【五龍伝承歌】人さらい、熱破!?
|
■シリーズシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:9〜15lv
難易度:難しい
成功報酬:5 G 40 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月22日〜05月29日
リプレイ公開日:2006年05月29日
|
●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「た、大変です! 危険です! 緊急事態です!」
京都冒険者ギルド職員、西山一海は、息を切らせて自分が担当しているスペースに戻ってきた。
そこでは別の青年と、その連れらしい女性が茶などすすっている。
「どうしたのかね? そんなにあわてて」
「‥‥どうせくだらないことでしょ。放っとけばいいじゃない」
「五行龍ですよ! しばらく音沙汰なかった五行龍について、新たな依頼が来ちゃったんです! それもかなりヤバイ状況で!」
一海は地団駄を踏むと、二人にバッ! と依頼書を突きつけた。
それを目で追っていた京都の便利屋、藁木屋錬術の表情がさっと硬くなる。
「‥‥五行龍の一匹、火爪龍・熱破が近隣の村の子供をさらった。被害者は少なくとも5人以上‥‥生死は不明。村では討伐隊を組織して子供の奪還に向かう予定。その助力を請う‥‥。馬鹿な‥‥なんだねこれは!?」
「私が聞きたいですよ! とにかく、4〜5日前から各々の村の子供数人が帰ってこず、村同士で協力して捜索した結果、火爪龍・熱破の洞窟付近にて子供の物と思われる鞠を発見。熱破に話を聞こうとするも、例によって帰れの一点張りで、交渉不可能とのことで‥‥」
「何故だ‥‥あれほど人との接触を嫌っていた五行龍が、何故人さらいなどをする? そんなことをすれば、ますます人との関わりを避けられなくなるのは必定。なのに何故‥‥!」
「‥‥大方空腹にでも耐えかねたんじゃないの? 食べるなら子供のほうがジャストサイズだもの」
「アルト!」
「‥‥はいはい、ごめんなさい」
珍しく藁木屋がアルトを怒鳴りつけたので、横から見ていた一海のほうがびっくりしたくらいだ。
だが、怒鳴られた本人は極めて涼しげに謝っただけ。
「とにかく、こんなものは何かの間違いだ。奇を衒わず、直接本人に聞きに行くしかあるまい」
「ですね‥‥確か熱破さんの体長は二十一尺(約6メートル)くらいだと聞いてます。その熱破さんが子供をさらっているところを誰も見ていないなんてありえないですよ」
人との共存の道が開けたかに見えた五行龍たち。
しかし、その平穏はほんのわずかでしかなかったようだ。
果たして、熱破は本当に子供たちをさらったのか。そして、彼とヒトとの関係はどうなっていくのだろう。
その鍵を握るのは、他でもない‥‥冒険者であるあなたたち―――
●リプレイ本文
●熱破のところでは
「やっほー熱破さん! お久しぶりだねー♪」
『あぁ? ‥‥そーいやぁてめぇらみたいなのがいっぺん来た事あったなぁ。つか、二度と来んなっつわなかったかコラ!?』
ここは丹波藩東北東部、火爪龍・熱破が住む洞窟の辺りである。
一度訪れたことがある人間が多数いるので、ここまでの道のりで迷ったりはしなかった。
以前訪れたときは夜だった上、雪の多い寒い時期‥‥今日とはまさに雲泥の差があると言っていい。
「まぁまぁそう言わず。拙者たちは熱破殿にかかった嫌疑を晴らしに来たのでござるよ」
「此れは、熱破様、ひいては、五行竜の方々を落し入れる陰謀です。必ず解決して見せましょう‥‥五行竜が長、刃鋼様の想いに共感するものとして‥‥!」
依頼を受けた8人の冒険者のうち、実際に熱破のところにやってきたのは5人。
風月明日菜(ea8212)、七枷伏姫(eb0487)、ミラ・ダイモス(eb2064)は熱破と面識があるため、一行の水先案内人とも言える立場である。
五行龍全体との関わりも深く、事件を追うにあたって、彼女らがいるのといないのとでは大きな差があるだろう。
『‥‥刃鋼のアネキか。一応聞いてるぜ‥‥この間会ったからな。そうか、優しいヒトたちってのはてめぇらのことか』
「会った? 確か丹波のあちこちに分散して住んでるって聞いたけど‥‥飛んできたのかしら」
『あぁ、全員のところを回ったらしいぜ。ご苦労なこった』
「‥‥辺りに怪しい気配は無し‥‥か。風月、不振な影は見えるか?」
「んーん、何にもー。でも絶対おーかーしーいー! 熱破さんに限らず、五行龍さんがそんな事するとは思えないし、他にもおかしいとこがあるしー! 僕は五行龍さん達を信じてるし、とにかく今は些細なものでも情報が欲しいから、よろしくねー♪」
『俺に言うなっ!』
ヴァージニア・レヴィン(ea2765)や白河千里(ea0012)は、五行龍と関わるのは初めてである。
辺りを警戒しているのは、五行龍を知る仲間が犯人は熱破ではないと思っているかららしい。
勿論、100%それを信じきっているわけではなく‥‥熱破に聞きたいことはある。
「単刀直入に聞こう。熱破‥‥おまえ、子供たちを知らないか? 一度村人たちが来ただろうから、事件を知らないわけではあるまい。我々には真実を語ってくれてもよいのではないか?」
「もしくは、あなた方を陥れようとしそうな人物や集団に心当たりはありませんか?」
『‥‥‥‥さぁなぁ。何せ俺らはウン百年も封印されてた身だ。この時代の連中に心当たりなんてねぇっての』
熱破は少し考えた後、ミラの質問にこう答えた。
つまり‥‥最初の白河の質問には答えていない。誤魔化したことになる。
「ねぇ、鞠が落ちてたのはこの辺り?」
『‥‥俺が知るかよ』
「出発前に聞いた話だと、多分あの木の根元辺りだと思うでござるよ」
ヴァージニアの質問をにべもなく流した熱破だったが、七枷が補足を入れることでその意味はなくなる。
パーストで過去視を試みるヴァージニア‥‥果たして、その成果は。
「‥‥駄目ね。時間が経ちすぎてるせいか、村人が熱破ところにきた時のことくらいしか感知できないわ」
「えー。それじゃあどうしよっかー‥‥いきなり手詰まりだよー」
結果は失敗。鞠がそこにあった理由は闇の中のままだ。
風月が言うように、いきなり壁にぶち当たってしまった。
『別に助けてくれなんて頼んだ覚えはねぇぞ。刃鋼のアネキのお気に入りだからって、俺まで仲良くしなきゃいけねぇ義理はねぇんだ。やりたいことが終わったんならさっさと帰りやがれ』
「そういう言い方はないでござろう。拙者たちは、共存の道を探すべく‥‥」
『頼んでねぇっつってんだろーが! これ以上ぐだぐだぬかすと燃やすぞ!』
七枷が困ったような台詞を言うや否や、熱破は全身の炎を激しく燃え上がらせる。
彼の意思で周りに影響を出さないようにできるこの炎だが、その気になれば周囲3メートルの可燃物を燃やせる代物だ。
接近戦を挑むなら火傷を覚悟しなくてはならない。
「‥‥あら? 熱破さん、あなた‥‥」
『‥‥んだよ』
そんな時、パーストで見た光景を整理していたヴァージニアが何かに気づいた。
熱破はぶっきらぼうに返事をしたが、彼女の次の言葉に凍りつく。
「どうして村人が来た後に子供がこの辺りをうろうろしてるのかしら。しかもあなた、その子と会話してるわね?」
『‥‥!』
過去視の魔法なのだから、嘘や推測ではない。その場で、過去にあった事実だ。
「ね、熱破さん‥‥? や、やだなー、冗談だよねー?」
「‥‥熱破。何を隠している‥‥?」
「熱破様‥‥で、できれば、洞窟の中を拝見させていただいてもよろしいでしょうか‥‥?」
厳しくなる白河の視線と、逆にうろたえ気味になるミラの言葉尻。
だが熱破は逆ギレするかのように、爪で近くに生えていた木をなぎ倒した。
『っせぇ! 帰れっつったら帰れっ! それとも何か、本気で俺とやるか!? 挙句に洞窟を見せろだぁ!? 何様だてめぇらは! ガキなんか知らねぇんだよ! 善意の押し売りなんぞまっぴらごめんだ馬鹿野郎ぉっ!』
ストライク+バーストアタックの爪の一撃でへし折られた木‥‥それがさらに燃え出すのだから、絶対に喰らいたくない。
「ね、熱破殿! 話を‥‥!」
「ちっ‥‥七枷、ここは退くんだ。頭に血が上った状態のあいつに何を言っても無駄だろう。お前のほうがよく知っている筈だ!」
「熱破さんー! 嘘だ‥‥こんなの嘘だよねー!? 僕、信じないよー!?」
「あっちゃー‥‥もう少し遠まわしに言ったほうがよかったみたいね‥‥!」
「くっ‥‥馬鹿な‥‥こんな‥‥!」
仕方なく退いた冒険者たち‥‥。しかし、これでは熱破は、自分が犯人だと言ったようなものだ。
子供の行方は? 真実は如何に?
事件はまだ、始まったばかりである―――
●村は村で
「う、うみ。今、仲間が斥候に行ってるからそれが帰ってくるまで待ってくださいなのです」
「そ、そうだよ。僕たちは直接会った事はないけど、龍って強いんでしょ? 素人が行っても怪我するだけだじゃないかな?」
「あたしもその意見に賛成。その為にあたしたち冒険者を呼んだんだよね?」
村に残り、村人が組織した討伐隊が熱破のところに行かないよう、それとなく足止めする役が3人。
月詠葵(ea0020)、草薙北斗(ea5414)、サーシャ・クライン(ea5021)の3人なわけだが‥‥あまり状況は芳しくない。
村人たちは非常に『いい人』で、月詠たちの言葉を素直に自分たちの心配をしてくれていると受け取った。
勿論3人が熱破寄りの思考であることを必死に隠しているからというのもあるのだが‥‥。
「おぉ‥‥御心配には及びませんぞ! わしら、子供の未来のためならば命なんぞ惜しくないわい!」
歳のわりに元気な村長の叫びに、村の男衆が雄叫びで返す。
まさにやる気満々‥‥ちょっとやそっと怪我人が出た程度ではその意思は挫けまい。
「ど、どうしましょうサーシャお姉ちゃん。このままじゃ、出かけちゃうのも時間の問題なのですよ」
「まったく、年寄りの冷や水って嫌よねぇ。他の連中もやたらと血気盛んだし」
「月詠くん、例の穴のある配置っていうのは実行できたの?」
「するまでもなかったですよ。ただ大勢で真正面から向かうだけ‥‥戦術も戦略もあったものじゃなかったです」
こそこそと話をする3人‥‥それはまさに、今の自分たちの立場を如実に表していた。
いい人たちを騙して(?)いるのも気が引けるなら、帰りが遅い熱破班を待っているだけなのもなんだか気まずい。
一応、草薙やサーシャが調べた結果‥‥
・子供達が居なくなった当初の様子、最後に見かけたときはどうだったのか?
回答:それぞれまちまち。遊びに行くと言って出て行ったまま帰ってこない場合が殆ど。
・子供が消えるころを前後に、村に立ち寄った人はいたか? いたらどんな人?
回答:旅人=余所者は珍しいので、見ればすぐにわかる。が、最近はそういった人の出入りはなかった。
・子供が消えた村の共通点
回答:特になし。強いて言うなら旅人の往来が少ないくらい。
と、恐ろしくヒントにならない情報しかなかった。
「‥‥妙な動きをする村人もいないね。余所者が混じってるようにも見えないし、これは外したかな」
「外したって、どういうこと?」
「熱破っていう龍を信じてる連中には悪いけど、最悪の事態かもしれないってこと。一応、まだ別の可能性はあるけど‥‥」
「ふみ‥‥とりあえず熱破班の人たちが帰ってきてくれないとどうしようもないのです‥‥」
「うん‥‥そうだね。できれば僕の『爆瞬転駆』とか、月詠くんの『天劔絶刀』とかを使わずに済ませたいね‥‥」
その願いは、ある意味叶えられた。
戻ってきた熱破班の5人が、村人たちに熱破の気が立っていることや、その強さを説明したからである。
無論、熱破が怪しいとかそういうことは一切口にしていない。
それによって今回は討伐隊派遣が延期されたわけだが‥‥次回は同じ手は通用すまい。
現時点では、限りなく黒に近い灰色である熱破‥‥果たして、戦うしか道はないのであろうか―――