●リプレイ本文
●夜の境内に
「虎穴に入り、見事虎子を得るか、飛んで火に入る何とやら‥‥となるか。何とか今後の一手に有効な“手札”を掴めることを祈りたい心境だな‥‥」
草木も眠る丑三つ時‥‥京都、とある神社の境内。
忍者である葉隠紫辰(ea2438)は、百面衆の依頼人と思わしき武家とその配下を、たった一人で待ち構えていた。
勿論、まるで無策と言うわけではない。
葉隠自信も、百面衆の装束や外見的特徴は勿論のこと、挙動や彼らが信条としていること、組織としてのスタイルなど、聞ける限りの情報を得て、違和感のないように体裁を整えている。
さらに仲間の冒険者たちも、事前にこの神社のことを調べ、見つかり難いと思われる場所で各々待機中。
かくして葉隠は、一本の木に結わえ付けてある、真新しい文らしき物に手をかけた。
その時である。
「待てぃ! 百面衆の一人とお見受けいたす!」
見れば、髭を蓄えた壮年の武士が(恐らく浪人)一人、刀に手をかけたまま叫んでいる。
今夜は月が綺麗で‥‥葉隠の目になら、容易にその特徴も掴めた。
「‥‥如何にも。百面衆と知っての狼藉とあれば、そちらは何者か」
「知れたこと。お前たちの依頼主‥‥いや、元・依頼主よ。たった一人になってしまっては百面衆と言えど任務の遂行は困難! よってお命頂戴仕り、後顧の憂いを断つ!」
葉隠は最初、あまりに直球なこの武士の言葉を素直には受け入れられなかった。
それはそうだろう、殺そうと思っている相手に『お前を殺す』などとぬかすのは、よほど自信があるかよほど馬鹿かのどちらかでしかない。恐らく後者であろうが。
「出あえ出あえ! 任務に失敗した忍者など生かしておく価値はない!」
と、武士の声で現れたのは、8人ほどの冒険者風体の者たち。
パッと見でわかるが、前回散々蹴散らした雑魚とはわけが違う。
「‥‥ならばこちらも遠慮は要らんな。各自、迎撃に当たれ!」
『!?』
葉隠の言葉が終ると同時に、境内のあちこちから仲間が姿を現す!
「あーあ、肩が凝ったぜ。やっぱじっと蹲ってるのは性に合わねぇな!」
「あらあら‥‥お年の割りにおつむの足りないお武家様だこと。乙女にモテなくてよ?」
「聞けば聞くほど醜悪な。人生の上では先達とお見受けするが‥‥その性根、同じ武士として許しがたい」
「自分に都合が悪くなったら問答無用でポイですか‥‥。そのような非道、騎士の立場からも見逃すわけには参りません」
バーク・ダンロック(ea7871)、昏倒勇花(ea9275)、蒼眞龍之介(ea7029)、セイロム・デイバック(ea5564)。
京都に知れ渡る屈強な4人の戦士の登場である。
「な、なんと!? さては貴様、百面衆ではないな!?」
ゴゥンッ!
武士の言葉を肯定するように、あらぬ方向からファイヤーボムが飛んできて、武士たちを盛大に巻き込む。
「他のごろつきまがいはともかく、本当にそこの武士は小物じゃのぅ。いっそ使われていた百面衆が可哀想じゃ」
姿を現したのは三月天音(ea2144)‥‥読みと魔法による援護に定評のある志士。
「お、おのれ小童どもが! 者ども、かかれぃ!」
「そぉはさせませんねぇ!」
「さて、地味に静かに‥‥そして確実に行きましょうか」
さらに物陰から飛び出し、先制攻撃とばかりに拳を振るう二人の男女。
鳥爪撃の使い手にして、一行の華的存在の鳳刹那(ea0299)。
姿なきジプシー(自称シーフらしい)、無影走破ことヒューゴ・メリクリウス(eb3916)。
しかし、二人の乱入にも冒険者風体の連中は意外と動じなかった。
戦いなれているらしく、冷静に二人の攻撃を捌いていく!
「二人とも、突出しすぎるな! どうやら気を引き締めねばならない相手らしい」
「へへっ、蒼眞よ、久しぶりにまともにやりあえそうな連中だな!」
「正々堂々は勢いの盛んなさまという意味もありますからね。我々の勢い‥‥ご覧に入れましょう!」
「立場は違えど、俺も忍びだ‥‥忍びを侮辱するような言動は許しておけんのでな‥‥!」
「うふふ‥‥地獄のマッサージを味あわせて差し上げるためにも、負けられませんねぇ!」
「それもいいが、あの依頼人から黒幕のことを吐いてもらうのが第一じゃ。捕まえた後の警戒も忘れるでないぞ」
「了解しております。静かにスマートに、彼のプライドも盗んでしまいましょうか」
「おほほ、素手戦闘最強の乙女を甘く見ないで欲しいわね。さぁ、いらっしゃい!」
最後に何か引っかかる台詞(今更だが主に乙女云々)があったが、とりあえず置いておこう。
月光冴え渡る神社の境内で‥‥京都勾玉怪盗記の終焉が訪れようとしていた―――
●それぞれの事情
「くっ! こ、この方たち中々やりますねぇ!」
「ファイヤーボムで先制攻撃を受けていてもなおこの動きが出来るのなら大したものです」
言うまでもないが、一行は別に敵武士の雇った冒険者風体の連中をなめてかかったわけではない。
最初から全力全開でなぎ倒し、武士を締め上げて黒幕を吐かせようとしたくらいである。
が、連中の腕は想像していたものより格段に上だったのだ。
「かぁー、前衛と後衛をしっかり分けて編成してやがる! 内側にいる連中の魔法が厄介だぜ!」
「迂闊に近づくと石化させられちゃうものね‥‥さっきのは危なかったわ(汗)」
鳳、ヒューゴは格闘技術そのもので。バーク、昏倒は魔法によって遅れを取っている。
どうやら敵の老武士は、剣の腕はいま一つなるも、戦術・指揮においてはかなりの実力者らしい。
「敵ながら見事な布陣と言うべきか。天音君、意見を聞きたい」
「少々予想外じゃったが、想定内じゃな。今の京都は長州のどうこうやら何やらで混乱しておるからのぅ‥‥全国から仕官や褒章を目当てとした猛者がやってきていてもおかしくはないのじゃ」
「だからと言ってあんな得体の知れない武家の誘いにひょいひょい乗るのはいただけんな‥‥!」
「そうです! 冒険者としてのプライドはないのですか!?」
素手の昏倒と違い、刀を持っている上に龍牙(ソニックブーム)を使える蒼眞は、実力も相まって敵を圧倒している。
が、それは戦術と言う枠から見れば局地的なもので‥‥敵の連携であっさりと状況を五分くらいには持っていかれてしまう。
三月は、隠れて後包囲と言う作戦を取ったことをちょっと後悔していたりする。
蒼眞と同じ理由で、葉隠、セイロムも決定打が出せない。
ちょっと大技(セイロムで言うならスマッシュ)を出すと、受け流されたり避けられたりする!
「フンッ! 金になるならなんでもやる! それが冒険者ってモンだろォがァ!?」
「キミのような品性のない冒険者崩れが、冒険者そのものの評判を落としていると何故気が付かないんです?」
「おぬしらの言うような綺麗事は、ワシらのような貧乏武家には通用せん! 喰うにも困る、かと言って仕官先もない武士がこの京だけでどれだけいると思う!? 大金を目の前に積まれて断る道理がどこにある!? これも家族を食わすため‥‥安い正義面は胸くそ悪くなるだけよっ!」
「正しいことをしているとでも言うのか‥‥! 詰まる所盗人の親玉ではないか!」
「そうです! そんな汚いお金で食べるご飯が美味しいですか!?」
「金がなければ美味いも不味いもないと言うておるっ! 各員、魚鱗の陣形で強行突破! 包囲を抜けるぞ!」
「一点集中をかけるつもりか‥‥! 天音君、バーク殿、例のあれをやれるだろうか?」
「おうよ、任せなっ! でぁーーーーーっ!」
「了解じゃ。間合いから外れておるのじゃぞ!」
強行突破をかけようとした敵集団だったが、猛然と突っ込んだバークが高速オーラアルファー(専門)を発動。
それとタイミングを同じくし、バークの魔法発動と同時になるよう三月が高速ファイヤーボム(初級)を放っており、バークもろとも敵集団に直撃させたのである。
二つの魔法を同時に直撃させられ、さしもの強敵たちも大きく揺らぐ‥‥!
「凄い防御力の持ち主であるバークさんだからいいですけどぉ‥‥私はまっぴら御免ですねぇ(汗)」
「同感ね‥‥乙女の柔肌が焦げちゃうわ‥‥(溜息)」
「鉄壁の防壁のあだ名は伊達じゃねぇってな!」
こうなってしまっては、地力に勝るこちらの勝利は疑いようもない。
連中の不幸は唯一つ。
こちらに、数々の死闘を潜り抜けてきた歴戦の戦士が多かったこと―――
●名は
「知らん」
ふん縛られた老武士は、開口一番そう言った。
しかしそれは黒幕への義理立てではなく、本当に知らないだけだという。
「名も、どこの誰かも知らん。ただ、武士風体の女だったということは確かだがの」
「武士風体の‥‥女? むう‥‥私や闘気使いの彼の勘も当てにならないな‥‥」
「‥‥いや、そうとも限らんのじゃ。その女は何か妙なことを言ってなかったかのう?」
「妙なこと‥‥? ‥‥そういえば、やたら報酬を値切ってきた。取り分がどうとか」
「それってつまり、この人に勾玉泥棒を見繕えと言ってきたその女性も、誰かに頼まれたというわけですか?」
「うぅ‥‥何だかこんがらがりますねぇ。そうやって名を明かさずに下へ下へ命令を下していったら、大元の特定は難しいんじゃありませんかぁ?」
「難しいな。次に繋がるようなそぶりを見せれば、金だけ持ってドロンということも少ないだろうしな‥‥」
「あー、俺はそういう難しいこたぁパス。頭が痛くなるぜ」
「しかし、分からないでは困りますね。みなさんはその大元の名を知りたいのでしょう?」
「大体の見当はついているけれど、確証が欲しいというところかしらね‥‥。冷凍さんが凄いスピードで勾玉を何個も確保してるのが、どうしても腑に落ちないのよ‥‥(溜息)」
ここまでか。そう思ったときだ。
「冷凍って‥‥平良坂冷凍?」
降参した冒険者風体のうち、一人の女魔術師が不意に問うてきた。
「私、聞いちゃったのよ。その平良坂冷凍に雇われてる‥‥えぇっと、果樹王だっけ? あいつが飲み屋で言ってたの」
曰く、酔った勢いなのか、果樹王は妙に饒舌だったという。
何でも、『冷凍様も上手い事考えたもんだ。あれならばれるはずがない。最悪、とっ捕まるのは名も知らねぇ小物が何匹かだろ? これで勾玉は―――』この後すぐ、一緒にいた蛇盆とかいうやつが慌てて止めて会話を強制終了したらしい。
「‥‥決まりだな。証拠には足りえないが、我々にはこれで充分だ」
「‥‥敵はやはり、最初から俺たちの前に姿を現していたわけか」
「て、手の込んだことをしますね。随分お金かかるでしょうに‥‥この作戦‥‥」
「それだけの価値が天地八聖珠にある‥‥ということじゃろう。しかし、意外なところから情報が出てきたのう‥‥」
「世間は意外と狭いってことですかねぇ」
「盗む対象が情報の場合、関係者だけがそれを持ちうるわけではないということですか‥‥覚えておきましょう」
「地道な聞き込みみたいなのも侮れないってことよね‥‥やっぱり基本は大事だわ」
「つったってよ、これも巡り合わせがよかっただけだろ。何かが一歩間違えばこういう結果にはなってねぇんだ」
運命とはいつもそんなものである。
必死になったからと言って必ず結果が得られるわけでもない‥‥かと言って、努力もしないのは愚の骨頂。
兎に角、これで真の敵はやはり平良坂冷凍であることが判明した。
金に糸目をつけず、ある意味手段を選ばない冷凍。
未だ行方不明な勾玉はあと一つ‥‥天地八聖珠をめぐる戦いは、いよいよ大詰めを迎えようとしていた―――