●リプレイ本文
●深々と降る雪の中で
竜ヶ岳は今日も雪であった。
標高1000メートル弱あれば、充分山の下とは気候が違う。
その竜ヶ岳の山頂付近‥‥洞窟の見える開けた場所に、藁木屋連術は一人佇んでいた。
目の前には、簡素ながらしっかりと加工された石の墓標。
「‥‥まだ私だけ‥‥か。まぁ皆忙しいのだろうな」
待ち人。
共に死線を潜り抜けてきた戦友。即ち―――
蒼眞龍之介(ea7029)
蛟静吾(ea6269)
ヘルヴォール・ルディア(ea0828)
幽桜哀音(ea2246)
三月天音(ea2144)
草薙北斗(ea5414)
バーク・ダンロック(ea7871)
本来ならばあともう一人、頼りになる人がいるのだが、残念ながら近頃多忙らしい。
焚き火の火で線香を燃やし、そっと墓に備える。
すると、この山で起きた様々な激闘が、拝むために閉じた瞼によみがえってきてしまう。
特に、最終決戦。
堕天狗党首領、烈空斎との死闘が‥‥。
「あれはきつかったよね〜。僕も何度死ぬかと思ったもん」
ふと見れば、いつからいたのか草薙の姿が。
ちょこちょこ近寄ってきて、焚き火に当たる。
若いなりに数々の修羅場を潜ってきた忍者とは思えない仕草ではあるが、彼らしいといえば彼らしい。
「そうだな‥‥。それに、君に貸してもらった魔法のアゾットはありがたかったよ」
「どういたしまして。‥‥僕もね、たまに夢で見るんだ。あの一戦‥‥」
二人は少し時を遡り‥‥あの時の激戦へと、思いを馳せた―――
●あの時の記憶
「速い!? 申し訳ないが自力でなんとかしてくだされ!」
最終兵器と呼べそうなくらい強い人物であったとしても、魔法に関連した武器・術がなければただの的になる。
触れられるだけで中傷を負う烈空斎の攻撃は、鎧を着込んでいてもすり抜けてダメージを与えてくるので、薄着の人物にはまさに致命傷となるだろう。
連続で攻撃を食らえばあっさり重傷だ。
自分でなんとかしろと叫んだ藁木屋でさえ、次の瞬間には地面に転がっているかもしれないのだ。
『すまんな、飛ぶことには生前から慣れている。幽霊化してからも長い』
パッと見は青白い炎かモヤかといったところだが、戦ってみればそんな感慨は吹き飛ぶ。
知性を保ったまま幽霊化した天狗(あるいはその類似系妖怪)がここまで恐ろしいとは‥‥!
「状況を整理する。烈空斎殿に通常武器は効果なし、移動速度が速く、直角に近い急制動もかけられる」
「‥‥魔法の武器、持ってるの‥‥私と‥‥蒼眞さん‥‥。あと‥‥草薙君に‥‥借りた‥‥藁木屋さん‥‥。正直‥‥有効打に‥‥なりそうなの‥‥蒼眞さんだけ‥‥」
「‥‥私の鬼神ノ小柄もあるよ。‥‥正直、紗亜との戦いの後にこれを使うのは少し気がひけるけどね」
蒼眞、幽桜、ヘルヴォールは、烈空斎の挙動に充分注意を払いながら作戦を練る。
すでに蛟やバークが身をもって通常武器が通用しないことを実証したのだから、得物の変更は正しい判断だろう。
「魔法は俺と天音の嬢ちゃんと北斗の坊主だな。蛟はなんかないのかよ?」
「すまない。気休めに十二神刀元重でも持ってきておくべきだったか‥‥!」
「あれは魔法の武器じゃったかのう? そういえばあの鈴はどうじゃ。神楽鈴」
「いくら魔法がかかってても、鈴で烈空斎さんと戦うのはどうかなぁ(汗)」
バーク、蛟、三月、草薙は魔法が使えるが、蛟は攻撃魔法を習得していないし、スクロールも使用不可。
今緊急に用意できそうなのが神楽鈴という武器でもない代物というのが悔しい。
他の三人にしても、あの速さの烈空斎を捉えられるのは高速詠唱を持つ三月と草薙くらいと大分絞られてしまう。
『‥‥作戦会議は終わったか? 言っておくが、諸君らが古代に戦った黄泉大神は私などより遥かに強かった。私程度に苦戦しているようでは、黄泉人やその他の妖怪の脅威から生き残れはせん』
「‥‥その時は数が違った‥‥と思いたいね。言わば堕天狗党の連中とも結束して戦ったようなものだろうし」
『ふむ‥‥確かに。まぁいい‥‥今は我等の戦いだ。そろそろ奉仕期間は終わらせるとしよう。ここからが私の本気だ。‥‥死ぬでないぞ』
ヘルヴォールの軽口をも重く受け止めた烈空斎。
静かな一言(とは言ってもテレパシーのようなものだが)の後、再び凄まじい速度で機動を開始する。
しかも、今度は‥‥!
「‥‥地面‥‥すれすれ‥‥!?」
「く‥‥流石に場慣れしている‥‥!」
人間大くらいの青白い幽霊が、地を這うように迫ってくる。
もはや生前の姿形さえ保てなくなった魂でなお、烈空斎は戦士としての死を望む!
稲妻のような軌跡を描き、冒険者たちの隊列のど真ん中へ向かう‥‥!
「‥‥させない‥‥。接近戦なら‥‥!」
幽桜が月霞+1で烈空斎に斬りかかる。
だが烈空斎は、その攻撃を回避!
「‥‥そんな‥‥!?」
『ラジリア‥‥いや、今は幽桜哀音であったか。一つ助言をしよう』
烈空斎が手を伸ばし、幽桜に触れる。
こちらからは触れないのに、烈空斎から触れられると途端に凄まじい衝撃が身体を走る‥‥!
「‥‥うぐ‥‥くぅっ‥‥!」
『そこまでの格闘能力があるのであれば、後は回避を極めるのだ。攻撃面はブラインドアタックとシュライクで充分であろう。さもなくば、私程度の格闘技術で殺されてしまうぞ』
ゆらゆらと地面すれすれを漂う烈空斎はさらりとそんなことを言う。
「先生、今のうちに龍牙(ソニックブーム)を!」
「いや、駄目だ。今放てば哀音君に当たる。烈空斎殿は予め私と自分との間に哀音君がくるよう動いていた‥‥!」
遠距離からの攻撃も、同士討ちを誘うような場所取りを試みればそうそう撃たれはしない。
それは広範囲魔法にも当てはまるし、接近戦でも有効だろう。
『幽霊というのもこれはこれで便利なものだ。壁を通り抜けられ、常軌を逸した軌道を取れ、敵陣真っ只中にも平然と潜り込める。‥‥覚えておけ、戦士たちよ。後に同じような敵と出会ったときのために』
そう言って、今度は蛟へと接近する。
もちろん蛟を盾にし、蒼眞からの攻撃を受けないような位置だ。
「くっ‥‥先生、僕が抑えている間に、烈空斎殿を!」
何を思ったか、蛟が烈空斎を抱き込むような仕草をとる。
だがその手は空を切り、モヤ状である烈空斎の身体を貫いているような格好となる‥‥!
『幽霊は意図的に人体をすり抜けることもできる。二度と掴もうなどと思わないことだ』
「ぐあぁぁぁぁっ!?」
『蒼き水龍‥‥君への助言は『一刻も早く魔法の武器を手に入れろ』だ。折角のスマッシュも、相手次第で無力では意味がない。あとは格闘技術さえ磨けば充分‥‥』
ダメージを与えることを意識したらしく、蛟の絶叫が響く。
蛟が膝をつくと同時に、烈空斎は一人隊列から離れているバークのほうへ。
その疾風のごとき運動性は、まさに脅威‥‥!
「ちくしょう、魔法の詠唱が間に合わねぇ!」
『オーラボディを纏ったか。だが、得意のオーラアルファーは撃てまい』
「ちぃぃっ!」
接近されれば、バークに避ける術はない。
かと言って、幽霊である烈空斎相手ではいつものように防御に物を言わせることもできない。
オーラボディも、直接中傷ダメージを叩き込んでくるタイプの相手には効果が薄い‥‥!
「ぐぉぉっ! くそっ、撃て、天音の嬢ちゃん!」
「了解したのじゃ! ファイヤーボム!」
『ほう?』
自らを巻き込むことを躊躇せず、バークは三月に魔法の使用を促す。
それに応え、三月はバークたちのほうへ向けて高速詠唱で魔法を放った!
『その心意気やよし。だが』
それに気づいた烈空斎は、なんと地面の下へと姿を消す!
当然、ファイヤーボムの爆風を受けるのはバークだけとなる。
「まさか!?」
「んなっ!? そんなのアリか!?」
『三月天音との距離を開けすぎだ。15メートル先から飛んでくる炎の玉を、地面すれすれにいる幽霊が黙って喰らってはやれん。もう少し近ければ問題なかったと思うがな』
爆風自体ではかすり傷のバークも、再び地面から出てきた烈空斎に触れられ、中傷。
『そうそう、君にも助言を。できることなら高速詠唱を覚えるのだ。そうすれば君の戦闘力はまた別次元になる』
「ぐ‥‥わかってんだよ、そんなのは‥‥!」
烈空斎は止まらない。いや、止められない。
三月に接近する際、ファイヤートラップを嫌ってかほんの少し高度を上げる烈空斎。
無論三月も、黙ってやれるつもりはない‥‥!
「わらわの覚悟、見てもらうのじゃ! ファイヤーボム!」
自らも爆風を受けながら、三月は烈空斎をファイヤーボムで捉える。
初のダメージ‥‥だが!
『そう‥‥君にはそういう覚悟が必要だ。あとは、魔法を精錬されるといい‥‥』
「殆ど効いて‥‥うぁぁっ!」
多少揺らいでいたように見えたが、かすり傷程度のダメージでしかなかったらしい。
体当たりで接触、中傷ダメージを与え、さらにもう一度接触、三月を重症状態に。
「‥‥勘弁してほしいね。あの馬鹿げた強さはなんだい‥‥!」
「烏天狗だったという線は消えたな。最低でも白狼天狗くらいの戦闘力だ」
ヘルヴォールも藁木屋もわかっている。
このままでは全滅は必至‥‥如何せん得物が貧弱すぎる。
唯一の頼みである蒼眞は徹底的に警戒され、ソニックブームを撃てない位置に移動されてしまう!
「‥‥錬さん、囮頼めるかな? 蒼眞さんの攻撃に巻き込まれるの覚悟で‥‥」
そんなことを言い出したのは、草薙。
自分も囮をするが、自分には微塵隠れの術がある。
それのない藁木屋には、万が一のとき同士討ちにあう可能性があると知ってなお‥‥。
「ふ‥‥承知。バックアタックだけが取り柄の私だ、そうそう同士討ちなど!」
「おーけー! 行くよ!」
烈空斎に向け、駆け出す草薙と藁木屋。
ゆらりと動いた烈空斎は、藁木屋のアゾット+1を避けもしない!
「くっ、効いていないか!?」
「微塵隠れはどう!?」
藁木屋を巻き込まないよう注意して、草薙は高速微塵隠れを慣行。
だがやはりかすり傷程度のダメージのようで、決定打にはなり得なさそうだ!
蒼眞も必死にソニックブームのチャンスを窺っているが、距離を考えると今ひとつ踏み込めない。
『草薙‥‥だったな。君は更に忍術を磨くか、回避の腕を上げるがいい。今の君は、微塵隠れが効かない相手にはあまりに無力。更なる強敵の‥‥例えば黄泉人相手の戦いで足手まといになりたいか?』
「そんなこと‥‥うわぁっ!?」
『私でも楽に捉えられるのだぞ。若さだけで先走ってはならぬ。忍者は常に冷静であれ』
「草薙くんを放していただこう!」
『ふ‥‥藁木屋錬術か。君にはすまない事をした』
「何‥‥?」
『ニグラスの行動で奉行所を追われたそうだな。彼にはもっと広い世界を見てもらいたいというつもりで党を追放したが、まさかあのようなことをしてしまうとは‥‥。この烈空斎、未だ人を見抜く目が甘いようだ。悔やんでも悔やみきれぬ‥‥』
「‥‥悔やんで犠牲者が生き返るのかい‥‥と言いたいところだけど、やめておくよ。あんただって苦しんで出した結論なんだろ。‥‥勿論正しいとか認めるわけじゃないけど‥‥悲しいね‥‥」
いつの間にか草薙を救出していたヘルヴォールの言葉に、烈空斎は少し黙る。
黙って‥‥かすかに頷いた様な気がした。
『よろしい、次は君たちへの助言だ。まず、藁木屋』
「来るか‥‥!」
『君は強い。特に回避は人を超えそうなほど。だが、それだけに惜しい。君の戦法は‥‥真っ正直過ぎる』
烈空斎はそう言うと、すぱっと藁木屋に背を(?)向け、ヘルヴォールと草薙へ向かう!
「あ、あの戦法って、松岡さんの!?」
『絡め手も魔法の武器もない君は、武器の効かない相手に無視を決め込まれればどうしようもない』
「くっ、烈空斎殿!」
「‥‥北斗、微塵隠れを。私を烈空斎のほうに吹き飛ばすように巻き込むんだ」
「で、でも‥‥!」
「‥‥いいから早く! やれることはやっておかないと後悔するよ!」
「うぅ‥‥知らないからね! 微塵隠れ!」
ボンッ、という音と共にヘルヴォールが吹き飛び、自分めがけて突っ込んできていた烈空斎を迎撃する形となる。
鬼神ノ小柄+1を両手で構え、爆発の加速度を加えての一撃‥‥!
「‥‥名付けて‥‥天翔灼牙・改‥‥!」
『くっ‥‥! だが、まだ浅い! 反撃で喰らう負傷のほうが大きいぞ!』
「‥‥かはっ‥‥!?」
思いもよらない攻撃方法だったのか、思ったよりも威力があったのか‥‥なんにせよ、烈空斎は軽傷クラスのダメージを負ったようだ。
だがそれはまだまだ戦局を決定するには遠く、ヘルヴォールは接触ダメージで膝をつく。
「‥‥ねぇ‥‥聞かせてよ、烈空斎さん! あなたはなんで『堕天狗党』なんて名乗ったの!? こんな‥‥こんなに人のために生きてきて‥‥今だって、僕たち相手に手加減して戦ってくれてる! それなのに、なんで堕天狗なの!? あなたが堕ちてるって言うなら、天狗にとって何が堕ちてないってことになるのさ!?」
「おいおい、これで本気じゃねぇってのか!? んなわけあるかよ!」
「‥‥いや、そうかも知れん。烈空斎殿は幽霊だ‥‥先の男性に憑依していたことを考えれば、我々のうちの誰かに取り付いて戦ってもおかしくないはずだ」
「‥‥確かに‥‥それなら‥‥わざわざ位置関係を考えなくても‥‥手出し、されにくいかも‥‥」
「あえてそれをせずに、わざわざ助言つきで戦闘‥‥か。烈空斎殿、あなたが我々をなめているとは思いませんが‥‥いささか失礼ではないでしょうか。仮にも、全力であなたの相手をしている我々に‥‥!」
草薙、バーク、蒼眞、幽桜、蛟。
そして三月、ヘルヴォール、藁木屋の視線が集中する中、烈空斎はしばし無言。
だが意を決したように揺らめくと、ゆっくり言葉をつむぐ。
『‥‥そうだな。少々傲慢であったかも知れん。だが戦士たちよ、私は決して手を抜いてなどおらぬ。それだけは覚えておいてもらいたい。‥‥そして、草薙よ。無垢なる瞳よ』
優しいトーン。
表情も見えない、青白いモヤなのに‥‥。
『私はただ、遥か昔に共に戦った戦士たちが哀れであっただけだ。そう‥‥私の一存、我侭なのだ。天狗の掟を曲げてしまった以上、どんな理由であれそれは『堕ちた』ということなのだ‥‥』
「気に入らんのう。要は戦友を助けたかったのじゃろう? それが何故いかんのじゃ」
「‥‥天狗というのは、本来人の世界に積極的な干渉をすることを嫌うらしい。何故かは知らないがね」
「‥‥だからって度を過ぎた干渉をした奴を仲間外れかい。何様なんだい、天狗ってのは」
『‥‥さてな。ただ一つ言える事は‥‥私も天狗の名を持っていた存在だということだ』
遥か昔に何があったのか‥‥それはその時代に生きていた者にしかわからない。
またそれが、本当にあった出来事なのかもわからない。
しかし、そんなことはどうでもいいのかも知れなかった。
「‥‥ならば烈空斎殿、私たちは私たちだけの決着をつけるしかあるまい。よろしければ、私との一騎討ちをお受け願いたいが‥‥いかがだろう」
蒼眞の申し出。
烈空斎は少し沈黙し‥‥やがて、了解する。
「先生‥‥!」
「何も言うな蛟君。堕天狗党に最初に関わったのは私と君だ‥‥ならば決着をつけるのも私たちでありたいと思う。それが‥‥我侭や自分勝手であってでもだ」
『それを受けた私も同罪だな。始まりの人物が終わりの人物と決着をつける‥‥か。それも一興』
そして二人は少し距離をとり、対峙する‥‥!
「‥‥推して参る」
『‥‥行くぞ。天龍』
全員が見守る中、蒼眞と烈空斎による一瞬の交差が始まる―――
●掴み取ったもの
「『‥‥楽しかったよ‥‥あんたの事は記憶には無いけど‥‥でも、刃を交えている間…あんたの姿を見ている間は、楽しいって想いしか浮かばなかった‥‥だから、ありがとう‥‥あんたに、堕天狗党の連中に‥‥そしてここに居る皆に逢わせてくれて‥‥ほんとにありがとう』。‥‥我ながら恥ずかしい台詞を言ったもんだね」
ふと気づけば、ヘルヴォールが隣にいた。
珍しく照れくさそうに笑い、藁木屋、草薙と共に焚き火に当たる。
「なんだ、ヘルヴォールさんも人が悪いなぁ。聞いてたなら声かけてくれればよかったのに」
「ふ‥‥草薙くん、どうやら聞いていたのはヘルヴォール嬢だけではなかったようだ」
「へ?」
藁木屋の言葉に、森の中から見慣れた面々が顔を出す。
どうやら草薙と藁木屋が話し込んでいたので、顔を出す機会を逃し続けていたらしい。
「俺は単純に絵を描いてて遅れただけだけどな」
「まったく、寒かったのじゃ」
バークは言葉どおり大量の荷物を背負っており、蛟、蒼眞、幽桜も酒や月餅などを持ち寄っていた。
「わ、哀音さん、ちょこっと雰囲気柔らかくなった?」
「‥‥どうだろ‥‥自分じゃ‥‥よくわからない‥‥けど‥‥決めたから‥‥。もう‥‥死は求めないと‥‥。命尽きぬ限り、生き続けてみせると‥‥」
「いいことだよ。僕たちには生きる責任ができたんだ。彼らの‥‥堕天狗党のみんなの分まで‥‥」
「よっと。これで俺が会った堕天狗党員は全部だ。烈空斎は‥‥顔がわかんなかったからねぇけど」
「‥‥これで供養となればいいが‥‥。墓が一つしかないのは、いいことなのか悪いことなのか」
「あぁそういえば三月嬢、頼まれていた調べ物をしておいたよ。烈空斎殿に取り付かれていた男性は、とある村の身寄りのない男性だった。畑を耕して生活していたが、いつの間にか行方知れずとなっていたらしい」
戦いから離れれば、屈強な冒険者もヒトでしかない。
笑い、喜び、悲しみ‥‥様々な感情を内に秘めて、他人と関わっていく。
それが幸か不幸かは‥‥他の誰でもない、その人自身が決めること‥‥。
「ん? 藁木屋、アルトが調べていた件はどうなったのじゃ」
「すまないがそちらは答えられない。まだまだ調査段階なのでね」
「バークさん絵上手いね〜。きっとみんな喜ぶね♪」
「だろ? ちったぁ自身あるんだよ」
「先生‥‥今日くらいは、ここで一献というのも悪くないのではないでしょうか。ニグラスの墓にも花と酒を手向けてきましたので‥‥今日は飲みたい気分なのです」
「‥‥そういや、間はどうしたのさ。助からなかったんだろ?」
「‥‥一緒に‥‥埋めてあげたみたい‥‥。‥‥藁木屋さんと‥‥アルトさんで‥‥」
幸せでしたか? 自分の信念を貫けていましたか?
ほんの一瞬でもいい‥‥あなたたちは命を散らすまでに、本当の幸せを感じましたか?
今を生きる私たちは‥‥きっと幸せなのでしょう。
何故なら、生きているということは、それだけで幸せなことなのですから。
「‥‥太平‥‥か。これが、何の犠牲もなしに永遠に続くのであれば、どれだけ‥‥」
穏やかな喧騒は、平和の証。
ふと眩しさを感じて見上げた空は‥‥いつの間にか、青空がのぞき始めていたという―――
●遺言
『そ‥‥そうか‥‥龍牙‥‥。君の刃からは‥‥牙が、飛ぶので‥‥あったな‥‥』
「‥‥はい。そして‥‥」
『ぐ‥‥はっ‥‥! りゅ、龍咆‥‥だったか‥‥。ブラインド‥‥アタック‥‥!』
幽霊相手では、傷は見えない。
だが、肌で感じる。その命が‥‥いや、魂が終わるのが。
『き、君にも‥‥助言を‥‥しておこう‥‥。シュライクを‥‥学ぶといい‥‥。龍の牙が‥‥更なる力を‥‥持つ、だろう‥‥』
「‥‥しかと、承りましょう‥‥!」
『戦士たちよ‥‥。この国を‥‥この国の、人々を‥‥頼む‥‥。様々な、ヒトと‥‥力を‥‥合わせ‥‥黄泉からの侵略者を‥‥討つのだ‥‥!』
消える。
本来ならまだ消滅するような傷ではないはずだが‥‥烈空斎は、あまりに長い時間無理をし続けたのだ。
『‥‥幸せで‥‥あった‥‥。そして‥‥悲しかった‥‥。幾度となく‥‥巡り会った、戦士たちよ‥‥。私は‥‥満足している‥‥。怒らずに‥‥迎えてくれ‥‥。なぁ‥‥堕天狗党員たちよ‥‥戦友たち‥‥‥‥よ‥‥‥‥‥‥』
やがて‥‥声が途絶える。
すべてを納得して、すべてを受け入れて、烈空斎はようやく平穏を手に入れたのかもしれなかった。
これから、冒険者たちにどれだけの戦いや出会いがあるかはわからない。
しかし、烈空斎はきっと彼らを見守るっているだろう。
何故なら‥‥彼らもまた、烈空斎の戦友なのだから―――