不落、堕天狗党! 〜樺太家のご令嬢〜

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月22日〜03月01日

リプレイ公開日:2005年02月24日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「さて‥‥冒険者のみなさんの活躍のおかげでというかなんというか、堕天狗党も少し息を潜めた‥‥と言いたい所なんですが、実はそうではないようです。柄這志摩の葬儀とかしていたのか分かりませんが、ちょっと間を空けただけで活動再開みたいですね」
 冒険者ギルドの若い衆‥‥西山一海は依頼の紙をひらひらさせながら言う。その横でいつものように茶を啜っているのは、堕天狗党事件担当の奉行所同心、藁木屋錬術である。
「とは言っても、今回は少々微妙な感じでね‥‥いつもとは毛色が違う。つい先日、江戸から2日ほど東に行った村が小鬼の群れに襲われたことは知っているかね? 農民や役所の人間が一致団結して、それを撃退したのだが‥‥村の被害は割合大きく、怪我人も多数出てしまったらしい」
 そんな中、ふらりとやってきた4人の旅人たちが村の復興に手を貸し始めたとのこと。いずれも堕天狗党と名乗っているが、事実は定かではない。
 だが堕天狗党と名乗られては、例えニセモノだろうと本物だろうと赴かないわけにはいかないのである。
「怪我人を治療する僧侶の女性が一人と、そのお付の浪人が一人。あと、未確認の浪人が一人と螺流嵐馬‥‥でしたっけ? 情報が不鮮明な人ばっかりじゃないですか」
「‥‥一応調べてきたわよ。とは言っても、直接村に行って見てきたわけじゃないけど」
 と、不意に背後から声をかけてきたのは、藁木屋の情報源、アルトノワール・ブランシュタッドである。いつものようにかったるそうに、気だるく続けた。
「‥‥本人たちが名乗った名前は、僧侶が『樺太愛音(からふと あいね)』尼だけど剃髪はしてないみたい。そのお付の浪人は『発札法州(はつふだ のりす)』。太刀を持ってるって事くらいしかわからないわ。髪を指でくるくる回して弄る癖があるのが『荼毘業(だび かるま)』。こっちは浪人の癖に刀を持ってないとか。螺流嵐馬は面倒くさいから割愛」
「知らない名前が大半だな‥‥業とかいう浪人は削岩鬼の兄弟か何かかね?」
「‥‥さぁ。そこまでは知らないけど、錬術がそう思うならそうなんじゃない?」
「出た、藁木屋さん贔屓」
「‥‥殺すわよ」
「ご、ごめんなさいぃぃぃっ!(がくがくぶるぶる)」
「あー、二人ともやめたまえ。とにかくだ、件の村に行き、その四人を調べてきて欲しい。やっていることが復興の手伝いだけに、手荒な真似をすれば村の住人に奉行所が悪者扱いされてしまうからな‥‥できれば穏便に。今回は調査くらいで構わないが、相手が本物なら捕縛を試みてくれても構わない。まぁそれは状況次第ということで頼む」
 要はその村に行き、四人が本物の堕天狗党員であり、可能であれば捕縛実行。偽者なら厳重注意で充分といったところだろうか。
 復興を手伝うという堕天狗党‥‥その真意は如何に―――

●今回の参加者

 ea0828 ヘルヴォール・ルディア(31歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea2246 幽桜 哀音(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea5641 鎌刈 惨殺(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea5902 萩原 唯(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea6269 蛟 静吾(40歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea7029 蒼眞 龍之介(49歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7078 風峰 司狼(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea9275 昏倒 勇花(51歳・♂・パラディン候補生・ジャイアント・ジャパン)

●リプレイ本文

●復興の中で
「‥‥いや、こんなところで君みたいな人に会うとは思ってもみなかった。堕天狗党員は皆戦人の類かと思っていたよ。まさか君のような人がいるなんて、驚いた」
「そ、そうですか‥‥? 私なんて、御仏の御意思より兄を優先してしまった愚か者です‥‥」
 先行組が件の村に到着して、2日ばかりが経ったころ。夕暮れ時に二人っきりで話しているのは、風峰司狼(ea7078)と樺太愛音である。
 堕天狗党を名乗る四人‥‥特に螺流嵐馬の人相は後発組に聞いていたものと合致し、本物であると先行組の四人は結論付けたのである。
「髪は剃っていないんだな」
「や、やっぱり変でしょうか」
「いや、剃って無い方が全然いい」
「嬉しいです‥‥司狼」
 気が合うのかなんなのか、この二人は挨拶をした直後からお互いが気になっているようである。山々の間に沈んでいく夕日を横目に、風だけでなく時間さえもゆっくり流れているような気がした。
「‥‥愛音‥‥何か‥‥手伝い、要る‥‥? って‥‥」
「あら‥‥お邪魔だったみたいですね」
「いいわねぇ‥‥青春ねぇ」
 と、残りの先行組、幽桜哀音(ea2246)、萩原唯(ea5902)、昏倒勇花(ea9275)の三人がひょこっと顔を出し、なんとなくいい雰囲気だったその場をぶち壊す。
「べ、別に邪魔だなんてことは‥‥」
「わかったわかった、遊んでないで手伝うよ。愛音も、そろそろ晩飯の準備があるんじゃないか?」
「あ‥‥そうでした。では、みなさん、失礼しますね」
 やんわりと微笑み、愛音は住居の一つに消えていく。最近は村の住人が、共同で大人数の夕飯を作っているため、人手はいくらあっても足りないのである。
「で‥‥実際のところどうなの? 花の乙女としては、ちょっと嫉妬しちゃうわっ」
「‥‥自分の名前‥‥呼ばれてるみたい、で‥‥何か‥‥複雑‥‥」
「やかましい。それについては何も言わん」
 昏倒と幽桜が何やら言うが、風峰は全く取り合わない。
「そんなことより、今の状況を整理しましょう。丁度日も経って来ましたし」
 萩原が苦笑い混じりで場を閉め、四人はやっとこさでまともな談義を開始した。
「‥‥堕天狗党の四人は‥‥やっぱり、本物‥‥。あの身のこなし‥‥絶対、素人じゃない‥‥」
「そうねぇ。復興作業中も辺りに剣の結界を張って気を配るなんて、相当の手練よ」
「村の復興は7割近くまで済んでますね‥‥後続組も明日には村に着くでしょうから、作業もなお進みます」
「問題は特になし‥‥怖いくらいに、な」
 そう、今のところまるで問題がないのだ。確かに堕天狗党の四人は本物だったが、今回は捕まえてきてほしいと言う依頼ではないし、向うからもこちらからも戦闘を仕掛けようとする人間はいない。
 風峰にいたっては、樺太愛音とちょっといい雰囲気だったりする。
「そうです、風峰さん。あなた、愛音さんから何か聞いてませんか?」
「だから俺に振るなとゆーに」
「仕方ないじゃない、あなたくらいしか望みがないのよ。私たちには言いにくくても、ちょっと気になる人には言えることってあるじゃない?」
「しかしな‥‥俺が聞いたことっていったら、愛音には兄がいて、そいつも堕天狗党員。親は父親を亡くし、母は行方不明。今は行脚として堕天狗党に参加していて、復興参加理由は内緒‥‥。兄が近々この村に合流予定だ、とかくらいだぞ」
「‥‥その人‥‥一人で‥‥? もう、村の復興‥‥終わるのに‥‥?」
「応。あとは後続組が螺流嵐馬から何か聞きだせるかってとこだろ。俺の二つ名と顔は知ってるみたいだったが、いかんせん繋がりが薄いからな」
「‥‥私も‥‥知られてた‥‥。意外、だったけど‥‥」
「‥‥実は、あたしも知られてたりしたのよね‥‥」
「え。さ、最終兵器?」
「そう、最終兵器」
 萩原が引きつった笑顔で固まる遥か西から‥‥夕日は沈みきり、夜の帳が降りて来るのだった―――

●今日の友は明日の敵‥‥?
「そうか‥‥君たちか。ということは、3日前にふらっとやってきた四人組も、冒険者ギルドの依頼で‥‥といったところだな」
「あっさりバレたなぁ。まぁ俺も昔はこういう村々を見ては、兄上と手伝いをして回ったものだ、はっはっは!」
「‥‥だからって肯定することないと思うよ、私は」
 翌朝、復興作業の最中に現れた後続組の四人を見た螺流嵐馬は、即刻そういう答えに至った。
 即ち‥‥ヘルヴォール・ルディア(ea0828)、鎌刈惨殺(ea5641)、蛟静吾(ea6269)、蒼眞龍之介(ea7029)の四人である。
 もっとも、笑いながら認める鎌刈も鎌刈であったが。
「いや、堂々と名乗ろうとは思っていたけど‥‥まぁいいか。螺流嵐馬殿、今回僕らは支援物資を村のために持ってきた。特に争いを起こす気もないが‥‥そちらはいかがか」
「願ってもない。ふ‥‥しかし復興作業とはいえ、君たちと轡を並べることになろうとはな」
「嵐馬殿とは剣でなくじっくりと話したいものだ‥‥もっと別な形で」
 蒼眞も先行組との繋がりをとぼけることを諦めたのか、 素直な意思表示をする。それは嵐馬も同じらしく、野太刀から持ち替えた太刀を置き、地面に座って休憩とする。
「嵐馬殿‥‥それは危険だよ。彼らは強力な障害となる‥‥いや、なってきた面々だ。志摩殿奪還作戦を見事粉砕したのは彼らなのだから」
 と、住居の扉を開けながら一人の男が現れる。指で自分の前髪をくるくる弄ぶ、容姿端麗な男‥‥彼が荼毘業であろう。
「‥‥人死にを出したばかりだからね‥‥できれば荒事にしたくは無いよ」
「ふ‥‥どうだかね。まぁいい、私は新しい家の建築に手を貸してくる。手助けしてくれるというのなら好きにするといいさ」
 そう言って業はクールな笑みを浮かべて去っていく。樺太愛音と発札法州も一礼して業に続いていた。
「‥‥あ‥‥まぁいいや、渡す機会はまだあるだろうしね‥‥」
 ヘルヴォールは愛音に柄這志摩の血を吸った紙を渡そうとしたらしいが‥‥とりあえず今のところはお預けだ。
「さて‥‥では、再開といくか。君たちもやるか?」
「ふ‥‥御助力しよう」
 蒼眞も微笑み返し、一同は嵐馬が行っていた道端の穴埋めを手伝うこととなったのである―――

 それから3日ほど‥‥8人(すでに合流した)は堕天狗党の4人からなるべく話す機会を設けながら復興作業を続けた。
 ヘルヴォールは無事に愛音へ紙を渡したし、幽桜と風峰は愛音とより仲良くなったようだ。昏倒は法州との練習試合でときめいた(ぉぃ)と言い、蛟は業との会話で『ある計画』が始まるということを聞き出している。
 そして‥‥彼らは。
「‥‥志摩の処刑に関った黒幕をあんたらは最初から知っていたのか? 志摩が言っていたんだ‥‥京都の商人組織のことをな。何か心当たりがあれば教えてくれ。俺は‥‥連中を生かしておく気にはなれん。それに従った志士も江戸の連中もだ。だが抜け荷も継続させる気は無い。志摩の情報入手経路などあると助かるんだが」
「‥‥不器用だな、君は。その道は孤独であり、苦難に満ちているだろうに」
 江戸に戻る前日‥‥酒を酌み交わしながら、鎌刈と嵐馬は語る。宵の月は今日も変わらず、ただ優しく万物を照らす‥‥。
「さぁ、な‥‥血筋なんだろうよ。まぁ今回も変わらん。おまえらが俺にとって潰すべき存在でない限りな」
「風峰君にも言ったが‥‥我々は悪人だ。どう取り繕おうが、少なくとも前科のある私は。だが世の中には『必要悪』という言葉もある。確実に存在するからこそ、悪であるにもかかわらずもったいぶった『必要悪』などという名を与えられる―――」
「‥‥答えになってないぞ」
「‥‥やめておけ、ということだろう。嵐馬殿は暗に君にまで必要悪になって欲しくないと言っているのだ」
「蒼眞か。立ち聞きとは趣味が悪いな」
「僕もいる。嵐馬殿‥‥必要であっても、それは『悪』に違いない。それも分かっていて‥‥」
 蒼眞と蛟がすっと姿を現す。どうやら嵐馬が呼んだようだが‥‥。
「そうだ‥‥我らは悪。それを討つのは冒険者の君たち。そうであって欲しい‥‥いや、そうでなくてはならないと思っている。‥‥だが、その時は今ではない」
「知りたければ力ずくで来い‥‥か? わけがわからん」
「ふ‥‥答えを急くのはよくないということだ、鎌刈君。どうせこの村の復興が完了すれば、対立することになる」
「それは‥‥業君が言っていた『ある計画』とかいう‥‥?」
 嵐馬はお猪口を飲み干すと、蛟の問いに答えないまま月を見上げ続けた。
 敵と語らうこの時を、惜しむかのように―――

 翌日、村を去る間際。
「萩原‥‥唯だったね。また会えるかい?」
「え? わ、私ですか!?」
「そうだ。次は敵同士だとしても、また会いたい。村の子供たちに優しく接する君は、とても輝いていた‥‥」
 業が萩原を口説いたり(結局返事はしなかった)、昏倒が村の子供たちに飴玉を貰って思わず涙ぐんだとか、様々あったが‥‥。
「‥‥またな、愛音」
「はい‥‥司狼」
 情が移ればお互い辛いだけなのかも知れない。それでも‥‥初めて共有した、敵味方を越えた時間。
「‥‥連中の行動が悪ばかりじゃないのは分かってる‥‥でも、だからと言って騒動を起こすのを見逃す訳にもいかない‥‥それを‥‥見誤っちゃならない」
「あたし、なんだか嫌な予感がするわ。この村で、彼らと戦わなきゃいけないような‥‥そんな気が」
「‥‥そうなったら‥‥戦うだけ‥‥。あの人たち相手なら‥‥多分‥‥逝ける‥‥」
 各人思うことは多かったようである。それが良いにしろ、悪いにしろ。
 なんにせよ、堕天狗党の四人は村に残ると言い‥‥復興は、もうそろそろ終わる―――