●リプレイ本文
●探検隊、出発?
「ボ、ボ、ボク等は風穴探検隊♪」
『行くぞ進むぞどこまでもー♪』
「元気じゃのー。やっぱり若いというのはいいことだなぁ」
「まぁ、氷雨殿を『若い』と形容するのは微妙でござるが‥‥」
「あら、いいじゃない。仲良く打ち解けられるならそれに越したことはないわ」
丹波藩西北西部、件の風穴。
冷たい風を吐き出し続ける大きな入口へ、一行はしっかり準備を整えて侵入した。
想像以上に滑りやすい地面もなんのその、月詠葵(ea0020)と水牙龍・氷雨はすでに仲良くなって歌など歌っていた。
それを眺めつつ、八幡伊佐治(ea2614)、七枷伏姫(eb0487)、ヴァージニア・レヴィン(ea2765)は、足元に注意を払いつつ、氷雨の左側を担当して歩いていく。
「正面右の方向、7m先の壁に、空間あり。しかし崩れて塞がっているものと思われます」
「またか? 先ほどからやたら脇道が多いな‥‥どこに繋がっているのやら」
「でも、今回は一本一本調べてはいられないね。何せ、メインの大きな道も進むのに一苦労なんだから」
ベアータ・レジーネス(eb1422)琥龍蒼羅(ea1442)サーシャ・クライン(ea5021)の3名は右側担当。
風穴はその大きな入口に比例し、内部もとにかくでかい。
灯りは月詠のペット、迦具土(エシュロン/鬼火)だけでも充分まかなえるが、すべる足元はどうにもならない。
しかも緩やかとはいえ斜めに傾斜していて苔だらけなので、迂闊に足を滑らせると闇の奥へ奥へと招かれてしまうだろう。
そんなこんなで、洞窟に入って一時間は経つが、一行の進行スピードは殆ど上がらないのである。
「しっかしまぁ、でかい図体のわりに子供っぽい声と思考だねぇ。酒を勧めるのが憚られちまうよ」
「た、楽しい方で‥‥よかった、ですね。氷雨さん‥‥えっと、氷雨クンの方が良い、でしょうか? ‥‥氷雨ちゃん?」
『好きに呼んでくれていいよー。楽しい人ばっかりだから、僕も嬉しいや♪』
御堂鼎(ea2454)の言うことは正確ではない。氷雨の声は、精神に直接語りかけてくる思念波の一種なので、子供っぽく聞こえようが氷雨は冒険者たちより遥かに年上なのである。
まぁ水葉さくら(ea5480)が言ったように、五行龍の中では親しみやすい正確なのも確かなのだが。
端々にロープを用いた目印をつけて進む一行‥‥だがある時、最前列に居た島津影虎(ea3210)が何かに気付いた。
「ご用心を。前方から何か近づいてきます。動きが速い‥‥飛んでいるのでしょうか」
「拙者も確認したでござる。目らしきものが光っているので、大コウモリあたりでござろう。数は‥‥3でござる」
「迦具土、なるべく動かないで照明の役目を続けてくださいなのです。やつらはボクたちでなんとかします!」
風穴に大コウモリとはまたベタな展開ではあるが‥‥問題がいくつか存在する。
それは後述するとして‥‥果たして、屈強な冒険者を前に、大コウモリごときがどこまで戦えるか―――
●すべる地面と氷雨の牙
「あ痛っ!? なんだいなんだいこの地面は! 全然踏ん張れないじゃないか!」
「ふむ‥‥これは中々に難儀ですね。後衛の方々、ご支援をお願いします」
「わっ、わかっちゃ、いるんだ、けどねっ‥‥!」
「詠唱の時間が取れません。ラージバットを引き離してください」
「わっ‥‥わっ‥‥! す、すいません‥‥そ、そんなに、機敏、には‥‥きゃあっ!?」
御堂、島津、サーシャ、ベアータ、水葉。
洞窟内のメインの道は、天井まで10メートル程もあり‥‥飛行しながら攻撃してくる大コウモリに対し、前衛に出て戦うタイプのメンバーが思うように動けないのである。
ただでさえ進むのに難儀する地面なのに、上方への敵に攻撃するには、どうしても踏ん張らなければならないからだ。
しかも回避や移動のためにちょっとスピードを出すと、すぐに転んでしまう。
「例えるなら空をかける一筋の流れ星、八幡伊佐治丹波に見参。ここは僕に任せろ」
「‥‥どうでもいいけど、なんでわざわざ仰向けに寝そべるの? 的になるわよ?」
「‥‥ふむ。予め、転ぶ危険を断っておくということか。上方への視界も広がるし、悪い手ではない」
「八幡殿、真面目な琥龍殿が勘違いしているでござるよ」
「ボク、見てたのです‥‥。伊佐治お兄ちゃん、いの一番に転んでたのですよ‥‥」
「ナズェミテタンディス!?」
八幡、ヴァージニア、七枷、琥龍、月詠。(最後のは八幡だが)
高速詠唱が使える八幡、ヴァージニア、琥龍の3人は、飛行する大コウモリ相手にも遜色なく戦える。
しかし、3人の術では軽傷が精一杯で、決め手に欠けるのが惜しい。
そして一番の難儀は、やはり氷雨の存在である。
彼を中心に円陣を組んでいる現状、ちょっと氷雨が身動きすると他のメンバーに軽くぶつかるのである。
動くに支障がないとはいえ、彼の体躯はやはり洞窟の中では大きすぎる。
『ねーねー、僕も手伝った方がいーい? 丁度いい時間だし』
「そうだな。氷雨の大きさなら大コウモリが飛行していようと関係ない。やってくれ」
「あ、あの‥‥丁度いい時間、というのは‥‥?」
琥龍が氷雨に応え、水葉が疑問を浮かべた瞬間‥‥氷雨は言った。
『いっただっきまーす♪』
ばくんっ!
大きな口を開け、その鋭い牙で大コウモリにかぶりつく。
大コウモリが氷雨だけは避けるようにして一行を攻撃していたので、得意のカウンターアタックにはならなかったが‥‥それでもなお、噛み付かれた大コウモリは即刻重傷である。
「なっ‥‥!? やめなよ氷雨、ばっちぃから吐き出しちゃったほうがいいよ!」
「ラージバットはたちの悪い伝染病を媒介することもあると聞きます。食べるのは如何なものかと」
『そぉ? 僕には病気なんて関係ないと思うんだけどなぁ。ま、いいや。みんなが持ってきてくれた野菜とかがあるし♪』
サーシャ、ベアータに言われ、素直に吐き出す氷雨。
噛み付かれたときに翼をやられたのか、その大コウモリはもう飛べないようであった。
「そうだ。氷雨、うちを頭に載せて大コウモリに近づけさせてもらえないかねぇ?」
『いいけど、危ないよ? 体勢保てる?』
「この地面よりマシさ! 御堂鼎と氷雨の大立ち回り、見せてやろうじゃないか!」
『おー! じゃ、気をつけてね!』
「行くよ! てぇぇぇぇぇぇ‥‥だっ!?」
がつん、と鈍い音がして、御堂が天井の鍾乳石に派手にぶつかる。
氷雨がすぐに気付き、自らの身体をクッション代わりにしたので落下によるダメージはなかったが。
「や、やっぱり練習もなしじゃ無理なのですね‥‥(汗)」←やろうと思ってた月詠
「こうなったら仕方ないわね。八幡さん、タイミングを見てホーリーライトをお願い。すぐに私が縛るから」
「ふっ‥‥いやだなぁ、ヴァージニア殿。縛るならあんなコウモリじゃなく、僕を縛っておくれ。君のその、情熱的な月の歌で‥‥魂さえも月光の下に晒させておくれ」
「ほぉ。なんなら拙者がこの木刀で魂を引きずり出してもいいでござるよ?」
「ごめん。光速でごめん。それでは真面目にいこうか!」
八幡に大コウモリが一匹接近してきたところで、光速ホーリーライトを発動。
光に一瞬怯んだところで、ヴァージニアがシャドウバインディングで拘束‥‥あとは月詠が止めを刺していた。
月詠の迦具土は意外とちょろちょろ動くので、影の指定が難しかったのだろうか。
「む? 大コウモリはもう一匹いたはずでござるが‥‥どこへ」
七枷が静かになった辺りを見回すと、琥龍、ベアータが一方を指差していた。
その先には‥‥。
「軽業と隠密行動は私の得意分野ですから」
実力を伴った苦労人、島津。気付いたら周りの後始末を任されている苦労性というのが、ここでも発揮されていた。
ふぅ、と息をついた島津の足元には、最後の大コウモリが転がっていたのだった―――
●今回はこの辺で?
「さて‥‥そろそろこの洞窟に潜って2日目かい? いい加減お天道様が恋しくなってきたねぇ」
「テントを張って、まるごとクマさんを着込んでいても冷えるとは‥‥奥に何があるのでしょうか」
「残念だけど、今回はこの辺で引き上げないとね。ちょっと外に出てロープの目印つけてくるよ」
「あ、サーシャお姉ちゃん、ボクもお手伝いしますですよ♪」
「まだ先は長いのか‥‥それともすぐに終点なのか。いずれにせよ、深き風穴です」
大コウモリとの一戦を終えた一行は、活動日数ギリギリまで風穴を進んだが、結局最奥にはたどり着けなかった。
それは滑らないように注意を払っていたからというのもあるし、ベアータのクレバスセンサーを頼りに落盤などの危険をなるべく避けながら進んだ結果でもある。
まぁあれ以降、モンスターと出くわさなかったのはよかったが。
「しかしこの風穴、まさに天然物じゃのー。ほれ、見事な鍾乳石だ」
「罠の類もなし‥‥誰かが手を入れた形跡もなしでござるな」
「わかってるのは、奥から冷たい風が吹きすさんでくることと、生物が殆どいないこと‥‥かしら」
「‥‥よし、これで最後だ。撤収するぞ」
琥龍がテントを仕舞い終え、一行は来た道を戻ろうとする。
帰りは登りなので、違った意味で大変かもしれない。
「‥‥っきゃあ!?」
言った傍から、水葉が滑って転ぶ。
御堂に手を貸してもらって立ち上がった水葉だったが‥‥一瞬、何かの違和感を感じたような気がした。
『んー? どうかした? そろそろ行くよー?』
しばし立ち止まったままの水葉に気付き、氷雨が問いかける。
「あ、は、はい‥‥。な、なんでも‥‥ないです‥‥氷雨、ちゃん」
それは、本当に些細な違和感。
滑ったときに剥がしてしまった、『苔の層』。
苔が層状になる状況というのは‥‥いったい、どういう場合なのであろうか―――