴の跡に取り残された藁木屋。
 協力してくれる冒険者のためにも‥‥少しでも多くの情報を入手しようと、決意は新たであった―――