鮮烈、堕天狗党! 〜蜻蛉奪還作戦其の肆〜

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 8 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月21日〜01月26日

リプレイ公開日:2005年01月26日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「さて‥‥先日お約束したとおり、天の蜻蛉こと柄這志摩の居所を突き止めた。同時に、堕天狗党からの挑戦状も届いたことも合わせて知らせに参上」
 季節は冬‥‥江戸にも雪が降ろうかという寒さの中、冒険者ギルドの入り口から男が入ってきた。
 藁木屋錬術。奉行所で堕天狗党の事件を担当しているという同心である。
「おやおや、寒かったでしょう。お茶飲みます?」
「今は結構。依頼の説明を優先したいのでね」
 冒険者ギルドの若い衆‥‥西山一海の勧めをやんわりと断り、冒険者たちへと向き直る。
「まずは堕天狗党の挑戦状から聞いていただこう。一海くん、君はこういう類のことが得意だったね‥‥頼めるか?」
「お任せを。えーっと‥‥『必死の捜索の甲斐あり、我らはついに蜻蛉の居場所を特定した。その命の炎が消える前に必ず助け出すもの也。冒険者に頼るもよし‥‥人数を集めて守りを固めるもよし。小細工はこれまで‥‥後はぶつかるのみである』‥‥随分簡素ですね。以前みたいにノれる内容じゃないです」
「挑戦状にノれるもノれないもあるか。今回は暗号は無し‥‥自分たちで調べろということらしかったのでね、少しばかり危ない橋も渡ったが何とかした。現在柄這志摩が囚われているのは『江戸の西方向、矢立町にある富野邸』だ。そう、前回依頼を受けてくれた面々が行った所だな。どうやら少々時節が悪かったようだ」
 答えに速く辿り着きすぎていた、といったところだろう。だがそこに蜻蛉が囚われているならば、堕天狗党は必ずそこにやってくる。それこそ、やつらからの挑戦状ではないが『ぶつかるのみ』というわけか。
「しかし‥‥今回のケースだと奉行所は人海戦術は取れませんね。いくら狙われている故の警備とはいえ、志士の屋敷を取り囲んだりしたら大問題ですし。志士側も『そんな人間はここにはいない』と言えばそれまで‥‥挙句人数集めて奪還を許せば、それこそ世間の笑いもの‥‥」
「‥‥君は妙なところで鋭いな。まさにそのとおり‥‥今回は完全に冒険者の諸君頼りになってしまう。どうやら上は挑戦状を握りつぶし、無かったことにするらしい。どうせ志士側もそんな事実はないと言い張っているわけだから、これ幸いに‥‥というわけだ。だがそれは当然表向き‥‥私にはしっかりお叱りが来るのだから困ったものだよ」
 やれやれとため息をつく藁木屋。愛用の外套が揺らめくのが、今日はそこはかとなく憂鬱な感じである。
「現在分かっているのは、富野邸に堕天狗党がやってくるという事実だけだ。密偵の情報では、最近頻繁に現れている白い忍者はやってくるのではないか、とのことらしい。今回は真っ向からの迎撃戦だ‥‥向こうも本気で命のやり取りをしに来るだろう。無理はしなくていい、絶対に死なないでくれたまえ」
 真摯に念を押して、藁木屋はギルドを出て行った。マントを翻すことも無く、ただ静かに。
 堕天狗党の実力行使が始まった今‥‥もう失敗は、許されないのかもしれない―――

●今回の参加者

 ea0828 ヘルヴォール・ルディア(31歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea2144 三月 天音(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea2246 幽桜 哀音(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea5414 草薙 北斗(25歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5641 鎌刈 惨殺(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6269 蛟 静吾(40歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea7029 蒼眞 龍之介(49歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8896 鈴 苺華(24歳・♀・志士・シフール・華仙教大国)

●リプレイ本文

●正面から‥‥それが信念
「ファイヤーボムをくらうのじゃっ!」
 ごぅんっ! 爆音と共に火球が広がる。
 三月天音(ea2144)の放った魔法は正面の門方向からやってきた二人の男を完璧に巻き込み、炸裂していた‥‥が。
「ふふふ‥‥なるほど、場所を特定しただけのことはある‥‥かすり傷程度だが、なかなか手荒い歓迎ではないか。なぁ、松岡よ」
「は‥‥まったくで。私はとっさに回避を試みましたので、なんとか無傷でで済みました」
 殆どダメージを受けていない様子で歩み出る二人の男。これには流石に三月も驚きを禁じ得ない。
「既に気づかれたかと思うが堕天狗党が現れた、ここは我らが止めるが気をつけられよ!」
 だが、うろたえてばかりもいられない‥‥蒼眞龍之介(ea7029)は門越しに屋敷の人間へと言葉を投げた。万一のため、きちんと備えてくれればいいのだが‥‥。
「‥‥なんだ? この感じ‥‥先生、この二人‥‥思っていた以上に手強そうです! みんなも気を抜くな!」
「ご丁寧に全員正面から来るとは思って無かったけどなあ‥‥今日は堂々と正面で待ち構えてみたぞ」
 直感的に相手の実力を悟った蛟静吾(ea6269)が、全員に号令をかける。藁木屋に頼んで放ってもらった密偵を気にしつつ、鎌刈惨殺(ea5641)も日本刀ではなく長巻を構えた。
「わははははは! なるほど、嵐馬が言うだけあっていい面構えばかりだ。これは楽しめそうというものよ。俺は荼毘家三男、荼毘削岩鬼(だび どりる)! 大座りの武(おおすわりのもののふ)‥‥縮めて大座武(だいざむ)よ!」
「某は松岡進(まつおか しん)‥‥白鷹(はくよう)と異名をとる忍者だ」
 削岩鬼は大鎧にレザーマント、武者兜という超重装備。さらにその手に握るのは重斧‥‥あれでは並の人間では動くことすら出来ないはず。
 逆に松岡は、忍者刀を装備している以外は装束のみという軽装ぶりだ。
「松岡‥‥松岡‥‥どこかで聞いたような気がするんだけどなぁ。ところで、今までの暗号を考えた人ってあなたなの?」
「‥‥実力差があるなら、その差を埋める戦い方をする‥‥それだけだよ。余計なことは考えないほうがいい」
 弱気‥‥というわけではなく、一瞬訝しげな声を上げた草薙北斗(ea5414)を焚きつけるように、ヘルヴォール・ルディア(ea0828)も刀を抜いた。空いた手には、軍配など握られている。
「志摩を奪還するには貴様らを倒すしか道は無いようだな。よかろう、好きな陣形を組めぃ! 正面から相手をしてくれるわ!」
「あ、言ったね? 後悔しても知らないよ!」
「あなたが‥‥私を、殺して‥‥くれるの‥‥?」
 頬の傷を隠すことなく、豪快に言ってのける削岩鬼。鈴苺華(ea8896)はちょっとプライドが傷ついたのか、少々憤慨している。そして幽桜哀音(ea2246)がいつものように、ゆらゆらと刀を抜いた瞬間。
 ボンッ! 不意に松岡の近くに煙が巻き起こり、一匹の巨大なガマが姿を現す‥‥!
「人数的に不利だからな‥‥大ガマの術くらいは使わせていただく。それでは、松岡進‥‥参る!」
 8VS3。数の上では冒険者有利だが‥‥戦いは、数だけでは決まらない―――

●恐怖、機動大座武
「うわははははは! 貴様らの攻撃はその程度か!? 効かぬわっ!」
「‥‥強い‥‥この人‥‥本当に、人間‥‥?」
「なんという馬鹿力‥‥そして耐久力じゃ! ファイヤートラップでさえ大した傷にならんじゃと!?」
 幽桜、三月、草薙、鎌刈ヘルヴォールの5人が連続攻撃を仕掛け、それらすべてを喰らっているのに。あらかじめ仕掛けておいたファイヤートラップに誘い込み、それを炸裂させてなお‥‥削岩鬼は軽傷程度のダメージしか受けていない。
 凄まじい重武装とデッドorライブでダメージを軽減し、日本刀の一撃をまるでものともしないのだ。幽桜のブラインドアタックも三月の小太刀も歯が立たない。
 かろうじて三月の魔法が有効なようだが、戦闘中に再びファイヤートラップを仕掛ける余裕は無いだろう。
「さぁ、この一撃を凌いで見せぃっ!」
 重斧から繰り出されるスマッシュ‥‥直撃すれば命の危険がある!
「避けられない‥‥! ならっ!」
 ドガァァァンッ! 爆音と共に草薙の姿が掻き消える。攻撃があたる寸前に微塵隠れで回避したのはいいが、削岩鬼にはその爆風も殆ど効いていない。
「ちっ‥‥なんてやつだ。あの装備で格闘技術は達人級‥‥流石に動きは鈍いが、一撃もらったら死人が出かねないぞ」
 鎌刈にしてみれば、長巻でリーチを長めに設定しておいて正解‥‥というところだろうか。
「‥‥当たってるのに殆ど効かないなんてね。圧倒的じゃないか‥‥!」
 フェイントアタックもブレイクアウトも必要ない。素で直撃させているのにかすり傷では、ヘルヴォールでなくても悔しいはず。
「この荼毘削岩鬼‥‥座して大きく動かぬことから大座武と呼ばれている。俺が本気を出した暁には、貴様らなどあっという間に叩いて見せるわっ! そうだな‥‥俺にまともな刀傷を負わせることが出来たら退いてやろう!」
 地面にめり込んだ重斧を担ぎなおし、削岩鬼は不適に笑う―――

「くっ‥‥この蛙も速い!? 先生、気をつけ‥‥うわっ!?」
「蛟君! なるほど‥‥こちらを先に潰しに来たか!」
 創造主と同じくらいの凄まじい回避を見せる大ガマ。その打撃は強力で、間違っても当たるわけには行かない。
「このぉっ! キミの相手は僕だよっ!」
「松岡家の家名にかけて、千日手と分かっている戦いをする気は毛頭無い!」
 大ガマは蒼眞へ‥‥松岡は蛟へと目標を定め、撃破に当たっている。鈴の回避侮り難しと見た松岡は、やられても実害の無い大ガマを一番の手練へぶつけ、自分は二番目に厄介な相手をすることに決めたのだ。
 『どうせ鈴には自分も大ガマも当てられない‥‥向こうも当てられはしない。なら、無視するが上策』と考えたのだろう。
「‥‥御影一族‥‥甘く見るな」
 一瞬‥‥まさに一瞬でブラインドアタックを発動し、大ガマを捉える蒼眞。中傷を負った大ガマが反撃するが、それを回避! 流れるように流麗に‥‥的確な攻撃を繰り返し、大ガマを葬り去った。
「流石先生‥‥先生、そのまま援護をお願いできますか!?」
「承知した!」
 蒼眞が放ったソニックブームをギリギリで回避する松岡。だがそこに蛟が突っ込み、ブレイクアウトで体勢を崩す。そして追撃の一撃!
「むぅっ‥‥甘く見たか! だがっ!」
 松岡の反撃が蛟に直撃し、お互い中傷となる。しかし動きの速い松岡は今一度蛟を狙おうとする!
「させないよっ! こういう邪魔をされたら蛟さんを狙えないよね!」
 不意に松岡の背後から鳥爪撃を放つ鈴‥‥松岡もそれに気づいて回避したが、これを何度もやられたらいつか当たる可能性もある。
「くっ‥‥相性が悪い! 削岩鬼様、そちらは!?」
「この忍者の子供がチョロチョロしおるから梃子摺っておる。女を二人ほど片付けたがな」
 見れば三月と幽桜が瀕死の重傷を負っており、殆ど動けないでいる。草薙が二度目の微塵隠れ避けを見せるが、そうそう何度も成功しないだろう。
「おい蒼眞、こっちを手伝ってくれ! この男‥‥やば過ぎる! そっちの忍者は無視しろ!」
 鎌刈が長巻の一撃を当てながら叫ぶ。相変わらずダメージは期待できないが、攻撃しなければ攻撃される一方なのだから仕方が無い。
「‥‥北斗がやられたら、私たちじゃ長く保たせられない。詠唱を失敗したら草薙も死ぬ一歩手前だよ、あの斧攻撃‥‥!」
 ヘルヴォールも続けて攻撃し、少しでも草薙への攻撃を遅くしている。
「仕方あるまい‥‥蛟君、行ってくれ。この中では君の攻撃が一番破壊力がある」
「‥‥はい! 蒼き水龍の名の下に‥‥これを、喰らえぇぇぇっ!」
 蒼眞と鈴が松岡を足止めし、蛟が中傷のまま削岩鬼に向けて走り出す。普段より軽い霞刀を装備しているので、ダメージは軽くなってしまうかもしれないが‥‥今はこれしかない!
 スマッシュEX‥‥普段なら当てることさえ難しい技。だが削岩鬼はそれを真っ向から受けて立つ!
 ざぐっ‥‥! 耳障りな音を立てて、削岩鬼が装備している大鎧に刃が食い込む! だが武器の重量が足りなくてスピードが乗らないのか、それすらもデッドorライブで軽減され、軽傷に止まる‥‥!
「ふ‥‥ふははははは! まさかその怪我でスマッシュEXを当ててくるとはな‥‥面白い! 約束どおり退くとしよう!」
「し、しかし削岩鬼様‥‥志摩の奪還は‥‥」
「この俺に恥を掻かせる気か? まだ何とか時間もある‥‥あのお方には俺が謝罪しておこう。松岡、行くぞ」
「‥‥御意」
 踵を返し、本当に去っていく二人。松岡は心残りがありそうだったが‥‥志摩を目の前にして、退いて行ったのである。
「たまに真正面からやってみようと思うとこれだ‥‥向こうのほうが真正面から戦うのに適してやがる」
「‥‥はやく天音と哀音の手当てをしないと。一撃で瀕死までもっていくなんて‥‥半端じゃないよ、あの斧の威力は‥‥」
「結局撹乱しか出来なかったなぁ‥‥奥義が当てられないんだもん」
「‥‥‥‥まだ‥‥逝けない、の‥‥‥‥私‥‥‥‥?」
「命は大切にしなよ〜。死ぬのなんていつだって出来るんだからさ。僕も微塵隠れでヘトヘトだよ」
 敵は追い払った。依頼の失敗条件である重傷者も規定の数を越えてはいない。だが‥‥どうにも後味が悪い一戦だったのは確かだろう。
「嵐馬殿に伝えられよ、私は待っている、と」
 堂々と歩み去る二人。その背中に蒼眞がかけた言葉に‥‥削岩鬼は振り返らず、ただ手を上げて応えたのだった―――