鮮烈、堕天狗党! 〜蜻蛉奪還作戦・終〜

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月03日〜02月08日

リプレイ公開日:2005年02月07日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「あぁ、こんにちは。今日は一先ずの雌雄を決する依頼になりそうですよ。もうそろそろ藁木屋さんが来る予定なんですけど‥‥遅いですね」
 冒険者ギルドの若い衆こと西山一海は、依頼の紙をひらひらさせながらギルドの入り口付近を見やる。別に約束しているわけではないが、今日来ると本人は言っていたらしい。
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「‥‥うっ‥‥あ、あなたは‥‥!」
 と、いつから居たのか、入り口付近の柱に寄りかかっている女性を一人発見した。どうやら一海は知り合いのようだが、だらだらと嫌な汗を流して固まっている。女性の方は特に気にした様子もなく、面倒くさそうにぼーっとしているだけだ。
「‥‥その様子では話は進んでいないようだな‥‥。アルト、私は先に行って一海くんに追加情報を教えておいてくれと言ったのだが」
「‥‥だって面倒だったんだもの」
 どれくらい一海が固まっていたかは定かではないが、困ったように溜息をつく男‥‥奉行所同心、藁木屋錬術が顔を出したことで場が動き出す。アルトと呼ばれた長い黒髪の女性は、藁木屋に対しては積極的に会話していた。
「あぁ、すまない。アルトが話していないのなら私が話そう。今回は知らせが二つ‥‥一つは堕天狗党から挑戦状が届いたこと。もう一つは‥‥柄這志摩の処刑日時が決定したということだ。それによれば、どううまく見積もっても今回が最後の機会‥‥長かった一連の蜻蛉奪還作戦もこれで最後ということになるだろうな」
 志摩の処刑まで一週間程度。堕天狗党の本拠地がどこにあるか知らないが、そう立て続けに行動は起こせないだろう。切羽詰ってからの失敗は、志摩の処刑を早める結果にもなりかねないからだ。
「し、しかしよく志摩さんの処刑日時なんてわかりましたね。志士側が情報提供してくれたんですか?」
「まさか。居ないと公言している人間の処刑日時など、一介の同心に教えてくれはしないさ。まぁ情報源は富野邸の人間だがね」
 そう言って、ちらりとアルトと呼ばれた女性を見やる。もっとも、当の本人はあさっての方向を向いてぼーっとしているだけなのだが。
「彼女はアルトノワール・ブランシュタッド。詳しいことは伏せるが、密偵として私の力になってくれている女性でね。彼女が富野邸に潜入‥‥情報を仕入れてくれたわけだ」
「綺麗でスタイルもいいですけど、ぼーっとしてて面倒くさがり屋、さらに実は怖い人です」
「‥‥殺すわよ」
「ほらぁっ!?」
「アルト、今は仕事中だからやめてくれたまえ。一海くんも煽らないように。話を戻すとだね、今回も前回同様、矢立町の富野邸に堕天狗党はやってくる。総力戦で来るかと思っていたのだが、挑戦状には荼毘削岩鬼と安綱牛紗亜の二名が来るとしか書いていない。今までの経験則から言って嘘ではないと思うがね‥‥」
 前回失敗したからか、今回は挑発的な文面は無いらしい。だが来る人間を明記してあるのはどういう風の吹き回しだろうか。
「なんにせよ、今回で決着がつくわけですね。志摩さんが堕天狗党に奪還されるか‥‥それとも冒険者の皆さんが勝利し、処刑が執行されるか‥‥」
「そういうことになるな。奉行所の威信のためにも全力で支援する‥‥のが筋なはずなのだがね‥‥今回もこちらから援護は出来ない。理由は以前と同じ‥‥政治的な問題やら、有耶無耶にしてしまおうという思惑やら色々あるが、情けない話だよ」
「‥‥やめちゃえばいいのよ、そんなところ。そうすればもっと二人っきりの時間が増えるのに」
「そういうわけにもいかないさ。食べていくには働かないといけないし、それなりに気に入っているのだよ、今の職場が」
「‥‥『あんなもの』くらいならいくらでもあげるけど?」
「‥‥ヒモは御免被る。とにかく、どんな結果になっても私は恨まない。諸君が生きて帰ってくれさえすればそれで、ね。毎度君たちに運命を託しっぱなしで申し訳ないが‥‥頼んだよ」
 これで堕天狗党との戦いに幕が下りるわけではないが、大きな転機となる一戦になるかもしれないのである。
 成功か失敗か‥‥その鍵を握る相手は大座武と赤い流星である―――

●今回の参加者

 ea0828 ヘルヴォール・ルディア(31歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea2144 三月 天音(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea2246 幽桜 哀音(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea5414 草薙 北斗(25歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5641 鎌刈 惨殺(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6269 蛟 静吾(40歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea7029 蒼眞 龍之介(49歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7767 虎魔 慶牙(30歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●蜻蛉の行方
「押し通る! 必ず助けると言った手前、今日ばかりは負けられないのだよ!」
「今度は本気でいかせてもらう! 生半可なことでは退かんぞ!」
 雪の舞い散る夜‥‥富野邸前。挑戦状通りの日時、場所に、二人は現れた。即ち‥‥安綱牛紗亜と、荼毘削岩鬼。
 武器を刀身を真っ赤に塗った霞刀に持ち替えた赤い流星‥‥そして、前回の装備に手盾を追加した大座武。蛇足ではあるが、削岩鬼の装備は一律緑色に塗られ、縁だけ煌びやかな装飾が施されている。
 立ちふさがる8人を突破しようと試みるが、冒険者たちは素早く陣形を組んで二人を分断する!
 紗亜の相手はヘルヴォール・ルディア(ea0828)、三月天音(ea2144)、草薙北斗(ea5414)、鎌刈惨殺(ea5641)の四人。
 削岩鬼に対するは幽桜哀音(ea2246)、蛟静吾(ea6269)、蒼眞龍之介(ea7029)、虎魔慶牙(ea7767)と、丁度半々に分かれた格好だ。いずれも志摩奪還作戦を阻止しようと動いてきた手練である―――

●鋼の魂
「アンタが削岩鬼か。俺ぁ傾奇者、虎魔慶牙。覚えておいてくれ」
「荼毘削岩鬼‥‥お相手仕る」
「いよいよ、ここに纏わる戦も大詰めだな‥‥ボク達は負けない!」
「‥‥今度こそ‥‥死なせて‥‥貰える、かな‥‥?」
「ぬぅ‥‥話に聞く若き猛虎まで来おったか! 相手にとって不足はない!」
 削岩鬼の四方を囲むようにして展開する4人。正面に蒼眞、背後に蛟、右手に虎魔、左に幽桜という布陣を見回した削岩鬼は、一瞬の判断で振り向いた。つまり、蛟を正面に見据えたのである。
「伏龍の弟子! いざという時、重い一撃を放つ貴様が一番厄介だ! いの一番に潰す!」
「‥‥させ、ない‥‥」
 一番素早い幽桜がポイントアタックで削岩鬼の足を狙う。ブラインドアタックも併用しているが、削岩鬼はちらりとそれを見て、急所をずらした!
「‥‥効いて、ない‥‥!?」
「わははは、女の細腕が災いしたな! このようなかすり傷で怯む大座武ではないわっ!」
「くっ‥‥守りに入ったら負けだっ! 攻める!」
「その心意気は認めよう‥‥だがっ!」
 がずぅっ‥‥! 嫌な音が辺りに響き、蛟に重斧によるスマッシュが直撃する。受けに回ろうとしなかったのがまずかった‥‥!
「蛟君! くっ‥‥だが、今は!」
 蒼眞がソニックブームを放つが、すでに振り向いている削岩鬼は手盾で受け止め、無効化してしまう。蛟はすでに瀕死‥‥自分でヒーリングポーションを使って重傷にまでは回復し、立ち上がりはしたが‥‥。
「蛟、これを使いなぁ! 俺がやる! 強い相手こそ喧嘩の醍醐味! もっと楽しい喧嘩にしようぜぇ!」
 虎魔がヒーリングポーションを蛟の方に投げ、続けて削岩鬼へポイントアタックを仕掛ける! 流石に虎魔の腕力と斬馬刀でポイントアタックを受けては、いくら軽減しても軽傷にはなってしまう!
「まさかこんな技を持っているとはな‥‥先ほどの女といい、驚いたぞ!」
「はぁっ、はぁっ、戦線復帰だ‥‥ボクも、まだやれる!」
「大人しく寝ていれば命までは取らんものを‥‥よかろう! とことん相手してやるわっ!」
 現在の戦況‥‥冒険者側、無傷4名。荼毘削岩鬼、軽傷。
 この状況が、果たしてどう動くのか―――

●流星、夜を切り裂いて
「志摩の処刑日が決まったのはお前らも知っているんだろ? 一体どこにそんな二人で来るなんて余裕があるのだ。お前ら志摩を見殺しにするのか」
「‥‥挑戦状を出すのは‥‥志なの?」
「余裕など無い‥‥だがぞろぞろ数を揃えて強襲をかければ、よく言えば奉行所、悪く言えば野盗と変わらん。それを回避するための挑戦状‥‥それに、見殺しにする気も無い!」
 鎌刈、草薙の言葉に、搾り出すように答える紗亜。普段冷静な紗亜だが、自分でも気づかないうちにかなり昂っているようだ。
「‥‥あんたが何を想って堕天狗党に手を貸してるのかは知らない‥‥でもね、本心を偽って戦っているあんたは‥‥認める訳にはいかない‥‥違う? ‥‥いいや‥‥その仮面で素顔を隠す‥‥それは、あんたの本心をも隠してる‥‥私にはそうとしか思えない‥‥だから私も顔を隠す‥‥本当のあんたを引き摺り出す為にね?」
「‥‥今はそんなことはどうでもいいのだよ。志摩の救出が先だ!」
 小面を被り、紗亜の面頬に対を成すようにするヘルヴォール。思うところがあるのか、一瞬戸惑った紗亜ではあったが、すぐに思考を切り替えて三月へと斬りかかる。魔法を撃たれるのが厄介と判断したのだろう。
「数を減らしたいのは分かるが‥‥わらわが一番倒しやすいと思っておるのか!?」
「まずは頭を叩いておきたいのだよ!」
 短刀で受けようとしたがギリギリ避けられなかった三月をシュライクで重傷に追い込み、続いて草薙を標的とする!
「シュライクじゃない! 微塵‥‥あれっ!?」
「そうそう成功するものではない!」
 回避に磨きをかけた草薙にシュライクを使っては当たらないと思ったらしく、紗亜は通常攻撃で草薙を中傷にする。高速詠唱での微塵隠れが失敗してしまったのが痛い! そして恐ろしいことに、紗亜はまだ動く!
「‥‥いくよ‥‥赤い流星」
「望むところ‥‥紅蓮の闘士!」
 ヘルヴォールのブレイクアウトを見切り、カウンターアタック+シュライクで反撃する紗亜。さしものヘルヴォールも重傷状態に陥ったが、彼女が携帯していた身代わり人形が砕け散ると同時に、その傷が完全に塞がる!
「ちぃっ‥‥まさかそんな物を‥‥!」
「‥‥これが、今の私の精一杯だよ。‥‥紅蓮の闘士、ヘルヴォール・ルディアは今ここに宣言する‥‥安綱牛紗亜‥‥いつか私が‥‥あんたの、その仮面の下の涙を拭ってやる‥‥あんたは、私が‥‥倒す!」
 カウンターに更なるカウンターを当てる‥‥これには流石の紗亜も避けきれず、重傷の傷を負う。すぐにヒーリングポーションで中傷にまで軽減するが‥‥。
「悪いな、俺も居るんだ。だが、このままでは隠したいことは闇の中、得をする者は誰なのか‥‥くそ‥‥」
 フェイントアタックで追撃し、さらに軽傷を与える鎌刈。当てることが重要だと考えたのか、二回目の攻撃もフェイントアタック! 再び重傷に戻される紗亜‥‥ヒーリングポーションを再度使うが、それでネタ切れらしかった。
「備えは万全じゃからのう。今度はさっきのようにはいかんのじゃ!」
「回復‥‥っと。志摩さんがこのまま処刑されちゃうのは癪だけど‥‥ここは通せないよ」
 見れば草薙と三月も薬で回復しており、紗亜は不利になる一方だ。さらに、三月はフレイムエリベイションも発動しているのだから始末に終えない。
「紗亜! 苦戦しておるようだな!」
「そちらも! あなたがそこまで傷を負ったのはいつ以来かな!」
「ふふふ‥‥さてな。これが志摩奪還作戦でなければ、いつまででも戦っていたいものよ!」
 削岩鬼も重傷一歩手前だが、幽桜、蒼眞が中傷。虎魔と蛟は無傷だが、すでに携帯する回復薬は使い切っている。このままではどちらかに死人が出るのは確実‥‥!
 ‥‥と、その時だ。富野邸の門が開かれ、一人の白装束の女が歩み出てくる。
 堕天狗党の二人は勿論、冒険者の中にもその女が誰なのかすぐ分かる者が居る‥‥!
「‥‥もういいよ。このままじゃあんたたちが死んじまう。アタシは‥‥ここまでさ」
 柄這志摩‥‥まだ処刑まで時間はあるはずだが、彼女が着ているのは間違いなく死装束だ。
「志摩‥‥しかし‥‥!」
「いいんだよ、アタシよりもあんたたちのほうが堕天狗党に必要なんだ。今あんたらを失うわけにはいかないだろ? それに‥‥アタシも疲れたよ、故あれば裏切るような生活に。堕天狗党に参加したことは後悔してない‥‥先が見れないのが残念ではあるけどね」
「‥‥志摩、おまえさんを捕まえた俺らが言うのもなんだが‥‥背後の者を教えてくれないか? お前が処刑されて誰が一番得をする‥‥?」
「志摩さん、なんとかならない!? 生き延びてさ、償いながら生きようよ!」
「嘆きの鎌華、か‥‥アタシたちは損得で動いてるわけじゃないからね、別に隠すことも無いか。京都付近に本拠を持つ商人組織‥‥とだけ教えておくよ。そっちのちび忍者にも答えたげるけどね‥‥アタシたちは生き方を曲げない。そう決めて集まったんだ。謝るくらいならこんな真似、最初からしないのさ」
 鎌刈と草薙の問いに、淡々と答える志摩。もはや覚悟は決まって、変えようが無いようだ‥‥。
「‥‥同じ志士として、認めたくは無い。明けない夜(陰謀)なんてない、いつか分かり合える時が必ず来る‥‥そう、思うのに‥‥!」
「蛟君、彼女が決めたのならそれをとやかく言う権利は我々には無い。志士も、侍も、浪人も‥‥『武士』には違いないのだから」
「それでも‥‥悲しいのう、こんな結末は‥‥」
「‥‥いいな‥‥はっきりした死に場所、見つけられて‥‥」
「しょうがねぇや。この世から強いやつがまた一人消えちまうのは残念だけどなぁ」
 不思議と穏やかだった。死を眼前に迎えているからか‥‥それとも、相手が彼らだったからか。志摩は数年来の笑顔を浮かべ、短刀を自らの首筋に当てた。
「その二人は見逃してやってくれ‥‥言えた義理じゃないが、アタシの最後の願いだ。あんたたちにもっと早く会えてたなら‥‥また、違ったかもしれないね‥‥」
 短刀がすっと動き‥‥新雪に鮮血が舞い散る。動かなくなった志摩が再び富野邸に運び込まれたことも、紗亜と削岩鬼が無念を堪えて撤退したことも‥‥8人にはまるで他人事のようだった。
「‥‥鮮烈なる風‥‥取り敢えずは止んだね‥‥でも、また次の風が来る‥‥今度は嵐かもね‥‥」
 はっきりしていることは‥‥ヘルヴォールが呟いた、新たな戦局の予感だけだった―――