【平良坂の野望】 発端
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■シリーズシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:7〜11lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 45 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月26日〜01月31日
リプレイ公開日:2006年02月02日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
かつて、世間を騒がせた戦闘集団があった。
義賊じみたことをしてみたり、妖怪から村を守ったりもしていたが、つまるところお上にたてつく犯罪者集団という認識の一団が、つい最近冒険者の手で壊滅したのである。
名を、堕天狗党。
彼らの本当の目的‥‥彼らの信念を知る者はあまりに少ない。
様々な出会い、別れ、激しい戦いを経て‥‥それでもなお、京都は何事もなかったように、日常を過ごしていた。
そんなある日のこと‥‥。
「一海君ッ! 今、旅の僧侶から妙な話を聞いたのだがッ!」
「また唐突ですねぇ。どんな噂ですか?」
京都冒険者ギルドの職員二人組み。
テンションが高いのが、常に虎の覆面を着用する、大牙城。
呆れ半分なのが、ごく普通の青年、西山一海。
実はこの風景はよくあることで‥‥大牙城が一海に噂を聞かせるなど、別に珍しいことではない。
が‥‥どうやら今回は、嫌が応にも一海の興味を引く噂であった。
「うむッ! それがな‥‥羅生門へと続く街道には、京都手前で小さな森があるだろうッ!? どうやらそこで、化物を目撃したらしいッ!」
「はぁ。いや、別に珍しいことでもないと思いますけど。京都の中でさえ妖怪は出没するんですから、街道で化物を見たなんて、騒ぐほどのことでも‥‥」
「普通はなッ! だが‥‥それが知り合いだとしたらッ!?」
「‥‥は?」
唐突に感じた嫌な予感。
それは、なんだ。
化物を目撃した僧侶と知り合いということか?
それとも‥‥。
「その化物というのが、二匹連れらしくッ! 幽霊とズゥンビとのことッ! だが不思議なことに、幽霊のほうは、襲い掛かってきたズゥンビから僧侶を守ってくれたというッ!」
「あ‥‥の‥‥。あの、話が‥‥み、見えないん‥‥ですけど‥‥」
嘘だ。
なんとなく予感している。
そして、決してそうであって欲しくないと、一海は願っている‥‥。
「どちらも長い髪を持つ、女性の不死者でッ‥‥!」
「もういいです! 聞きたくありません!」
耐えられない。
根拠のない予感でしかないはずなのに、その考えしか浮かばない。
一海が知っている人物で、長い髪の女性。
幽霊になってまで他人を守ろうとしそうな人間に、一海は一人しか心当たりがない。
何故、今頃?
どうして、そんなことに?
渦巻く疑問の中‥‥大牙城は、一海の苦悩を察した上で言う。
「‥‥藁木屋殿に連絡を取ろうッ! そして、正式な依頼として出してもらおうッ! その不死者たちの調査をッ!」
そう、大牙城が叫んだ時だ。
「ほっほっほ‥‥話は聞かせていただきましたよ」
ギルドの暖簾を掻き分け、一人の痩せた中年男性が二人に声をかけた。
丹波系商人が集まった組織の重役。
丹波でも一、二を争う大商人、『平良坂冷凍(ひらさか れいとう』その人である。
「むぅッ‥‥平良坂殿ッ!?」
「平良坂‥‥って、あの平良坂冷凍さんですか!?」
「ほぅ‥‥知っていていただけたとは光栄ですね。城さんもお変わりなさそうで何よりです」
「し、知り合いなんですか?」
「うむ‥‥冒険者ギルドに務める前、私がまだ冒険者として生きていたころ、幾度か仕事を請け負ったことがあるッ!」
「その節はどうも。ところで‥‥また大変なことになっているようですね。話を聞いてしまったのも何かの縁‥‥よろしければ私が依頼を出しましょう」
「えっ‥‥あ、いや、その‥‥私たちの仲間に頼めば済むことなので、わざわざ平良坂さんに出していただかなくても大丈夫というか‥‥なんというか‥‥」
「おや、私が依頼を出してしまっては都合が悪いのですか?」
「むぅッ‥‥そういうわけではないがッ‥‥!」
「では決まりですね。料金は前払いしておきますよ。そうだ‥‥申し訳ありませんが、手代と一緒にお得意様へご挨拶に行くところだったんです。詳しいことはそちらにお任せいたしますので、よろしくお願いします。ほっほっほ‥‥」
そして、言葉どおり入り口辺りで待っていた手代らしき男を連れ、出て行く冷凍。
何を思ったのかは知らないが、これでこの依頼は冷凍が依頼人ということになる。
皮肉った言い回しをするが、あくまで穏やかな姿勢を崩さない平良坂冷凍‥‥その真意とはいったい?
そして、一海が危惧する嫌な予感。
思い浮かべるのは、かつての堕天狗党員、柄這志摩。
現状、符合する点はさほど多くはないが‥‥。
まさか‥‥本当に、死んだはずの彼女が―――?
●リプレイ本文
●同行
「ほっほっほ‥‥どうやらご縁があるようですね。まさかあなた方が依頼を受けてくださっていたとは思いませんでしたよ」
京都の出入り口とも言える、羅生門。
待ち合わせにもよく用いられるこの場所で、4人の冒険者と一人の商人が合流した。
「わらわたちもおぬしから依頼が出されるとは思ってなかったのじゃ。どういう風の吹き回しかの?」
「表向きは京都の治安維持のため、善意の協力となっているが‥‥さて、我らは今一つあなたを信用できかねるが」
「ほっほっほ‥‥まぁまぁそう言わず。そのままの意味で取っていただければ幸いですね」
喰えない人物。
商人‥‥平良坂冷凍を知っている人物は、彼のことを一言でこう表現する。
機を見るに敏で、時に強引に、時に絡みつくような絶妙の手腕を発揮する異才。
しかし法に触れるようなことはせず、奉公人の評判も上々。
そんな彼だが、近しい人間にですらちょっと胡散臭いと思われているとかなんとか。
誤解の無いように言うが、三月天音(ea2144)や蒼眞龍之介(ea7029)は、冷凍に対し決して敵意をむき出しにしているというわけではない。
ただほんのちょっと皮肉を込めているだけなのだが‥‥冷凍にはそれが面白いらしく、人を食ったように笑う。
「‥‥すまんが、話が見えん。依頼人と面識があるのか、お前たちは」
「‥‥話せば長くなるけどね‥‥ま、正直引き受けたい依頼じゃなかったってのは確かだよ」
京都に来たばかりで事情を知らないキシュト・カノン(eb1061)に対し、ヘルヴォール・ルディア(ea0828)が軽く経緯を説明する。
まぁ平良坂自体、冒険者という存在に深く関わってきたのは最近のことなのだが。
「‥‥なるほど。それは胡散臭い」
「‥‥まぁね。だから、こうやって小声で話さなくちゃいけないんだ」
「ふむ‥‥そろそろ偵察組が戻ってきてもよさそうなものだが‥‥?」
三月が平良坂の話し相手になっているうちに、キシュト、ヘルヴォール、蒼眞が各自収集した情報を持ち寄る‥‥という手法を取らざるを得なくなったのも致し方の無いところ。
しかし‥‥偵察組が遅い。
ここから目視できる場所にある森に行ったと言うのに、帰ってこないというのは‥‥。
「‥‥嫌な予感がする。‥‥まさか、本当に志摩の幽霊が、ズゥンビ化した自らの身体を追い掛けてきたとでも言うのかい? ‥‥できる事なら、安らかに眠っていてほしかったんだけど‥‥」
ヘルヴォールの呟きに冷凍の口の端がつり上がったことを、誰も知りはしなかった―――
●強襲
「ちぃっ! あの僧侶、何がズゥンビだ!」
「やぁね‥‥動きがダンチだわ。死食鬼かしら」
「多分な。斬っても全然動きが鈍らない」
「‥‥志摩さん‥‥やっぱり‥‥応えては、くれないの‥‥!?」
時は少し遡る。
森に足を踏み入れた偵察組‥‥バーク・ダンロック(ea7871)、昏倒勇花(ea9275)、葉隠紫辰(ea2438)、幽桜哀音(ea2246)の四人は、捜索途中で不意打ちを受けた。
それも木の上から突然攻撃され、鉄壁の防御を誇るバークも軽傷を受ける。
そして、どうやら敵はズゥンビではなく、似て非なるモンスターの死食鬼であるようだった‥‥。
その顔は、ところどころ白骨さえ覗いていて。
その長い黒髪は、遠目から見ても荒れてボロボロで。
その首筋には‥‥自決の跡かと思われる、大きな切り傷があって―――
「ぐぅっ!? ちっ、こ、攻撃が鋭い‥‥!」
「葉隠、俺に任せとけ! 一方的に殴られてもお前よりは長持ちするぜ!」
グールとなった志摩の動きは凄まじかった。
回避しようとした葉隠に攻撃をあっさり当て、牙をむいて新たな獲物を選定している。
受けてばかりでは埒が明かないと攻撃しても、通常攻撃ではさしたる傷にならない‥‥!
「おかしいわ。いくら死食鬼って言っても、タフ過ぎるんじゃないかしら‥‥(汗)」
「‥‥昏倒さんの‥‥攻撃も‥‥効かない‥‥。志摩さん‥‥なるべく‥‥攻撃、したくない‥‥のに‥‥」
この死食鬼は、柄這志摩。
これは面識のある人物が言うのだから間違いないだろう。
だが、情報ではもう一匹‥‥いや、もう一人というべきか? とにかく、幽霊がいたはずなのだが、いきなり襲われたことも相まって、探していられる状況ではなくなってしまった。
「一度戻って、合流しない!? あたしたちだけじゃ不利だわ!」
「逃がしてくれるってのか、やつの速度で!?」
「そ、それは‥‥」
「昏倒殿、目を離すな! 後ろだ!」
「‥‥っ!」
今にも昏倒に爪を振り下ろさんとする死食鬼。
折角の葉隠の言葉にも、昏倒自身が防御行動を取る暇が無い‥‥!
と、そこへ!
『甘いよ!』
ばちん、と何かがスパークする。
不意に飛び込んできた青白い人影が、死食鬼を少し仰け反らせたのだ。
長い髪。
死食鬼と同じ服装。
宙に浮く、懐かしい顔の女性‥‥。
「志摩殿‥‥!? やはり、西山君の悪い予感が当たったか‥‥!」
「蒼眞殿。どうしてここに?」
「‥‥あんまりにも遅いから心配になったんだよ。来て正解だったね」
「‥‥あれが志摩殿の身体のなれの果てか‥‥。無念じゃろうて‥‥」
「‥‥やはり状況が飲み込めんが‥‥要はあの二人は同一人物である、と?」
大分移動しながら戦っていたはずだが、所詮は大して大きくない森。
待機組みが合流するのもわりと簡単であったようだ。
『へぇ‥‥こりゃ驚いたね。まさか京都付近であんたらと会えるとは思って無かったよ』
テレパシーのようなもので全員に語りかける志摩。
幽霊も結構便利な身体であるということは、以前身に染みて実感した人間が大多数だ。
「‥‥志摩‥‥本当にあんたなんだね。以前と全然変わらない‥‥」
「‥‥じゃあ‥‥やっぱり、こっちの‥‥死食鬼は‥‥」
『そうだよ‥‥アタシの身体さね。悪いねぇ、こっちも不眠不休でこいつを抑えてたもんでさ』
そう言って、志摩は再び死食鬼へと向き直る―――
●依頼
しっかりと生前の姿を残した志摩の精神と、すでに志摩とは呼べなくなってしまったであろう志摩の身体。
事情はさっぱりだが、ここはやはり死食鬼の撃破が優先であろうか。
数の優位もあると、一同も死食鬼へ意識を向けたときだ。
「ほっほっほ‥‥困りましたね。あなた方のお仕事を忘れていただいては」
そう‥‥平良坂冷凍。今日はこいつがくっついてきているのだ。
「忘れてなんかねぇだろ。今から仕事をしようってんだから邪魔すんなよ」
「バークさん‥‥でしたね。確かにそのようですが、一つ問題があると思いませんか?」
「どういう意味かのう? 街道沿いに現れる化物を退治するのが依頼内容であったはずじゃが」
「その通りです。ですから退治してください‥‥そっちの化物もね」
三月の言葉を受けて冷凍が指差したのは‥‥当然のように、幽霊志摩。
「しかし、彼女に敵意は無さそうだ。冷凍殿、放置してもよいのでは‥‥」
「いえいえ葉隠さん、そうは参りません。幽霊なんてものは、いつ理性を失くしてヒトを襲うか分からないバケモノですよ。まったく、堕天狗党員というのはどうしてこうも厄介者なのでしょうねぇ。死んでなお人々に迷惑をかけ続けるなんて、正気の沙汰ではありませんよ」
「‥‥冷凍殿。いや、平良坂冷凍。それ以上の彼らへの侮辱は私が許さん。天龍の名にかけて‥‥!」
「おやおや、嫌われたものです。まぁいいでしょう‥‥ここは引いておきます」
あくまでニヤニヤした笑いを止めない冷凍。
蒼眞たちのリアクションが楽しくて仕方ない‥‥そんな感じだ。
間九塀という裏切り者の堕天狗党員から大体のやり取りを聞いていた冷凍は、まるでこの場の全員を手のひらで躍らせているかのような精神状態なのだろう。
『来るよ! 悪いけどアタシはあんまり役に立てないんだ‥‥基本的に任せるから気張りな!』
「‥‥いいの‥‥? あなたの‥‥身体‥‥」
『あんな状態じゃ自分の身体もクソもないさね。でも、自分じゃどうしても未練が出ちまうからね‥‥頼むよ‥‥』
「承知。その魂、しかと受け止めた。少しでも遅れを取り戻すため‥‥このキシュト・カノン、全力を尽くす!」
本気になったこの8人は強い。
いくらかの引け目や罪悪感が伴おうが、死食鬼一匹が勝てる相手では到底無いのだ。
かくして‥‥街道を行く人々に大きな被害が出る前に、目標の撃破を完了したのであった―――
が。
●取引
「ほぅ‥‥これは綺麗な勾玉ですね。いただいてもよろしいでしょうか?」
『好きにしな。アタシは自分の身体にケリをつけたんだ‥‥死体を漁られようと知らないね』
「それはどうも」
動かなくなった死食鬼の首に下げられていた勾玉を見つけて、平良坂冷凍はそんなことを言う。
真紅の勾玉で、中央辺りに『天』と書いてあるのが見て取れた。
「さて‥‥こんなよい物をいただいておいて何なのですが、やはり幽霊さんのほうにも消えていただきましょうか」
「それは許さないといったはずよ。『いつか死なすりすと』に加えて欲しいのかしら(怒笑)」
「おや、依頼を反故になさるおつもりですか?」
「‥‥哀音。ごにょごにょ‥‥」
「(手ぽん)志摩さん‥‥私に‥‥憑依して‥‥」
『そういうことかい。ありがたいねぇ、なら少し借りるよ』
すっと身体を重ね、幽桜に憑依する志摩。
「おっと、これは不幸な事故だ。仲間に幽霊が取り憑いたとあっては、手荒な真似はできないな」
「そうじゃのう。仲間じゃからのう」
「やれやれ‥‥甘いですね、ヘルヴォールさんも蒼眞さんも三月さんも。まぁいいでしょう‥‥勾玉のお礼に見逃してあげます。では、またの機会にでもお会いしましょう」
平良坂は去って行った。
いつものニヤニヤした笑いで、一行を見下すかのように―――