【黄泉の兵】脅威の死食鬼
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■シリーズシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:3〜7lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月07日〜04月12日
リプレイ公開日:2005年04月11日
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●オープニング
一つ立つ灯火の灯りだけが照らす、陰陽寮の一室。
その薄闇の中で、奇妙な文様の描かれた占い板を前にして、静かに念じる男が一人。
ややあってその瞳を静かに開けると、男は流れるように立ち上がって部屋の外へと歩み出る。
「どうされました?」
「ただ、よくなき卦が出ただけよ‥‥」
男は廊下で待っていた配下のものと、陰陽寮の廊下を歩みながら、鋭く瞳を細めて答えを返した。
「よくなき卦で、ございますか?」
「昨今の妖どもの暴れよう‥‥江戸での月道探しに現を抜かしている場合ではないということかな。京都守護と検非違使に急ぎ通達せよ」
ぱちりと扇子を閉じながら、ジャパンの精霊魔法技術を統べる陰陽寮の長、陰陽頭・安倍晴明は、矢継ぎ早に伝令に言伝を伝える。
「京都見廻組と新撰組、だけでは足りぬだろう。やはり‥‥」
晴明は思案に暮れながらも、陰陽寮に残り資料を捜索すべく、書庫へと消えた。
「京の都の南に向かうこと」
‥‥それが、京都冒険者ギルドにて布告された依頼であった。
その依頼人は陰陽寮、京都見廻組、新撰組と多岐に渡るが、全て、同じ場所に向かえとの内容は共通している。
「何でも、陰陽寮に託宣が下ったそうだ」
そう告げるのは冒険者ギルドの係員。まだ開いても間もないギルドゆえ、一度にやってきた依頼を整理するのにてんてこ舞いという様相だった。
「陰陽寮の頭、安倍晴明様の占いによれば、南から災いと穢れがやって来るんだと。物騒な話だが、あのお方の話じゃあ、無碍に嘘とも思えねえし、京の南で怪骨やら死人憑きやら、妖怪が群れてやがったという噂も入ってきてる。
‥‥それに、京都見廻組や新撰組も動いてる。陰陽寮の力添えもあって出来たギルドとしちゃ、動かんわけにはいかんのよ‥‥ぜひ、力を貸してくれや?」
「さてッ、怪骨も無事に撃破されたのはいいが…まだまだ京都南部には死人が蔓延っているッ! 特に京都南方の村や町の中には、死人の群れによって全滅してしまったところもあると言うッ! まさに遺憾ッ! 真の漢を目指すこの大牙城、ギルドの仕事に追われるこの身が口惜しいッ!」
いつもどおり、バッサバッサとマントを翻し、いちいちポーズをとる、大牙城?
『?』がついているのは、彼が虎の皮で作ったと思われる、虎の顔そのものの覆面のようなものを被っているからだ。まぁ、あの口調とマントをバサバサする妙な癖は、大牙城以外の何者でもないが。
「むッ、この覆面かッ!? 以前の物はとある戦いで破損してしまってな‥‥発注していたものがようやく出来上がったと言うわけだッ! 無論、材料の虎は私が倒したものッ! 漢と認めた虎との死闘‥‥聞きたいかッ!?」
聞きたくない聞きたくないと、満場一致のツッコミが入る。
「ふむッ、仕方あるまいッ! では早速依頼の説明を開始するッ! 今回は、京都から半日ほど南に行った所にある村からの救援要請だッ! すでに新撰組が一部の人員を派遣し、村を襲った死人憑きを撃退したのだが、その中に一際危険な死食鬼がいたそうなのだッ!」
死食鬼。死人憑きに類似する怪物だが、口の中にぞろりと牙が並んでいる、言わば上位種。勿論攻撃力は死人憑きなど比較にならないほど高く、耐久力もかなりのものだ。
動きも俊敏で、死人特有の緩慢さは微塵もない。
「何が危険と問われても、一言で言い表すのは難しいッ! 確かに死食鬼そのものは強敵だが、一匹で多勢に無勢を塗り替えられる程までは強くなかったはずッ! たった一匹の死食鬼を倒せず撤退した新撰組も、さぞ無念であっただろうッ!」
虎覆面なので表情はよく分からないが、拳を振り上げて力説する大牙城。
なんでも新撰組も新たに増援を派遣する予定らしいが、敵は死食鬼だけではないため、周りのアンデッドモンスターの掃討に回るとか。依頼参加者は、この死食鬼の亜種であろう一匹を何とかして欲しいとの事である。
「仮にこの死食鬼を『死食鬼・弐式』と名付けたッ! 手強い相手であろう‥‥努々油断などされぬようッ!」
最後にバサリとマントを翻し、話を締めくくる。
敵は一匹とはいえ、仮にも新撰組の一部を退けた怪物‥‥村人のためにも、一刻も早い撃破を―――
●リプレイ本文
●到着
本日の京都付近は曇り。肌寒くはあるものの、防寒着までは着なくてもよさそうな、中途半端な陽気である。
一同は馬でゆったり移動しているが、件の村は京都に程近いため思ったより時間はかからなさそうだ。
「へぇ、新しいタイプの死食鬼ねぇ‥‥京都ってとこには面白いもんがでるんやね。あたしの拳が通用するか、試してみようじゃないか?」
馬での移動を提案した劉紅鳳(ea2266)は、馬上で拳を握ったり開いたりを繰り返しながら軽く笑う。
オーラパワーと自らの拳で数々の修羅場をくぐってきた彼女は、これが京都での初依頼らしい。
「さてさて、今回の相手はぁ〜、新撰組十名を撃退した死食鬼・弐式? 新撰組っちゃ侍の集団だからオーラ魔法も使える。遅れを取るってのは妙な話だなぁ‥‥。刀じゃ受けられないCOでも使われたか?」
「いやいや、別に新撰組だから全員が全員オーラ魔法が使えるとは限らないでさぁ。結構浪人者も含まれてるという噂ですからねい」
日比岐鼓太郎(eb1277)と無姓しぐれ(eb0368)は、今回の敵‥‥通称『死食鬼・弐式』について談義しながら馬を進めている。
最近まで人手不足で悩んでいた新撰組は、江戸やその他の地域から流れてきた浪人者を最近になって積極的に取り込み始めているのである。勿論、そういった新人は京都近辺で起こった比較的簡単と思われる任務を与えられ、その実力を推し量られているわけだが。
「亜種‥‥厄介な相手だ」
「なんだか強い相手みたいだけど、しっかり退治しておきたいよねー♪」
対照的なテンションで呟く紅闇幻朧(ea6415)と風月明日菜(ea8212)。別に風月が不真面目とか言うわけではなく、この二人が際立ってテンションに差異があっただけである。
「レイスの次はグールしかも弐式だって。強い人たちが勝てなかった相手なんだよね‥‥シフールって食べごろサイズだし頭から齧られたらどうしよう‥‥」
「し、死人憑きの上位種である死食鬼の、さ、更に『弐式』‥‥。な、なんだか、名前だけでも強そうです‥‥よね‥‥。死人憑きさんと死食鬼さん(一式(?))のステップを飛び越えて、い、いきなり弐式さんが相手です‥‥けど‥‥な、何とか退治できるよう、がんばり‥‥ます‥‥(ぐっ)」←拳を握った
こちらはマスコット的な存在と化し、和みの雰囲気を醸し出す、テリー・アーミティッジ(ea9384)&水葉さくら(ea5480)の両名。殺伐とした戦闘の中にも、この二人のような清涼剤は必要である(何)
「‥‥なんだか知らないが、妙に不安になってきたぞ。それはともかく、新撰組の隊士に話を聞いてみたところ、どうやら『弐式』は通常の武器では傷つけられないらしい。それに加えて、かなりの精度と攻撃力の高い一撃を繰り出してくるそうだからな‥‥死人が出なかったのはかなり運がよかった、と聞いた。死食鬼・弐式か‥‥また厄介なのが出たものだ」
しっかり取材やら研究をしてきた霧島小夜(ea8703)の呟きに、一同の緊張感が増した。
十数人からなる浪人の集団が『死人が出なくて運がよかった』などと言うのは、相手が確実に脅威な時だけだ。
「でもさー、僕たちには魔法があるよー。普通の武器が効かなくても、オーラパワーをかけた武器が5〜6個あれば、大丈夫だよねー♪」
「油断は禁物だよ。いくら攻撃が効いても、こっちがそれ以上の傷を受けてちゃ話にならない」
「まったくでさぁ。さてはて‥‥かの新撰組をも退けたその実力、計らせてもらいますよ?」
風月、劉、無姓もまた、各々思考を切り替えて前方を見据えた。
そこには、周囲より更に淀んだ雲に覆われているように見える村がある。
「よし‥‥では予定通り斥候に出る」
「んじゃ、俺もだな。霧島も行くんだっけ?」
「あぁ、韋駄天の草履があるからな」
紅闇、日比岐、霧島が馬から降り、約500メートル程ある村へと歩を進めた―――
●楽勝?
「オーラパワーは全員に行き渡ったな? それじゃ、突撃だ!」
「先手必勝と行こう!」
「ふん‥‥術も万全。見せてもらおうか、その力」
弐式が居る地点を把握した偵察組みは、道返の石や魔法を準備し、万全の体制を以ってその場に向かった‥‥はずだった。
「いない!? どこへ‥‥!」
最後に弐式を確認したのは、村に入って5分も歩かないうちのこと。村でも大き目の屋敷がある辺りをうろついていたのを、偵察時はおろか8人で突入したついさっきも確認したのだ。
だが今はパッと見では見当たらない‥‥準備時に目を離したのがまずかったらしい。
「ここは僕の出番だね。バイブレーションセンサー!」
新撰組の増援部隊は村のあちこちに散って戦っているらしいが、それは集団でのこと。一人だけで行動している人間はいないし、アンデッドだとしても弐式以外は大した脅威にならないだろう。
テリーが周囲の索敵を完了し、目を開いた。
「居るよ。向うへ50メートルくらい行った所。人間大で、数は1‥‥」
「ま、間違いないですね‥‥鳴弦の弓の準備、しておきます‥‥」
魔法の効果が切れないうちにと、水葉の言葉に全員が頷いた。
そして、一同が弐式を発見した場所は‥‥!
「あちゃー‥‥よりによってこんなところに来なくてもいいのにねー」
家々が密集している、長屋のような区画。別に意図してここに来たのではないだろうが、ここでは密集しての行動が難しそうだ。隊列変更にも色々支障が出るかもしれない。
「また魔法を使っている時間が惜しい。ここは仕掛けるしかないだろう」
「しかし、ここじゃ大人数の利点が活かせませんがねい。魔法の援護も、家を壊しかねませんが」
「仕方ないだろ。それに向うはやる気満々らしいしさ」
霧島、無姓、日比岐が言葉のやり取りをしている間に、弐式はこちらに気づいて近寄ってくる。
その速度はまさに人間と大差が無い!
「ちっ、だが魔法が切れるにはまだ時間がある! やはり叩くぞ!」
「ゆ、弓よ‥‥!」
びぃぃぃん、と弓をかき鳴らし、水葉が一定の妖怪にのみ効果を与えるという鳴弦の弓を使う。
無姓も予め発動させた道返の石を地面に設置し、弐式は動きがかなり制限される。
そこに劉の攻撃が飛んでくるのだからたまらない‥‥本来ならかすり傷で済むはずなのに、オーラパワーで強化された攻撃は弐式に軽傷を与えた。
「よし、傷を与えれば少しは動きが鈍く‥‥な!?」
紅闇が追撃しようとした瞬間、弐式はぎろりと彼を睨み付け、逆に鋭い牙で噛み付く!
それは苦し紛れなどではない‥‥まるで無傷の人間が攻撃するような、惑いの無い攻撃!
「そ、そんな!? 今の動き、まるで攻撃が効いてないみたいだよ!?」
「き、効いてないわけじゃないと思うよー。けど、傷がまるで苦になってないんじゃないかな‥‥」
テリーと風月が驚くのも無理は無い。紅闇は急いで間合いを計ったが、一気に中傷まで持っていかれた。
動きを二つのアイテムで鈍らせてなお、当ててくるこの精度‥‥そしてこのパワー。さらに武器が通用しないとあれば、新撰組の撤退も頷けるというものだが‥‥。
「京の闇に啼くは『宵狐』‥‥いざ参る。‥‥死人は黙って土に還れ」
「魔法が掛かってる武器なら傷を与えられるんだろ!? なら!」
霧島と日比岐が次々と攻撃し、弐式に傷を与える。
元々タフな死食鬼でも、オーラパワーが効いている日本刀の攻撃を喰らえば一気に重傷。今までの傷を合わせればもう再び黄泉路を辿ってもまるでおかしくは無い。
だが死食鬼はまだまだ元気なように見えるのだ‥‥彼ら8人には。
実際問題気力だけで立っている弐式は、残った力を振り絞って劉に攻撃する。精度は高いが、水葉の弓や道返の石のせいで鈍ってしまい、あっさり捌かれてしまう。
「まったく‥‥! 死んでるクセにこんなに素早いとは、生前はさぞ元気な方だったのでしょうねい!!」
「驚いてばっかりもいられないしねー!」
シュライクで斬りかかる無姓と、ダブルアタックで攻撃する風月。それで最早限界‥‥新撰組を撤退まで追い込んだ怪物は、たった8人の冒険者にあっさり倒されたのである―――
●未だ終わらず
「流石だッ! あの新撰組の一部でさえ苦戦した死食鬼・弐式をこうも簡単に倒すとはッ!」
京都冒険者ギルド。報告書を纏めている大牙城は、座っているので上半身だけポーズをとる。
村近辺に居たアンデッドも新撰組の増援や余力のあった一行に退治されて一掃され、とりあえず件の村は避難していた村民が戻れそうな程までには平穏が戻った。
「しかし、相性というものは恐ろしいッ! 今回は彼らに上手く働いたが‥‥次回もそうとは限らんッ! 京都に侵攻してくる妖怪に亜種も存在すると分かった以上、不死者以外の妖怪も現れるかもしれんなッ!」
と、別の職員が大牙城に声をかけた。その手には、依頼書と思われる一枚の紙。
「むッ、忝いッ! どれ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥なんと、これはッ!?」
思わず立ち上がった大牙城‥‥その虎覆面に隠された表情を窺い知る事は出来ないが、ただ一つわかることがある。
それは、新たなる戦いの予感―――