敵か味方か!? 謎の白狼天狗!

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:4〜8lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 88 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月22日〜04月27日

リプレイ公開日:2005年04月25日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「単刀直入に言おうッ! 8対多数を覆してもらいたいッ!」
 例によって、ばっさばっさマントを翻してポーズを決める、虎覆面の男。
 京都冒険者ギルドの異端職員、大牙城その人である。
「先日『死食鬼・弐式』という強力な敵を撃破してもらったばかりだが、そやつが現れた村に、南の方面からまた不死者の群れが押し寄せてきたのだッ! 無論その村だけに向かっているわけではないが、確認されているだけでも20体近く居ると言うッ!」
 蛇足だが、京都ギルドは陰陽寮と係わり合いが深く、役所出身者が多いのでお役所体質が強い。その陰陽寮と繋がりが深い貴族の一員(!)で、一人で虎を倒し覆面の材料を調達するような戦闘力を持つ大牙城は、ギルドに勤めている理由をこう語る。
『無論、真の漢を目指し、捜す為ッ! やはり様々な人間模様を見聞きし、紹介し、纏める冒険者ギルドこそ、真の漢が現れる可能性が一番高いからなッ!』
 とのことである。
 それはともかく、今もやっているようにばっさばっさといちいちマントを翻してみたり、仕事中にもずっと虎覆面をつけていてるのは、やはり倫理的には外れているわけで‥‥クビにならない為にはギルド職員としての実績が不可欠なのだ。
 ‥‥と、話が横にそれてしまったので戻そう。
「その内訳は、死人憑き10体、怪骨5体、死食鬼が1体ッ! 死食鬼は弐式ではなく、普通の死食鬼と確認されているようだが、如何せん数が多すぎるッ! 更に悪いことに、村で事後処理に当たっていた新撰組の増援が、京都に非難していた村人を村に返してしまったのだッ!」
 死食鬼・弐式(大牙城命名)が倒れ、一先ずの平和を過信したのが災いし、村人たちは再びアンデッドの脅威に晒されてしまった。
 とはいえ、『村を襲った敵は倒したのだから、村に帰らせてくれ』と言い出したのは村人たちなのだが。
「現在、新撰組の増援は村の周囲を固め、村の中に不死者が入り込まないように抗戦を続けているッ! しかし、先に上げた二十数体の一団が村に到達すれば、村にも少なからず被害が出てしまうであろうッ! 諸君らの使命は、この一団を村到着前に撃破することなのだぁッ!」
 京都の南、馬なら数時間の村。そこから更に南から、問題の集団がやってきているのである。
 出立の日取りを考えると、迎撃するのは村のすぐ近くにある平原辺りになるだろうか。
「だが、奇妙な情報が入っているッ! 件の村の警護に当たっている新撰組が不死者と戦っている時、どこからともなく白狼天狗が現れて助力してくれたと言うのだッ! 助力とは言っても、勝手に不死者と倒し、人間には一瞥くれるだけで無視していただけという話だがッ!」
 この敵とも味方ともつかない白狼天狗のことも気になるが、今は新たにやってくる不死者の一団を撃破せねばなるまい。
 もっとも、向うが仕掛けてくるならば、白狼天狗とも戦わねばならないだろうが。
「正直言って厳しい依頼だ、例え途中で退いても文句は言われないであろうッ! 数を減らすことを主目的とし、無理はされぬようッ! 勇気と無謀が違うように、突っ込むだけが真の漢への道ではないッ!」
 前回は8対1‥‥数の上では冒険者有利だった。だが今回はその逆、倍近い戦力が相手。
 しかも単一ではなく、様々な種類のアンデッドが群れを成した連合軍‥‥一体一体は大した戦闘力を持たなくても、これだけ集まられると厄介なことは間違いない。
 さらに第三軍として天翔ける白狼天狗まで登場とあれば、事態は混迷を極める。
 これだけのアンデッドの大軍‥‥その背後には、何かしらの意思の様なものがあるのだろうか―――

●今回の参加者

 ea2266 劉 紅鳳(34歳・♀・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea4138 グリューネ・リーネスフィール(30歳・♀・神聖騎士・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea6415 紅闇 幻朧(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea8212 風月 明日菜(23歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea8703 霧島 小夜(33歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea9384 テリー・アーミティッジ(15歳・♂・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 eb0368 無姓 しぐれ(28歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb1277 日比岐 鼓太郎(44歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)

●サポート参加者

塚響 棗(ea7145

●リプレイ本文

●先手は‥‥
「普通のアンデッド達‥‥前に見た黄泉人では無い様ですが‥‥彼らに、自分達が終わっている事を解らせて上げましょう」
「また出て来たのかい‥‥まったく、どっかに巣でもあるのかね? まあ、これも何かの縁だろうから最後まで付き合うさ」
 某月某日、曇り。
 以前救った村を今度は通り過ぎ、村の南にあるちょっとした平原地帯で、一同はアンデッドの群れを待ち構えることになったのだ。
 グリューネ・リーネスフィール(ea4138)と劉紅鳳(ea2266)は馬を降り、休む暇もなく準備を始めた。
「今度も、あの村をしっかり守ろうねー♪」
「一匹で駄目だったから今度は集団ってわけなのかな? 全部、砕いてやろうぜ!」
 馬を持つ人間が多かったのが幸いし、何とか敵の集団より先に村の護衛に回れたようで、風月明日菜(ea8212)や日比岐鼓太郎(eb1277)は村の方を見やりながら準備体操などを行っている。
「確かに、一度避難してやっと帰ってきた手前、また逃げるなんていう事態をためらうのはわからんでもないですが‥‥もう少し状況を弁えて欲しいもんですねい」
「今更言っても仕方あるまい。敵を蹴散らせば、村人など居ても居なくても一緒だ」
 馬を貸して貰った無姓しぐれ(eb0368)は、責めるとまでは言わないまでも厳しい意見を呟く。
 それは確かに正しい意見だが、紅闇幻朧(ea6415)の言うことにも一理ある。
「さて‥‥全員着いたか。死人と戯れる趣味は無いんだがな‥‥どうせなら京美人のほうが(げふごふ)」
 駿馬を駆り、一足早く村にたどり着いて準備をしていた霧島小夜(ea8703)も合流し、これでほぼフルメンバーとなった。
 後は霧島に乗せてきてもらったシフールのテリー・アーミティッジ(ea9384)が居たはずだが、どこへ行ったのか。
「来たよ! あのとろとろ動いてる一団がそうだと思う! 数は‥‥17!」
 どうやら視力を活かして上空での物見をしていたようだ。
 テリーの報告を聞いて、後から到着した6人は休む間もなく魔法やらなんやらの準備に勤しむ‥‥はずだったのだが。
「‥‥17だと? テリー、数に間違いはないか? 依頼書より1匹多いぞ」
「間違いないよ、17。怪骨が5体と、ズゥンビ系が12匹だから」
「変だねー? 途中で一匹合流したのかなー?」
 霧島の確認にも、テリーの報告は変わらない。
 風月も他の面々も、一匹くらいなら大して変わらないと思ったのがまずかった。
「ぐぁっ!? ま、魔法!?」
 目視できるくらいのところまで一団が近づいた時、劉が突然雷撃を受けて術を中断させられる。
 傷自体は軽傷だが‥‥ライトニングサンダーボルトがアンデッドの一団から飛んできたらしい。
「アンデッドが魔法!? まさか、黄泉人!?」
「なんだかよくわかんないけど、想定外だぜ。白狼天狗とか言うのが来る前に勝負を決めた方がよさそうだ!」
「敵の敵は味方、と考えたいところですがねい。死者を倒してくれるのは、ありがたいですから」
「希望的観測は死を招くぞ。今は遠距離から撃たれ続けることを危惧した方がいい」
 グリューネが言う黄泉人が混じっているのは間違いないだろう。一匹だけ、ミイラのようなアンデッドが距離を保ったまま、更に魔法を詠唱しているのが見えたのだ。
 日比岐、無姓、紅闇は急遽風月にオーラパワーをかけてもらい、ぞろぞろ突っ込んでくるアンデッドたちへと駆け出す。
 ただ進み、襲い、殺す不死者の集団‥‥それを指揮するは黄泉人。
 思ったよりも、随分厄介なことになりそうな感じである―――

●空を翔ける白狼
「団体様のご到着か‥‥『宵狐』、推して参る」
「数が多くたって、負けないよー!」
「アグラベイション! 一番厄介なグールを野放しにはしておけないからね!」
 テリーがグールの動きを鈍らせている隙に、他の7人は一番数の多い死人憑きの撃破へと乗り出していた。
 霧島のオーラパワー+シュライクを絡めた一撃は容易く死人憑きを瀕死まで持っていくし、両手の武器にオーラパワーを付加した風月のダブルアタックも、重傷を与えるだけの威力だ。
「ふん‥‥甘いな」
「やれやれ‥‥いまいち不死者というのは、斬り甲斐がないですがねい」
「私はブラックホーリーで援護に回りますわ」
「さっきの借りを返さないといけないね。奥の黄泉人とやら、あたしに喧嘩を売ったこと、後悔させてやるよ!」
 紅闇、無姓がオーラパワー+シュライクの攻撃で一匹ずつ瀕死に追い込み、グリューネは魔法で援護。劉はオーラパワー+ナックル&金剛杵でひたすら殴りつけていく。
 手練な面々が揃っていることもあってか、あっさりと6匹の死人憑きが再び黄泉路を辿る。
 だがそこは相手が多数‥‥倒れたそばから他のアンデッドが一行に攻撃を仕掛けてくる!
「痛ーっ! こ、こいつー!」
「やばい、囲まれ始めてるぞ! 火遁使わないでホントよか・・・だっ!?」
「くっ‥‥あとまだ11匹居るのか! しかも一匹は魔法を使う‥‥厄介だな‥‥!」
 風月、霧島が中傷、日比岐が軽傷を受けて一瞬ひるむ。
 無姓、紅闇は攻撃を回避し、劉は死人憑きの攻撃ではかすり傷程度らしく、大したダメージにならない。
 とはいえ、敵の攻撃はまだ半分が終わっただけ。分断されないように固まって戦っていたのが災いしたのか‥‥囲むように攻撃してくるアンデッドに対し、手が回りきらないのが現状だ!
「みなさん! くっ、やはり数が多いのは厳しいのですか!?」
「ぼ、僕は空に逃げられるけど‥‥うあっ!?」
 グリューネは魔法での牽制を行うため距離を置いていたため、攻撃の標的にはなっていない。しかしテリーは、上に逃げても黄泉人の魔法が飛んできてしまう!
 中傷を負いながらも、テリーはなんとかグリューネのところへ逃げていく。
「まずいな‥‥手数の違いが思った以上にでかい。一端下がって壁のような陣形を取るか?」
「お勧めしませんねい! その戦法は誰か一人でも抜かれたら一気に崩れますから、今の方がマシかと思いますよ!」
「くっそぅ! 一匹一匹は大したことないのによ!」
 毒づいたところで現状が変わるわけでもないが、日比岐は叫ばずにはいられなかった。
 アンデッドに有効なオーラパワー使いが二人居て、戦闘力的にも連中を倒すには申し分ない面々が揃っていてなお、数の多さが重くのしかかってくる。
 さらに遠距離からしたり顔で悠々魔法を放ってくる黄泉人までいては、不利とさえ思えてきてしまう。
 何とか死人憑きを全滅させ、怪骨二匹を倒したその時だ。
 ヒュンッ‥‥ズシャァッ! 上空から突然ソニックブームが放たれ、黄泉人を直撃する!
「あれが白狼天狗ー? 助かっちゃったけど、何考えてるか分からないって言うのがねー」
「それは言えるな。だが今のうちだ、魔法が飛んでこない隙に雑魚を全滅させる!」
「白狼天狗‥‥一体どんな奴で、どんな戦い方をするのか‥‥興味はあるんだよね」
 2メートルほどある体躯の、狼の頭を持つ天狗。刀を装備し、翼はないが空を飛ぶ能力を持っているらしい。
 助けてくれたのかは分からないが、黄泉人を止めてくれると言うならありがたい‥‥霧島の号令の下、一同は残った怪骨三体と死食鬼を葬り去った。
「残るは黄泉人だけだね! 痛かったんだぞ、さっきの魔法!」
「数が逆転しましたね。私は以前にも戦ったことがありますが、捕まれて生気を吸い取られることに注意した方がいいです」
 じりじりと距離を詰める8人。テリーとグリューネも合流しているし、傷を受けた面々もリカバーポーションで回復している。
 まだオーラパワーも効いているし、勝ちは揺るがないだろう。
 ‥‥このままなら、だが。
「‥‥‥‥」
 ヒュオッ! 突如白狼天狗が、こちらに向かってソニックブームを放ってくる!
「何ぃッ!? ぐ‥‥くそっ、何するんだよ!」
 直撃を受けた日比岐が白狼天狗を睨み付けるが、奴はそれを無視して黄泉人へと向き直る。
「ちっ、やっぱり敵なのか!?」
「私の名は霧島小夜。白狼天狗よ、何故死人だけを狙う?」
 劉を手で制し、霧島が問うても返答なし。
 ただ黄泉人との戦闘を再開して、上空を疾駆する。
 こちらも黄泉人に攻撃を加えようとすればこちらにも攻撃してくるのだから、最早わけが分からない。
「何がしたいのかなー。別にこっちに積極的に攻撃を仕掛けてくるわけじゃないしー」
「黄泉人も白狼天狗もお互い決定打が与えられないようだな」
「あ‥‥黄泉人が逃げるよ! 追わなくていいの!?」
「でも、下手に手を出すとまたソニックブームが飛んできますわよ?」
 黄泉人は悔しげな表情をすると、何やら叫んで来た道を引き返していった。
 白狼天狗はそれを黙って見送り、やがてその姿が完全に見えなくなった後、ようやく8人の方を見据える。
「アンデッドの大量発生、黄泉人‥‥この地に何が起こっているの!? 貴方は何を知っているのですか!?」
 グリューネが問いかけると、白狼天狗は空に浮いたまま、ポツリと呟いた。
「貴様ら人間では奴らの侵攻を止められん。我は主の命令に従うだけの存在‥‥邪魔をするな」
 ただそれだけを言い、来た時の様に空を疾駆し、どこへともなく消えてしまったのである。
 村を守ることには成功したが、謎を残して一先ずの幕は下りる。
「やれやれ‥‥妙な風が吹いてきたな」
 どんよりと広がる黒雲を見上げ、呟いた霧島。
 一同の脳裏に、更なる激闘の予感が舞い降りていた―――