【五龍伝承歌】暴かれる闇
|
■シリーズシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:09月15日〜09月20日
リプレイ公開日:2006年09月22日
|
●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「‥‥は? それはいったいどういう‥‥」
「おや、察しのいい一海君にしては珍しい。わからないかね?」
「い、いえ、わからなくはないんです。ただ、そんなことって‥‥」
冒険者ギルド、職員用の裏手。
客はおろか、他の職員にも聞かれないよう、二人はここで会話していた。
ギルド職員、西山一海と、京都の便利屋、藁木屋錬術。
最近丹波で起きている、五行龍がらみの依頼のことである。
「連中は墓穴を掘ったのさ。善良な民を演じようと藩主である山名豪斬様に助けなど求めたものだから、逆に怪しまれて調べられた。そこで浮かび上がった事実は―――」
長年隠されてきた闇。
村人と一体化し、また村人を隠れ蓑にした‥‥『人身売買誘拐集団』。
付近の村全てに潜り込み、住人となり、お互いの村々から少しずつ女子供を誘拐し、売り払う。
これならば『神隠し』などという理由で信仰心を利用することも出来るし、他所からさらって来た子供を仲間の家庭に住まわせても、いくらでも誤魔化しが効く。
そんな回りくどいことが数十年繰り返され‥‥龍の伝説だのオヤシロ様がどうだのと、昔話まで捏造。
一番驚くべきは、村々に散った誘拐集団の連携・連帯が、孫子の代まで保たれていたことか。
「しかし、なんでそんな大掛かりな誘拐集団が、こんなに長い間露見しなかったんですかね?」
「一海君、村と言う集団は恐ろしいものなのだよ。内には優しいが外には厳しいという例が多い。これに長年をかけて潜り込むと言うことは、情報の秘匿‥‥つまり、村丸ごとの助けを受けて事実を隠すことができるのだよ」
「さ、最初にそれを考え付いた人は大したもんですねぇ‥‥。成功するかどうかもわからない博打だったでしょうに」
「まぁな。ここで性質が悪いのは、村の大半は本当に善良な村人だと言う点だ。少数の悪意を、多数の善意で隠す。頼みもせずに庇ってくれる‥‥これは最高の隠れ蓑になる」
だが、今回の事実を暴けたのは、冒険者たちの推理・行動によってという面が強い。
冒険者たちが熱破のことを信じ、幾度となく村を調査し、真実の断片を探した結果だ。
そういう不愉快な探りを入れられたからこそ、誘拐集団たちは焦り、2度目の討伐隊結成を決めたのだ。
もし、冒険者が熱破を信じなければ。
もし、冒険者が熱破の説得に失敗していたなら。
もし、冒険者の推理が的外れで、誘拐集団が焦らなければ。
現状は、もっと違ったものになっていたに違いない。
「でも、まだ分からないことがあります。雲水が執拗におりんちゃんを殺そうとする理由は?」
「簡単だ。おりん嬢は売られるためにさらわれ、売られる前に逃げ出した。いくら目が見えないとはいえ、実行犯がどんなことを口走ったか知れたものではない。身柄を再確保して取引先に売るより、殺してしまったほうが始末が楽だろう? 熱破に罪も擦り付けられて一石二鳥というわけだな」
「なるほど。丹波の役人に保護されて、自分たちのことを暴露されてはたまりませんからね」
「あぁ。そして雲水の正体は、誘拐集団と京都の顧客を繋ぐ役。恐らく一味でもかなりの上位に位置するのだろう」
「そこまでわかってるなら、豪斬様は‥‥」
「‥‥それがな。さっきも言ったが、大半は本当に善良な民なのだ。その中から誘拐集団だけをしょっぴけると思うかね?」
「は? じゃあどうするんです!?」
「心配することはない。向こうから動いてくれるさ」
そう、藁木屋が呟いた時だ。
「‥‥錬術。やつらが動いたわ。誘拐集団の仲間内を総動員して、熱破のところに向かうみたい」
見れば、藁木屋の相棒、アルトノワールの姿。
どうやら丹波の動きを探っていたらしい。
「やはりな。一海君、依頼書だ。今回で連中を一網打尽といこう」
「え? え? な、なんで‥‥!?」
誘拐集団の総攻撃の意図が分からず、混乱する一海。
しかし、暴徒鎮圧という名目で依頼書が出されたのは、それから一刻後だったという―――
●リプレイ本文
●因果を断ち切れ
「人の命‥‥しかも幼子を売り買いする行為に罪悪感はないのか! お前達の全ての者が己らの行動に疑問をもたずに此処まで来たのか? 世襲制が如く、止む無く組織から抜けられず此処まで来た者がいるならば、
速やかにそこに居る軍馬の傍に行け。軽罪の口利きを約束しよう。さもなくば命の保証はせぬ。我らが冒険者と知っての上での攻撃‥‥後悔だけでは済まさぬぞ!」
眼前に雁首を揃えた郎党‥‥それに一歩も退かず、白河千里(ea0012)は刀の切っ先を連中に突きつける。
その数、およそ30名強。
長年に渡り、世襲してまで人身売買組織を保ってきたような連中であり‥‥白河の言葉にもまったく動じない。
「千里お兄ちゃん、もう言うだけ無駄なのです。後は、戦うしかないのですよ‥‥!」
「やる気まんまんみたいだしねー。さーって、今まで散々好き勝手してた人達をやっつけるよー!」
前衛を担当する月詠葵(ea0020)と風月明日菜(ea8212)も武器を構え、白河に下がるように言う。
二人の言うとおり、連中は各々武装しており、すぐにでも攻撃を仕掛けてきそうな雰囲気である‥‥!
『おう、ガキ。俺の傍を離れんなよ。‥‥怪我すっぞ』
「うん。熱破おじちゃん!」
『よっしゃ、明日菜! 全力でやっていいんだったよなぁ!? まとめて‥‥ぶっとばぁぁぁすっ!』
「合わせるよ! 必殺! ファイアーストーム!」
後衛に属するのは、熱破、おりん(戦力外)、サーシャ・クライン(ea5021)、ヴァージニア・レヴィン(ea2765)。
口火を切るのは、熱破とサーシャによる合体攻撃(?)。
熱破のファイヤーボム(初級)が炸裂した直後に、サーシャのストームが発動するようタイミングを計ったのだ。
拡散した分ダメージは下がるが、敵全体を巻き込んでいる!
「抜かれ無かれば大丈夫よ。万が一抜かれた場合でも、私が幾分か止めるけどね」
ヴァージニアがフライングブルームで偵察を行ってくれたおかげで、別働隊などがいないことも判明している。
前衛の二人、及び中衛の白河、郷地馬子(ea6357)、七枷伏姫(eb0487)、草薙北斗(ea5414)が魔法の射角から外れるために崩していた陣形を素早く立て直し‥‥できるだけ熱破に戦闘させまいとする。
「熱破殿は手加減を知らぬでござるからなぁ‥‥全力でやっていいと言われれば、間違いなく全力でござるよ」
「うーん、攻撃されたことのある人の言葉は説得力あるべなぁ‥‥(汗)」
「ここまできて熱破さんを悪者にするわけにはいかないから、なるべく僕たちでなんとかしないとね!」
先ほどの合体攻撃の混乱の隙を突き、郷地・七枷・草薙は魔法を完成させる。
あとは、迎撃あるのみ!
「進めぇい! せめておりんを殺さねば、我らの明日は無いのだ!」
首領と思わしき髭の男が、刀を掲げて号令を出す。
証人さえ殺してしまえば、いくらでも誤魔化しが効く‥‥最低でも有耶無耶にできると思っているのだろう。
彼の誤算は‥‥目の前の八人に対し、一般人に毛が生えた程度の部下がまるで役に立たないこと―――
●火龍の下に
「折角会えた熱破さんとおりんちゃん‥‥絶対に守って見せますです!」
「絶っ対に許さないよー! 覚悟ー! 焦っちゃった時から、そっちの負けは決まってたんだよー!」
「今度は遠慮しねぇだぁ! 全開でグラビティーキャノンだべ!」
「雑魚に用はないでござる! 死にたくなくば退くでござるよ!」
「甘いと言ってくれるなよ。だが、命まで取らぬつもりであっても‥‥怪我は覚悟してもらおう‥‥!」
「ムーンアロー‥‥目標は、『敵首領』! 傷で目印にさせてもらうわ」
「子供だと思って甘く見ると、痛い目に遭うよ! ほら、一人!」
「疾風の刃と破壊の暴風、その身に刻んで反省しなさい!」
最初、30人以上いたはずの敵集団。
が、いざ始まってみれば、数の優位などあっという間に消し飛んでしまったのである。
初めこそ前衛の二人だけでは手数が足りず、いくらか突破されはした。
が、中衛の4人で更に数を減らし、後衛の二人(と一匹と戦力外一人)で完全にシャットアウトである。
特に、体長6メートルはある熱破は、一睨みで敵を振るえあがらせた。
『‥‥俺ぁよ、未だにわかんねぇんだ。なんでお前らはこんなにも俺を助けるんだ? 誰に頼まれたわけでなし‥‥』
「え? 何言ってんの‥‥決まってるじゃない」
「そうね。簡単なことよ‥‥『あなたを信じてる人がいるから』」
サーシャとヴァージニアは、さも当然と言うように答える。
熱破には分からない。
何故そんな理由で自分を信じられるのか‥‥いやそもそも、どうして自分を信じるやつがいるのか。
誰にも干渉されず、自由に生きたいと願う龍は‥‥初めて、誰かを信じ、護るという行為を知った。
そしてそれは、言葉に表せないくらいありがたいことなのだと‥‥本能では悟っていた。
『‥‥はっ、そうかい。悪いもんじゃねぇかもな‥‥人間ってのもよ‥‥』
「勿論、人間にだって悪い人はいっぱいいる。目の前にそういう人たちがいるもんね。だけどさ!」
「例え嫌な人間が多くとも‥‥一握りでも良い人間も居るということを忘れないで欲しい」
「熱破さんが人間だったら、多分うちは放っておかなかったべよ☆」
「異種族でも手を取り合うことはできるでござる! ジャイアント、パラ、人間、コロポックル、河童‥‥日本だけでも数多の種族が存在し、共存しているのでござるからな!」
「うみゅ‥‥ですから、逆に言えば熱破さんたち精霊龍だけが気ままに、誰とも関わらずに生きていくこともできないのです!」
「だから! 僕たちをとっかかりにして、関わっていこうよ! 仲良くしようよー!」
各々戦いながら、あるいは打ち倒した敵組織の人間をふん縛りながら、熱破に応える。
残った敵の数‥‥そう多くは無い。
「チィィ、畜生相手に何を吹き込んでいる! この人類の裏切り者どもがぁぁぁっ!」
「奴隷商人紛いがよく言うよー! 同属の裏切り者のくせにー!」
「この二人‥‥実力が他の人と桁違いです‥‥! 僕たちが相手しますので、みんな下がってくださいなのです! 迦具土!」
「‥‥新撰組隊士だろうがなんだろうが‥‥打ち倒すのみ‥‥!」
エレメントスレイヤーと思われる刀を装備した、筋骨隆々の男と例の雲水。
この二本の刀が、熱破殺しの切り札だったと言うところか。
月詠はペットの鬼火と共に、風月は十手を含めた防御よりの両手装備で、各々奮戦する!
「えぇい、ガキ相手に何やってやがる! そいつらも売っ払うくらいの気合でやれィ!」
「その子供に追い詰められたって事、忘れてないよね?」
「!?」
敵首領の背後に、突然草薙が現れる。
彼の得意技‥‥微塵隠れで移動したのだ。
「唯平穏に暮らしたいだけの龍のそれまでをも罪を擦り付けて脅かした罪! これまでの長い年月をかけて溜まったその汚濁‥‥一気に取り除いてみせるよ!」
「まっ、待て! 待ってく―――」
「問答無用!」
スタンアタックで、部下より先に首領の方が落とされてしまう。
逃げ出そうとした下っ端も、郷地、サーシャの魔法と七枷のオーラソード+ソニックブームで撃ち抜かれる。
それでも逃げ出そうとする者には、熱破のファイヤーバードと白河の峰打ちが飛んだ。
「あなたたちは逃げないのね。もう勝ち目は無いのに」
「俺たちが! 長い間にわたって続いてきた組織が、おまえらなんかに‥‥!」
「地獄への道連れ‥‥新撰組隊士の首とあれば是非もなし!」
ヴァージニアの言葉をまったく聞かない最後の二人。
組織でも1、2を争う実力者というプライドが、彼らにもある‥‥!
「ならば‥‥その新撰組隊士の力、身をもって知ってもらうのですよ‥‥!」
「デカけりゃいいってもんじゃないもんねー! いっくよー!」
交差する二組。しかし、相手は京都に聞こえた強者たち‥‥!
「岩砕連追斬ー!」
「天劔‥‥絶刀!」
二人の剣線が閃いた時‥‥それがすなわち、長い悲しみの終焉の時であった―――
●エピローグ
こうして、世代をまたいでまで続いた人身売買組織は壊滅した。
その構成員は文字通り一網打尽で捕らえられ、丹波藩主、山名豪斬の下で裁かれると言う。
首領が『話が違う』だの、『戦うより逃げたほうがよかった』などと言っているそうだが、まぁ今更である。
そして、おりんは‥‥。
「おじちゃん‥‥また遊びに来ていい?」
『‥‥もう分かってんだろ。俺ぁ人間じゃねぇんだ。近寄ったっていいこたねぇぞ』
「? 熱破おじちゃんは熱破おじちゃんだよ。人間じゃなくても、熱破おじちゃんだよ?」
その無垢な笑顔と、幼いが故の真理。
目が見えずとも最初から熱破が人間ではないと分かっていた少女は、一先ず付近の村に引き取られていった。
証人として‥‥事情聴取もあるのだろう。
遠ざかっていくおりん。
残ったのは‥‥少女と龍の、他愛ない約束。
『あーあ、これでやっと静かになるってもんだ』
「熱破さんたら、無理しちゃって‥‥いじらしいべ‥‥えぐえぐ」
『か、勝手に泣くな、でっけぇの! ‥‥あぁ、そうだ。明日菜、千里、伏姫、北斗。とりあえず名前と顔が一致すんのはお前らだけなわけだが‥‥』
「なんであたしたちはダメなのさ?」
「ねぇ。結構会ってるのに」
『発音しにきぃんだよ、外人! それにお前らは、歌と雪狼って印象が強すぎんだ!』
「ふみゅ‥‥ぼ、ボクも駄目なのですか‥‥?」
『ほぼ初対面でツラ覚えろってか、おい。力貸してくれたってのは知ってるが、俺ぁ頭悪ぃんだよ! と、とにかくだ。お前ら4人が力を貸して欲しいとき‥‥あのなんとかって情報屋に言いな。気分が乗ったら行ってやらぁ』
「う、嬉しいけどー‥‥色々問題が出ないー?」
「はっはっは、熱破よ。お前はお前が思う以上に目立つんだぞー?」
「移動だけで大変そうだよね‥‥(汗)」
「街中の依頼だったらほぼ呼べないでござるな‥‥」
『知るかっ! 状況判断はそっちでしろ木瓜ぇぇぇ!』
それは、熱破の小さな一歩。
風月が言うところの‥‥共存へのとっかかり。
かくして、火爪龍・熱破の伝説は、9人の冒険者たちの武勇伝と共に語り継がれていくことになるわけだが‥‥それはまた、ずっとずっと後のことである―――