攻撃は最大の防御なり!

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:4〜8lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 16 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月11日〜05月17日

リプレイ公開日:2005年05月15日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「ふむふむ‥‥なるほど、これが今までの経緯ですか。この白狼天狗というのが何を考えているのかが重要ですね」
「正にッ! 不死者に刃を向けるというのに、冒険にまで攻撃を仕掛けてくる‥‥なんとも不可解なものよッ!」
 京都冒険者ギルドの職員、大牙城は、先日纏めた報告書を最近同じく京都ギルドに就職した西山一海に読ませていた。
 依頼の参加者の活躍もあり、村には殆ど被害が出ずにアンデッドの集団を撃退することができたのはいいのだが‥‥白狼天狗なる敵か味方かわからない謎の第三勢力が現れたのが気がかりなところなのだ。
「この、黄泉人っていうのはなんなんです?」
「詳しいことは分かっておらぬが、京都に押し寄せる一連の不死者事件の犯人と目されている存在だッ! もっとも、単独ではなく複数の黄泉人が確認されているがなッ!」
「‥‥ちなみに、目してるのは誰なんでしょう」
「無論、この大牙城のみッ!」
「聞いた私が馬鹿でした。何々‥‥干からびた死体のような外見が特徴、風系の精霊魔法を行使する者もいることが確認されている‥‥と、以上が今までの京都ギルドの依頼で判明してる事実ですね」
「うむッ! その未確認の敵が部下を率い、各々バラバラに京都に攻め入ってきているというのだから始末に悪いッ! 不死者を操り、指揮すると言うのも今まで聞いたことがない能力ッ!」
 さて‥‥今回の依頼は、後手に回っていた一連の事件を攻勢に転じようと言うものらしい。
 過去、二度冒険者が救っている村は文字通り人的被害が少なくて済んでいるのだが、更に南に行ったほうにある村の中には、丸ごと壊滅した集落や村があるという。
 その一つに、前回白狼天狗と戦闘を繰り広げた黄泉人が逃げ込んだという情報が寄せられたのである。
「教えてくれたのは、新撰組七番隊組長、谷三十郎さんに仕える忍者さんだそうです。手駒だったアンデッダーズを全滅させられちゃったんで仕方なく、といったところでしょうか。‥‥しかし、なんで谷さんはこんな情報を流してくれたんですかね?」
「無論、谷殿が私の旧友故ッ!」
「いや、本当にあなたは何者なんですか(滝汗)。それはともかく、京都から南へ2日ほどかかる場所にある村が例の黄泉人の根城らしいです。村人は散り散りに脱出したようですが、やはりかなりの数の方々が犠牲になってしまったのではないでしょうか」
 もしかしたら先日倒した死人憑きの中には被害者の元村人がいたのかもしれないが‥‥だからといって大人しく殺されてやるわけにも行かない。
 今を生きている人間のため、被害者の魂を解放するため‥‥立ちはだかるアンデッドは殲滅あるのみである。
「忍者さんが疾走の術で村を駆け回って調べた結果、死人憑き4体、餓鬼2体、鎧を着込んだ怪骨2体、朧車が一台確認されてます。ただし、場所が敵のテリトリーである上、連中は奈良方面から増援を呼ぶことが出来るので現地に行ったら増えている可能性もあります。ご注意を」
「いかに訓練された忍びと言えど、走りながらの調査では精密な情報収集は難しいだろうからなッ! そこは責めないでやって欲しいッ! ところでだ、一海殿ッ!」
「はい、なんでしょう?」
「朧車は『一体』ではなく『一台』と数えるものなのかッ!?」
「細かいこと言わんでください!? 『引く牛もついていない牛車の姿で走り回っていて、その姿は朧気、正面には目を光らせた恐ろしい形相の鬼の顔が浮かんでいる』っていう妖怪なんですから、牛車みたいに一台二台でいいでしょう!?」
「むむッ、言われてみれば確かにッ!」
「うぅ‥‥なんだか疲れます。話を戻すと、例の白狼天狗がその村周辺で戦っているところも忍者さんが目撃してます。黄泉人の魔法で撃墜されて、森に落っこちていったらしいんですが‥‥また姿を現しますかね?」
「傷で上手く飛べなくなったのだろうかッ!? 傷ついた者を救うのも真の漢への道だが‥‥相手が漢であり、立ちはだかるのであれば刀を交えるのみッ! 依頼人からは何も言ってきておらんしなッ!」
 怪我を負っているとはいえ、白狼天狗はかなりの手練だ。
 無視は出来ないが、なるべくアンデッドの方に集中したいところだが‥‥それは現場の冒険者に任せるとの事である。
 今回は敵地に乗り込んでの戦いのため、憂いを残しておくのは非常によろしくないのだが。
「しかし、朧車は厄介だなッ! 牛車の体当たりは中々にきついものがあるッ! かく言う私も牛車に正面から跳ねられたことがあるが、一瞬黄泉路が垣間見えたッ!」
「話を蒸し返さないでくださいよ!? というか、普通の牛車と朧車を一緒にしないでください! はぁ‥‥時々城さんが分からなくなりますよ。何で私は城さんの友達やってるんでしょう‥‥」
「無論ッ、君が『漢』だからだろうッ! 真の漢は、互いに引き寄せあうものだというからなッ!」
「あーはいはい、そうですかー(泣)」
 一海の上げた情けない声をきっぱりと無視し、今日も大牙城は絶好調のようだった―――

●今回の参加者

 ea2266 劉 紅鳳(34歳・♀・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 ea4138 グリューネ・リーネスフィール(30歳・♀・神聖騎士・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea5480 水葉 さくら(25歳・♀・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea6415 紅闇 幻朧(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea8212 風月 明日菜(23歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea8703 霧島 小夜(33歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea9384 テリー・アーミティッジ(15歳・♂・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 eb1277 日比岐 鼓太郎(44歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)

●リプレイ本文

●今度はこちらから!
 京都から二日ほど南に行ったところにある、すでに棄てられた村。
 黄泉人率いるアンデッド軍団の襲撃を受け、多数の犠牲者と難民を生んだ悲劇の場所である。
 一行はついに目的地へとたどり着き、後手に回っていた状況を打開すべく戦闘準備を整えている。
「これ以上増えられても困るし、統率とって戦われるのももっと困るんだよね‥‥いい加減、頭は潰しとかないと!」
「とにかく、大物だけは絶対倒しておきたいよねー♪」
 対アンデッドに欠かせない魔法、オーラパワーを全員に付与して回りながら、劉紅鳳(ea2266)と風月明日菜(ea8212)の二人が気合を入れる意味で頷き合う。
 今までの戦いも、彼女らがいなければ敗退していたかもしれない‥‥そんな重要人物だ。
「うーん‥‥前回、白狼天狗は最初に黄泉人へ不意打ちをくらわせたっていうのもあったからかもしれないけれど一人で黄泉人を圧倒してた。それなのに今回はやられて墜落してる。村にいる増援も聞いた限りじゃ有効な対空攻撃持ってるとも思えないしなんかそれが不思議‥‥」
「ら、ライトニングサンダーボルトは、空の敵には‥‥と、特に有効、なのでは‥‥。え、詠唱する時間さえあれば、地上から‥‥狙い撃ち、できますから‥‥」
 テリー・アーミティッジ(ea9384)の疑問に答えたのは水葉さくら(ea5480)。
 先日は空からソニックブームで攻撃されていたため、黄泉人も詠唱の暇がなかったのだろう。
「とにかく、魔法の制限時間もある。引き際は見誤らないようにしないとな」
「全くだ。だが攻めは決まれば最上の守り、全力で成すまでだな」
 紅闇幻朧(ea6415)も霧島小夜(ea8703)も魔法をかけてもらい、準備を整え終える。
「‥‥あの‥‥一つ、よろしいでしょうか?」
 と、グリューネ・リーネスフィール(ea4138)がおずおずと挙手をした。一同は何事かと彼女を見る。
「もしかしなくても、お一人足りなくはありませんか‥‥?」
 よくわからないが、『ピシッ!』という音が聞こえたような気がした。
 この場にいるのは7人のみ。もう一人、忍者さんがいたはずなのだが‥‥?
「敵地に潜入するのに一人きりで行ったのか!? 殺してくれと言っているようなものだぞ!」
 劉が叫んでも事態が好転するわけでなし‥‥7人は急いで村へと突入することにしたのだった―――

●共闘?
「うぉぉぉぉぉぉぉっ!? ち、ちくしょう、鍛えててもこれはきついってぇぇぇっ!」
 どどど、と全力疾走する日比岐鼓太郎(eb1277)の後ろからは、数対の死人憑きやら餓鬼やらが追いかけてきている。
 軽く偵察し、黄泉人を探すための隠れ場所を探そうとしたのが間違いだったのかもしれない。
 やはり情報以上に敵の数は多く、あっさりと発見されてしまい、現在に至る‥‥と。
「は、走ってるところを魔法で狙われたりしたらそれこそお終いだよな‥‥やばい、本気で戻らないと!」
 魔法を喰らい、動きが鈍ったところで後ろの集団に囲まれたら命がないだろう。
 走り続け、少々開けた場所に出た時だ。
「退け、人間」
「へ!?」
 日比岐が横っ飛びで方向転換すると、彼の元進行方向から飛んできたソニックブームが空を切り、餓鬼の一匹に直撃した。
 白狼天狗‥‥前回黄泉人に攻撃を仕掛け、手伝うとした冒険者にまで攻撃を仕掛けてきた謎の第三勢力だ。
「な、なんのつもりだよ。もしかして助けてくれるのか?」
「我が言い付かったのは『人間を護れ』という命令。つまり、人間は護らなければならないほど弱い生物。そんな生物がウロチョロしていては足手まといだ」
「そんなのあんたの勝手な解釈じゃないか! 人間だって強いやつは強いんだぞ!?」
「‥‥黄泉からの軍団を退けられるほどとは思えん。それに我は命令を実行するのみ」
 そう言って、アンデッドの群れに突っ込んでいく白狼天狗。魔法で撃墜され、地面を転がったせいかあちこち薄汚れているのが見て取れた。
「‥‥くそっ、見過ごすわけにゃ行かないだろ!」
 そう吐き捨てて、日比岐も白狼天狗に続き、攻撃に転じていた―――

●朧車と不快な仲間たち
「魔法を使い直してる暇は無さそうだから、出来るだけ速攻、って事にしたいかなー♪」
「お前等の相手はこの『宵狐』、易々とは抜かせんよ」
 7人は日比岐を探している最中にアンデッドの群れと出くわし、戦闘を開始していた。
 餓鬼、死人憑きくらいならあっさり倒せるが、死霊侍‥‥つまり武装した怪骨はまずい。
「ちぃっ‥‥シュライクだと!? 味な真似を‥‥!」
 コンバットオプションまで使う死霊侍。背後から攻撃され中傷になった紅闇は、ポーションですぐさま回復した。
「新技はまた今度‥‥今は叩き潰す槌のほうがよさそうだしね!」
 オーラパワーのかかった槌の一撃で餓鬼を重傷に追い込む劉。
「ら、ライトニングサンダーボルト‥‥!」
「そこの鎧着たスカルウォーリアーに、アグラベイションだよっ!」
「そうやって不用意に近づいてくると‥‥ビカムワースの餌食です!」
 魔法組みも各々やれること、やりたいことをを存分に発揮して戦っているようだ。
 前回と違い、こちらが襲撃を仕掛けているため、アンデッドたちの統制が取れていない。
 その上戦力がバラバラに散開していて、黄泉人の魔法が飛んでこないことも冒険者にとって有利に働いているのである。
「楽勝楽勝ー♪ このまま各個撃破していっちゃおうよー♪」
「ゆ、油断禁物、ですよ‥‥か、肝心の黄泉人さんがどこにいるか、わかりません、し‥‥」
「それに、来たみたいだよ。3メートルくらいの大きさのものが、地面を揺らしてる!」
 とりあえず戦闘が一段楽した後、テリーがバイブレーションセンサーを使ってみたところ、黄泉人ではない何かを捉えた。
 黄泉人は人間と同じくらいの身長なので、3メートルということはまずない。
 がらがらがらと言う音に気付いてそちらを見やると、引く牛のいない牛車が、鬼の顔をくっつけた朧車の姿が‥‥!
「なるほど‥‥姿が朧気だから朧車か。あれは普通の武器は通用しそうにないな」
「つ、突っ込んできますよ!? 実体がないなら体当たりされても痛くないとか‥‥そういうことはないでしょうか!?」
「いや、あれは避けた方が賢明だろうね。大牙城の二の舞になるよ?」
 霧島、グリューネ、劉が談義するが、意外と余裕がある。
 本人たちが気付いているかは分からないが、やはり戦場において士気というものは大事らしい。
「どうする。日比岐も探さねばならないし、魔法も切れた。向うもなかなか素早いようだが」
 朧車の体当たりを避けた紅闇は、朧車から視線を逸らさずに言う。
 当の朧車は、一度十数メートル走りきった後、方向転換していまた走り出したところだった。
「俺なら心配要らないぜ! 何とか生きてる!」
 ポーションの空瓶を片手に、白狼天狗と一緒に登場したのは‥‥鬼面をつけた音撃戦士、日比岐!
「あれー? 白狼天狗さんと仲良くなったのー?」
「応よっ! アンデッドを協力して倒して、すでにマブダチも同然だよな!」
「仲間になった覚えなどない」
「あ、あり?」
 どうやら日比岐を牽制する余裕がなかっただけらしく、一緒に登場したのも日比岐がくっついていたからに過ぎないようだ。
 白狼天狗は真っ直ぐに朧車に突っ込み、戦闘を開始した。
「あんたの主の命令は黄泉人を倒すことなのかい? あたし達は奴らをぶっ倒すのが目的だ。もし、利害が一致してるんなら手を組んでみるのもありじゃない? あんたが倒すのをあたし達が手伝うってので、どうだい?」
「断る。弱い生物にうろうろされるのは迷惑だ」
 劉の言葉ににべもなく答える白狼天狗。彼の思考には護る対象との共闘という論理が浮かばないのだろう。
 突撃してくる朧車の攻撃を白狼天狗が避けた、その時だ。
「天狗殿ッ! 君が今すべき事は何かねッ! 君が主人とやらから受けた命令は黄泉人の阻止だろうッ! ならば我々と君が争いあう理由など何もないッ! 敵の脅威と己の今の状態を冷静に判断し、他者の手を借りることは恥ではないッ! むしろその判断が出来る者こそ、真の漢だろうっ!」
 しーーーん‥‥。
 あまりに唐突にグリューネが叫ぶので、他の7人はおろか白狼天狗や朧車まで固まってしまっていた。
 熱弁を振るっている最中、グリューネの背後に虎覆面とマントをつけた男がダブって見えたような気がする。
「‥‥すみません。今、別な何かに取り憑かれた様です。詳しく言うと、トラの様な何かに。と、とにかく、今この場だけでも協力していただけませんか、どれだけ強くても一人で出来る事は限られるのですから」
「む‥‥むぅ。なんという威圧感だ‥‥」
 微笑みながらポーションを渡してきたグリューネを拒めず、白狼天狗は小瓶を受け取って飲み干した。
 今はもうすっかりプレッシャーはなくなっているが、グリューネを敵に回すのはよくないと本能で悟ったのかもしれない。
「‥‥そろそろ漫才は終わりでいいか? 来るぞ!」
 霧島もこめかみを押さえながら呟き、再び戦闘態勢を取る。
「おっけー♪ なんだかんだでオーラパワーもかけ直せたし、あとは集中攻撃あるのみだねー♪」
「よ、黄泉人さんの姿が見えませんけど‥‥い、今は、この朧車さんを、た、倒してしまいましょう‥‥!」
「アグラベイションもかけておいたよ。さっき話してたときに攻撃されなかったのは僕のおかげなんだからね♪」
 単純計算、9対1。しかもオーラパワーで強化された面々相手では、朧車もあっさり撃破されてしまった。
 黄泉人は騒ぎを聞きつけて素早く逃げ出してしまったようで、結局見つけることはできなかったが‥‥次の依頼があったときを、黄泉人の最後にしたいものである―――