決戦、堕天狗党! 〜終わりへの始まり〜

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 71 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月29日〜09月03日

リプレイ公開日:2005年09月04日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

 某月某日、京都冒険者ギルド。
 雲は掛かっているが湿気は多くなく、比較的過ごしやすい日。
 そんな日に、京都の便利屋と呼ばれる藁木屋錬術がここを訪れた。
「一海君、薮から棒で悪いが依頼の準備をしてくれ。堕天狗党の動きが判明した」
「また唐突ですねぇ。まぁこっちもお仕事なんでいつでもいいですけど」
 そう言って手際よく書類を纏め始めたのは、京都冒険者ギルドの職員、西山一海。
 友人である二人が堕天狗党と関わり始めてからかなりの時が経つが、未だ決着は見えていない。
 だが、今回‥‥藁木屋が持ってきた依頼は、その因縁に終止符を打とうかというものだった。
「‥‥そうですか。とうとうその時が近づいてきちゃいましたか」
「あぁ。もちろん今回で全てに決着がつくほど向うの戦力も甘くない。堕天狗党の本拠というか首領がいる場所を叩こうと言うんだ‥‥連中も必死で抵抗してくるだろう」
「場所は‥‥竜ヶ岳にある、滝の裏側の洞窟? 思ったより普通というか‥‥面白味ないですねぇ」
「城に立て篭もってるとでも思ったのかね? ともかく私とアルトが偵察に行ってみたら、あっさり鳴子で発見され、堕天狗党の面々とやりあう羽目になったしな‥‥警戒網はそこそこだ」
「そ、それはまた。で、そのアルトノワールさんはどうしたんです?」
「『‥‥疲れたから寝る』だそうだ。私たちが見つかったせいで警戒が厳重になり、例の洞窟に向かう際にほぼ確実に堕天狗党員と戦わなくてはならなくなったのが心苦しいところだ」
 おいおい‥。
「何度も出向いて少しずつ堕天狗党員を倒していく理由は何です? そんな悠長なことしてたら逃げられちゃうんじゃ‥‥」
「‥‥これはあくまで噂なのだが‥‥堕天狗党の首領は人間ではなく、文字通り『堕ちた天狗』ではないかと言う話がある。京都の天狗たちから追放され迂闊に洞窟の外に出られないだの、その洞窟で大掛かりな儀式を行っているだのと憶測が憶測を呼んでいるが、堕天狗党の首領に洞窟を動く気がないのは確かなようなのだ」
「むー‥‥なんかしっくり来ませんが、この依頼、長引きそうですね‥‥」
「だがこれで決着がつく。つけてみせる。そう思わねば今までの苦労が報われないさ。それに次回までには樺太愛音嬢にも確認が取れるはずだから、幾分か楽にになるだろう」
 出された茶をずず、と含み、静かに飲み下して息をつく藁木屋。
 様々な想いが心の中に渦巻いているのが、一海からも見て取れた。
「‥‥死人‥‥でますよね、多分」
「‥‥出るだろうな。堕天狗党には勿論、冒険者にもかなり危ない橋を渡ってもらう事になるからね‥‥冒険者側が全滅してもなんらおかしくない」
「武士じゃない私が言うのも何なんですけど‥‥戦うしかないんですよね。どんな結末になっても」
「‥‥あぁ。止まれないさ‥‥私たちも、彼らも」
 その言葉を皮切りに、二人はしばし黙ってしまった。
 一海は依頼の書類をもくもくと製作しているし、藁木屋は湯飲みの水面を眺めたまま。
 普段騒がしいはずのこの一角が、妙に静かで‥‥。
「出来ました。目的、堕天狗党員の撃破。下準備が不十分ですので見張りの程度は分かりません、誰が居るかも分からないという事ですね、運次第でしょう。便宜上、今回は一人でも堕天狗党員を倒せば依頼成功としておきます」
「それでいい。無理に洞窟へ向かおうとせず、確実に相手の戦力を削って欲しいからね」
「藁木屋さんは行けるんですか?」
「一応な。アルトの方は気分次第だろう」
 長きに渡った決着への第一歩。
 幾度となく剣を交えた者もいるだろう‥‥話に聞いただけの者もいるだろう。
 道を違え、理想を違え、信念を違えたのならばもう戦うしかない。
 悲しき決着劇が、今始まる―――

●今回の参加者

 ea0828 ヘルヴォール・ルディア(31歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea2144 三月 天音(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea2246 幽桜 哀音(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea5414 草薙 北斗(25歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6269 蛟 静吾(40歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea7029 蒼眞 龍之介(49歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7871 バーク・ダンロック(51歳・♂・パラディン・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea9275 昏倒 勇花(51歳・♂・パラディン候補生・ジャイアント・ジャパン)

●リプレイ本文

●竜ヶ岳
「はぁーーーーっ!」
 ごうん、と波動が巻き起こり、バーク・ダンロック(ea7871)が今日何度目かのオーラアルファーを放った。
 夏の終わりとはいえ、竜ヶ岳は人があまり出入りする山ではないらしく、まだまだ植物が多く群生している。
「助かったよバークさん。僕なんか身体が全部隠れちゃうから、動きにくいのなんのって‥‥」
 身長が8人の中で一番低い草薙北斗(ea5414)などは、言葉どおり青々と茂る笹等の雑草に行く手を阻まれ続けていた。
「きちんと準備してこないのが悪いのじゃ。事前に藁木屋殿が笹などが多いと言っておったじゃろうに」
「あたしは身長があるから顔は平気なのだけれど‥‥乙女のお肌に傷がついちゃうのが悩みどころね‥‥(溜息)」
 他の面々は顔こそ平気だが、三月天音(ea2144)のようにしっかり準備をしておかなかったため、生傷が多い。
 昏倒勇花(ea9275)が言うように、女性陣にはあまり歩きたくない場所かもしれない。
 ちなみに昏倒は男だが。
「‥‥しかし、この程度の傷なら戦闘に支障はないけど、足場の悪さはどうにかならないかな。草が生えすぎててどこまでが地面かわかりやしない」
「‥‥それに‥‥さっきから、バークさん‥‥魔法使い放題だから‥‥多分、向うには‥‥気付かれてる‥‥」
「だろうな。元々この道は私とアルトが一度侵入した道だから、堕天狗党も警戒を強めているはずだ」
 ヘルヴォール・ルディア(ea0828)と幽桜哀音(ea2246)、そして藁木屋錬術は、バークがなぎ倒した草を慎重に踏みしめながら歩を進めていた。
 根っこから吹き飛ばしたわけではないので、ミステリーサークルのような円形広場が出来るだけ。
 よって、実は落とし穴があったとか、崖の直前でした、などという事態に遭遇しても困ると言うわけだ。
「高威力版を撃ってもらえればまた違うんでしょうが‥‥それではバーク殿の魔法力がすぐ尽きてしまいますからね」
「そうだな。こんな時アルトノワール君が居てくれると助かると言えば助かったのだが」
「申し訳ない。『‥‥薮蚊に刺されるの嫌だからパス』と言われてしまいましてな‥‥。御存知の通り、一度言い出したらテコでも聞きませぬ故‥‥」
「別に君を攻めているわけではない。我々もいい加減、彼女の性格には慣れてきた」
「は。そう言って頂けると救われるというものです」
 通称師弟コンビ、蛟静吾(ea6269)と蒼眞龍之介(ea7029)。
 初めの初めから堕天狗党に関わり、一度も機会を逃したことのない堕天狗党追跡の第一人者。
 それこそ藁木屋よりも、堕天狗党との関わりは深いくらいである。
 気まぐれなパートナーをちょっと恨みつつ、藁木屋は前進を再開した。
「しかし、遠目から見るより険しいな。結構登ったような気がするんだがなぁ」
 バークがぼやくのも無理はない。
 竜ヶ岳は標高952メートルあり、未開の山と言うことも手伝って前進に時間が掛かっていた。
 それでも藁木屋たちが一度通った道なので、幾分かはマシなはずなのだが‥‥。
「これじゃどこから攻撃されるかわかんないよね。いきなり奇襲されたりして―――」
「こんな風にか?」
『!?』
 草薙が軽口を叩いた次の瞬間、少し上のほうから野太い声がする。
 全員が意識を向けたときにはすでに、3つの人影がバークへの強襲を行うところであった―――

●三本の刀
「喰らえぃ! これが我らの乱気流攻撃よ!」
「ぐっ‥‥うぉぉぉっ!?」
 先頭の大地丸がポイントアタックで攻撃。続いて茸ノ丞もポイントアタックを放ち、最後に折手矢がスマッシュ+ポイントアタックで止めとばかりの一撃を打ち込んでいた。
 不意打ちでオーラボディを詠唱できなかったバークは、黒い三連刀の攻撃をまともに受け、倒れふした。
「‥‥まずい、死にかけだ。わらっきー、薬もらえるかい? ‥‥まったく、誰が相手になるかは鉢合わせするまで分からないとはね‥‥連中と戦うには厄介な話だよ」
 事前にヘルヴォールと三月が斥候に出たときも、誰にも会わなかった。
 それはあくまで、黒い三連刀が隠れていたと言うことなのか‥‥?
「承知。バーク殿、一先ずヒーリングポーションを」
 素早く藁木屋がフォローに回ったので、これ以上バークが攻撃されることはないだろう。
 だが、正直事態は芳しくない。
「やはり彼らも腕を上げている。蛟君、ここは任せる。‥‥天狗の見る夢、しかと見届けよう」
「わかりました。例え相手が誰であろうと、僕は進まなければならないんだ! 邪魔をするな!」
 何か意図があるらしく、あえて抜刀せずに注意を引く蒼眞。
 蛟、ヘルヴォール、昏倒、幽桜、草薙、三月は各々の得物で向かっていくが、草に引っかかって速度が落ちたり、刀が枝に引っかかったりして思うように動けない!
「こ、この枝が邪魔じゃ!」
「草が‥‥すべるっ!?」
 一方、黒い三連刀の三人は、まさに庭であるかのように草木の間をすり抜け、的確に攻撃を仕掛けてくる!
「我らの力を見よ! 最早退路はないのだ!」
「‥‥私はまだ動けるけど‥‥長く慣れてる分、向うの方が速い‥‥」
「嫌ね‥‥山での戦闘が、こうもやりにくいだなんて‥‥!」
 全員多かれ少なかれ傷を負っており、フォーメーションもバラバラだ。
 それに比べると、黒い三連刀は一糸乱れぬ隊形で戦場を駆け抜けている!
「‥‥正直‥‥不意打ちされるとは‥‥思わなかった‥‥。‥‥主旨変え‥‥?」
「ここまで攻め入られては正々堂々などと言っていられるかってんだ! 俺たちはあのお方を守れればそれでいい!」
「汚名は自分たちだけが被るって言うの!? そんなの!」
 運良く高速詠唱で微塵隠れを成功させた草薙が、勝利への第一歩。
「そこじゃ! わらわが魔法と情報収集だけと思うでない!」
「ぐぉっ!?」
 手傷を負った茸ノ丞が三月の鞭攻撃を受け、足を止める。
「いらっしゃい。あたしの抱擁はきついわよ?」
「がっ‥‥!」
「茸ノ丞!」
「待て、折手矢!」
 得意の陣形が乱れ、折手矢が茸ノ丞救出に向かったことで勝負は決していた。
 茸ノ丞の左腕がごきりと嫌な音を立て、身体ごと地面に転がる。
「よくも茸ノ丞を! 死ねぇ!」
「‥‥させない。あんた達が止められないのと同じ様に、私達も止まる訳にはいかないんだ。‥‥首領が何を成そうとしているかまでは、まだ分からないけど‥‥それによって泣く人々が出るのなら‥‥その企みは、必ず潰すよ」
「私も働かないとな。いるだけでは格好がつかん」
 ヘルヴォール、藁木屋の連続攻撃を、一人だけ突出した折手矢が捌ききれるはずもなく、どんどん押されていく。
 大地丸は大地丸で蒼眞、蛟に行く手を阻まれ、折手矢たちの援護に向かえない。
「我ら三人、例えここで倒れることになろうとも本望! 一人なりと地獄に叩き込んでくれるっ!」
「‥‥蛟君と共に追い続けた堕天狗党。その強さ、哀しさは身にしみて判っている。それ故に私の全力で以って最後の攻略に当ろう、それが私の党に対する礼儀であり敬意である。そして嵐馬殿、彼の御仁への敬意でもある」
「蒼き水龍の名にかけて、僕はお前たちの首領と会う。そのためには‥‥容赦は出来ない!」
「返り討ちにしてやるわっ!」
 あくまで刀を抜かない蒼眞の威圧感もさることながら、蛟の腕前も大地丸と同等で相当厳しい。
 このままでは人数が少ない分、黒い三連刀の敗北は必死!
 そう思われた時だ。
「大地丸!」
 だらんと垂れた左腕を庇うこともなく、茸ノ丞が立ち上がって叫ぶ。
 それは、魂の慟哭。
「足手まといとなった俺など放っておけ! あのお方のために、一人でも倒せぇ!」
「‥‥あの人‥‥まさか‥‥」
「堕天狗党よ‥‥永遠なれぇぇぇぇぇっ!」
 自らの刀で首を掻っ切り、茸ノ丞は動かなくなる。
 派手に飛び散ったその血は、まさに雨のように草を、人を濡らしていく。
「ち、畜生‥‥死んで何になるってんだ‥‥! てめぇを助けるために仲間が危険に晒されるならってか! そこまで‥‥!」
 幽桜もバークも、驚きを禁じえない。
 三人で一つが彼らではなかったのか?
 いや、だからこそ他の2名を生き残らせるために命を捨てられるのだと言うべきか?
 どちらにせよ、あっけないようであり、壮絶なようでもある茸ノ丞の最後であった。
「うぉぉぉ! お前の気持ち、無駄にはせんぞ!」
「させん! 避けることには自信があってね‥‥足止めさせてもらう」
「ならば!」
 藁木屋が目の前に出てきたのを見て、折手矢は目標を後方に居た三月に変更する。
 火炎系の魔法を使えないと判断し、一番組し易いと思ったのだろう。
「‥‥そう来ると‥‥思った‥‥。私も‥‥そのうち、逝くから‥‥先に行って、待ってて‥‥」
「‥‥!」
 不意打ち気味に繰り出されたブラインドアタックを見切れず、直撃を受けた折手矢。
 幽桜は躊躇せず、速やかに‥‥折手矢の心臓めがけて刀を突き下ろした。
「‥‥引け、とは言うまい。来い‥‥信念のままに」
「‥‥感謝しよう。行くぞっ!」
 ただ一人残った大地丸は、蒼眞の言葉に乗って攻撃し、中傷を負わせる。
 あえて避けない蒼眞は、痛みに耐えて蛟の名を呼ぶ!
「これで終わりだ‥‥僕たちの戦いの始まりを告げた男たちっ!」
 蛟が渾身のスマッシュEXで背後から斬り付ける。
 避けるべくもなく崩れ行く大地丸の胸中は、やはり無念なのだろうか?
「‥‥茸ノ丞‥‥折手矢‥‥すまん‥‥!」
 様子見と言うにはあまりに激しい戦い。
 終わりへの始まりは、こうして熾烈な形で幕を開けたのであった―――