【戦慄の裏八卦】雷散霧消
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■シリーズシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:01月29日〜02月03日
リプレイ公開日:2006年02月06日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「あんたが西山一海か。じじいから話は聞いてるぜ」
「はい? えっと‥‥どなたでしょう」
麗らかな昼下がり。
遅めの昼食を済ませてギルドに戻ってきた職員、西山一海を待っていたのは、笠を被った青年であった。
目深に被っているせいで顔は分からないが、声からして一海よりちょっと年上くらいだろう。
「俺は電路。八卦衆、雷の『電路(でんじ)』だ。山名豪斬様からの依頼を伝える」
「ちょ、ちょっと待ってください。色々ツッコミどころはありますが、まず‥‥雷の名を持つのは電蔵さんでしょう? じじいって言うからにはお孫さんか何ですか?」
「あぁ、電蔵は俺の祖父だな。話は簡単だ‥‥じじいが引退して、俺が雷を継いだ。それだけだぜ」
「へぇ‥‥あの電蔵さんがねぇ。この前お会いしたときには殺しても死ななそうでしたけど」
「‥‥何者かに襲われて瀕死の重傷を負わされたんだ。再起不能(リタイヤ)‥‥とでも言うのかな」
「はぁ!? ご高齢とはいえ、あの魔法の達人が誰に後れを取るって言うんです!?」
「そのことを含めて、依頼を説明すると言っているんだ。いいな」
電路の話の詳細はこうだ。
丹波で起きた反乱が鎮圧され、大分時間も経った。
とはいえ藩内のあちこちにその爪跡が残っており、八卦衆は丹波藩内に散って復興活動に従事している。
そんな折、丹波藩主、山名豪斬の元に信じられないような情報がもたらされた。
八卦衆の最古参であり、纏め役でもあった雷の電蔵が、何者かに襲われて意識不明の重体になったというのだ。
幸い、騒ぎを聞きつけて孫の電路が助けに入ったので、死に至ることはなかったが‥‥高齢であったということもあり、最早身体よりも気力の方が折れてしまい、八卦衆を名乗るのは相応しくないと、自ら雷の名を孫に譲って隠居したのである。
「八卦衆は山名家に仕える魔法特化の特殊部隊。俺もガキの頃からじじいに魔法を仕込まれてきたからな‥‥豪斬様もすぐに認めてくれた。‥‥これは半分俺の復讐でもある。あんな場面を見せられて、怒らねぇやつはいねぇ!」
「賊は二人組み‥‥共に魔法の達人。自ら裏八卦を名乗る‥‥って、なんですか、この裏八卦って」
「さぁな。俺も詳しくは知らん。『風の旋風』が調査中だとよ」
「‥‥え? じゃあどうやってその賊を追うんですか。居場所が分からないんじゃ、どうしようも‥‥」
「フフフ‥‥安心しな。奴らは八卦衆が別々に行動している所を狙って襲っている。つまり、奴らの目的は俺たち八卦衆ってわけだ。なら、八卦衆自体が囮になればいい」
「なるほど。八卦衆が賊を引き付け、冒険者がそれを追う。つまり‥‥挟み撃ちの形になりますね」
「そういうことだ」
「‥‥そうするとですよ? 今、この瞬間も襲われる可能性があるのでは‥‥」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
「‥‥やれやれだぜ」
「とっとと帰ってくださいっ!」
八卦衆は、受け持つ称号にそぐわない性格をしていることが多い。
電路の場合、雷の名にどうこうと言うより‥‥ただ奇妙な性格をしているだけのような気がした―――
●リプレイ本文
●待ち伏せ
二月某日、晴れ。
丹波藩内にある名も無き村から2〜3百メートル離れたところに、ぽつんと寂しく小屋が立っている。
一行は裏八卦を名乗る謎の集団を待ち伏せるため、八卦衆の新人、雷の電路と共に小屋内に陣取っていた。
「さて‥‥上手く誘いに乗ってくれるといいんですけどね。これで他の八卦衆の所へ裏八卦の人たちが行ったりしたら、ボクたち馬鹿みたいですから」
「まったくだ。ジャパンに来て初の依頼で、無様な結果は残したくないからね」
火鉢に手をかざしながら、楠木麻(ea8087)とヒースクリフ・ムーア(ea0286)が軽く笑う。
京都周辺地域の冬は底冷えするので、待ち伏せるのに暖を取る方法は必須。
そういう意味では、この小屋というのは最適な場所かもしれない。
「しかしなぁ。どうも楠木が絡んだ上で策を弄すると、裏目に出そうな気がするんだよな」
「あぁ、それなら聞いたことがあるね。確か、サバイバル―――」
「その話はいいです! 却下です! 止めてください!」
日比岐鼓太郎(eb1277)やキルスティン・グランフォード(ea6114)に妙な邪推をされ、楠木はぴしゃりとそれを止める。
詳しいことは割愛するが、どうも彼女のことを知っている人間は多いらしかった。
「冗談はさておいてだ‥‥電路、おたくが襲われるって言うのは確かなことなんだな?」
「ふん‥‥信用していないのか? 噂の流布には風の旋風も絡んでいるんだ‥‥確実なはずだぜ」
「作戦が看破されている、ということはありませんか? あるいは僕たちが一緒に居ることを知られているとか」
「さぁな。だが悪い方に考えようと思えばいくらでも悪く考えられる。俺たちはノコノコ出てきた裏八卦の連中に全力で拳を叩き込む‥‥それだけの話だ」
『八卦招』なる特殊な通り名を持つ黒畑緑太郎(eb1822)に対し、遥かに年下のはずの電路はまるで礼儀を弁えていない。
かと言って年下の雨宮零(ea9527)に対して友好的なわけでもなく‥‥雷の電路は、扱いにくい性格のようだ。
「ん? 八卦衆は魔法以外の戦闘はてんで駄目だと聞いているが‥‥電路は格闘もいけるのか」
「いいや、駄目だぜ。さっきのは言葉のあやってやつだ」
「‥‥威張って言うことじゃないだろ、まったく」
アリアス・サーレク(ea2699)の質問にしれっと答える電路。
室内なのに傘を目深に被っているので、やはり顔はよく分からない。
と、キルスティンがため息を吐いた時だ。
「‥‥楠木さん‥‥バイブレーションセンサー、使ってみてください‥‥(ぼそっ)」
「はい? それはかまいませんけど‥‥」
突然ぼそりと呟いた緋室叡璽(ea1289)の要望に応え、楠木は魔法での索敵に入る。
すると、索敵範囲内に2つの反応が‥‥!
「凄いですね。どうして分かったんです?」
「‥‥ん‥‥」
雨宮が感心したように言うと、緋室は壁の一点を指差す。
そこには‥‥。
「おぉ‥‥これがジャパンで言う、『お前の目は節穴か』というやつだね」
「いや、違うから。断じて違うから」
「漫才をしている場合か? ‥‥小屋を出て迎え撃つぜ」
ヒースクリフと日比岐を軽くあしらい、電路はみんなの準備が完了するのを待って、小屋を出た―――
●裏八卦、始動
「おんやぁ? なーんかぞろぞろ連れてるぜ、ダンナ」
「どうやら一杯食わされたようですね。冒険者か‥‥それも見かけたことがある者がちらほらと」
一行と対峙したのは、銀髪と冷ややかな目を持つ青年と、ニヤニヤ薄ら笑いを浮かべた軽そうな男であった。
2対9が確定したにも関わらず、裏八卦と思わしき二人組みは余裕の表情を崩さない。
「‥‥? テメェら何者だ。じじいを襲った奴らとは違うな」
「じじいだぁ? あー、真紅たちがブッ倒したっつー『雷の電蔵』か。ククク‥‥死んだか?」
「‥‥随分ガラの悪い男だな。質問する前に名乗るくらいはしたらどうだ」
「だ、そうだぜ? どうするダンナ」
アリアスの言葉に、軽そうな方の男が振り返る。
銀髪の男は、やれやれとばかりに手を広げておどけて見せた。
「いいでしょう。私は裏八卦の一人、水の『蒼陣(そうじん)』。短いお付き合いになるとは思いますが、お見知りおきを」
「同じく、裏八卦・地の『井茶冶(いさじ)』だ。ま、せいぜい楽しませてくれや?」
そして自己紹介が終わるや否や、即構えに入る‥‥!
「‥‥待ってください‥‥。もう少し、聞きたいことがある‥‥らしいよ」
「らしいよって(汗)。まぁいい、丹波家家臣、八卦招の名を持つ黒畑緑太郎だ。君たちの目的を聞きたい!」
緋室の台詞を引き継いで、黒畑が質問をぶつける‥‥が。
「素直に言うと思うかボケがぁっ! 電路もろとも死んでもらうぜ!」
「ちっ、そりゃそうだ! ヒースクリフ、アリオス、まずは突っ込むよ!」
「えっ、あの、ボクたちは‥‥」
「楠木さんと黒畑さんは援護! 俺と日比岐さんと緋室さんは第二陣!」
「雨宮って戦闘となると人が変わるよな。ま、編成に文句は無いけどな(しゅっ)」
「‥‥生死問わず‥‥で宜しいんですよね‥‥(ぼそっ)」
流石に数々の修羅場を潜り抜けてきた冒険者たちだけあって、展開が速い!
電路も遅れまいと、高速詠唱でのライトニングサンダーボルトを放ちにかかったが‥‥!
「ふ‥‥甘いですね」
ボヒュウッ!
電路や楠木が高速詠唱に入ろうかという時に、蒼陣の魔法‥‥ミストフィールドが完成する!
15メートルに渡って広がる濃霧‥‥伸ばした自分の手の平も認識しがたい。
「なっ‥‥これじゃ狙いが‥‥!?」
「しかもすでに移動したな。俺のライトニングサンダーボルトも駄目か‥‥やれやれだぜ」
当然前衛組みも足を止める。
この状況で、確実に敵を狙えるのは‥‥!
「私に任せろ! フッフッフ‥‥魔法が使え―――」
「ンなこた分かってんだよ、有名人さん」
「なっ!?」
いつの間に接近していたのか、黒畑の右方向から井茶冶の声が‥‥!
「喰らえよ! ディストロイッ!」
「うぐっ‥‥がはぁっ!?」
高威力版のディストロイの直撃を受け、一気に重傷に持っていかれる黒畑。
抵抗に失敗したのがあまりに痛い‥‥回復手段は、現状では無い。
「‥‥音‥‥か? みんな、連中は音で大体の場所を把握しているようだ! あまり動くな!」
「警報ご苦労様です。ではあなたが被害者第一号ということで」
「ちっ、盾で―――」
「無駄ですよ」
アイスコフィン。
オーラエリベイションを纏っていたヒースクリフだったが、こちらも運悪く抵抗を失敗し、氷付けにされてしまう!
「っははははは! 俺たちゃ元々暗殺が主要任務でなァ。劣悪な環境ほど真価を発揮するんだよ!」
(「駄目だ、視界が効かない。目には自身があったんだが‥‥!」)
(「‥‥連中‥‥気配を殺すのが上手い‥‥。こちらも音で追いますか‥‥」)
目のいい二人組み、雨宮と緋室でさえもこの霧の前では無力。
不慣れな聴覚に頼ってみるものの、仲間の配置もいくらか変わっているため、どこに誰が居るやら‥‥!
(「「‥‥近い!?」」)
二人同時に衣擦れの音を察知し、その音めがけ斬激を繰り出す‥‥!
「‥‥ぐ‥‥あ‥‥! 雨‥‥宮、さん‥‥!?」
「しまった、緋室さん!? 刀を止められなかった‥‥!」
中傷を受けた緋室が膝をつき‥‥動揺した雨宮の首根っこを、背後から誰かが掴んで呟く。
「馬鹿が‥‥ハズレだ。零距離は一段と効くぜぇ!」
「ごふっ‥‥!」
倒れる雨宮の身体で緋室の追撃からも逃れた井茶冶‥‥これで行動不能と思われるのは二人。
他の面々もフォーメーションを取ることが出来ず、どこから襲われるかわからない状況を脱し得ない‥‥!
(「くっ‥‥どうする。このままじっとしていても、いつか見つかる。かと言って声を出せば場所が知れる‥‥!」)
アリオスは衣擦れの音にまで注意しながら、ヒースクリフの声が聞こえた後は一切動いていない。
冬の寒さがどうというより、見えない敵への緊迫感や同士討ちへの危惧が身体を浸透していく‥‥。
「緊張していますか? ではそれから開放してあげましょう」
「ぐぅっ!? だ、だが‥‥耐えて見せる‥‥!」
突然左後方から声。
やはり気配でも音でも存在が掴めないのは大きい‥‥!
「おや。ではもう一つ」
「がっ‥‥に、二度目は‥‥!」
一回目のアイスコフィンは魔法抵抗したが、連続でかけられた魔法を抵抗し切れなかった。
しかも、振り返ったときにはすでに視界内にはおらず、別の角度から接近してくるのだから始末に悪い。
そしてまた一つ、氷柱が出来上がる‥‥!
「こいつら‥‥この状況に慣れすぎてる! 動ける奴はまず霧から出ろ! 今回は電路を守れればいい!」
「鍛え足りないってことか‥‥!?」
電路、日比岐、楠木、緋室は、キルスティンの指示に従ってミストフィールドから脱出した。
裏八卦の二人はまだ霧の中のようだが。
「深追いする必要はねぇよな、ダンナ。冒険者付きの八卦衆をあしらったとなりゃあ、ただ倒すより名が上がるぜ」
「あまり喋り過ぎないでくださいね。深追い云々には同意しますが」
「逃がしませんよ!」
楠木がグラビティーキャノンを連射するが、相手がどこにいるか認識できないのでは当たらない。
直線型魔法である上、2連射が限度なのもいただけなかった。
「ごきげんよう。氷は速く溶かしてあげた方がいいですよ」
「次はもうちっとマシな戦いを期待してるぜ!」
そして、霧の向こうから気配が消えた。
反対側から霧を抜けたのだろう、最早追跡は出来なさそうである。
「‥‥追います‥‥?(怒)」
「やめておきな。氷付けにされるのがオチだ」
「炎夜だったらどうとでもなってた‥‥か。やれやれだぜ‥‥」
すべては、起こってしまったこと。
いや、始まってしまったことと言うべきか。
謎が謎を呼ぶ、戦慄の戦闘集団‥‥裏八卦。
まだ見ぬ裏八卦は‥‥後6人―――