不落、堕天狗党! 〜樺太家の最後?〜

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:3〜7lv

難易度:やや難

成功報酬:5

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:04月13日〜04月18日

リプレイ公開日:2005年04月20日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

 花のお江戸、冒険者ギルド。他の職員が冒険者に依頼を説明しているのをキッパリと無視し、二人の男女がお茶を啜っていた。
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
 冒険者ギルドの若い衆こと、西山一海。横目で隣にいる女性をちらちら見やりながら、バツが悪そうに頭を振った。
「‥‥何よ。言いたいことがあるならはっきり言いなさい。殺すわよ」
 アルトノワール・ブランシュタッド。奉行所同心、藁木屋錬術の密偵として活動しているはずの彼女は、藁木屋もいないのに何故かギルドで茶を啜っていた。普段藁木屋にべったりなだけに、どういう風の吹き回しだろうか。
「え、えっとですね‥‥なんというか、最近の藁木屋さん、どうですか?」
「‥‥錬術? ‥‥別に。いつもどおり急がしそうにしてるわよ」
「いや、そうじゃなくてですね‥‥」
「‥‥そういえば‥‥」
「何か言ってましたか!?」
 意味ありげにアルトノワールが言うので、思わず一海は身を乗り出して聞きに入る。
「‥‥最近、錬術ったら夜に中々寝かせてくれないのよね‥‥昨日も随分激しかったし」
「私を馬鹿にしてるんですかっ!? というか、私をクビにする気ですかっ!」
「‥‥なんで錬術が私と夜に実戦訓練してたらあなたがクビになるのよ」
「あーあーそうですか、どうせそんなオチだと思いましたよコンチクショウっ!」
 地団太を踏むように嘆く一海を見て、アルトノワールは分からない、という感じの顔をして溜息をついた。
 そんな時である。
「何をやっているのだ、君たちは」
 件の奉行所同心、藁木屋錬術。呆れたように二人を見下ろし、いつの間にか立っている。
「出たッ! 藁木屋さん、今日こそ白状していただきましょうかッ!」
「な、なんだね薮から棒に」
「依頼ですよ依頼! 堕天狗党の依頼! 一ヶ月も放っぽっておくなんて、どういうつもりですか!」
 樺太愛音が、実兄である樺太義明日に拉致されてから約一ヶ月。その最中、藁木屋はその二人のことはおろか他の堕天狗党員に関した依頼すら持ってきていないのである。
「仕方ないだろう。こちらにも色々あるのだよ‥‥特に螺流嵐馬を含める大部分の堕天狗党員が京都方面に移動したという情報を得れば、担当としてはおちおち遊んでもいられん」
「だからと言ってッ! もしッ! 樺太愛音さんが劣情に駆られたお兄さんに襲われでもしたらッ!」
「‥‥あなたの方がよっぽど自分をクビにしそうじゃない」
「うぐっ、聞かなかったことにしてください! それはともかく、実際どうしたんですか。まさかとは思いますがこのまま放置する気じゃないでしょうね?」
 アルトノワールの鋭いツッコミに耐えながら、一海は問いかけた。藁木屋は一瞬困った顔をして、ゆっくり切り出した。
「歯に衣着せても同じことだからはっきり言う。奉行所はあの二人に関して、これ以上ギルドに依頼する気は無い。すでに例の村から螺流嵐馬は姿を消し、発札法州と荼毘業も行方不明。それを受けて、奉行所は村と屋敷を調査‥‥付近の山狩りまでしながら、独自で樺太兄妹を追っているのさ」
「な、なんでですか。ここまで冒険者さんに頼っておいて今更‥‥」
「もうすでに確認はいらないだろう? トリカブトの件も、妹殺害未遂及び誘拐の件も確定的だ。あとは捕らえるだけ、ということなのだよ」
「‥‥奉行所から見れば、冒険者とあいつらの関係とか知ったことじゃないんでしょ。こうなると、義明日と愛音を発見次第斬り捨て御免も有り得るかしら」
「そんな乱暴な!?」
「まぁそれは極端としても、義明日に情状酌量の余地なしなのは変わらない。奉行所が依頼を出さない、という事実もな」
「く‥‥そんな、それじゃあんまりですよ! 愛音さんは殆ど巻き込まれたようなものなのに‥‥こうなれば私が依頼を出します! 依頼内容は樺太愛音さんの救出! 私、ビンボーなんでお金は出せませんけど!」
「ふ‥‥君ならそう言ってくれると思っていたよ」
「‥‥はい?」
「奉行所やそれに属する私は依頼を出せない。なら他の人間に出してもらうしかないからな‥‥これでも悩んだのだ、どうすればいいか。私も樺太愛音嬢をただ罪人として捕まえるのは忍びなかったからね」
「‥‥でも、救出なんて依頼出していいの? 相手は堕天狗党員でしょ?」
「何、取引させるということにすればいい。愛音嬢は回復魔法を使えるであろう僧侶‥‥情報も引き出せるだろうから、奉行所としては抱え込んでおいて損は無い。彼女の性格上、裏切りも無いだろう」
「了解! では、早速その方向性で依頼書作ります!」
「しかし注意したまえ。発札法州と荼毘業はあくまで行方不明‥‥樺太義明日との決戦に現れる可能性も無くは無い」
「や、厄介な。とにかく、私は依頼書作るんで一旦引っ込みます! てきとーに寛いで行ってください!」
 そう言って、一海は奥のほうに引きこもってしまう。藁木屋はそれを見とどけた後、急須から一海の湯飲みに茶を注ぎ、啜る。
「‥‥手伝ってあげないの? せっかく大分戦闘のカンを取り戻してきたのに」
「私の出る幕は無いさ。返って邪魔になる。それより、今回は補足すべき事が多いだろうからな‥‥いつも以上に世話をかけてしまうと思うが、許してくれ」
「‥‥いいわよ、別に。錬術のためだしね」
「ふ‥‥ありがとう」
 藁木屋に髪を撫でられ、アルトノワールは擽ったそうに微笑む。言おうとしたことを飲み込み、藁木屋に告げぬまま‥‥。
(「‥‥錬術‥‥その甘さ、いつか誰かの致命傷になるわよ―――」)

●今回の参加者

 ea0828 ヘルヴォール・ルディア(31歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea2246 幽桜 哀音(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea5902 萩原 唯(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea6269 蛟 静吾(40歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea7029 蒼眞 龍之介(49歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7078 風峰 司狼(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7246 マリス・エストレリータ(19歳・♀・バード・シフール・フランク王国)
 ea9275 昏倒 勇花(51歳・♂・パラディン候補生・ジャイアント・ジャパン)

●サポート参加者

仙 書文(eb0190)/ 黒崎 流(eb0833

●リプレイ本文

●異名
 時は春。寒さも大分和らぎ、山間部でも防寒着を着なくてもよくってきた時節である。
 奉行所の山狩り隊は、指揮を取っていた人間の合図の下、一時的にではあるが一箇所に集まっていた。
「率直に申し上げよう、時間が欲しい」
 落ち着いた礼儀正しい対応を取って言ったのは、蒼眞龍之介(ea7029)。最早言わずと知れた、堕天狗党追跡の猛者である。
「現在、仲間の中に土地感に長けた仲間を連れて、ギルドから依頼で人質救出に動いている。僕たちに任せてもらったほうが、色々安全だと思うんだけどな」
 その弟子である蛟静吾(ea6269)もまた、堕天狗党追跡の第一人者の一人。
 奉行所の面々は二人と相対し、会談を行っているのである。
 元々山狩り隊はいくつかの班に分かれて行動していたのだが、奉行所同心、藁木屋錬術が冒険者に同行し、現場監督へ繋ぎをつけたのだ。
「ふむ‥‥確かに安全と言う面では君たちに任せるのが一番だろう。だがそれでは奉行所の威信はどうなる? 冒険者に任せて自分たちは休憩していました、とでも報告しろと?」
「そうは言わない。僕たちもあくまで冒険者ギルドからの依頼で動いているだけだからね‥‥首謀者の『義明日の』身柄だけはそちらに引き渡すと約束する」
「我々は人質の救出が出来れば良い、『義明日の身柄は』全て貴殿らに委ねたい」
 現場監督は黙って思案していたが、今度は他の面々が黙ってはいなかった。
 口々に『冒険者の事情など知ったことか!』だの『信用できると思うのか!?』などと野次を飛ばしてくる始末。
「美味しい所は勝手に持っていけ!! その代わりこちらの依頼は果たさせて貰う!」
 蛟が一喝しても、山狩り隊は一瞬気圧されるだけですぐに威勢を取り戻してしまう。
 数の上での有利を考えているのか‥‥それとも。
「あー、涙ぐましいほど勤労な面々ばかりで嬉しくもあるがね‥‥私も頭を痛めているところだが、義明日がトリカブトを使用したらどうする? 先走らずにここに居る全員で取り囲んだとしても、2〜3人は毒に置かされる可能性が高い」
 見かねたのか、藁木屋が奉行所の面々に言葉を投げる。だが血気盛んな若い連中(藁木屋も若いが)が揃っているのか、『そんなことを恐れていて源徳武士団が務まると思うか!』等の返答が返ってくるだけ。
「やれやれ‥‥融通の効かないことだ」
 ぼそりと誰にも聞こえないように呟いた藁木屋は、溜息を一回ついて言葉の対象を切り替えた。
「だ、そうですよ‥‥『穏やかなる伏龍』こと、蒼眞龍之介殿。そして『蒼き水龍』こと、蛟静吾殿。私たち奉行所はお二人のご要望にはお応え出来ないようですが‥‥いかがなさいますか?」
 あからさまに二人の二つ名を意識した台詞。
 その異名を持つこの師弟が手練だと言うことを知っているのか、藁木屋の言葉に山狩り隊の面々は少なからず動揺する。
「‥‥此方に戦いの意志はない。‥‥が、あくまで我らの行動を邪魔しようと言うのであれば‥‥仕方ないな、蛟君」
「え? ‥‥あぁ、そうですね先生。あくまでも依頼の邪魔をするのであれば‥‥仕方ないですよね」
 藁木屋が二人にしか分からない位置で『ノれ』と合図を送っている。手をくいくいと自分のほうに向け、合わせてくれと言っている様で、それに気付いた二人も芝居を始めた。
「そうですか、それでは仕方ありませんな。連れてきた手前、私がこのお二人の相手をする。君たちは手を出すな」
「なら僕から相手になるよ。二人を一度に相手にするのはきついだろう?」
「お気遣い痛み入ります。では―――」
 がぎり、と耳障りな金属音が辺りに響く。
 勝手に話を進行し、山狩り隊の面々を足止めする作戦‥‥果たしていつまで通用するか。
 蛟と藁木屋は、出来るだけ真剣にやっているように見せながら、剣閃を交わすのだった―――

●妄執の果てに
 さて、蒼眞・蛟の二人が奉行所の面々を足止めしている頃‥‥問題の山小屋付近では。
「‥‥予想外‥‥法州さん、山小屋の外‥‥」
「困ったのう‥‥まぁ、この距離からでもテレパシーは使えないことはないんじゃがの‥‥(溜息)」
 木々の陰に隠れながら、幽桜哀音(ea2246)とマリス・エストレリータ(ea7246)は山小屋の入り口に立っている発札法州を確認して呟いた。
「あたしは最初からこういう事態を想定していたのだけれど‥‥小屋の中のほうがよくて?」
「‥‥そっちの方がいいんじゃないかな。被害はなるべく少ないほうがいい‥‥なら、太刀を振り回せない小屋の中のほうが都合がいいと思うよ」
 昏倒勇花(ea9275)とヘルヴォール・ルディア(ea0828)も見つからないように注意を払いながら森に潜んでいる。
 どうやら救出班の大半の人間は、法州が小屋の中に居ることを前提としていたようだ。
「あの‥‥とりあえず、マリスさんにテレパシーで愛音さんの状況を把握してもらったほうがいいのでは?」
「そうだな‥‥俺も愛音の状況を知りたい。マリス、頼めるか?」
「お任せなのじゃ〜」
 萩原唯(ea5902)と風峰司狼(ea7078)の要請を受け、マリスはテレパシーの魔法を発動させる。
 今回は上手い事一回目で成功し、かなり距離の離れた場所から念話ができるようになる。
 そして、マリスが集中してから数分足らず。
「ま、まずいのう。どうやら義明日様が相当精神的に参っておるようですな。一ヶ月間も気の休まらない逃亡生活を続けていれば当然ですかの‥‥。更に悪いことに、説得に来た業様を人質で無理矢理協力させているようですし‥‥」
「か、業さんがいるんですか!? 業さんは今どこに!?」
「お、落ち着いてくだされ唯様。業様は小屋の中‥‥しかも樺太兄妹とは距離を置くように指示されているようですな」
「‥‥随分‥‥用意周到‥‥。意外と、まだ冷静‥‥」
「困ったわね‥‥マリスさんは業さんとはテレパシーで会話できないでしょうからね‥‥」
 一同が緊張の面持ちで、どうしようかと思案していた時だ。
「‥‥昏倒、幽桜、捨て身だけはしないでくれよ。萩原、業はきっと君の事を待っている、頑張って‥‥皆武運を」
「‥‥司狼、どうする気だい? まさか‥‥」
「そのまさかだ。一気に突破して、愛音を助ける。余計な時間を取るほうが危険だ!」
 言葉の最後のほうの時点で、すでに風峰は飛び出していた。当然法州も彼に気付き、抜刀する!
「‥‥貴様が愛音様の想い人だったな。面白い人生だ‥‥愛音様の想い人と戦うことになろうとは」
「退いてくれ! 愛音が!」
「貴方が樺太家に仕えているのは解るけど、義明日さんだけでなく、愛音さんも大事でしょ!」
 結局6人全員が飛び出し、戸を背にしている法州と相対する。
 一同を見やった法州は昏倒を睨み付け、叫んだ。
「そうとも! 私が望むのは樺太家の存続! このままでは義明日様も愛音様も死んでしまわれる‥‥それだけは避けねばならんのだ!」
「そ、それでは法州さんは、愛音さんを生き残らせるためにこの選択をしたのですか!?」
「問答無用! ゆくぞっ!」
 大上段に構え、昏倒に突っ込んでくる法州。合図を受けた萩原が手裏剣を投げ放ったのを避けようともせず肉薄する!
「‥‥義に生き‥‥義に逝く者‥‥彼になら‥‥殺されるとも‥‥本望‥‥。舞え、『瞬斬散華刃』」
 割って入るようにシュライク+ブラインドアタックを放つ 幽桜。
 このやり取りの間にも山小屋へ向かう風峰を見て、彼は満足そうに呟く。
「‥‥勝ったぞ‥‥!」
 ぞぶ、と肉が裂け、食い込む感触。
 当たり所が悪かったのか‥‥それとも、抵抗しようとしなかったためか。
「‥‥不器用な男だね‥‥。何も死ぬだけが忠義じゃないだろうに‥‥!」
 ヘルヴォールは動かなくなった法州に一瞬気を取られたが、すぐに頭を切り替えて風峰の後を追った。
「愛音ぇ!」
 だん、と扉を蹴破り、風峰が山小屋に突入する。
 そこには樺太兄妹と、少し離れたところに業がいる!
「またしても貴様か! だが寄るなよ‥‥私の血にはトリカブトが多分に浸透している! それ以前に、貴様が私を斬る前にこの簪が愛音の喉を突き破るがな!」
「愛音‥‥兄さんを殺す! 君を助けるためにはそれしかできない!」
「司狼‥‥! はい‥‥司狼がそう言うなら!」
「し、正気か!? 業!」
「くっ‥‥すまん、邪魔をさせてもらう!」
「業さん! 今だけ‥‥少しだけ待って!」
「この声‥‥唯か!?」
「ええい‥‥役立たずが!」
 場は完全に混乱状態‥‥唯一変わらないのは、義明日が愛音を人質に取っているということだけ。
 だが、それも。
「ムーンアロー!」
「‥‥これはおまけだよ‥‥お前のエゴを、他人に押し付けて許される道理なんて無い!」
 小屋の外からマリスのムーンアロー。更に、小屋に入り込んだヘルヴォールが小柄を投げつけ、義明日を怯ませる!
「今だっ!」
 風峰の蹴りで義明日が完全に愛音から離れ、人質と言う図式も無くなる。
 愛音は風峰が抜刀した刀に手を添え、頷きあう。
 一呼吸して二人は駆け出し‥‥義明日の心臓辺りを貫いた。
「ごふっ‥‥! な‥‥何故だ‥‥愛など粘膜が作り出す幻想だと何故気がつかん‥‥!」
「‥‥あなたとは、もう随分昔から‥‥!」
「勝手なことを言うなよ。愛を否定したいなら自分のだけにしろ。他人にまで強要するな」
「く‥‥くははは‥‥み、自らの血に少しずつ毒を慣らし‥‥作り上げた毒血の法‥‥わ‥‥私‥‥こそ‥‥毒の‥‥支配‥‥者‥‥」
 動かなくなった義明日。これでまた、二名の堕天狗党員がこの世から去った。
 そして愛音も党を抜けるため、都合3人が減ったことになる。
 萩原と約束を交わした業は京都へと向かい‥‥戦いの舞台は、京都へと移り変わっていく―――