【勾玉攻防戦】遺跡を守る者
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■シリーズシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:7〜13lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 80 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月19日〜05月24日
リプレイ公開日:2006年05月27日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「さぁ、では今回も張り切って不死者退治していただきましょー」
「むぅッ!? 以前もかなりの数の不死者を倒したという話だったが‥‥それでもまだまだいるとッ!?」
京都冒険者ギルドの一角。
職員の西山一海と、同じく職員の大牙城。
まぁ同じ職員とはいえ、大牙城は常に虎の覆面を被っているので、異彩を放っていたが。
「どうやら、倒した分だけまた集まってくるようでして‥‥やっぱり村は襲われていないそうなんですが、山での目撃情報は一切減ってません。とりあえず、山頂までの道順は把握できましたけどね」
「しかし、条件は平良坂殿も同じッ! ここは互いの実力がものを言うという事かッ!」
いや‥‥実際はそうではない。
確かに不死者を倒していくための戦闘能力は必須だが、平良坂たちには『金』と『地位』という武器がある。
現に例の村の人々は、先に来ていた冒険者たちより、平良坂たちのほうに期待を寄せているような感があった。
「丹波の大商人で、京都でもそこそこの発言力あり。勾玉を集めていると言っても、強奪や盗みはしていない‥‥。端から見れば、お金持ちの奇妙な趣味程度にしか思われないんでしょうねぇ」
「うーむ‥‥以前私がまだ冒険者であったころ、平良坂殿からの依頼を受けたことがあったが‥‥クセはあるが悪い人間には見えなかったものだがッ‥‥! しかし、今の平良坂殿の行動に怪しいものが多いのも事実ッ!」
「京都北部の遺跡では、きっと時間稼ぎして勾玉をさらったんでしょうしね。まぁとにかく、今回は遺跡の内部くらいには入れるんじゃないでしょうか。村長さんも、不死者退治の功労くらいは認めてくれてるでしょうし」
「着くまでに不死者、遺跡内にはッ‥‥‥‥‥‥‥‥何がいるのだッ!?」
「さぁ‥‥村人さんもここ最近は行ってないそうですからね。何が住み着いているやら‥‥」
「よかろうッ! ではこの大牙城、元冒険者として援軍に行こうではないかッ! 一海殿、よいかなッ!?」
「はいはい、城さんの分も仕事しておけばいいんでしょう? けど、なるべく速く帰ってきてくださいね」
「心得たッ!」
マントをばさぁっ! と翻し、大牙城はどこへともなく去っていった。
「って、今から行かないでくださいよっ!?」
西山一海‥‥わりと幸の薄い青年であった―――
●リプレイ本文
●露払い
「ふはははははッ! ここはこの大牙城に任せ、先を急ぐがよろしかろうッ! 久しぶりに血が滾るというものッ!」
「しかし、この数を一人でというのは無理ではないかのう? 魔法があるならいざしらず‥‥」
「‥‥しかも今回は一人病欠なんだ。あまり頭数を減らしたくないんだけどね」
「心配御無用ッ! 薬なら大量に持って来ている故ッ!」
虎覆面の男‥‥大牙城は愛用の太刀を用い、三月天音(ea2144)やヘルヴォール・ルディア(ea0828)の心配やツッコミをどっかりと流して、次々に死人憑きや怪骨を叩っ斬っていた。
一同は一度村に立ち寄よって、きちんと村の村長に遺跡立ち入りの許可をとっている。
できれば全員で遺跡内に乗り込みたい状況なのだが‥‥上からぞろぞろ降りてくる不死者は数だけは多く、それだけで疲弊してしまいそうな感は否めない。
「‥‥力で‥‥押す型、か‥‥。大牙城さんが戦うの‥‥初めて見たけど‥‥やっぱり、強い‥‥」
「荒々しき剛の剣‥‥死をも薙ぎ払う烈火の如し。任せても問題あるまい」
「む、無茶ですよ。今はよくても、すぐに囲まれて‥‥」
「ぬぅおぉぉぉぉぉッ!」
大牙城の放ったソードボンバーが、緩慢な動きの不死者たちを激しく巻き込む。
スマッシュ系と合成してあるのか、その一撃で数対の敵が動かなくなった。
幽桜哀音(ea2246)、葉隠紫辰(ea2438)、セイロム・デイバック(ea5564)も、流石にこれには唖然とする。
「‥‥やはり、彼にもついて来て貰ったほうがよいのではないか?」
「‥‥かも知れないが、任せよう。我らの目的地は山頂の遺跡‥‥それに、漢の好意は素直に受け取っておくものだ」
フレドリクス・マクシムス(eb0610)の問いに、蒼眞龍之介(ea7029)は軽く笑って答える。
せっかく申し出てくれた手伝いだ‥‥遺跡に専念するためにも、ここは任せよう。
一行は頷くと、大牙城を残して一気に山頂へ向かい、突破をかけたのであった―――
●そこで待つのは
「へっ、待ちくたびれたぜ! この超精鋭の辺時板(あたとき ばん)様を待たせるとはいい度胸だ」
「‥‥別に待っててくれなんて頼んじゃいないけどね」
「何だと!?」
「やめろ辺時。冷凍様がいないからといって、勝手は許さんぞ」
前回確認してあったため、遺跡までの道のりを間違うことはなく、一行はあっさりと山頂についた。
どうやら先に来ていた平良坂冷凍の部下たちが不死者掃除をしたらしく、辺りにはその気配はない。
一行があれから不死者と出くわさなかったのも、やはり彼らのおかげだろうか?
「その様子だと、まだ中には入っておらんようじゃの。冷凍殿に『協力してこい』とでも言われたかのぅ?」
三月の言葉に、果樹王、蛇盆、辺時、弓囲の4人は渋い顔をする。
明らかな図星‥‥部下の彼らにとって、冷凍のこの命令は不服であったらしい。
「厄介な相手はいない‥‥か。ならば多少目立ってもかまうまい」
「うぅっ。皮肉を言おうと結構台詞回しに悩んだのに、当の御本人がいらっしゃらないとは‥‥」
「‥‥そりゃあ‥‥冷凍さん‥‥商人、だから‥‥。今まで‥‥ちょろちょろ姿を見せてたほうが‥‥不自然‥‥」
とりあえず果樹王組(命名・ヘルヴォール)に敵対の意思がないことを確認すると、一行は遺跡の入り口を確認する。
フレドリクス、セイロム、幽桜も、談義をほどほどにしてそれを見やった。
なるほど、山の中に潜る様にして、闇が奥へ奥へと広がっている。
最近人が来ていないことを証明するかのように、入り口付近には動物の足跡一つすらなかった。
「‥‥妙ではないか? いや、何が妙かと聞かれると困るが」
「私は特に違和感は感じないが‥‥志士の彼か、魔法使いの彼が居てくれれば何かわかったかも知れんな」
「うーむ‥‥わらわも何か引っかかるんじゃが‥‥それが何かにまでは至れん。歯に物が挟まったようで気持ちが悪いのう」
葉隠が首をかしげたのを見て、蒼眞や三月も悩んでしまう。
が、果樹王組に速くしろと急かされたので、その場はそれでお流れとなる。
何か大切なことだったのか‥‥それともただの思い過ごしか。
それすらはっきりしないまま、一行は遺跡内へと足を踏み入れた―――
●共闘
遺跡の中は、予想に反して真っ暗であった。
いや、日の光がないのだから暗いのは当然なのだが、松明などの照明器具が一つもなく、自前の提灯等で照らさねばならないのが厄介というか、予想外というか。
幸い、三月、葉隠、蒼眞、フレドリクスの4名が照明具を持っていたので、照らすには困らなかったが‥‥。
ぐぅ〜‥‥。
洞窟チックな遺跡内‥‥それはよく響いた。
「‥‥‥‥‥‥ごめん‥‥。今‥‥食べちゃうから‥‥」
実は幽桜、不覚にも保存食を持ってきていなかったのである。
一応大牙城に分けてもらったのだが、ギリギリまで粘っておきたかったらしい。
一行は足を止め、幽桜の食事が終わるのを待っていた。
「はっ、肝心なときに腹ペコか。行楽気分だなぁオイ」
「挑発してやるなよ果樹王。誰だって一回くらいはやっちまうもんさ」
言いながら、弓囲もまたくっくと笑っている。
「ふ‥‥協力と言っても、相手がこの体たらくでは足手まといだな。我々は先に行くぞ」
「早くしないと俺たちが獲物を全部いただいちまうぞ。ハッハッハ‥‥!」
蛇盆、辺時の言葉を残して、果樹王組はさっさと進んでしまう。
実はこの遺跡、ご多分に漏れず迷路のようになっており‥‥奥までの正しい道順は村人の一部しか知らない。
つまり、先に行かれてもあまり意味がないのだ。
「‥‥‥‥‥‥ちょっと‥‥悔しい‥‥かも‥‥」
「仕方ありませんよ。人間、お腹が空いては戦うことすらままなりませんし」
「セイロム殿の言うとおりじゃ。まぁ些細な失敗じゃの」
「しかし妙だな。他の遺跡では散々妖怪に襲われたものだが‥‥ここは静か過ぎる」
「そうなのか? 俺は初めて関わるからよくわからん」
葉隠の言うとおり、そこそこ遺跡を潜ったはずなのに一匹も妖怪に出くわしていない。
フレドリクスがランタンを掲げて辺りを見回すが、戦いの跡や死体の類はこれっぽっちも見えなかった。
「‥‥考えられる可能性は二つ。もともとここには妖怪は出没しない。もしくは‥‥」
「‥‥雑魚が居る必要がない‥‥ってことかね」
蒼眞、ヘルヴォールの言葉に、一同の緊張感が増した。
いくら年に何回か村人が訪れ、妖怪に襲われたという報告がないとはいえ、今もそうとは限らないのだ。
「‥‥志摩、悪いけどちょっと見てきてもらえるかな。真下に向かってもらえば迷わないはずだよ」
『いいけどね‥‥アタシの役目は平良坂の部下の監視じゃなかったのかい?』
突如、ヘルヴォールの身体から青白い幽霊が姿を現す。
柄這志摩‥‥元は堕天狗党という戦闘集団のメンバーだったが、紆余曲折あって幽霊となり、今は協力者である。
一時期体調(?)を崩していたのだが、今は回復し、今回は同行していた。
「そっ‥‥そそそ、その方が、幽霊の協力者の方‥‥ですか‥‥!?」
「‥‥驚きすぎ。志摩に失礼だと思うね」
『構わないさね。それが普通の反応だよ』
志摩は軽く笑うと、当初の目的と違う任務に向け、床をすり抜けていったのであった―――
●闇に潜むは‥‥
『こっちが最奥みたいさね。多分平良坂の部下たちもそろそろつく頃だから、アタシは戻らせてもらうよ』
「‥‥あいよ。助かったよ、志摩」
そう言うと、志摩はさっさとヘルヴォールの中へ。
志摩が示した方向は、どうやら少し開けた空洞へ繋がっているらしく、手持ちの照明具程度では照らしきれないようだ。
「‥‥気をつけたほうがいい。どうやら何か居るようだからな‥‥」
蒼眞が何かの気配に気づいたようだが、他の面々は何も感じない。
闇に潜む何か‥‥とりあえず視力ではどうにもならない模様。
三月の提案で、葉隠が持っていたたいまつに火をつけ、空洞の中へと投げ入れてみる。
そこに照らし出されたものは‥‥!
「‥‥うぁっ‥‥!? あ、ぐ、何‥‥これ‥‥!?」
「幽桜君!? 足が‥‥!」
なんと、幽桜が足元から石になっていく。
それは徐々に上へ向かい、彼女を石像に変えてしまおうとしている‥‥!
「馬鹿な! なんなのだ、あの生物は!?」
「馬鹿者! 見るでない、おぬしも石になりたいか!?」
遅かった。
三月の言葉も虚しく、フレドリクスもまた、徐々に石になっていく‥‥!
「き、金色の針! 金色の針を‥‥!」
「‥‥パニクるんじゃないよセイロム。龍之介、ここは退こう。絶対的にヤバイ‥‥!」
「同感だ。葉隠君、三月君、構わないか?」
「いずこより来りて、彷徨う虚ろな魂か‥‥。しかし、決着は預けるとしよう」
「異議を唱えられるわけがないじゃろうが。一人病欠で、二人が石にでは、全滅しかねないからのう‥‥!」
一瞬見ただけだった上、暗がりなので何が潜んでいるのかいまいち判別がつかなかった。
だが、それでも‥‥この状況では撤退しかあるまい。
「‥‥目のよさが‥‥命取りに‥‥なるなんて‥‥」
「不覚‥‥! この屈辱‥‥忘れはせんぞ‥‥!」
石になりきる前、二人はこう呟いたという。
後で治療してもらったとはいえ、あまり気持ちのいい経験ではあるまい。
山の途中で大牙城とも合流し(実は数に押されて結構危なかった)、一同は退いたのであった―――