●リプレイ本文
●パッと行く?
「先に進む前に一つ言っておく! 僕ぁ氷雨の背中に乗ることを体験した‥‥。い、いや、体験したというより全く理解を超えていたんだが‥‥起こった事をありのままに話すぞ!」
「『ボクたちは洞窟に入ったと思ったら前来た所まで着いていた』。な、何を言っているか分からないと思うのですが、ボクたちにも何が起こったのかわからなかったのです‥‥。頭がどうにかなりそうだったのですよ‥‥」
「行楽気分とか楽できたとかそんなチャチなもんじゃあ断じてないさね。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったねぇ‥‥」
「だから事前に言ったでござろう‥‥氷雨殿に乗せてもらうのは不安があると‥‥」
丹波藩某所、件の洞窟内。
一行は以前に二日かけて調査した地点まで、氷雨の背に乗ることで一気に移動した。
が、実際は八幡伊佐治(ea2614)、月詠葵(ea0020)、御堂鼎(ea2454)、七枷伏姫(eb0487)が言うように、世の中そんなに甘いものではなく‥‥殆どのメンバーがそれなりのダメージを受けた。
『ごめんねー? 僕はあんまり痛くなかったから、どんどん進んじゃったー』
この洞窟は、ずっと真っ直ぐと言うわけではない。
氷雨は多少ぶつかろうとお構いなしで、身体が滑るままただただ進んだのだ。
背中に乗っていた一行は、慣性の法則で壁に打ち付けられたり地面と擦られたりと散々な目に遭ったが、八幡が治療したので調査に支障はないだろう。
「で、でも‥‥氷雨ちゃんの、おかげで‥‥本当に、あっという間‥‥でしたよ?」
「もうちょっと私たちの心配もして欲しかったのだけれど‥‥」
「伊佐治の魔法で治療は出来るんだ。また2日もかけて進むよりは遥かに合理的だろう」
水葉さくら(ea5480)、ヴァージニア・レヴィン(ea2765)、琥龍蒼羅(ea1442)。
一行は前回戻る時、ロープを通せんぼするように張ったところを最終地点の目印としていた。
月詠の迦具土(鬼火)ともう一匹、とある人物が連れてきた毘羯羅(燐光)がいるため洞窟内は明るく、氷雨も簡単にブレーキをかけることが出来たわけだ。
「でも、あんなにスピードが出てたのによく止まれたね?」
「だよね。僕なんて、このまま一番奥まで行っちゃうんじゃないかと思ってたよ(汗)」
『水の中に住んでる僕にとっては、苔とか濡れた岩は庭みたいなもんだからね〜。お茶の子さいさいだい♪』
サーシャ・クライン(ea5021)と草薙北斗(ea5414)、氷雨。
流石は水棲生物と言うか何と言うか‥‥。
ともあれ、一行はここから再スタートし、最奥を目指すわけだ。
「で、だ。ほれ、治療するから壁に『だいいんぐめっせーじ』なんぞ書いてないでこっちに来てくれ」
「しすたあ‥‥つまり、死星‥‥。死の星といえば‥‥華国の死を司る神、北斗七星が神格化した北斗聖君‥‥。天空に連なる七つの星のもと‥‥悲劇は‥‥繰り返されるの‥‥だ。がくっ」
「まだ余裕があるでござるな。トドメ刺さんといかんでござる」
「うにゅ‥‥『西川』って誰なのですか?」
いじけるように転がって遊んでいるのは楠木麻(ea8087)。
何故か洞窟の壁に自分の血で『西川』等と書いている。
自然を汚すと非常に迷惑なので、是非止めて頂きたい(笑)。
「参加した途端にこんな目に遭うんですからねぇ。きっと神様はボクが嫌いなんですよ! そうに決まってます!」
「違うね。きっと神様は麻のこと大好きだよ」
「そうだね。僕も好きだと思うよ?」
「そ、そうですよ‥‥嫌われてるわけ、ない‥‥です」
「そうそう、自信持ちなよ。嫌われてない嫌われてない」
「そ、そうですかぁ‥‥?」
御堂、草薙、水葉、サーシャに慰められて、ちょっと照れる楠木。
しかし、琥龍はドストレートだった。
「無論だ。麻は弄ると楽しいからな」
「うがー! ボクはいつまで水没地蔵(笑)なんですかー!」
「あらあら‥‥話が進まないわね」
最早何がなにやら。
結局、見かねたヴァージニアが得意の歌で場を鎮め、ようやく一行は進み始めたのであった―――
●突き当たり
そこから進むこと約一日。
依然として地面は濡れていて滑りやすく、苔もたくさん生えている。
しかし妖怪はおろか大コウモリと出会うこともなく、足場にさえ気をつければ進行は楽であった。
相変わらず脇道が多く、途中落盤して道が塞がりかけている箇所があったりはしたが‥‥。
「んー! やっぱりきちんと交代で見張りをすると安心して寝られるのです♪」
「随分進んだけれど、まだ奥に着かないのかしら? 道中を急いだから、多少余裕があるけれどね」
月詠が伸びをする。
ヴァージニアも優雅に微笑んで、先の闇を見つめていた。
その時である。
「しばらく! 止まって欲しいでござるよ」
一行の中でも一番目のいい七枷が、奥に何かを発見する。
光のない洞窟の中で、キラキラと何かが輝いている‥‥?
「しっかし寒いねぇ。風も止む気配がないし、どこから吹きすさんでるのやら」
「この程度の寒さ、うちフロストウルフの吹雪に比べたらどうってことないよ。何度吐かれたことか‥‥」
「サ、サーシャさん‥‥苦労なさるんです‥‥ね」
「あれ? 風が止んだ‥‥っていうか、何あれ!?」
大通り‥‥というかメインの道の突き当たり。
草薙の言葉で確認するまでもなく、前を見た一行の前に立ちはだかったのは、巨大な氷壁であった。
天井までびっしりと隙間なく、氷が鏡のように張っている‥‥といえば分かりやすいだろうか?
ちなみに、風が止んだと思ったのは、風の発生源であった脇道を通り過ぎたから。
しかも下り坂が終わり、道が平坦になっているというのは、まさに終点を思わせるシチュエーションであった。
「ふむ‥‥なるほど。この巨大な氷の壁が冷気の発生源で、左右にある脇道から吹き上げる風が外まで吹き抜けるわけだな。丁度氷室のようになっているから氷も溶けないわけか‥‥得心した」
「というかこれ、普通の氷じゃありませんよ。アイスコフィンの魔法で張ったっぽいです」
「それは変じゃないかなぁ。あの魔法は確か、対象物とほぼ同じ規模の氷しか作れんのじゃなかったか? これだけ大きい洞窟の行く手を丸々塞ぐというのは簡単じゃないぞ」
『んー‥‥多分ね、アイスコフィンを積み上げるようにしてどんどん重ねてったんじゃないかなぁ。核には水か何かを使ってさ。随分厚いみたいだし、簡単には壊せないと思うよ?』
琥龍、楠木、八幡、氷雨が言うように、氷壁はちょっとやそっとでは壊れそうにない。
誰が、何のためにこんな大掛かりな氷壁を作ったのか? この奥には何があるのか?
現状では分かろうはずもなかった。
「あん? なんだろうねぇ、今のは‥‥」
「御堂殿も見たでござるか? 奥に何かが映ったような‥‥」
照明代わりのペットたちがちょろちょろ動くので、氷は常にキラキラ反射している。
が、御堂と七枷には、氷の中‥‥もしくはその奥に、自分たちではない何かが映ったような気がしたのだ。
と、その時である。
「はぅぅっ‥‥な、何‥‥ですか、これ‥‥!? し、白くて‥‥ねばねばしてて‥‥熱いんです、けど‥‥!」
「なんとなーく卑猥だなぁ。っと、そんな場合じゃないか! 一体何事だ!?」
「くっ、不意打ち!? なんなのですか、こいつらは‥‥!」
「スライム系のモンスター!? まずい、麻、すぐにそいつを引き剥がして! 溶かされるよ!」
「ぎゃぁぁぁ、冗談じゃありません! せっかくの死星の格好が!」
「服より命の心配をしな! ったく!」
水葉と楠木が、突然天井から降ってきたゼリー状の妖怪に纏わり付かれたのである。
月詠も不意打ちを受けそうになったが、ふっとよぎった嫌な予感を頼りに緊急回避し、事なきを得ていた。
八幡と御堂が二人に纏わり付くスライム系の妖怪を排除に当たろうとするが、草薙がそれを止める。
「待って! 確かこいつ、『白溶裔』とかいう妖怪だよ! 金属も溶かしちゃうから、武器での攻撃は駄目だと思う!」
「ふん、なら魔法で引き剥がしてやればいいわけだろう。幸い素早く動くわけでなし」
琥龍がウインドスラッシュを発動し、楠木に取り付いた白溶裔に直撃させる。
まぁ、当然‥‥。
「あだだだだっ!? ちょ、ちょっとぉぉぉぉぉ!?」
纏わり付かれている本人である楠木も吹っ飛び、地面を擦る。
おかげで白溶裔は引き剥がせたが。
「さくらは安全に外してあげないとね。有効範囲ギリギリに目測をつけて‥‥トルネード!」
「ボクはどうでもいいと!? 手荒でもいいと!? わーん、グレてやるー!」
断っておくが、傾斜がなくなっただけで相変わらず地面は苔だらけだし濡れており、体勢は保ちづらい。
琥龍は元からだが、サーシャと水葉が高速詠唱を覚えたのは充分に有用なのである。
「愚痴は後で聞くでござる! まずはこいつらを何とかするでござるよ!」
結局、空中にぷかぷか浮きながら一同を捕食しようとしている白溶裔は4匹に増えていた。
御堂の鎖分銅をはじめ、迂闊に使うと武器が破壊されてしまいそうなので、前衛組みは手を出すのをためらってしまう。
『動きはそんなに速くないね。これ、美味しいかなー?』
と、氷雨が白溶裔の一匹をばくんと飲み込んだが‥‥。
『熱ちちち!? うわーん、口の中がひりひりするー!』
「氷雨さん、人の話を聞いてなかったの? あんなの食べたら、中から溶かされちゃうわよ」
『うー! 嫌いだ、この白いのー!』
「でかい図体で暴れるんじゃないよ! うちらと生き埋めになりたいのかい!?」
『あー‥‥うー‥‥』
ヴァージニアの言葉を受けて氷雨が怒りに任せてじたばた(?)したのを、御堂が一喝。
とはいえ、氷雨が大人しくなったからと言って状況は好転しない。
「サーシャさん、提案なんだけど‥‥」
「うん? どうしたのさ、北斗」
「一応一番奥まで来たんだから、ここは引くべきだと思うんだ。一匹二匹ならともかく、あいつらまだまだ増えてるし」
見れば、天井の裂け目から新たな白溶裔が降ってきて、その数を6匹にまで増やしている。
確かに、何の策も無しでこれ以上こいつらと戦うのはジリ貧かも知れない。
「で、でも‥‥この足場で、に、逃げられるでしょうか‥‥?」
「そんな時は! 迦具土、時間を稼いでくださいなのです!」
「なるほど! 毘羯羅もお願いします!」
月詠のエシュロンと楠木のメイフェが白溶裔を撹乱し、引きつけてくれている。
今のうちならば‥‥!
「あのペット二匹が後方にいたら前方への明かりがないが‥‥どうするつもりだ?」
「この提灯を氷雨に持ってもらおう。提灯蛟かわいいよ提灯蛟」
『登るならあちこちぶつけたりしないよね。野菜のお礼もしなきゃいけないし、みんな、速く乗って!』
まぁ、登る時は登る時で苦労したのだが‥‥それはとりあえず置いておこう。
かくして、謎の風穴の最奥に巨大なアイスコフィンの氷壁を発見した一行。
面倒な妖怪に急襲され、撤退を余儀なくされはしたものの、依頼は成功である。
しかし、これで全てが終わったわけではない。
氷壁の奥を調査するために再び依頼が出されるのは、すぐ後のことであった―――