【黄泉の兵】死と、弔いと、決戦と
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■シリーズシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:4〜8lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 45 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:05月28日〜06月04日
リプレイ公開日:2005年06月02日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「さてッ! 只今一海殿が諸事情で仕事が出来ないほど落ち込んでいるので、この大牙城一人で依頼の紹介をさせていただくことになるッ! よろしく頼もうぞッ!」
一人きりでいるにも拘らず、冒険者ギルドの職員である大牙城は、いつものようにバサバサマントを翻しはしない。
もちろんいつもの虎覆面はつけたままだが、彼は彼なりに思うところがあるようだ。
ちなみに一海とは、西山一海‥‥同じく冒険者ギルドの職員である。
「今回は例の黄泉人関係の依頼だッ! 前回はとある冒険者が見事白狼天狗を説得することに成功し、協力体制を築くことができたッ! やはり漢と漢は引き合うもの‥‥種族の違いがなんであろうかッ!?」
ぐっと拳を握って明後日の方向へ視線を投げかける大牙城。
要は依頼の趣旨は前回と同じ‥‥『黄泉人』と呼ばれる、アンデッドを使役する謎の存在の撃破である。京都もやられてばかりではないらしく、新撰組や平織虎長に仕える武士団が攻勢に転じ始めているのだ。
とはいえ、大牙城をこのままにしておくと埒が明かないので、依頼書の内容を抜粋しておこう。
一つ、黄泉人の行方は松永久秀が治める大和の国北側の、アンデッドに落とされた砦跡に潜んでいる。
一つ、この依頼で追っている黄泉人は、これまでの戦いで手駒をほぼ使い切ってしまったらしい。
一つ、白狼天狗をその砦跡付近で見かけたが、誰かを待っているのか黄泉人に手を出そうとはしていない。
一つ、今回の依頼は、新撰組七番隊組長、谷三十郎からの依頼。当然谷も七番隊の一部も同行し、戦う。
一つ、谷曰く、『雑魚は我らに任せ、冒険者諸君は因縁の黄泉人と決着をつけられたし』とのこと。
「というわけだッ! 恐らく白狼天狗は我らと協力するために待っているのであろうッ! わが旧友、谷殿も参戦される此度の戦、正に正念場ッ! 負ける要素は見当たらぬが、努々油断などされぬようッ!」
余談だが、前回の依頼の後、白狼天狗から少しばかり話を聞きだすことに成功していたのだ。
白狼天狗は京都に住まう天狗を主とし、それに仕える存在であり、その主人に人間を護れと命じられたそうである。
しかし彼はその命令に対し、『人間は護らなければならないほど弱く、役に立たない存在』という認識までもってしまったというのだから質が悪い。
もっとも、これは前回の説得(?)と戦いぶりで改めさせることに成功したらしいが。
「むぅ‥‥しかし、京都の一大事、しかも攻勢に出る時に至ってまで未だ戦いに参加できぬとは、私も落ちたものッ! 世のため人のため、この剣腕を活かしたいというのに、何故に冒険者ギルドは許可をくれぬのかッ!? 口惜しいことこの上なしッ!」
もし一海がいたら、いいアイデアをくれたかもしれない。
『じゃあ休暇でもとって、旅行半分で行って来たらどうです?』等々。
もっとも、一海はがそういう屁理屈を言うと、大牙城はいつも本気にするから始末に悪いのだが。
何はともあれ、もはや因縁の黄泉人の命運は風前の灯といっていいだろう。
冒険者、新撰組、白狼天狗‥‥この連合軍の前に、黄泉からの使者はどう抗ってくるのだろうか―――
●リプレイ本文
●決戦直前
某月某日、曇り。
暗雲立ち込めるその空模様は、まさにこれからの激しい戦いを暗示しているかのようだった。
ともあれ、冒険者8人と新撰組七番隊の一部は、決戦の舞台であるとある砦跡付近まで進軍してきていた。
「黄泉人さんを倒してしまえば、他のアンデットさん達も倒しやすくなると思います‥‥し‥‥。今までずっと逃げられてきましたので‥‥こ、今回は逃げられないようがんばります(ぐっ)」
「よーし、絶対に黄泉人をやっつけるよー!」
水葉さくら(ea5480)、風月明日菜(ea8212)の少女二人組みはいつになくやる気のようだ。
一行は白狼天狗が誰かを待っているというなら、行ってみて共闘を申し出てはどうだろうということにしたらしく、新撰組七番隊の一部の面々は別の場所で合図があるまで待機しているようだ。
「冒険者、新撰組、白狼‥‥三本の矢とでも言うべきか?」
「味方に出来ればな。待っていると言っても、俺たちを待っていると断定は出来ん」
「どっちでもいいさ。死者の魂を弄ぶような奴を、これ以上のさばらせる訳にはいかないんだよ」
いざ白狼天狗と出くわしたら攻撃を仕掛けられました‥‥という可能性もないとは言い切れない。
何せ相手は思考の読みにくい白狼天狗なのだから。
霧島小夜(ea8703)、紅闇幻朧(ea6415)、劉紅鳳(ea2266)の思慮深い面々の危惧や期待をよそに、ついに対面の時は訪れる。
「あ、いたよ! 白狼天狗さん!」
テリー・アーミティッジ(ea9384)が霧島の頭の上で叫ぶと、一同がその方向へ注目する。
そこには愛用の刀を手に、瞑想するかのように岩の上に座る白狼天狗の姿が。
「よっ(こめかみの横で右手首スチャッ)。頼むぜ、相棒!」
思慮もへったくれもなく白狼天狗にフレンドリーに話しかける日比岐鼓太郎(eb1277)。
それに対し、白狼天狗は日比岐の喉元に刀を突きつけ、ギロリと睨む。
「‥‥馴れ馴れしいぞ人間。我は貴様らと共闘はしても、馴れ合う気などない」
流石の日比岐も引きつった笑いを浮かべ、『こいつはホンモノだよなー‥‥』などと呟いた。
と、そんな時だ。
「天狗殿ッ! 待たせたなッ!」
何故か虎のオーラを背負って、一段高い所から現れたのは、グリューネ・リーネスフィール(ea4138)。
前回白狼天狗を説得(?)した立役者であるが、本人はイマイチ喜べないと語っている。
「‥‥う」
案の定というかなんと言うか、一歩後ずさりして白狼天狗が呻く。
苦手とまで言えるのは分からないが‥‥とにかく、グリューネに逆らいがたい何かを感じているようだ。
「‥‥わかった、わかったからその威圧感を止めろ。そんなことをしている暇があるなら早く黄泉からの使者を倒しに行くぞ」
「ま、そうだね。人間がホントに弱いかどうか‥‥あたしらの戦い方を見てから結論付けても遅くないだろ?」
「‥‥」
劉の台詞に、白狼天狗は無言で頷くと、ふわりと宙に浮く。
「何時までも白狼、ではあれだな。名は?」
「‥‥そんなものはない。どうしても呼びたければ『白(はく)』とでも呼べ」
霧島の問いに答えた白狼天狗の声色は、少しばかり優しそうに聞こえた―――
●要塞攻略戦!
「ほないくで〜! 不死者に遠慮はいらんさかい、無理せん程度に気張りや!」
谷三十郎の号令の元、新撰組七番隊が砦跡めがけて駆け出していく。
勿論冒険者8人と白狼天狗も、砦跡に肉薄している。
「矢が飛んでこないのは嬉しいけど‥‥お出迎えが来たみたいだよ! 死人憑きがぞろぞろと!」
白狼天狗はそういう情報を一切くれないので、上空から物見をしてくれるテリーは非常に貴重な存在だ。
「おっしゃ、ほんなら作戦通り、雑魚の相手は任せてや。あんたらは元締めを倒してくれりゃええわ」
谷はそう言うと、愛用の十文字槍を構えて先陣を切る。
死人憑きや怪骨だけなら、新撰組が遅れをとろうはずもない。
「よし‥‥障害物も多少あるな。俺向きの戦場だ」
「みんな、気をつけてねー! 砦の真正面に、黄泉人が二人いるよー!」
紅闇が疾走の術を使用し、風月は持ち前の目のよさで砦の上に姿を現していた黄泉人二人を発見する。
どうやら魔法を詠唱しているらしく、弓兵の代わりを自分たちで担うつもりらしい。
「こうまであからさまだと罠の可能性もあるんだけどね‥‥『虎穴に入らずんば虎子を得ず』ってわけだし。先に行かせてもらうよ!」
「ちぇっ、もう合流してたのか。ということは今後ろで戦ってるのは、二人目が連れてきた増援かよ!?」
「だろうな。だがこちらにも新撰組七番隊がいる。これ以上逃がす気は無い。死人の相手も疲れるのでな」
劉、日比岐、霧島が走る中、一人だけ若干遅れているメンバーがいる。
「‥‥お兄様、刀が長くて地面に引きずるので腰にさせません。どうしたら良いでしょう‥‥?」
自分の身長より大きい野太刀を抱えている水葉は、えらく走りづらそうである。
だがその遅れが幸いしたのか、彼女は魔法の射程外にいたのだ。
「あぅぅっ!? ま、魔法が来るのは覚悟してたよー!」
そう、風月が黄泉人のライトニングサンダーボルトで狙撃されたのだ。
すぐにリカバーポーションで回復したからいいが、進撃に時間が掛かりすぎると被害ばかり増えてしまう!
更に悪いことにに、不意に雷鳴が鳴り響き、黒雲からヘブンリィライトニングがミミクリーで鳥に変身していたグリューネを直撃! これにはたまらず、グリューネは中傷状態となって地面に墜落していく!
もっとも、途中で白狼天狗が受け止めたので大事には至らなかったが。
「これは‥‥例の二人目の黄泉人の魔法か!? まずい、あの魔法に対してここは見晴らしがよすぎる! 紅闇は!?」
「もう中に入り込んだよ! あとは扉を開けてもらうだけ!」
霧島が歯噛みして問うたのを、テリーはしっかりと、よどみなく返答する。
こういう集団戦において、正確な状況判断は何よりも大事なのだ。
「日比岐も中に入った! 扉が開く!」
劉の言葉どおり、砦の重く大きな扉が、ゆっくりと開かれていく。
雑魚を新撰組に丸ごと任せてきたので、冒険者の受けた傷らしい傷は魔法だけだ。
そしてついに、黄泉人との対面である―――
●蜥蜴の尻尾きり
「‥‥醜態だな。あれだけの手駒を失い、折角占拠した砦まで奪還されようとは」
「し、将軍! しかし、こやつらは中々やりまする‥‥!」
砦内の開けた場所にて、6人は黄泉人たちと相対した。
かさかさに干からびたミイラのような外見の人間が流暢に会話するその姿は、お世辞にも気持ちのいいものではない。
少しにらめっこしているうちに、遅れていた水葉、白狼天狗に抱えられたグリューネが合流した。
「かつて我らを封印したのはなんだ? 人間だろう。それを侮って行動するなど‥‥どうやら貴様は指揮官として相応しくなかったようだ。そういう点では私の失策だがな」
そう呟くと、将軍と呼ばれた黄泉人はリトルフライを詠唱し、空中へと舞い上がる!
「将軍!? わ、私をお見捨てになるのですか!?」
「我ら黄泉人に無能者は必要ない。自分が無能でないというのなら、そこにいる連中を倒し、生き延びて見せるのだな。もっとも‥‥その可能性は低そうだが」
「逃がしません! 天狗殿!」
「いや、そうもいかないようだ。見ろ」
グリューネが白狼天狗を焚きつけようとするが、霧島がそれを止める。
見れば取り残された黄泉人の周りに、砦内に潜んでいたと思われるアンデッドが集まってきていた。
シュライクを扱う死霊侍が数体‥‥だが、今までの戦いに比べれば最早鎧袖一触だろうか。
「それじゃ、いつものをやるよー♪」
「『宵狐』の爪‥‥黄泉の底でとくと語れ」
「灰は灰に、塵は塵に‥‥死者は、地獄に還りなさいっ!」
風月がオーラパワーをかけて回る間に、前衛を担当する劉、霧島、水葉、日比岐、紅闇が死霊侍を叩きのめしてしまう。
グリューネ、テリーは魔法で、白狼天狗はソニックブームで援護をしたので、ことさら速い。
白狼天狗までオーラパワーがいきわたる頃には、もう黄泉人しか残っていなかった。
「ば、馬鹿な‥‥か、囲みさえすれば‥‥!」
「そ、その状況を作れなかった時点で‥‥あ、あなたの負けだと、お、思います‥‥けど‥‥」
「一気呵成と行こうじゃないか!」
「ぐっ‥‥おのれ‥‥人間ごときがぁぁぁっ!」
お世辞にも接近戦が得意とは言えない黄泉人だが、半分以上破れかぶれで突っ込んでくる。
だが、それすらも‥‥。
「アグラベイション!」
「うがっ!? か、身体が重い‥‥!」
「僕を忘れてもらっちゃ困るよ!」
テリーの魔法で動きを鈍くされ、逆に冒険者たちに囲まれてしまう黄泉人。
彼の末路は、最早言うまでもないだろう―――
●戦い終わって
「そうか‥‥逃げた方の黄泉人を追うのか。頑張れよ?」
「強い奴と戦うことで更に高みを目指せる‥‥あんたとも一度は拳を合わせてみたいもんだね」
日比岐も劉も、立ち去ろうとする白狼天狗を止めない。
いや、止めても行ってしまうのが彼だ。
「あぁ‥‥だが、分かったことがあるからな。それで我には十分だ」
「わかったことって何ー?」
「‥‥人間は弱い。だが、力を合わせることで強くなる。護られてばかりの生物ではない‥‥とな」
「ふ‥‥そうだな。また会えるか? 『白』」
「‥‥お前たちがそれを望めばな。では、また、いつか―――」
夕日の中、天を翔ける白狼天狗。
その心中もまた、夕暮れのように‥‥確かな温かみを帯びていたのだった―――