【勾玉攻防戦】とある山村にて

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:8〜14lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 98 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:04月29日〜05月06日

リプレイ公開日:2006年05月07日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「あ、そういえば御報告することがあったんでした」
「ん? 京都北部の遺跡のことかね?」
「はい。結論から言うと、あそこは平良坂冷凍氏の私有地じゃありませんでした。彼の部下が勝手にそう言っただけで、誰のものでもないというのが実情です」
「‥‥時間稼ぎをされたか」
「でしょうね。あの後、陰陽寮から正式に調査隊が派遣された時、さらっと通して調べさせたそうですから。きっとそれまでに勾玉の在り処を突き止め、回収したんでしょう」
 大分暖かくなってきた春の日。
 京都冒険者ギルドの一角にて、いつものように二人の男が話を進めていた。
 ギルド職員、西山一海と、京都の便利屋、藁木屋錬術‥‥その筋では結構有名だったりする。
「‥‥ねぇ、そんなことよりも錬術‥‥。私、いつまで依頼の受け答えしなきゃいけないの? 凄く面倒なんだけど」
「もうしばらくはやっていたまえ。そのうち楽しく―――」
「‥‥ならないわよ。私は錬術のため以外に調べ物するなんて真っ平だもの」
「‥‥バカップルさんたちめ」
 ひゅんっ、とすっ!
「‥‥何か言った?」
「どぉぉぉぉぉっ!? 聞こえてるんなら『何か言った?』なんて聞かないでくださいよ!?」
 藁木屋の隣に座り、一海に爪楊枝を投げつけたのは、アルトノワール・ブランシュタッド。
 ただの爪楊枝が人の眉間に刺さるのだから、彼女の技量は恐ろしい。
「と、とにかくだね‥‥こちらでも勾玉の場所を調査しているのだが、正直眉唾物の話しか出てこない。前回のような投げ込み文もないし、正直手詰まりだ」
「その投げ込み文の差出人は分かったんですか?」
「恐らく、元堕天狗党員、螺流嵐馬殿だろう。状況推測だがね。彼らもまた、平良坂氏を追っていると言うことかな」
「一応お尋ね者ですもんねぇ。で、藁木屋さんのことだから眉唾物の中からも信憑性が高そうな場所を特定したんですよね?」
「まぁな。京都北東にある、とある山村が一番有力だろう。その村がある山の山頂には遺跡のようなものがあり、年に一度の祭りの日には、村から選ばれた者が山神様へお供え物をしにいくという」
「‥‥で、その山神様の御神体が勾玉だっていうの。天地八聖珠かどうかは知らないけど」
「ただし、最近その村付近で不死者が頻繁に目撃されると言う。幸い村は襲われていないが、住民は不安だろうね」
「まずは遺跡の確認ですかね。不死者との遭遇戦も考慮に‥‥と」
「平良坂氏が動き出す可能性もある。敵は死者だけではないかも知れんな‥‥」
 丹波の大商人、平良坂冷凍。
 そのタイミングのよさと、にやにやした表情が鼻につくが、優秀な商売人であるという。
 そんな彼との、天地八聖珠をめぐる戦いは‥‥今、第2ラウンドに入ろうとしていた―――

●今回の参加者

 ea2144 三月 天音(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea2246 幽桜 哀音(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea2438 葉隠 紫辰(31歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5564 セイロム・デイバック(33歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea7029 蒼眞 龍之介(49歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb2292 ジェシュファ・フォース・ロッズ(17歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb2704 乃木坂 雷電(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 eb3225 ジークリンデ・ケリン(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

リウ・ガイア(ea5067)/ 鷹碕 渉(eb2364

●リプレイ本文

●村の中では
「ふーむ‥‥あの妖怪どもを倒してくださるのはありがたいのじゃが、お社様を調べるというのはのう‥‥」
「しかし、不死者が遺跡の周囲に集中していることから、遺跡に何らかの縁がある可能性もある。調べるに越したことはない」
「わらわたちは社をどうこうしようという気はないのじゃ。なんなら監視役をつけてもらっても構わんがのう」
 件の村にて、一行はまず村長に取次ぎを求めた。
 何をするにもまずは当地の権力者の承諾が必要‥‥それは至極当然のことである。
 だがこれも当然のことだが、妖怪の退治だけならともかく、村長ですら実物を見たことがないという御神体を通りすがりのような冒険者に見せてくれるわけがない。
 葉隠紫辰(ea2438)や三月天音(ea2144)の提案に、村長は渋い顔を崩さない。
「村長殿‥‥我らもなんの根拠もなく勾玉を、ひいては御神体を気に病んでいるわけではないのです。先もお話したとおり、最近は勾玉に関連した事件が多い‥‥よもやここも巻き込まれはしないかと思っているのですよ」
「まず、ここら辺を不死者がうろつくようになったって時点で充分異変なんだろう? 最悪の事態を引き起こす前に、何かしら手を打ったほうがいいと思うんだよ。俺たちなんて渡りに船だと思わないか?」
 いつになく丁寧な蒼眞龍之介(ea7029)と、年の割には落ち着いている乃木坂雷電(eb2704)の意見。
 年長者でもある蒼眞の意見には、さしもの村長も揺らぐようだ。
 だが、どうして村長が煮え切らないのかというと‥‥それは彼の視線の先にあった。
「‥‥うぅ。また見られてますよ、私たち‥‥。その『オヤシロサマ』っていうのは、いったい何なんです?」
「困りましたね‥‥この御時世に『異人をお社様に近づけるわけにはいかん』だなんて。時代錯誤もいいところですね」
「僕の知識によると、『オヤシロサマ』というのは日本における神様のようなものだね。ただ、この国は社さえあればどこの地域でも『オヤシロサマ』って言うから、多分いっぱい『オヤシロサマ』がいるんじゃないかな〜?」
 そう、どうやらこの村の人々は外国人が嫌いなようなのである。
 嫌いというか、苦手というか、恐いというか‥‥とにかく、言葉は悪いが彼らにとって外国人は妖怪と似たようなものであり、須く『異質な存在』なのである。
 他の面々はともかく、セイロム・デイバック(ea5564)、ジークリンデ・ケリン(eb3225)、ジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)の三人は、この村においては歓迎されていない様子だ。
「‥‥この国には‥‥こういう村‥‥結構ある‥‥。外国人どころか‥‥余所者ってことだけで、追い出したがるところも‥‥あるみたい‥‥。珍しいことじゃ‥‥ないかな‥‥」
「余計に駄目だってツッコミは無しな。悪い、日本人の全員がこうじゃないんだが、田舎に行けば行くほどこういう風潮は残ってる。まったく、情けない話だよ」
 幽桜哀音(ea2246)が静かに呟いたのを、話が終わったらしい乃木坂が引き継ぐ。
 外国人3人組は各々微妙な反応を示したが、不満を言ってどうなるものでもないので追求はしなかった。
「一先ず、今回は不死者の討伐と遺跡への道順の把握だけ行うという形で話がついた。君たちにはすまないが、今日のところは村人たちの信頼を得るために不快な思いに耐えてくれ」
「あれこれ言ってもこじれるだけじゃからのう。そうと決まれば、早速山頂を目指すのじゃ」
 蒼眞、三月の音頭に従い、一同は村を出て上を目指す。
 村人たちの複雑な視線を感じながら‥‥やはり自分たちも、複雑な思いを抱きながら―――

●山中では
「ファイヤーボムで一掃して差し上げます」
「ほれ、こちらもファイヤーボムじゃ。爽快じゃのう」
「‥‥あのね。僕のアイスブリザードは消火用にあるんじゃないんだけど?」
 昼間でもふらふら出歩いている不死者たち。
 それと遭遇するのは難しいことではなく、一行はすでに10体近い不死者たちを撃破していた。
 連中は集団行動するわけでもなく、ただ目的もなくうろついているように見える。
 勿論近寄れば攻撃してくるので、返り討ちにしてやるわけだが。
「まぁまぁ、この方が怪我人が出なくていいじゃないですか。氷ならすぐに溶けちゃいますし」
「‥‥手応え‥‥ない‥‥。油断するつもりは‥‥ないけど‥‥でも、不完全‥‥燃焼‥‥」
 セイロムや幽桜も、勿論遊んでいるわけではない。
 お互いホーリーメイスや霞刀で怪骨などを打ち払ったあとで、今はたまたま三月とジークリンデの出番だっただけ。
 まぁ、ジェシュファが尻拭いをさせられてしまったのはあれだが。
「ん? どうしたんだ、蒼眞のダンナ」
「‥‥いや、私事だ。人を探している」
「こんな山奥でか? 約束でもしたと?」
「そういうわけではないがな‥‥縁があれば会えると思っている。かの御仁も、私たちを探しているのであれば」
「‥‥嵐馬‥‥さん‥‥?」
 幽桜の言葉に、蒼眞は頷く。
 声をかけた乃木坂や葉隠にはわからないだろうが、この二人にはこれだけで事足りる会話。
 平良坂冷凍という大商人と競うのであれば、情報がものを言う。
 共に追う者‥‥協力者は多い方がよいのだが‥‥?
 と、その時だ。
「あらら、団体さんの御到着のようですね」
「ここにきて集団行動‥‥? っていうか、今までどこにいたんだろ」
「んなこと今考えてる場合かよ!? 同じ人間にやられるのはまっぴらだし、死人にやられるのはもっとまっぴらだぜ!」
「‥‥まるで冥府の道行の如く、だな。未だ不死者の列に加わるつもりもない‥‥疾く、退け黄泉返り共」
 ジークリンデ、ジェシュファの声に、乃木坂、葉隠ら前衛組みも構えを取る。
 山頂から下ってくるように現れた不死者の集団は、およそ15体。
 死人憑きや怪骨‥‥編成自体は今まで倒してきた不死者と変わりない。
 余計な戦闘をせずに山頂へ向かいたい所ではあるが‥‥降りかかる火の粉は払わねばなるまい―――
 
●渦中の人
「ほっほっほ‥‥流石ですね。あの数の不死者を難なく倒してしまうとは」
『っ!?』
 セイロムが15体目の死人憑きを殴り倒した直後、人を喰ったような声が背後から聞こえる。
 ふと下方を見れば、丹波の大商人、平良坂冷凍が、部下の4人を連れて山道を登ってきたところが見て取れた。
 御丁寧にも外国人だらけのビーフ特選隊ではなく、日本人の果樹王たちを連れてきているのが彼らしい。
「なるほどね〜。聞いてはいたけど、この狙ったようなタイミング‥‥怪しいわけだよ」
「まずいですね‥‥オーラパワーやシールドが切れる。いざ戦いとなったら、厳しいですか‥‥!」
 ジェシュファやセイロムの言葉を聞いているのか居ないのか、ちらりと二人を見ただけで冷凍は視線を戻す。
 この中でもよく見知った‥‥蒼眞、幽桜、三月に。
「やはりあなた方もいらしゃっていたのですねぇ。流石京都の便利屋、藁木屋錬術さんとアルトノワールさん‥‥お仕事が速い。今回は先を越されてしまいましたか」
「冷凍殿‥‥か。ここで問答というのも無粋な気はするが‥‥問うておきたい。以前、京都北部の遺跡にて、あの一帯があなたの所有物だという虚言を受けたわけだが‥‥信用を第一とする商人があのような策で来るとは思わなかった。何かそうしなければいけない理由でもあったのだろうか?」
「ほっほっほ‥‥いえいえ、御気分を害されたのなら謝りますよ。しかし、あれは私の意図する所ではなく、この果樹王さんたちが勝手に言ってしまったことなんですよ。監督不行き届きだと言われればそれまでなのですが‥‥まぁ、人の口に戸は立てられぬということで御容赦願いたいですね」
「まぁこの際それは置いておくとしてじゃ。冷凍殿は何故ここへやってきたのかのう? ‥‥と、聞くだけ野暮かの?」
「天地八聖珠狙いということですよね。それならば私たちが先に着手した問題ですので、お引取り願いたいのですが」
「初めまして、ジークリンデさん。お噂はかねがね。しかしですね‥‥あなた方が勾玉を追うのが自由であれば、私たちが勾玉を追うのも自由なのです。お互い公的機関に依頼されたわけでなし‥‥お互い切磋琢磨しようではありませんか」
「‥‥そういうのは‥‥『切磋琢磨』じゃなくて‥‥『生き馬の目を抜く』って‥‥言うんだと、思う‥‥」
「ほっほっほ‥‥これは手厳しい」
 冷凍の背後の四人は、冷凍と違いバツの悪そうな顔をしている。
 冷凍だけなのだ‥‥どんな状況でもにやにやし、余裕綽々の態度を取っているのは。
 その自信はどこから来る?
 金か‥‥地位か‥‥名誉か‥‥。はたまた‥‥?
「いかがでしょう? ここであったのも何かの縁‥‥ご一緒に山頂を目指してみては」
「汚い‥‥っていうか上手いっていうか‥‥。断るとこっちの立場が悪くなりそうだなぁ」
「何故だ? 虚言をするような連中と同行できるか‥‥というのは充分な理由だと思うが」
「物は考えようってことだよ。アンデッドがうろうろしてる山で、僕たちはつい今さっき大量の敵と出くわした。つまり、これからも敵と遭遇する可能性は高い。なら、戦力は多い方がいいに決まってるでしょ? それを断ってまで嫌う理由か、ってこと。何か企んでるんじゃないかっていう悪い噂はいくらでも立っちゃう‥‥。違うかな、冷凍さん」
「流石‥‥乃木坂さんもジェシュファさんも頭が切れる。葉隠さんの真っ直ぐさも嫌いではありませんがね」
 言われた葉隠は、少し憮然とした態度でそっぽを向く。
 とりあえず、反対意見のものはいないようだが‥‥。
「よろしいですか、蒼眞さん」
「‥‥良いも悪いもないのだろう?」
 こうして、急遽大所帯となった一行は、山頂に到着。
 遺跡の入り口と、そこにいたる道順だけを確認し、帰還することと相成ったのである―――