【戦慄の裏八卦】死闘、裏八卦!

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:02月16日〜02月21日

リプレイ公開日:2006年02月22日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「やっほー! 春画同人どんと来い、でも触手と回しは勘弁ね♪ の宵姫ちゃん参上〜♪」
「あら、それはそれで需要がありそうなのにねん。これぞ求道美」
 突然、冒険者ギルド職員、西山一海の所にやってきた二人の女性。
 丹波藩を統括する山名豪斬が組織した魔法特化部隊、『八卦衆』のメンバー二人である。
 ツインテールの元気のいい方が『月の宵姫(よいひめ)』。
 肩くらいまでの髪で、一見大和撫子っぽく見えるのが『風の旋風(つむじ)』。
「あ、前回の教訓を生かしてちゃんと二人で来てくださったんですね」
「勿論。仲間と同じ失敗をするのは美じゃないわん。これぞ後学美」
「そんなことより旋風お姉ちゃん、調査結果と依頼のこと言わないと〜」
 宵姫に急かされて、旋風は一つため息をついた後に話を切り出した。
「前回電路クンがあしらわれちゃった裏八卦について、いくつか分かったことがあるわ。一つ、裏八卦は故・山名烈斬様が組織しようとしていた部隊。勿論極秘にね」
「二つ、裏八卦の人たちは8人全員丹波出身じゃないみたいだよ。言わば、冒険者の中から八卦衆に近い戦闘流儀のヒトをかき集めたんだって。性格云々も無視して」
「三つ、裏八卦は八卦衆と違い、一対多ではなく、一対一や暗殺を主目的として組織された。最初の任務になるはずだったのは‥‥私たち八卦衆の暗殺みたいねん」
「でも、裏八卦が集まりきる前に反乱の企てがバレて、武力衝突になっちゃった。全国に散って裏八卦候補を集めてた連中が帰ってきた時には、烈斬様は処刑された後ってわけだよ」
 仕えるはずの主人が死んでしまってなお、何故裏八卦が八卦衆を付けねらうのかは分からない。
 ただ言える事は‥‥故郷の人間でもない丹波の民を、裏八卦が戦闘に巻き込むことを躊躇いはしないだろうということ。
 まだ二人しか確認されていないものの、その二人が手段を選らば無さそうなタイプだった故の推測だが。
「なるほど‥‥。で、今度も囮使って誘い出すんですか? 一度やった手に引っかかりますかねぇ‥‥」
「あー、そこは大丈夫♪ 豪斬様が丹波中に呼びかけたからー♪」
「呼びかけた?」
「『裏八卦に告ぐ。そなたらの実力は認めよう。だがしかし、騙まし討ちまがいの戦法で勝利しても、それは真の名声には繋がるまい。さすれば、『八卦谷』にて正式な果し合いとするがよい。無論兵など伏せぬ。信じるか信じないかはそなたらの器量次第―――』。あぁん‥‥美しいわぁ。これぞ挑戦美!」
「‥‥殺し合い‥‥ですよね? いくら終わったあとはお抱え僧侶さんに回復してもらえても、戦闘中は‥‥」
「‥‥それは仕方ないわよん。私たちは嫌でも、向こうは殺す気満々らしいし。これぞちぐはぐ美」
「春画同人にされるまで、あたしは死なないもーん♪ 返り討ちにしちゃんだから!」
 まだまだ謎の多い裏八卦‥‥彼らとの死闘は、まだ始まったばかりである―――

●今回の参加者

 ea0286 ヒースクリフ・ムーア(35歳・♂・パラディン・ジャイアント・イギリス王国)
 ea1289 緋室 叡璽(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4141 鷹波 穂狼(36歳・♀・志士・ジャイアント・ジャパン)
 ea4301 伊東 登志樹(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6114 キルスティン・グランフォード(45歳・♀・ファイター・ジャイアント・イギリス王国)
 ea8087 楠木 麻(23歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea9527 雨宮 零(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb1277 日比岐 鼓太郎(44歳・♂・忍者・ジャイアント・ジャパン)

●サポート参加者

ヴァージニア・レヴィン(ea2765)/ ルディ・ヴォーロ(ea4885

●リプレイ本文

●秘密の場所?
 丹波藩某所、八卦谷。
 山名豪斬‥‥即ち丹波藩の主に仕える『八卦衆』という部隊の、最終採用試験場という話だが、見回してみても特に変わったようなところは見られない。
 崖、川、森、平地、岩場等々、様々な地形があるということを除けばだが。
 付近には村も無く、わざと恐ろしい妖怪が出るという噂を流布することで、民の侵入を暗に拒否しているという。
「よし‥‥仕掛けはこんなものでいいだろう。後は連中が来るのを待つだけだな」
「おっ、なかなか面白そうなことしてんじゃねぇか。まぁ難点は味方の足音も五月蝿くなるってとこか」
 足元に籾殻などをばら撒いていたヒースクリフ・ムーア(ea0286)に、伊東登志樹(ea4301)がケラケラ笑って問う。
 視界を封じる類の魔法を使われたときのための用心の様である。
「それなら水はいらないな。いや、足元が滑りやすくなったらまずいかな、とも思ってたし」
「相手が視界封じをしてこなければそれでよし‥‥してきても、魔法に頼りきりにならずに済みますね」
「しかし、音が聞こえても自分たちの耳で正確な攻撃が出来るかどうか‥‥ま、神のみぞ知るってところかね」
 水を撒いて足音を誘発しようとしていた鷹波穂狼(ea4141)も、ヒースクリフの案に乗る。
 軽く辺りの地形を見てきた雨宮零(ea9527)やキルスティン・グランフォード(ea6114)も話に加わって、まだ姿を現さない裏八卦への対策を練っていく。
 用心してもし足りない相手だということは、前回証明済みなのだから。
「さーて、ク○クン。頑張って裏八卦にお仕置きですよ!『わかったよ。ボクたちがちからをあわせれば、どんなじけんもすぐにかいけつさ!』うん、その意気その意気!」
「愛犬使って一人芝居するなよ(汗)。アカギ、俺らは真面目に行こうぜ(しゅっ)」
「‥‥‥‥(‥‥うるさい‥‥)」
 一方、ちょっと緊張感が無いのは、楠木麻(ea8087)、日比岐鼓太郎(eb1277)、緋室叡璽(ea1289)の三人。
 別に悪い意味ではなく、気負いとかプレッシャーをなるべく体外に追い出すよう心がけているのだ。
 まぁ、緋室は普段から無口で表情が読みにくいが。
「やれやれだ‥‥緊張感が無いな。きちんと覚悟は出来ているか? 俺はできてる‥‥」
 相変わらず、笠を目深に被って呟く一人の青年。
 その名は、八卦衆・雷の電路。冒険者の要請で、前回に引き続き裏八卦との戦いに臨む。
 と、その時だ。
「っ!? 今、あっちの木の陰で茶色い光りが見えました!」
 目のいい雨宮は、一瞬の閃光を見逃さなかった。
 全員状況を理解し、予め決めておいた3班に別れ、3人1小隊のチームを組む。
 オーラエリベイションや疾走の術等、補助魔法を詠唱する時間もある。
 だが、そこで恐るべき事態が起こった。
 ゆったりと近づいてきていた二人のうち、背の高い方が光ったかと思うと、突然火球が!
 高威力版のファイヤーボムは、30メートルばかり飛んできて、15メートルに渡って爆裂する!
「うぉぉっ!? こ、こいつは‥‥!」
「ど、どこが暗殺用の魔法を修得だってんだコラぁ!?」
 鷹波や伊東の言葉を聞けば分かるが、まだ散開しきっていなかった一行は、まともに直撃を受けた。
 盾や魔法で軽減したヒースクリフだけはぴんぴんしているが。
「ウフフ‥‥あなたたちが私たちのお相手ねぇ? おばかさぁん、あなたたちのことはみぃんな筒抜けなのよ」
「きちんと自己紹介はするものだわ。例えそれが、お茶の前に片付けられるような相手でもなのだわ」
 ちょっとひらひらした、変則的な着物に身を包んだ二人の女性。
 甘ったるい口調の方は長く赤い髪で、なのだわ口調の方は銀色の髪をお団子状に結っているようだ。
 20メートルばかり離れたところから、一行に声をかける。
「ウフフ‥‥仕方ないわぁ。私は真中紅(まなか くれない)。裏八卦の仲間は『火の真紅』って呼んでるけどねぇ」
「私は水月銀華(みづき ぎんか)。『月の水銀鏡(すいぎんきょう)』と呼ばれているのだわ」
 二人が自己紹介している間に囲んでしまおうかとも思われたが、どうやら傷云々で無理らしい。
 真正面での9対2という、ある意味危険な配置での戦闘となった。
「や‥‥野郎‥‥! だが考えようによっちゃあツイてるぜ‥‥じじいが受けた傷の礼をしねぇとな‥‥!」
「駄目です電路さん! 水銀鏡って言う人の上に、ブラックボールが‥‥!」
「そんな馬鹿な! ブラックボールは地属性の精霊魔法‥‥って、まさか!?」
 キルスティンの言葉にも、真紅はクスクス笑うだけ。
 専門レベルのスクロールを発動した水銀鏡が真紅の前に立ち、敵からの魔法を遮断する作戦らしい。
「ちぇっ、動ける奴から叩きに行くぞ!」
「近づけさせないのだわ」
 日比岐の言葉に、水銀鏡がシャドウフィールドの魔法を発動する。
 30メートルもの広範囲に展開された闇。
 冒険者だけを包んだその空間は、一切の光りを通さない。
 そうなると、当然‥‥。
「うっ!? なんだ‥‥転んだというのか、私が!?」
「‥‥方向が‥‥!」
 ヒースクリフや緋室の言うとおり、ミストフィールドよりよほどタチの悪い魔法。
 目を閉じて10メートルも走れば、転んだりあらぬ方向へ行ってしまうのと同じである。
 このピンチ‥‥どう乗り切る―――

●真紅と水銀鏡
「楠木さん、電路さん、裏八卦が居たと思わしき場所に魔法を撃ち込むんだ! このままじゃ埒が明かない!」
「正気ですか!? 前には伊東さんたちも居るんですよ!?」
「雨宮の言うとおりだ。いつまたファイヤーボムが飛んでくるか分からない以上、やれることはやっておくべきだね」
 闇の中で、楠木、雨宮、キルスティン、電路が話し合う作戦。
 どうやら前衛組みも闇を抜けきれずに居るらしい。
「‥‥楠木、バイブレーションセンサーで一番遠くに居る奴を狙うんだ。射線上に仲間が居たら、しゃがませるなり左右に移動させればいいだろう」
「なるほど! では電路さん、ボクに掴まって真後ろへ! 手を敵方向へ誘導します!」
「わかった」
「うわわっ!? ど、どこ触ってるんですか!」
「暗いんだから仕方ないだろう。‥‥やれやれだ」
「気を取り直して‥‥バイブレーションセンサー発動! 一番遠くに居るのは‥‥そっちだぁっ!」
「オラオラオラオラオラァッ!」
 闇を撃ち抜いていく二人の魔法。
 大まかな距離と方向だけなので、正確にヒットはしないが‥‥。
「なかなかやるのだわ。ブラックボールを使っていなかったら安心は出来なかったのだわ」
「よし、前衛はゆっくりでいいから前に出るんだ! 二人の直営はキルスティンに任せろ!」 
 日比岐の言葉に、伊東、鷹波、雨宮、ヒースクリフ、緋室が前と思わしき方向に進む。
 が。
「ちょっ、誰か分かりませんけど射線上に来ないでください!」
「んなこと言ったって、どっちがどっちだかわかりゃしねぇってんだよ!?」
「泣き言言ってる場合かい! 這って進むとか機転効かせな!」
「そんなこと言ったって‥‥うわぁっ!?」
 ごぅんっ!
 真っ暗闇なのに、熱と爆風。
 シャドウフィールドの中では、炎の魔法の光りも周りを照らさない。
 水銀鏡と真紅が組めば、広範囲の暗殺魔法の出来上がりというわけだ。
「ウフフ‥‥だらしなぁい。一人くらい抜けてこないのかしらぁ?」
「真紅、何を遊んでいるのだわ。もっとファイヤーボムを連打すれば、あっという間に決着がつくのだわ」
「やぁねぇ、それじゃつまらないじゃなぁい。せいぜい遊んで楽しんで、裏八卦の方が八卦衆より優れているってわからせてあげないとね。烈斬様の供養にもなるわよぉ?」
「ならば私がお相手しようか‥‥お嬢さん方」
 闇を抜けてきた、盾を構えた騎士。
 ヒースクリフ・ムーアの姿を見て、裏八卦の二人はくすりと笑った。
「なかなかやるじゃなぁい。2回も私のファイヤーボムを受けて、その程度で済んでるなんて」
「専門は無理だったが、初級のオーラボディをかけているからね」
「困ったのだわ。接近戦に持ち込まれたら、私たちなんてあっという間なのだわ」
 ヒースクリフが構えを取り、いざ突撃しようかとしたときだ。
「楠木たちは後ろに下がらせた。自分も加わろう」
「間に合いましたね。今回は絶対に‥‥倒れないッ‥‥!」
「‥‥泥臭くても‥‥奴らを仕留められるなら、なんだってやります‥‥」
 キルスティン、雨宮、緋室が闇を抜け出し、合流。
 ただ、キルスティン以外は結構ダメージがあるが。
「あら、これは好都合なのだわ」
『何!?』
 高速詠唱の真髄発揮。
 使われた魔法は‥‥イリュージョン!
 元々抵抗力が高くない面々である上、ダメージで更にかかりやすくなってしまっている。
 オーラエリベイションをかけてあるヒースクリフ以外の三人は、突如地割れが起きたような幻覚を見る‥‥!
「どうした、三人とも!」
「おばかさぁん。イッちゃいなさい」
 がつっ、どぉぉぉんっ!
「ぐ‥‥はぁっ‥‥!?」
 仲間に気を取られた隙に、真紅のマグナブローが飛ぶ。
 下方からの魔法で盾も間に合わず、キルスティンも巻き込んでヒースクリフが弾き飛ばされる。
「真紅、今のうちに退くのだわ。私たちの目的は、別に彼らの抹殺でないのだわ」
「今となっては八卦衆を無理に殺す必要もないものねぇ。またの機会に遊んであげるから、楽しみにしてなさぁい」
 足早に森へと退いていく二人。
 裏八卦の目的‥‥八卦衆の殺害が絶対条件で無いというなら、いったいなんだと言うのだ。
 まさか本当に、自分たちが八卦衆より優秀だということを証明したいだけとでも‥‥?
 答えは出ないまま‥‥八卦谷に冷たい風が吹きすさんだ―――