【平良坂の野望】手がかりを求めて
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■シリーズシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:7〜11lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 45 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:02月10日〜02月15日
リプレイ公開日:2006年02月18日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「御免。大牙城殿、一海君、できればあまり他人に聞かれないところで話をしたいのだが‥‥頼めるかね?」
「了承ッ!」
「速いですよ城さん(汗)。まぁ、ご要望とあらば」
京都冒険者ギルドの暖簾を掻き分け、友人であるギルド職員二人に声をかけたのは、京都の便利屋・藁木屋錬術。
虎覆面の大牙城と、普通の青年西山一海は、こっそりと藁木屋を奥に招き入れた。
「‥‥で、どうしたんです? こそこそ隠れて」
「漢らしくないとは言うまいッ! 事情も聞かずに答えを急ぐのは愚の骨頂よっ!」
「あー‥‥何から話したものか。とりあえず、要望を受け入れていただいたことに感謝する」
歯切れ悪く礼を言ったものの、まだ話し出すかどうか迷っている模様。
まぁここまでお膳立てしてもらった以上、話さないわけにはいかないだろうが。
「‥‥驚かないでくれたまえ。『志摩殿』‥‥よろしいですよ」
「は?」
「ぬッ!?」
藁木屋がそう呟くと、彼の身体から青白いものが抜け出て、人の形を成す‥‥!
『難い挨拶は苦手なんだけどねぇ。柄這志摩だよ。覚えときな』
「やぁ、あなたが志摩さんですか、お噂はかねがね。お会いするのは初めてですね♪」
「お初にお目にかかるッ! 私は真の漢を目指し、また真の漢を捜し求める者、大牙城ッ!」
「あ、私は西山一海です。城さんと一緒に冒険者ギルドの職員してます」
「元とはいえ、堕天狗党員であった方とはかねてより語り合いたいと思っていたッ! めぐり合わせに感謝しようッ!」
「‥‥ちょっと待て」
「どうかしたか、藁木屋殿ッ!?」
「何故二人とも驚かない。幽霊と普通に会話しないでいただきたいのだが」
「何言ってるんですか、充分驚いてますよ。藁木屋さんに憑依してるなんて二重で驚きです」
「そうは見えん‥‥」
『聞いてたとおり面白い連中だねぇ。退屈しないだろ』
「‥‥苦労もしますがね」
藁木屋に憑依していたのは、元堕天狗党員、柄這志摩の幽霊であった。
先の依頼の帰り道、冒険者たちは志摩の今後について悩んだ結果、藁木屋に預けようということになったのだ。
最初は彼も仰天したものだが、話を聞いて快く志摩の身柄(?)を預かったという。
志摩曰く、『このままじゃ腹の虫が収まらないからねぇ。あんたらへの礼も兼ねて、連中に一泡吹かせるまでは成仏なんてしてられないさね』とのことである。
とはいえ、まさか幽霊が真昼間から京都の往来を出歩くわけにも行かない。
連れて歩くのも同義だということで、藁木屋は自分に志摩を憑依させて冒険者ギルドまでやって来たのである。
「貧乏くじ同心の本領発揮ですね♪」
「‥‥否定はしないがね‥‥そんなことより依頼だ。志摩殿から得た情報を元に、とある遺跡へ調査に赴いて欲しい」
『アタシが取り上げられた勾玉のことは聞いてるね? あれは江戸で海賊紛いのことをしてた時、船員が命乞いして差し出してきた物さ。別にそんなもの貰わなくても殺しやしなかったのにさ。ま、貰える物は貰っておこうかと思って、首から提げてたってわけさね』
「で、その勾玉が発見されたのが調査して欲しい遺跡らしい。『綺麗だったから』などという理由で、あの平良坂冷凍が死体から物を剥ぎ取るとは思えないのだよ」
その遺跡は、京都から2日もあれば着く場所にある。
志摩が海賊行為で襲ったのは抜け荷や密漁を行っていた船ばかりであり、これを差し出した船員の言葉からも、勾玉が盗み出されたものであることは想像に難くない。
志摩自身、肌身離さず着けていたらしいが、それはあくまで『なんとなく』らしい。
「‥‥むッ!? しかし藁木屋殿、その遺跡は妖怪が多数出没するとかで、最近入り口が封鎖されたはずだがッ!」
「突破すればいいじゃないですか。まさか板を隙間無く打ち付けたってわけでもないでしょうしね」
『話が早いじゃないか。こりゃ現世にしがみついたままで居るのも悪くないかも知れないねぇ』
「と、とにかく、依頼のことは頼んだ。志摩殿が協力していることは伏せ、受けてくれた方々だけに打ち明けるようにしたいので、その辺もお願いする」
「了解です。お任せを♪」
「うむッ! 我らに任せるがよいッ!」
新たな仲間(?)を得た藁木屋たち。
堕天狗党内でも対商人組織の第一人者であったと言われる彼女が協力してくれれば、何かが掴めるかも知れない。
謎に包まれた平良坂の思惑‥‥その一部なりとも―――
●リプレイ本文
●仄暗い遺跡の奥から
「‥‥ちっ、ぞろぞろと鬱陶しいね! どこから沸いて出てくるんだ!」
「ハンマー持ってきて正解だったわね‥‥思った以上に埴輪が多いわ‥‥(溜息)」
提灯やたいまつなどで照らされた、薄暗い遺跡の通路。
人一人がなんとか武器を振り回せる程度の広さしかないため、戦闘は思った以上に捗らない。
「‥‥というか‥‥節操が‥‥無さ過ぎ‥‥。毒蛙とか‥‥蠍とか‥‥毒持ってるの‥‥ばっかりなのも‥‥いただけないと、思う‥‥」
「暗いから察知し辛いしのう。このままでは魔法力が保たんのじゃ」
正直、どれだけ出て来るんだというほど妖怪を叩きのめしている。
遺跡に潜り、ちょっと道が複雑になってきたかなと思ったときには、すでにあちこちから歓迎を受けていた。
この調子では、目的地に着くまでにどれだけの敵と戦わなければならないのか‥‥?
「穴倉で滅びるなど御免蒙る。江戸を発つ時、必ず生きて帰ると約束した。‥‥‥‥待つ者をおいて逝くなど、俺の美学に反するからな」
「あー、傷はもらわねぇんだけどよ‥‥崩れても困るからオーラアルファーは使えねぇしなぁ‥‥ストレス溜まるぜ」
T字路を利用して分散し、少しでも数を減らそうとしたり、オーラボディ初級を纏った上で蠍を踏み潰したり‥‥そんなことまで考えていかないと手が足りない。
『まったく、なんでアタシまで働かなきゃならないんだい』
燐分の影響を受けない幽霊も味方の一人。
遺跡に入ったときから、それまで憑依していた三月から離れ、主に蝶の迎撃に当たっている。
ちなみに、遺跡内の探索を実行しているのは以下の面々。
ヘルヴォール・ルディア(ea0828)
昏倒勇花(ea9275)
幽桜哀音(ea2246)
三月天音(ea2144)
葉隠紫辰(ea2438)
バーク・ダンロック(ea7871)
柄這志摩
それぞれ役割を決め、三月とバークはマッピングもしながら遺跡内を進んでいるが、どうにも。
それほど脅威ではない妖怪ばかりなので、危な気は無いのだが‥‥。
「だーっ、また出てきやがった! 埴輪が2、怪骨2!」
「‥‥だいぶ‥‥うんざり‥‥」
ヘルヴォールと昏倒が、ハンマー系の武器で埴輪担当。
バークと三月が魔法を使用してのサポート&ガード役。
幽桜と葉隠は、刃物を使ってオールラウンドに戦う。
回復役が居ればもっと心強いだろうが、まぁ今のところ必要あるまい。
一方、遺跡内で激闘が繰り広げられている最中‥‥遺跡の入り口辺りでは―――
●遺跡の入り口で技名を叫ぶ
「断・滝・斬!」
「龍牙!」
師弟コンビと有名な、蛟静吾(ea6269)と蒼眞龍之介(ea7029)の二人組み。
蛟はよからぬ事を企む者に備え、自発的に遺跡の入り口を守ることを提言した。
蒼眞は京都の陰陽寮で調べ物をしてから合流するという段取りであり、事実少し遅れて到着したのである。
が、そこで蒼眞が見たのは、死人憑きやら土蜘蛛に囲まれて苦戦する蛟の姿であった。
「先生、調べ物はどうでしたか?」
「それが、この遺跡についても勾玉についても、特に有力な手がかりになりそうなものは見つからなかった。資料が膨大だというのもあるが、『天』と書かれた勾玉など聞いたことも無いそうだ」
「そうですか‥‥。しかし、助かりました。流石にこれだけの数に囲まれると厄介だったので」
「ふ‥‥蛟君、油断は己を殺すぞ。戦いはまだ終わってはいない」
「失礼しました。では先生、久しぶりに大暴れと行きましょう!」
「その意気だ。蒼眞龍之介‥‥推して参る!」
二人とも、伊達に師弟コンビと呼ばれていない。
息の合った連携で、土蜘蛛や死人憑きなどをいともたやすく撃破していく。
が、ようやくすべての敵を倒し終えようかという時―――
「なっ‥‥新手!? 豚鬼戦士に‥‥一反妖怪!」
「‥‥あの豚鬼戦士‥‥ズゥンビだな。あちこち腐食しているようだが‥‥」
どこからやってきたのか、森の方から二匹の妖怪が新たに現れる。
これは、なんだ。
まさか放っておけば、森の方から延々と妖怪が現れるとでも言うのだろうか。
「ふむ‥‥私たちだけで仕留めるしかあるまい。ここを突破されれば、中の面々が苦労を背負い込むことになる」
「はい。僕たちの後ろには‥‥守るべき仲間が居ますから‥‥!」
被っていた天狗の面を放り出し、蛟は二匹の新手に集中する。
二人に共通する想い‥‥それは、静かな‥‥しかし確かな、嫌な予感―――
●謎の黒い―――
「ふぅ‥‥どうやらここが最深部のようじゃの。正直骨だったのじゃ」
「光届かぬ地の底は、最早我らの領域にあらず‥‥。しかし虎穴に入るらずんば得るもの無きもまた、事実。この場所には、何か手がかりになるものがあることを望む」
数々の妖怪を打ち倒し、やっとたどり着いた石室。
思ったよりずっと広い面積の遺跡だったらしく、かなり時間がかかってしまった。
「‥‥見なよ、壁にわけの分からない文字がいっぱい並んでる。いかにも手がかりっぽいじゃないか」
「これぁ‥‥古代魔法語か? ずいぶん本格的なモンみてぇだが」
パッと見、奇妙な模様に見える文字たち。
この場にそれを理解できる者が居ないので、とりあえず分担して書き写してはいるが‥‥。
「‥‥? なんの‥‥臭い‥‥? 何かが‥‥腐ったような‥‥焦げたような‥‥」
「‥‥あら、ホント。たいまつや提灯のものとはまた違った臭いね?」
辺りを警戒していた幽桜と昏倒が、不振な臭いに気がついた。
葉隠と三月も臭いを感知し、壁の文字を書き写す手を止め、辺りを見回すが‥‥。
「何も見当たらんのう。何かが燃えているわけではなさそうじゃ」
「‥‥というか、これは火の臭いではない。敢えて言うなら‥‥」
『アタシゃ臭いなんて分からないけどねぇ。敢えて言うならどんな臭いだって言うんだい』
幽霊志摩に促され、葉隠れはポツリと呟く。
その頬に流れる冷や汗に、この場の誰もが緊張する‥‥。
「‥‥敢えて言うなら‥‥動物が溶かされているような、そんな臭いだ‥‥!」
「おいおい、ここには俺ら以外動物なんて居ないぜ? 多少広い石室だけどよ、隠れられるような場所は‥‥」
バークは笑いながら部屋を見回す。
が、ふと思い当たってしまった。
石室のド真ん中にある、蓋の閉まった石棺に‥‥。
「えっと‥‥じょ、冗談よね? お墓の主さんは、もうとっくに骨になっちゃってるはずだもの‥‥(滝汗)」
『わかった、わかったよ。アタシが調べればいいんだろ。本当に便利だねぇ、幽霊ってのはさ』
溜息をついて、石棺の中に首を突っ込む幽霊志摩。
だが、その直後に即刻首を引き戻す!
『な、なんだってんだい、あの不気味な生き物は!?』
「‥‥何さ、何が見えたんだ?」
『中で‥‥変な黒い物体が、人を溶かして侵食してるんだよ‥‥!』
「馬鹿な‥‥死体が腐乱せずに残っていたとでも?」
「‥‥そうか、調査隊じゃな!? 死体が残っているような時節にここに来て、死んでしまいそうなのは‥‥」
ヘルヴォール、葉隠、三月。
とりあえず推測にしか過ぎないが、その線は濃厚かもしれない。
外に居る蒼眞に聞けば確証がもてそうだが‥‥。
「‥‥じゃあ‥‥黒い物体って言うのは‥‥何だろう‥‥」
『とりあえず妖怪なんだろうさ。仏さんには悪いけど、触らぬ神に祟りなしってところかねぇ』
「ぶっ倒しちまった方がよくねぇか? またここに来なきゃいけなくなるかも知れねぇんだからよ」
「出来れば深追いしない方がいいと思うわ‥‥。その妖怪の力も分からないし、何より‥‥」
「どうかしたか、昏倒殿」
「帰り道も、相当苦労しなきゃいけなさそうだもの(溜息)」
葉隠れの言葉を受けて、昏倒が指差した先。
石室への入り口から、死人憑きやら怪骨やらが姿を現し始めていた。
「‥‥まだあんなにおったのか。しんどいのう‥‥」
「‥‥これが‥‥本当の、『骨だ』ってやつ‥‥?」
「‥‥哀音、上手いこと言ってないで突破するよ! 文字は書き写したね!?」
「おう、大体は終わってるぜ。葉隠、そっちは!?」
「完了している。あとは帰還あるのみ」
「よろしいかしら? それじゃあいくわよ〜!」
ハンマーを振り上げる昏倒を中心に、一同は来た道を戻り始めた―――
●数日後
「えーっと‥‥『其は天地の理。四方四聖を八と別け、万物を司る力を封ずる。四対の宝珠が終結せし時‥‥』。って、この続きは解読できていないのかい?」
「えぇ‥‥どうやらただでさえ難しい段階の古代魔法語が使われているのに、それが暗号になっているとか。専門職の人間でも解読に時間を要するようですよ」
遺跡内に居た6人(と幽霊志摩)が出てきた時、蛟と蒼眞はすでに妖怪を打ち倒し、新手に備えていた。
異常発生とも言える連戦から無事帰還した数日後、蛟と蒼眞が藁木屋から中間報告を受けているのである。
「四対の宝珠というのがあの勾玉のことを指す記述であるのなら、あれと同じような勾玉が後7つあるということだろうか」
「それを集めたらどうなるのか‥‥。先生、平良坂冷凍に集めさせては恐らくロクなことにならないでしょうね」
「あぁ。そして、あの遺跡の妖怪大量発生‥‥偶然というにはあまりに出来すぎている。志摩殿との再会‥‥そして謎の勾玉。いったい、何が始まろうとしているというのか‥‥」
動き出す野望。
隠された悪意。
謎が謎を呼ぶ勾玉事件‥‥さて、平良坂冷凍はどう動いてくるか―――