【五行龍復活】行き先不明の日々

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:7 G 88 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月17日〜05月01日

リプレイ公開日:2006年04月25日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

 某月某日、雨。
 風も強く、遠くに雷が響くどんよりとした天候。
 俗に言う、春雷と言うやつであろうか。
「よく降るな‥‥これでは帰れん」
「むーん、困りましたね。そろそろ店じまいなんですけど」
 京都の便利屋、藁木屋錬術と、京都冒険者ギルド職員、西山一海。
 ギルドの中からそっと外を伺ってみるが、雨具も無しに帰るのはちょっと遠慮したい。
「ぼーっとしているのも芸があるまい。先ほどの件、もう少し詳しく聞かせてもらおう」
「そうですね。冒険者の方々の活躍で水牙龍・氷雨もなんとか落ち着き、すべての五行龍の人となりは分かりました。それによって陰陽寮が出した結論は‥‥『五行龍の存在は脅威なれど、有害であるとは認めず。よって陰陽寮は、彼らとの積極的な接触を中断する』とのことです」
「これ以上陰陽寮として五行龍には関わらない、ということか。問題の先送りどころか問題を無視した格好だな」
「そ、そう言わないでくださいよ。これでも上申して、後一回だけ五行龍との接触を許してもらったんですから」
「ふむ‥‥しかしどうする気かね? 現在はどの五行龍のところにも問題は発生していない。まず、どの五行龍と会うのかというのも問題になってくると思うのだが」
「冒険者の皆さんにお任せします。直に五行龍の方々と会って来たからこそ分かること、思いつくこともあるでしょうし」
「‥‥そういう『お任せ』が一番困ると知っているかい? 夕飯の献立でもあるまいに」
「これをしろ、これを作れと断定されるよりはマシかと。大丈夫です‥‥どっちにしたってなるようにしかなりません」
 五行龍たちとの関係は、今後どうなっていくのだろうか。
 人が歩んだ先に道が出来るというのなら‥‥今回の依頼では、どんな足跡をつけるのだろう―――

●今回の参加者

 ea6526 御神楽 澄華(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea7780 ガイアス・タンベル(36歳・♂・ナイト・パラ・イスパニア王国)
 ea8212 風月 明日菜(23歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb0487 七枷 伏姫(26歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb1795 拍手 阿義流(28歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb1935 テスタメント・ヘイリグケイト(26歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb2064 ミラ・ダイモス(30歳・♀・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb2483 南雲 紫(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ステラ・デュナミス(eb2099

●リプレイ本文

●刃鋼の場合
「うわわっ、あ、あれが龍‥‥!?」
「ひぇぇ‥‥ナンマンダブナンマンダブ‥‥!」
 村人たちからは少なからず恐怖の色を含んだどよめきが起こった。
 丹波南西にある、とある村‥‥今日は近隣の村の代表をも招き、五行龍の長である金翼龍・刃鋼と村人たちとの会見が行われることになっていたのだ。
「そんなに恐がらなくても大丈夫よ。彼女、見た目によらず穏やかで優しいから」
「そのとおりでござる。拙者たちと共にここまでやってきたことが、分かり合える証拠でござるよ」
 南雲紫(eb2483)や七枷伏姫(eb0487)は、出来るだけ笑顔で、村人たちを諭すように言う。
 全長10メートルを越える巨大な龍が村の広場にやってくるなど、村人からすれば異常事態。
 同様も困惑も、するなと言う方が難しい。
『こんにちわぁ。ウチが金翼龍・刃鋼や。今日はよろしゅう』
 一度討伐隊を差し向けられたことなど気にする様子も無く、刃鋼は極めて穏やかに言葉を紡いだ(とはいってもテレパシーのようなものなのだが)。
 その声と外見とのギャップに、村長たちも少々面食らっている模様である。
「では、早速本題に入らせていただきたいと存じます。刃鋼様方五行龍は、自身の意思でないながらも五行鎮禍陣という形でこの地を大きな禍から守ってきた存在です。突然振ってわいた恐怖というわけでは断じてありません」
「そうだよー。刃鋼さんたちはこっちから手を出さない限りは何もしてこないし、むしろきちんと話をしてくれるって言ってるしねー♪ それに、何かあっても僕達が守るよー♪」
「五行竜様は、祭神なのです。無闇に刺激せず、安息こそ求められています。ご理解下さい」
 御神楽澄華(ea6526)、風月明日菜(ea8212)、ミラ・ダイモス(eb2064)。
 この三人に限らず、あらかじめ村側と刃鋼の両方に話を通した冒険者たちは、心から双方の安寧を願っている。
 が、村人たちの反応は芳しくない。
「しかしのぅ‥‥そんな口約束だけでは安心できん。刃鋼様たちのお力は、わしらにはあまりに強大じゃ‥‥」
 村長の一人がそういうと、後ろの村人たちから『そうだそうだ』等の同意が飛んだ。
 難しい顔をしているものが多く、あまり乗り気とはいえないようだ。
「ジャパン文化の特徴はやおろずの神、ですか? 最初この国に来た時たくさんの神社の存在に吃驚しました。お地蔵様とか色んな神様を祭ってる文化の国なんですよね。夜刀神とか祭ってる所もあるようです。なら龍さん達もこの土地の守護龍として祀ったらどうかって思うんです。龍さん達がいるだけで、この土地は他のモンスターからは守られるんじゃないかな?」
「‥‥というよりもだ。今まで災いを治めてきた存在に対し恩を仇で返すような真似をするのか? あえて聞くが‥‥口約束だけでは信用できないと言うのであれば、人喰い鬼が『年に一回生贄を差し出せば村は襲わん』と言ってきた場合でも突っぱねると? ‥‥要は刃鋼様が力に訴えていないのをいいことに甘えているんだ、あなたたちは」
「やめなさいこの馬鹿。彼らだって必死なのよ‥‥別に悪くない。責めるのは筋違いだわ」
 ガイアス・タンベル(ea7780)、テスタメント・ヘイリグケイト(eb1935)の言葉に、村人たちに動揺が走る。
 龍を祀る? 龍に守ってもらう? そして‥‥自分たちは、甘えている‥‥?
 弟子(?)のテスタメントを制した南雲ではあったが、彼の意見にも一理あると思っているようだ。
『‥‥ウチは贅沢は言わへんよ。お供え物も、立派な社も、勿論生贄も要らん。だから、たった一つだけ認めたって。ウチは、ホンマにあの山で静かに暮らしたいだけなんや。村が妖怪に襲われたんなら助けたってもえぇ。村を襲おうなんてこれっぽっちも思っとらん。なぁ‥‥ウチらには、それすらも許してもらえないん‥‥?』
 重い重い、刃鋼の言葉。
 長い時を生きてきた龍の、小さな願い。
 チャームの魔法にも頼りたくないと言う彼女の心からの願いは、村人たちの心を大きく打ったのである―――

●芭陸の場合
「ただ何もせずに居るだけでも、いつまた討伐しようって話が出るか分からないから、一度ちゃんと村の人に会って話をして欲しいんだよねー。場は僕達が用意するからさー♪」
『ふーむ‥‥まぁ、考えなくもないんですけどね‥‥。小生、頭がよくないから不安かな』
「不安だからと先延ばししても、問題は解決しないでござるよ。ここは一度、腹を割って話し合うのも一興でござろう」
「刃鋼さんは村の人たちと話し合い、とりあえず不干渉の約束をしました。村の人たちはまだ不安な気持ちを持っているでしょうけど、それでも何も話さないよりずっと進展したと思うんです。芭陸さんも、刃鋼さんに倣ってみたらどうでしょうか?」
 丹波の南東、土角龍・芭陸の巣。
 刃鋼の会談を終わらせた一行は、2チームに分けて別々の五行龍と会いに行った。
 馬などを使って加速したとはいえ、強行軍なのでお疲れ気味である。
 ちなみに、こちらへ来たのは風月、七枷、ガイアスの三人。
『刃鋼姉さんの名前を出されると弱いですねぇ。そうですか‥‥刃鋼姉さんが‥‥』
 そう呟き、芭陸はしばし夜空を見上げた。
 彼の所にやって来た時間が夜になってしまったからであるが‥‥飛べない五行龍は、空を見て何を思うのか‥‥?
「‥‥どうでござろう? 人間を‥‥とまでは申しませぬ。今は、拙者たちを信じていただくわけには参りませぬか?」
『‥‥承知しました。ヒトとの対話‥‥小生も挑戦してみましょう』
「やったー♪ 上手くいくといいねー♪」
「ですね。さて‥‥氷雨さんの方へ向かった方々は大丈夫でしょうか」
『氷雨の坊や、ねぇ‥‥。また我侭言い出さないといいんだけど』
「うぅー。僕、ちょっと氷雨さん苦手になっちゃったんだよねー(汗)」
「盛大に噛まれていたでござるからな‥‥」
 さて‥‥実際問題、もう一方の班の首尾はどうだったのであろうか―――

●氷雨の場合
『えぇ〜。なんか気が進まないなぁ‥‥』
「我侭言わないの。刃鋼もやったんだし、君も頑張らなきゃ」
『だってさぁ‥‥刃鋼お姉ちゃんは頭いいからいいけど、僕は難しいことわかんないもん』
「大丈夫ですよ氷雨様。私たちがきちんとお手伝いいたしますし‥‥いざとなれば刃鋼様の御知恵を拝借してもいいでしょうし」
「そうです。今頃は他の五行竜‥‥芭陸様も、私たちの仲間と共に近隣の村でお話をしている頃でしょう」
『芭陸お兄ちゃんも? ふーん‥‥でもさ、熱破お兄ちゃんと森忌おじちゃんは?」
「‥‥おじちゃん‥‥? 森忌様は年を取っているのか?」
「そんなのどうでもいいでしょ。黙ってなさい」
「‥‥は」
 丹波西北西。
 この地に住まうのは、水牙龍・氷雨という五行龍である。
 やはり馬などを飛ばしてきたものの、日にちもかかったし到着したのは夜になってしまった。
 夜間の湖というのはそれだけで不気味なものだが‥‥そこから巨大な龍が姿を見せているとなれば、やはり一般人は恐かろう。
 やってきた南雲、御神楽、ミラ、テスタメントも、正直これっぽっちも恐怖を感じないかと聞かれれば『否』である。
『ねぇねぇ、僕と芭陸お兄ちゃん、刃鋼お姉ちゃんにしか話を振らなかったのはなんで? 僕としては、五行龍みんなで仲良く暮らしてみたいんだけどなー。付き合い長いし』
「そ、それは実現したら凄い光景になりそうですね‥‥。しかし、五行龍の方々が勢ぞろいして生活できるような場所があるのでしょうか。その‥‥お身体の大きい方が多いようですし」
『あ、そっか。僕用の湖があって、熱破お兄ちゃん用の洞窟があって‥‥刃鋼お姉ちゃん用の岩山、芭陸お兄ちゃん用の土、森忌おじちゃん用の森がある場所なんて滅多にないかー』
 むしろそんな場所は無い方が世の中のためだと思わなくも無い。
 御神楽の台詞ではないが、五匹の龍が住まう山など、魔窟以外の何だと言うのだ。
「さ、どうするの? ミラも、私も、御神楽も‥‥オマケでこいつも、みんなあなたのこと心配して言ってるのよ?」
「‥‥私はオマケ扱いですか」
『うーん‥‥仕方ないなぁ、わかったよ。でも、あれだよ。あんまり無茶なこと言われたら噛み付くよ?』
「か、噛み付くのは禁止です! 人殺しになってしまいますよ!?」
『え、そうなの? ヒトって脆いくせに恐いよね‥‥』
 何の気なしに呟いた氷雨の台詞は、なんだか酷く的を射ている様な気がしたと言う―――

●忘れちゃいけない
「陰陽寮の調べで、あの龍たちはこの丹波の地を守る精霊と判明いたしました。ただ少々気難しい所もあるようですので、決して近づかぬようにとのことです」
 拍手阿義流(eb1795)‥‥今回一人だけ別行動をし、丹波北部、木鱗龍・森忌のいる場所の付近の村へやってきていた。
 一人で五行龍と会うのは厳しいと思っているし、そもそも龍以前にヒトの方をどうにかしないと話にならないというのが彼の持論らしく‥‥無論それも間違いではあるまい。
「村は一つではありませんからね‥‥。丹波中の村を回るとまではいかなくても、せめて五行龍の住処に近い村は、出来るだけ回って説得を続けないといけませんか‥‥」
 正直、たった一人で‥‥しかも『本当に陰陽寮からの使者か?』という疑いをかけられながらの説得は困難だった。
 しかもむっつりなので、愛想を上手く振りまけないのもちょっと痛手か。
 しかし、彼の真剣な触れ込みのおかげで、少なくとも森忌にちょっかいを出そうとする人間がいなくなったのは行幸である―――