【五龍伝承歌】攻撃の意図
|
■シリーズシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:08月18日〜08月23日
リプレイ公開日:2006年08月26日
|
●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「大変です! 何があったのかわかりませんが、例の村々がまた討伐隊を結成して、熱破さんのところへ向かうみたいです!」
「聞いているよ。その件について、極秘の依頼が私宛に来ている」
冒険者ギルドでは、いつものように西山一海と藁木屋錬術がいる。
一海は職員だからいいとして、何でも屋の藁木屋はいなくても問題ないはずなのだが。
極秘の、という藁木屋の言葉を受けて、二人は奥へと場所を変えた。
「村長たちから、丹波藩の役人に応援要請が出されたそうなのだ。だが、五行龍‥‥熱破ほどの力を持つ存在相手では、地方役人が出向いても死人を出すだけ。そこで、話はどんどん丹波の上層部へ行き‥‥藩主、豪斬様の耳に入った」
「‥‥まさか、民を助けるために喜んで八卦衆や八輝将を差し向けた、なんて言わないでしょうね」
「それこそまさかだ。豪斬様もそこまで愚かではない。『風の旋風』殿に調査させ、吟味した結果‥‥これまでの顛末をよく知る私に依頼を要請してきたというわけさ」
「なるほど、そこまで言われれば分かりました。豪斬様は、領民の頼みを聞いて八卦衆の誰かを派遣する。しかし、裏では藁木屋さん及び冒険者の方々に依頼し、領民と熱破さんとの衝突を避けさせる、と」
「そうだ。つまり今回は、依頼主は私ということにして、討伐隊を熱破から遠ざけることということになる」
相手は民間人であり、素人。
軽い怪我ならともかく、必要以上に傷つけることは避けたい。
「あれ? でもそれだと、藁木屋さんたちが悪者ってことになりません? お役人の邪魔するんですから」
「それは大丈夫だ。豪斬様の根回しで、私たちは陰陽寮の命で動いているということになっている。勿論現場に派遣される八卦衆にも話は通っているから、問題はない」
「い、意外と色々考えてるんですね‥‥豪斬様‥‥」
「でなければ家臣も民もついて来ないさ。君が言うように、甘いお方だがね」
バツが悪そうに頭を掻く一海。
しかし、何故急に2度目の討伐隊なのだろうか。
前回の捜査で、痛い腹を探られて焦ったのか‥‥それとも。
失踪事件や雲水、熱破。
事件は、いよいよ大詰めにさしかかっているのかも知れない―――
●リプレイ本文
●ボーダーライン
丹波藩東北東部の山間。
普段は静かで、人が来ることは珍しいと言える場所。
だが‥‥今日に限っては、そこは平穏とはほど遠い状況にあった。
「これ以上の入山は京都陰陽寮の名において禁止いたす、撤退願う」
「ならばこっちも、丹波藩士・八卦衆の名において命じるぜ! ここは丹波の領土だ‥‥勝手な真似はやめてもらおう!」
「うわー、凍真さんノリノリだね‥‥大丈夫かな(汗)」
髪を下ろし、紅を差して女子に見えるよう変装した白河千里(ea0012)。
流石に声は変えられないので、草薙北斗(ea5414)が白河の背後から代わりに口上を述べているのだが。
前もって話の通っているという八卦衆・水の凍真との激論は、やはり平行線だ。
凍真も凍真で、『はいそうですか』と退ける立場ではない。
「多分大丈夫。向こうに彼女がいるのが見えるでしょ? 上手く誤魔化してくれてる証拠よ」
「うみゅ‥‥できればこのまま帰って貰えれば一番なんですけど‥‥そこまでは無理そうなのです」
「それは望みすぎだ。今はこの場所の死守を最優先としたほうがいい」
ヴァージニア・レヴィン(ea2765)が言うように、討伐隊側‥‥凍真のすぐそばに、こちらの味方が混じっている。
月詠葵(ea0020)も呟いていたが、このまま何事も無く事が終わればそれが最上。
しかし、白河が釘を刺したように、この場の緊張感は消えていない。
ならば‥‥見渡す限りに張ったこのロープの境界線が、まさに冒険者側と討伐隊側とのボーダーライン‥‥!
「本当に、なんか急だよねー。まるで誰かが扇動してるみたいにさー」
「お婆ちゃんが言ってたよ。自分の誇りと名誉にかけて敵わない相手に立ち向かい、それで命を落とすのはまだいい。だが、くだらない理由で立ち向かって命を落とす事ほど愚かな事はない、ってね」
風月明日菜(ea8212)、サーシャ・クライン(ea5021)の言葉に対する討伐隊の反応は様々だ。
苦々しい顔をするもの‥‥罵声を上げるもの‥‥うろたえておろおろするもの‥‥。
「凍真さん、どうするべか? 隊に動揺が走ってるべよ」
「はっはー、なんの! この程度ならまだまだいけるぜ!」
(「そうじゃねぇべ!? 煽ってどうすんだぁ!?」)
(「わ、わかってるけどよ‥‥これくらいやらないと、こっちの面子が保てないんだ。言わせてくれって」)
表向き・裏向きの会話をする凍真と郷地馬子(ea6357)。
郷地は凍真の手引きで討伐隊側に潜入し、熱破クラスの精霊の恐さを説いたり、戦闘の覚悟を説いたわけだが‥‥その効果の程は殆ど無かったと言っていい。
むしろ、討伐隊の覚悟に水を注すなとばかりに、村の重役たちから睨まれたくらいである。
それでも無事で済んでいるのは、凍真が口添えして村の人々を抑えたから。
そして、討伐隊は予定通りの時刻に、予定通りの道を通り‥‥予定通り、ロープの境界線へとたどり着いたのだ。
「静かに致せ! そなたらの声ひいふうみよ(一二三四)不平不満、黒き負の声、言霊悪しき魂を呼び、血肉薫り温度のいつむななやこのと(五六七八九十)穢れとなりて結界妨げとなり邪を呼び、此の地、黒き災い降らす―――(って、これ難しいよ、千里さん!?)」
(「いやー、すまんすまん。煙に巻くには、難しい方が効果的だと思ってなぁ」)
草薙がカンペを読みながら、微妙に抗議する。
変装している白河が苦笑いすると、なんとなく様になっているのが逆に恐い。
その難しい言葉の羅列が功を奏したのか、討伐隊の一人が凍真にどうするかと伺いを立てる。
凍真が悩むフリをして、仕方が無いから退こうと言おうとした時だ。
「構うこたぁねぇ! 村のために戦うと決めたんだ‥‥ここで退いちゃならねぇ!」
「おう、そうだそうだ! 凍真様がいれば、冒険者なんてイチコロだぁ!」
討伐隊の中から、そんな声が次々と上がる。
流石の凍真も、そこに口を挟めばどうなるかはすぐに察し‥‥また、そのタイミングの絶妙さに驚く。
「どうあってもやるというのですね‥‥。本当は、こんなことしたくなかったのですが‥‥」
「メロディー‥‥って雰囲気じゃないわね。最初からだけど‥‥」
「ごめんねー。そしたら、ちょこっと痛い思いしてもらうよー!」
月詠、ヴァージニア、風月も、各々戦闘体勢に入る。
これ以上は、ボーダーラインを保てない。
半分暴徒と化したような村人が、ロープを切断して侵入してくる‥‥!
「ええい、俺の意見は聞かないのかよ! なら何のために豪斬様に救援求めたんだこいつら!?」
「凍真さん、何とかして止めらんねぇべか!?」
「無茶言うな! これ以上立場悪くしたくなかったら、あんたも腹くくって戦うんだ!」
とりあえず、討伐隊側は素人の集まりである。
その動きは明らかに戦士のそれではなく、冒険者たちが予め仕掛けておいたブービートラップ‥‥草を結んだ足掛けや落とし穴、逆茂木などにあっさり引っかかる。
勿論、戦闘能力そのものも、冒険者たちから見れば無きに等しい。
「本命だけじゃなくて、保険の方もしっかりしておかないとねー♪」
「やめてください! あなたたちじゃボクたちには勝てないのですよ!」
「次は当てるよ! トルネードは痛いから覚悟するんだね!」
「シャドウバインディング! 少しでも数を減らせれば‥‥!」
「で、でも流石に数が多いね! 後ろを取られないように注意して!」
(「堂々と口上を上げられないのは辛い立場だが‥‥まぁ仕方ないか。ファイヤーコントロールなら火傷で済むしな」)
一行は必死に討伐隊の相手をする。
大怪我をさせないように刀を返し、峰で殴りつけるとか、魔法で威嚇・拘束する等の手段を取っていた。
が、如何せん数が多い。
確かに尻込みする討伐隊のメンバーも少なくないが、意外にも懸命に立ち向かってくる連中が多い。
背後を取られれば、鍬などでの一撃をもらいかねない。
こういう時、その真価を発揮するのが‥‥月詠、草薙などの回避もできる人間と、風月のような手数が多い人間。
次々と討伐隊員を行動不能に追い込んでいく様は、見ていて爽快なくらいである。
が。
「グラビティーキャノン!(初級)」
「アイスブリザード!(専門)」
凍真と郷地も高みの見物とは行かないので、得意の魔法で一行を攻撃する。
味方を巻き込まないように発射され、冒険者を襲う!
(「凍真さん、ちょっと威力高ぇべよぅ!?」)
(「だから、こっちにも威信とか面子があるんだってばよ!」)
流石は八卦衆‥‥高速詠唱からのアイスブリザードで、前衛3人はおろか白河とサーシャも巻き込んだ。
お互い退くに退けぬ状況に陥り‥‥戦況は泥沼化するかと思われた時だ。
『ゴアァァァァァァァッ!』
それは、熱破の叫び。
冒険者側にはそれがすぐわかったし、討伐隊にも大よそ察せられた。
そして、ずしんずしんと、これ見よがしの大きな足音‥‥!
「ま、まずいべよ。今火爪龍・熱破にやってこられたら、敵味方共に全滅しかねねぇべ! あんたら、ここはお互い退かねぇべか!?」
それは、郷地の咄嗟の機転。
「それがいいや! 俺には丹波の民の命を守る義務がある。討伐隊、すぐに撤収だ!」
ぶつくさ言う者もいたが、大半の構成員はすぐにその指示に従い‥‥討伐隊は引き上げて行った。
やがて、討伐隊の姿が見えなくなったころ‥‥熱破が姿を現す。
『!?』
「ど、どうも‥‥情けないところをお見せするでござるよ‥‥」
その口に、七枷伏姫(eb0487)をくわえて‥‥であったが―――
●一対一
「‥‥チッ。ここに一人配置していたか‥‥いい読みだ。面倒だな」
「貴殿が例の雲水殿でござるな。こんなところに単身何の御用でござろう?」
「貴様が知る必要は無い。退け、とは言わん。‥‥死ね」
熱破の洞窟の前に、七枷は一人で防衛に当たっていた。
念のため程度に居た筈なのだが‥‥なんとここに顔を出したのは、例の雲水。
問答もそこそこに、仕込み杖を抜いて切りかかってくる!
が、雲水の接近を先に察知していた七枷は、すでにオーラソードを二刀流で発動済み。
そして‥‥!
「輝光閃!」
オーラブレードからのソニックブーム。これは、剣や盾で受け止められない。
これは流石の雲水も驚いたが、これを回避!
そしてすぐに、再び七枷へ肉薄する!
「基本がなっていないな‥‥こけおどしがぁっ!」
「ぐあっ‥‥! し、しかしまだまだでござる‥‥!」
仕込杖と言う半端な武器のためか、一撃もらっても七枷は軽傷。
しかし、雲水の実力は七枷のそれを遥かに上回っているようで‥‥このままではやがて殺されるだろう。
「お仲間は討伐隊の相手だ‥‥助けはこない。観念するがいい」
「なんの。オーラ使いはしぶといでござるよ」
いったん距離をとり、じりじりと間合いを計る二人。
だが雲水の言うように、助けは期待できないし、あまり時間をかけるとオーラソードが切れる可能性がある。
「輝光双牙!」
「沈めぇぇぇいっ!」
二つの影が、再び交錯し‥‥七枷が、膝をつく。
「シュライク混じりの一撃‥‥これもくれてやる!」
重傷にされ、もう後が無い。
歯噛みする七枷の目の前で、雲水が更に仕込み杖を振り上げる‥‥!
その時!
『五月蝿ぇんだよ木瓜ぇぇぇッ! おちおち寝てられねぇだろぉがぁ!?』
ごぅんっ、と爆音がして、ファイヤーボムが炸裂する。
勿論、七枷も雲水も巻き込んで‥‥である。
「チッ、熱破が干渉してきたか‥‥。今の装備ではやつは殺しきれん。おりんの抹殺はまたの機会に回すか‥‥」
『あぁ? なんだ、あいつは』
「さ、さて‥‥なんで‥‥ござろうか‥‥。とりあえず、敵‥‥で、ござる‥‥よ‥‥」
『おい? んだよ、俺に運べってか!?』
雲水は退いた。
同時に意識を失った七枷は、熱破にくわえられて、仲間のところへ戻ることになったのである―――