●リプレイ本文
●状況確認‥‥のはずが
『聞こえるかしら? あなたがおりんちゃんね?』
『お姉ちゃんだぁれ? 熱破おじちゃんのお友達?』
『ちょっと違うけど、そんな感じ。私たちね、あなたたちと熱破さんを助けに来たの』
『ホント? よかったね、熱破おじちゃん! どこかのお姉ちゃんたちが助けに来てくれたって!』
子供の無邪気さというのは、時に残酷で恐ろしい。
テレパシーで行方不明の子供の一人と洞窟の外から会話することに成功したヴァージニア・レヴィン(ea2765)であったが、言い含める間も無く喋られてはいけない相手に喋られてしまった。
熱破の住む洞窟はほぼ直線の造りで、奥行きも数十メートル程度。
家主である火爪龍・熱破がすさまじい咆哮とともに飛び出してくるまで、さほど時間はかからない。
『うぉらぁぁぁぁぁッ! どうせまたこの間の連中だろ!? 今度こそは容赦しねぇっっっ!』
ごう、と身に纏う炎を燃え滾らせ、一行の姿を探す。
すでに逆上しきっている‥‥という感じだ。
本当は熱破には洞窟の外から声を掛けようと思っていたのだが、なんだかんだでおじゃんである。
「ま、待って待ってー! せめてお話聞いてー!」
「そ、そうそう! 僕たちにも言いたいことがあるよ!」
『あぁ!? 俺に会いに来るなら遺言なんぞ書き残してからこい! 知ったことか木瓜ぇぇぇっ!』
風月明日菜(ea8212)、草薙北斗(ea5414)がせめてもの対話を図ろうとするが、それも聞かない。
本当なら草薙は隠密行動で洞窟内を調べる予定だったのだが、万事段取りどおりにとは行かないだろう。
「熱破様! お願いいたします、子供たちのためにも、話を!」
「あまり無茶をすると、他の五行龍の面々にも話が飛び火するでござるよ、熱破殿!」
「できる事なら戦わないでこの事件を解決したいんだよね。熱破自身はこれについてどう思ってる? そして、このまま知らぬ存ぜぬを貫き通して、あたしたちに倒されるのが本望なのかな?」
『ぐ‥‥! ‥‥っせぇ! 何だかんだ言ってこの間より人数が増えてるじゃねぇか! しかも雪狼従えたやつまでいるたぁご丁寧だな!? 闘る気満々じゃねぇかよ!』
ミラ・ダイモス(eb2064)、七枷伏姫(eb0487)、サーシャ・クライン(ea5021)の3人に言葉を投げかけられた熱破は、他の五行龍にも迷惑が、という部分に少し反応を示した。
明らかにそれは本位でなかったようだが、サーシャが連れているフロストウルフを見て迷いを誤魔化した。
そう‥‥あくまで振り切ったのではなく、誤魔化した。難癖をつけたと言ってもいい。
『お前らとはいっぺんケリをつけなきゃならねぇようだな! 来やがれ! 伊達に五行龍なんて呼ばれてねぇぞ!』
問答無用で魔法を詠唱し始め、フレイムエリベイションを発動する熱破。
5メートルはあるその巨体が、一行に迫る‥‥!
「ちっ! 火の志士である私に免じて‥‥とはいかないか!」
拳にバーニングソードを付与した白河千里(ea0012)。
それははあくまで自衛の手段‥‥冒険者たちに戦う意思はないのに!
『死なねぇまでも、痛い目に遭ってもらうぜぇぇぇっ!』
誰も望んでいないはずの戦い。
いや、冒険者たちにその気がないなら、それは戦いとすら呼べないはずなのに。
熱破は‥‥いったい何を考えているのだろうか―――
●一方的
「ぐ‥‥ごほっ‥‥! ひ‥‥人が嫌いって事は、分かってるよー‥‥。だけど‥‥このままだと、取り返しのつかない事に‥‥なるかも、しれないから‥‥! お願い‥‥知ってる事が‥‥あれば‥‥教えて、くれない、かなー‥‥? 出来る、限り‥‥力を‥‥貸したいんだよー‥‥!」
「む、無茶苦茶だね。ジラフのブレス攻撃も炎で減殺しちゃうし、わずかに通ったダメージも再生なんて‥‥!」
「駄目だ‥‥避けられない! それに、あまり近づき過ぎると炎でやられるから、先手先手で微塵隠れしないと‥‥!」
風月、サーシャ、草薙。
風月はファイヤーバードによる4連続攻撃(!)をくらい、一気に重傷にされた。
サーシャはウインドスラッシュやジラフをけしかけたものの、有効打を与えられず。
草薙は炎のダメージから逃げるために、ひたすら微塵隠れで逃げているのでへとへとである。
『‥‥再生能力やCOを覚えた代わりに、魔法の精度が下がっちまった。だが、それでも使えることに違いはねぇ。どうだ、これ以上やる意味はねぇだろ!? さっさと帰れよ!』
「そういう‥‥わけに、いくか‥‥! 仮とはいえ、白夜の焔というあだ名を持つ私だ‥‥炎の龍が怖くて逃げ出しましたでは、話にならないからな‥‥!」
「抵抗力が高くて、オーラソードとソニックブームの攻撃でも大したダメージにならないでござるか‥‥!」
「‥‥何故‥‥どうしてですか、熱破様‥‥! ここまでして、何を隠すというのですか!?」
白河は最初愛馬の権兵衛を口笛で呼び、回避に努めようとしたが‥‥熱破の攻撃は鋭く、いとも簡単に権兵衛を捉えた。
地面に放り出されたところを熱破の爪(ストライク付き)が襲い、重傷。
七枷は高威力版オーラソード二刀流でソニックブームを連発するが、やはり通用せず。
ミラはミラで、熱破の放つ炎の高熱のせいで、装備が熱を持ち精細を欠いてしまう。
それに加え、仲間のフォローに回ってシールドや刀での防御をしているので、攻撃に移れないのだ。
「『幾千夜の昼と 夜を共に 過ごした仲間達を 私と心を 同じにした仲間達を 私は信じる。だから 私は貴方を 信じる。仲間の信じた 貴方を。だから 貴方も―――』」
『やめろやめろやめろぉぉぉっ! んでだよ‥‥なんで信じるんだよ!? 俺はお前らにこんなに酷ぇことしてんだろぉが!? 痛ぇだろ!? 辛ぇだろ!? だったら帰れ! でなきゃせめて罵れよ! なんで‥‥なんで俺の心配なんざするんだぁぁぁっ!』
ミラに守ってもらいながら、ヴァージニアが使ったメロディーの魔法。
熱破には確かに伝わった。その想いが、伝わったのだ。
だからこそ‥‥熱破は叫ばずにはいられない。
「‥‥もう‥‥察してるとは思うが‥‥私たちは『熱破を退治してくれ』という‥‥依頼遂行の為に、此処に来た‥‥。だが、それを『する』気は毛頭ない。お前が‥‥何か考えて、動いているのは‥‥前回の様子で解っている‥‥。どうやらお前は‥‥嘘がつけないみたいだし、な‥‥。それに‥‥本気で私達を‥‥遠ざけたいなら、私達は‥‥無事に帰れてなかったろ? 結論的に誰も負傷していなかったのだから。―――私達は‥‥信用ならぬ、か? いや‥‥昨日の今日で‥‥信用しろという方が、無理な話と思う‥‥。だが‥‥我々の後ろには‥‥お前たちを、信用して‥‥私たちに託した人たちもいる‥‥!」
『‥‥‥‥人間なんてのは信用ならねぇんだよ‥‥! ガキならまだしも‥‥大人なんてのは論外だ‥‥!』
「あ‥‥あは‥‥。だったら‥‥僕、子供‥‥だよー‥‥? 信用‥‥して、欲しいなー‥‥」
「僕だって一応子供だよ。ねぇ‥‥熱破さん‥‥!」
『‥‥‥‥』
熱破は答えない。答えられない。
白河の言葉。風月や草薙が子供という事実。それが分からないほど頭が悪いわけではない。
ただ‥‥何が正しくて、何が間違いなのか。
それを判断するだけの知恵が、熱破には無い。
と、場の空気が静まりかけた時だ。
「熱破おじちゃん‥‥どうしたの? お姉ちゃんたち、助けに来てくれたんじゃないの‥‥?」
洞窟の入口に、10歳くらいの女の子がおぼつかない足取りで姿を現していた。
おそらく、この娘がおりんだろう。
『‥‥なんでもねぇ。戻ってろ、俺もすぐ戻る』
「‥‥? おじちゃん‥‥泣いてるの?」
『あぁ!? 誰が泣いてるってんだ! 馬鹿なこと言ってねぇでさっさと戻れ!』
「はーい」
壁に手をついて、おりんはゆっくり戻っていく。明らかに住み慣れている。
『‥‥頼む。今日はもう帰ってくれ。今度来た時は‥‥きっちり話をするからよ―――』
熱破は振り返らず、洞窟へと戻っていった。
一連のやり取りを見て‥‥負傷者のいる一行は、仕方なくその場を後にしたのであった―――
●帰還
「じゃあ、そのおりんちゃんは目が見えないんですか!?」
「見た感じでは。焦点の合ってない視線でござった」
村に帰還した一行は、傷の治療とともに村人を抑える役目の月詠葵(ea0020)と合流した。
熱破は倒せずじまいだったという報告をした7人だったが、冒険者の状態を見て、村人たちは恐怖感を覚えたようだ。
形式上は失敗だが、ここまでやってくれたのだからと不問に伏してくれたらしい。
「では、状況確認をするのですよ。村人たちは皆さんの様子を見て、少なからず熱破さんを怖がったようなのです。実は皆さんが行っている間にも、援護に向かおうという意見が出たのですが‥‥ボクが丁重にお断りしておいたのですよ」
「やっぱり葵に残っておいてもらって正解だったね。もし今日村人たちが来てたら、それこそ取り返しがつかなかったよ」
「サーシャお姉ちゃんにそう言ってもらえると、残った甲斐があったのです♪ ‥‥それで、ですね。ボクのほうもそれとなく村人さんたちを調べて回ったんですけど、どうも変なんですよね。ごく一部の人たちが‥‥なんて言うか、無関心なんです」
月詠の話によれば、その人たちは子供たちのことが心配なようにはとても見えないとのこと。
加えて言うなら、以前は気づかなかったが、京都方面からやってきた雲水となにやら親しげであったという点も上げられた。
「もしかしたら、この村は一枚岩じゃないのかもしれません。何か、別の思惑をもつ人たちが住んでいるのかも―――」
月詠の疑惑‥‥そして、熱破とおりん。
事件の片鱗が、ゆっくりと‥‥しかし確実に姿を現し始めていた―――