【勾玉最終章】動き出した陰謀
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■シリーズシナリオ
担当:西川一純
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 4 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月21日〜01月26日
リプレイ公開日:2007年01月28日
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●オープニング
世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――
「り‥‥りょうほーですかぁぁぁ〜〜〜」
「‥‥どんな寝言だ?」
「っていうか度胸あるわね〜。勤務中に堂々と居眠り?」
ある日の京都冒険者ギルド。
職員であり、友人でもある西山一海を訪ねた藁木屋錬術とアルトノワール・ブランシュタッドは、自分の担当スペースの机で寝ている一海を発見。
わけのわからない寝言も引っかかるが、まぁそれは置いておいて。
「一海君、起きたまえ。依頼を頼みたいのだが」
「おーい。怒られるわよー?」
「うぅ‥‥もしかしてグラグラ(グラビティーキャノンの連射のことらしい)ですかーッ!?」
『何の話だ』
とりあえず藁木屋とアルト、二人で同時に拳を叩き込んで目を覚まさせた―――
「す、すいません。ちょっと徹夜しちゃって、思わずウトウトと‥‥」
「何々?『あっ‥‥だ、駄目です(ピー)さん。こんなの、ボク‥‥』『その駄目はどっちの駄目かのー? 嫌がりの駄目か‥‥やめちゃ駄目の駄目か‥‥(ピー)殿は素直じゃないからなぁ』『し、知りません! 意地悪、なんですから‥‥(涙目)』わぉ、過激〜♪」
「音読しないでくれたまえ。というか、なんだそのピーさんピー殿というのは」
「自主規制♪」
「するくらいなら読まないように(汗)。そんなことより依頼だ。仕事の話をしよう」
「そ、そうしましょう(汗)。で、今日はどのようなご依頼で?」
アルトはまだ面白がって一海作の話を読んでいるようだが、藁木屋と一海は真剣な話を開始する。
「実はだな‥‥私たちの家に、平良坂殿から手紙が来た。これだ」
平良坂冷凍。
天地八聖珠と呼ばれる勾玉をめぐり、藁木屋たちと鎬を削ってきた、丹波の大商人である。
表立って攻撃を仕掛けてくるわけではない上に、社会的な地位があるので非常に厄介な相手である。
「拝見します。えーっと‥‥『ほっほっほ‥‥お久しぶりです、情報屋のお二人様。ついに最後の勾玉の在処を突き止めましたのでご報告までに。場所を描いた地図を同封しますので、是非冒険者の皆様方とご一緒にいらしてください』‥‥なんで手紙に笑いを入れるんですかね?」
「ツッコむべきはそこではないだろう。問題はその後だ」
「え‥‥?『なお、ご来訪の際はあなた方の持つ勾玉をお忘れなく。いらっしゃらなくとも構いませんが、その時は柄這志摩さんの身の安全は保障しかねますので、悪しからず』って、えぇ!? これじゃ脅迫ですよ‥‥っていうか、志摩さん捕まってるんですか!?」
「4〜5日前から行方知れずになっていたんだが‥‥彼女はほら、幽霊だろう? 体調が戻った辺りから、今までも一週間帰ってこないことがざらにあったからな‥‥特に深く考えていなかったのだよ」
「‥‥誰のせいですかね、バカップル」
「し、知らん。それに、気を利かせるにしても一週間もいなくなることはあるまい。彼女なりに自由を満喫しているのだろうと思っていたのだ!」
「まぁそうでしょうけどね。しかし、なんでこんなことを‥‥。冷凍さんにしては直接的すぎますね」
「だから余計不気味なのだ。わざわざ志摩殿を人質に取ってまで、私たちを呼ぶ理由はなんなのか。最後の勾玉を手に入れた直後、やってきた私たちから勾玉を奪う自信があるのか‥‥それとも‥‥」
「ちなみに、誘拐ってことで新撰組とかに相談できませんか?」
「嫌な言い方だが、『同居している幽霊を誘拐されました。手を貸してください』等と言えるかね?」
「うぐ。鼻で笑われるか、妖怪を飼っているのかと危険視されるのがオチですね‥‥」
「そういうことだ。鬼が出るか邪が出るか‥‥行って見ねばわからん。冒険者の方々とよく相談して決めたいと思う」
「わかりました。では依頼書には、誘拐された人質の奪還とでもしておきましょう」
「頼む。では帰るぞ、アルト」
「‥‥‥‥」
へんじがない。ただのどくしょちゅうのようだ。
「なんだ、まだ読んでいたのか」
「んー、今読んでるのはさっきのとは別ー」
「‥‥君も暇だな、一海君」
「立派な副業です」
「本業に支障をきたす副業はやめておいたほうがいいと思うがね‥‥(滝汗)」
とにかく、再び動き出した勾玉騒動。
しかも最後の勾玉とあり、なにやら大きな事件となりそうな気配である。
果たして、八つ揃えれば願いが叶うという天地八聖珠の顛末や如何に―――
●リプレイ本文
●過酷なる運命
「ちぃっ! おいおい、このままずっと避けてろってのか!? 俺はともかく、他の連中は保たねぇんじゃねーの!?」
「つぅっ!? し、シールドをすり抜けられてしまいますので、私のようなタイプはダメージをもらう一方です!」
「志摩さん! あたしよ、覚えていないの!? 二度もあなたを殺したくないのよ‥‥!」
丹波藩某所、雪の積もった森。
遺跡らしきものは何も残っていないが、遥か昔は何らかの儀式が執り行われていた場所らしい。
その遺跡跡‥‥少しばかり開けた地点で、彼らは戦っていた。
回避の達者なクロウ・ブラックフェザー(ea2562)はともかく、相手の攻撃を防ぐ・受け流すことでしか対処できないセイロム・デイバック(ea5564)や昏倒勇花(ea9275)は、正直分の悪い相手。
「まさか救出対象に攻撃を受けるとは思いませんでした。迎撃の許可は?」
「そういうわけにはいかんじゃろ! 元を断てばいいはずだ!」
「それはそうだけど幡苺。あの防備をかいくぐって冷凍さんを攻撃するのは無理だよ」
「はたいちご‥‥? 格好と一緒で面妖な方ですね、あなたは」
そう‥‥ベアータ・レジーネス(eb1422)が言うとおり、一行が今戦っているのは柄這志摩。
幽霊であり、本来彼女を助けに来たはずなのだが‥‥事態は一行が思っていたより遥かに切迫していたのである。
八幡伊佐治(ea2614)の叫びも、楠木麻(ea8087)のボケも、山王牙(ea1774)の天然ツッコミも、ただ虚しく響く。
何故こんなことになったのか‥‥少し時を戻してみよう―――
●その手段
「ほっほっほ‥‥ようこそいらっしゃいました。歓迎いたしますよ‥‥みなさん」
「冷凍殿‥‥それに部下の方々も勢ぞろいですか。まさに大歓迎ですな‥‥!」
送られてきた地図を頼りにして、一行がたどり着いた森の中の空間。
特に祭壇などが残っているわけでもなく、ただの開けた場所にしか見えないところに彼らはいた。
平良坂冷凍を筆頭に、ビーフ特選隊の5人、果樹王、蛇盆、辺時板、弓囲などなど‥‥全員集合である。
「この手紙の真意は如何に! 志摩殿を返していただきましょう!」
「ほっほっほ‥‥真意も何も、文面に書いたとおりですよ。最後の勾玉がここに埋まっていると判明しましたので、掘り出すところをご覧いただこうかと」
藁木屋にとっては同居人を拉致されたも同然‥‥見過ごすわけにはいかない。
「人質とって言う事聞かせようなんて、気にく食わねえなあ。その人質が幽霊だとしてもだ。願いの叶う勾玉なんて、胡散臭い物の為にこんな真似をした事、後悔させてやろうじゃないか」
「おや‥‥これまた頼もしそうな方々が揃いましたね。しかし、天龍さんが御不在とは、都合がいいと申しましょうか、残念と申しましょうか‥‥」
「その含み笑いが凄く引っかかるんだけれども‥‥そんなことより、どうやって志摩さんを捕まえたのか知りたいわ。ついでに、あの木に拘束している方法も」
クロウの言葉をさらりと流し、話を進める冷凍。
昏倒がちらりと見た先には、太い木に埋め込まれるようにしてぐったりしている(?)志摩の姿が。
幽霊の特徴を活かせば、志摩は生半可な方法では捕まったりしないし、拘束などされようはずもないのに。
「‥‥特に魔法や呪術の類は感じませんが。どういうカラクリなのでしょうか」
「ほっほっほ‥‥ではお答えしましょう、ベアータさん。みなさんは志摩さんが体調不良を起こしたことはご存知ですか?」
「ええ、伺ったことがあります。幽霊さんなのに変だな、と思いましたが‥‥」
「ふふふ‥‥そうでしょうねぇセイロムさん。それが正しい反応です。ですが、そもそも志摩さんのように、幽霊になってまで生前の自我をしっかり保ち、行動できる方というのは珍しいのですよ。流石は元堕天狗党員‥‥転生戦士の一人というところでしょうか。そこで私は思いました‥‥『志摩さんを操ることが出来れば、重要な場面でよい切り札になる』とね」
「僕ぁ坊主だが、そんなことができる人間なんて聞いた事がないぞ。神聖魔法でだってそんなこたぁできん」
「‥‥ではどういう理屈なら考えられますか、八幡さん」
「わかったよ。きっと薔薇神秘を―――」
『黙っとけ!』
「そ、そんな、敵味方17人揃ってツッコまなくてもいいじゃないですかぁ!?」
「気を取り直して‥‥山王殿の質問に答えると、さっぱりわからん。そんな手段はないと断言する」
しかし、現に志摩は捕まり、捕えられている。
一行+藁木屋の反応に満足したのか、冷凍が不意に右手を上げた。
「では、お見せしましょう‥‥こうやるのですよ」
その手が振り下ろされたと同時に、木に埋まっていた志摩が一行に襲い掛かってきた‥‥!
「なっ‥‥志摩殿!? お気を確かに!」
『うぁぁぁぁぁっ!』
「ほっほっほ‥‥! 前座として楽しませてください‥‥仲間同士の殺し合いをね! ほっほっほ‥‥!」
襲い来る志摩‥‥それは彼女の意思ではなく、冷凍による強制。
悲しい運命の予感を孕みつつ‥‥戦いの火蓋が落とされた―――
●散
「私には不死者を使役できる能力がありましてね‥‥それをどのくらいの距離から仕掛けられるか、どの距離までなら安定するかを試していたのが、志摩さんが体調を崩していた時期なのですよ。勿論、そういう能力があるということを悟られないよう、本格的な支配は避けましたけれどね」
「で、ではまさか、山中遺跡で大量の不死者と遭遇したのは‥‥!」
「そうです。私の差し金です。本当は疲弊させるために呼んだのですが、ほんの足止めにしかなりませんでしたねぇ」
一行が志摩と戦っている最中も、冷凍は面白くて仕方がないとばかりに解説を続ける。
アンデッドを使役できる人間‥‥にわかには信じがたいことではあるが‥‥!
「うわっつ!? ちょっ、本気でグラビティーキャノンで反撃していいですか!?」
「す、すまない楠木嬢、できれば耐えてくれ! 志摩殿は話せばわかる方なのだ!」
「そんなこと言われたって、藁木屋さんー!?」
「ほっほっほ‥‥いいですねぇ。そうやって甘いことを言いながら傷つき、死んでいってください。まぁ志摩さんを滅して生き残るのもまた一興ですけどね。さぞ後味が悪いことでしょう‥‥ほっほっほ‥‥!」
「‥‥私は正義という言葉は幻想だと思っています。しかし、貴様は許しておけない‥‥絶対に‥‥!」
志摩は楠木にも容赦なく攻撃を仕掛けている。
山王が冷凍を睨んで言うも、さらりと流す冷凍。
どうする。このままでは座して死を待つだけだ。
しかし、藁木屋には判断がつかない‥‥そんな時!
『‥‥ぐっ‥‥な、何を、やってるんだい‥‥! さっさと‥‥アタシを‥‥倒しな‥‥!』
なんと、志摩が急に停止し、苦しそうにしながら一行に語りかけている‥‥!
「し、しかしじゃのー、志摩殿。僕は新参者だからともかく、藁木屋殿や昏倒殿には辛いことだと思うんだが!」
「そ、そうよっ! 志摩さん、ようやく静かに暮らせていたのに‥‥私たちは、もうあなたと戦う意味なんてないわっ!」
『‥‥ば、馬鹿を‥‥お言いでないよ‥‥! こ、こで、アタシに殺され、るなんて‥‥アタシが‥‥許さないからね‥‥!』
「これは凄い‥‥自我があるとはいえ、抵抗までできるとは。少々志摩さんを侮っていましたかねぇ」
『速く! な、長くは保たない‥‥アタシを、救いたいと、思うなら‥‥殺るんだぁぁぁっ!』
「ちくしょう‥‥ちくしょう! 藁木屋殿、俺はやるからな! 志摩殿の決意を無下にできるかよっ!」
「志摩さん。私は、あなたのことはよく存じませんが‥‥その心意気、尊敬に値します」
八幡も、昏倒も‥‥クロウやベアータだって、本当は志摩を消したくはない。
しかし‥‥今は進もう。友の死を乗り越えて‥‥!
「‥‥志摩殿‥‥今まで、楽しゅうございました‥‥!」
『あぁ‥‥アタシもさ。あんなに穏やかな時間は、初めてだったよ‥‥!』
「‥‥御免!」
その気になってしまえば、一瞬。
この8人にかかれば、幽霊程度は障害にならない。
しかし、何故だろう。
どんな相手を倒すより‥‥心が、痛い―――
●野望の発現
「ほっほっほ‥‥大変楽しい余興でした。では、そろそろ本題に入りましょうか」
その楽しげな冷凍の声に、一行の殺意が更に増す。
何がそんなに面白い? なんのために志摩をけしかけた?
いくら叫んでも叫び足りないくらい‥‥志摩を殺させられた傷は、深い。
「この期に及んで、俺たちが黙って勾玉掘りなんて眺めてると思うなよ! 野郎‥‥絶対許さねえ!」
「えぇえぇ、構いませんよ。別に掘り返すまでもありませんから」
そう言うと、冷凍はごそごそと何かを取り出した。
赤い勾玉が一つ、白い勾玉が二つ、黒の勾玉が一つ。
つまりは、冷凍が所持している勾玉全部である。
「そして‥‥もう一つ」
つい、と追加したのは青い勾玉。
透き通るような青に、地の文字‥‥!
「馬鹿な!? それは例の名家で現在も保管してあるはず‥‥!」
「あぁ、聞かれたらそういう風に答えて下さいといい含めておきましたからね。少々お金を積みましたら、しぶしぶながらも譲ってくださいましたよ。真の力を知らない人間には、綺麗なだけで腹の足しにもならないガラクタですからねぇ」
「ど、どこまでも汚い‥‥! 流石のボクもイライラしてきましたよ!?」
「真の力‥‥? 例の願いを叶えるとかいうやつかのー」
「はい。では‥‥御覧に入れましょうか。折角そちらもお持ちいただいたわけですからねぇ!」
『!?』
「砕けよ、封じる楔! 古代の怨霊を呼び覚ませ! 我が願い‥‥破壊の力で叶えたまえぇぇぇっ!」
冷凍が勾玉を掲げ、高らかに叫ぶ。
すると、冷凍の持っていた勾玉は勿論、藁木屋が所持していた勾玉も、彼の懐を飛び出して宙に浮かぶ!
更に地面から白い勾玉が飛び出し、二つずつ四方に散って陰陽の印を形成する‥‥!
「凄い魔力ですね‥‥!」
「い、嫌な予感が現実になっちゃったわね‥‥天龍さんが来られなくなっちゃったから、勾玉の件はうやむやにしちゃったのは失敗だったかしら‥‥!」
ベアータや昏倒の言葉をきっぱり無視し、『それ』は現れた。
木々をなぎ倒し、巨大な白骨の右手が地面から出現する‥‥!
「な、なんですかあれは!? これが‥‥巨大な怨霊!?」
「‥‥が‥‥がしゃ髑髏だ‥‥! し、しかし、鎧兜で武装したがしゃ髑髏なんて聞いた事がないぞ!?」
セイロムや八幡がうろたえるのは無理もない。
地面から姿を現したのは、全長18メートルはあろうかという巨大な白骨の侍‥‥とでもいうのだろうか。
「ほっほっほ‥‥素晴らしい! これこそ私が求めていた力! お金も手間隙もかけた甲斐があったというものですよ! この『骸甲巨兵』で、まずは丹波を手中に収めるとしましょうかねぇ!」
骸甲巨兵は復活させた人間に従うらしく、素直に冷凍に従っている。
この化物に加え、ビーフ特選隊やら果樹王たちやらまでいられては、どう考えても分が悪い。
「くっ‥‥志摩殿を犠牲にした上でこれでは、顔向けができん‥‥!」
「ほっほっほ‥‥逃げたければどうぞ御自由に。私は今、とても機嫌がいいですからね!」
何から何まで計算づくだったのか‥‥冷凍の野望は、今、本当の意味で動き出したのだ。
数多くの用心棒と、骸甲巨兵という巨大妖怪。
こうして、丹波藩に新たな災いが巻き起ころうとしていた―――
●試し
「あぁ‥‥そうだ。折角ですからこの力を試してみましょうか」
『!?』
一同がじりじりと後退していくのを見ていた冷凍は、ふとそんなことを呟いた。
巨大な怨霊侍が振り下ろす、巨大な刀‥‥標的は、山王!
「がっ‥‥はっ‥‥!?」
一撃‥‥一撃で瀕死。
巨体なので普通にスマッシュ効果でも乗るのか、凄まじい衝撃が山王を襲ったのだ!
「ぐ‥‥か、回復薬‥‥を、携帯しておいて‥‥正解、でしたか‥‥!」
「素晴らしい‥‥素晴らしい破壊力ですね。では、実験のお付き合い、ありがとうございました」
「完全におもちゃ扱いかよ‥‥! ふざけやがって‥‥!」
歯噛みするクロウではあったが、今はどうにも出来ない。
果たして、この怪物にどう打ち勝つ―――?