【勾玉最終章】巨大なる力

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 4 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月14日〜02月19日

リプレイ公開日:2007年02月19日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「そもさん!」
「説破」
「一つ! 結局、天地八聖珠で願いが叶うと言うのはデタラメだったんですか!?」
「例えば、私が一海君がどうしても欲しいものを持っていたとする。それを骸甲巨兵の力で無理矢理奪えるようにする、というのが主旨だったらしい。例の木簡にあった、悲しみがどうとか言うのはこれに繋がる」
 ある日の冒険者ギルド。
 職員の西山一海は、自分の担当スペースで、友人の藁木屋錬術と問答をしていた。
 丹波で蘇った新たな災厄‥‥即ち、骸甲巨兵の話題である。
「また無茶な‥‥。では二つ、そもそも骸甲巨兵とはなんぞや!?」
「武装したがしゃ髑髏‥‥というのがとりあえずの説だが、真偽は定かではない。この半月ばかり陰陽寮を調べてはみたものの、まったく手がかりが見つからなかった。おそらく、丹波藩が極秘に記録を抹消し、陰陽寮には情報提供しなかったのではないかと思われる」
「まぁ、あれもかなり昔の代物でしょうしねぇ(汗)。三つ! 今、骸甲巨兵はどうなってるんですか!? およそ六十尺(約18メートル)って、凄く目立つと思うんですけど!」
「丹波藩内にある、冷凍殿の本家の外に待機している。しっかり命令を守ってね」
「恐っ。近隣に家がない場所に建ってるとは聞いてましたが、お手伝いさんとか気が気じゃないのでは‥‥」
「かもしれん。勿論役人から何事かと苦情が来たが、前例を使って誤魔化しているらしい」
「まさか‥‥少年忍者さんの、ペットって言い張るあれですか?」
「そうだ。目の前で冷凍殿の命令に忠実に従うところを見せてやれば、勢いで突っかかることは不可能。第一、あれの矛先を自分たちに向けられてはたまらないと思うのが人情だ」
「た、確かに‥‥。では最後の四つ! 冷凍さんはこれから何をするつもりなんでしょう!?」
「それはもうすぐ分かる。そろそろアルトが帰ってくる頃だからな」
 と、藁木屋が呟いた直後、彼に抱きつく黒い影。
「たっだいま〜♪ やーん、錬術、寂しかった〜♪」
 アルトノワール・ブランシュタッド‥‥どうやら丹波藩からの調査から帰ってきたらしい。
「お帰り、アルト。で、冷凍殿の動きは?」
「それがねぇ‥‥近くの村から順々に、制圧にかかってるみたい」
「‥‥制圧だと?」
「『この村は平良坂冷凍様に逆らわない代わりに、骸甲巨兵で守っていただきます。また、年50Gの上納金を納めることをお約束いたします』みたいな内容の契約書を書かせてるの。もう5つの村がやられてるわ」
「そ、それって立派な占領っていうか‥‥ヤクザじゃないんですから」
「ヤクザにしては良心的な上納金よ〜。村単位で年に50Gでしょ? 私たちなら一ヶ月もあれば充分稼げる額だし」
「金はついでと言ったところか。まずは丹波を手中にというあの言葉は、嘘ではなかったわけだ‥‥」
「でも、それじゃ流石の丹波藩も黙っていられないでしょう? 反乱起されてる様なもんです」
「一海君‥‥自分で言っていただろう。『ヤクザみたいだ』と。ヤクザを藩が全力で潰しにかかるかね? それに、丹波の上層部は、外交問題でごたごたしている。骸甲巨兵を相手にするには八卦衆や八輝将が4人は欲しい‥‥そんな戦力は割けないと思うが」
「いっそ無差別破壊してくれれば重い腰を上げると思うけど‥‥そうじゃないのよねぇ。でね、近々6つ目の村の懐柔に冷凍が動くらしいから、迎撃するならそこだと思うの。屋敷に乗り込むのは得策じゃないでしょ?」
「そうだな‥‥志摩殿の仇を討つためにも、あの化物は放置しておけない。一海君、その方向で依頼書を頼む」
「いいですけど‥‥死なないでくださいね。面と向かって邪魔しに来たら、きっと冷凍さんは容赦しませんから‥‥」
「もっちろん。少なくとも、取り巻きくらいはつぶしとかないとね!」
 手にした巨大な力を振るい、丹波を内部から切り崩していこうとする平良坂冷凍。
 その野望は、まだ始まったばかり―――

●今回の参加者

 ea1774 山王 牙(37歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ea2144 三月 天音(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea2614 八幡 伊佐治(35歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea5564 セイロム・デイバック(33歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea6381 久方 歳三(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7029 蒼眞 龍之介(49歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea9150 神木 秋緒(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)

●リプレイ本文

●舌戦
「‥‥というわけだ。僕ぁ、こんな手法をとった時点で冷凍殿は詰んでると思うんだが‥‥どうだろうか」
「村人には安全なところに退避してもらっているのじゃ。骸甲巨兵を暴れさせるだけ損だと思うがのう」
 某月某日、丹波藩のとある村。
 人気の全くない村の広場で、冒険者一行と平良坂一行は対峙した。
 そして、八幡伊佐治(ea2614)、三月天音(ea2144)の話を聞き、冷凍はいつもの薄ら笑いで応えた。
「ほっほっほ‥‥そうですか。いや、まったく正論です。困りましたね‥‥これでは骸甲巨兵も張子の虎ですか」
 しかし、その直後。珍しく、冷凍がその笑いを止めた。
「それにしても気に入りませんね。随分頭のいい方が揃っているようですが‥‥冒険者などというものは何も考えず、依頼主の意向に沿っていればいいのです。小賢しい事を言うのは私たちの領分ですよ」
「‥‥賢くて何が悪いと言うのですか。あなたの野望、決して成就させはしません‥‥」
「依頼主の意向に沿うという意味なら、拙者たちは充分藁木屋殿の期待に応えているでござる」
「それに、手に入れた力を笠に着て好き放題するような下劣な男に言われる義理はないわね」
 山王牙(ea1774)、久方歳三(ea6381)、神木秋緒(ea9150)。
 ビーフ特選隊の一歩前で話している冷凍に浴びせられる、冒険者たちの言葉。
 それは正当性があり、良く練りこんであり‥‥迂闊に骸甲巨兵を使えば冷凍が不利になるのは必死。
 冒険者の知恵を甘く見た冷凍の分が悪いのは明らかである。
「まぁいいでしょう‥‥あなた方が逃がしてしまったので、村の方々との交渉も出来そうにありませんからね。ここにいるだけ時間の無駄‥‥私は帰ることにします」
「‥‥冷凍殿。あなたの行いは皆から聞いた。私はあなたを許すことは断じて出来ない。貴殿が同じ事をする限り我らは同じ様にそこへ行きそれを阻む。その度に必ず戦力を徐々に減らしていく。骸甲巨兵1機が強力であっても、必ず貴殿の戦力は削ってみせよう」
「必ず悪は討ち取ります‥‥。いつでも何度でも貴方達の前に立ちはだかり続けましょう、貴方達を討つまで」
 踵を返した冷凍の後姿に、蒼眞龍之介(ea7029)、セイロム・デイバック(ea5564)が声をかける。
 そして、振り返った冷凍の顔は‥‥憎悪に歪んでいた。
「いちいちカンに触るヤローどもだーーーッ!!! 今日はこのまま見逃してあげようと思っていましたが‥‥少し痛い目にあってもらいましょうか! ビーフ特選隊の皆さん!」
『ハッ!』
 その呼び声に応え、5人の男たちが前に歩み出て‥‥!
「ビーフ特選隊の黄色い衝撃‥‥シチュー!」
「ビーフ特選隊の青い旋風‥‥ストロガノフ!」
「ビーフ特選隊の緑の呪縛‥‥カリー!」
「ビーフ特選隊の赤い防壁‥‥ロースト!」
「そしてこの俺が、ビーフ特選隊の紫の首領‥‥ステーキ!」
「みん」
「な」
「そ」
「ろっ」
「て!」
『ビーフ特選隊ッ!』
 戦闘態勢を整え、全員でポーズを取る。
 骸甲巨兵は引っ込めておくのだろうが、ビーフ特選隊との戦いは避けられないであろう。
「まったく‥‥私に逆らうなど無駄なことだと言うのに」
「無駄という言葉は聞き飽きてますので。さて、私の魔力の尽きるのが先か、あなた方の心が折れるのか先か‥‥」
 普段温厚なベアータ・レジーネス(eb1422)の台詞。
 これが、冒険者たち一行の総意と思って構わないだろう。
「‥‥ブレスセンサーには反応あり‥‥。冷凍殿が黄泉人というのは思い過ごしでしょうか‥‥」
「山王殿、詮索は後にいたしましょう。今は彼らの相手が先のようです‥‥!」
 藁木屋の言葉の直後、冷凍が腕を振り下ろし‥‥戦闘の幕が切って落とされた―――!

●9対5
「ヒャハハハ! どぉだ、俺様のアグラベイションは! おらおら、かかってこいよー!」
「くっ‥‥さ、サイレンスを使う前に‥‥!」
「あぐっ‥‥そ、装備が‥‥ランスが重くて‥‥動けないっ‥‥!」
 魔法が得意というカリー。
 開幕直後に高速詠唱を用いてアグラベイションを発動、ベアータ、セイロム、久方、三月、山王を対象に取った。
 もっとも、三月と山王は抵抗したが。
「まずい! 八幡さん、グッドラックは諦めて! 連中の動きが速いわ!」
「わかってる! 付与魔法を使ってる時間はない!」
 そう、スピードに自信があるというストロガノフ以外の面々も思ったより速い。
 遅いのは、防具で身を固めているローストだけだ。
 神木と八幡の会話の間にも、ビーフ特選隊は肉薄してくる!
「三月さん、何故敵が密集している時にファイヤーボムを撃たなかったのでござるか!?」
「あの状況で撃てば冷凍も巻き込んだのじゃ。曲がりなりにも冒険者が商人を攻撃するわけにはいかんじゃろう‥‥!」
「確かに‥‥些細なことであろうと冷凍殿に口実を与えるのは得策ではないな‥‥!」
「‥‥くっ‥‥! シチューの攻撃も、鋭い‥‥!」
 久方、三月、蒼眞、山王の台詞の間もビーフ特選隊の猛攻は続いている。
 シチューの力任せの一撃を受け止めた山王だが、足にまでずっしりとくる衝撃に戦慄を覚えた。
 この5人‥‥連携があまりに取れている!
「でゃーははは! さーあ、どんどん卑怯な手を使うんだよー。でなきゃ面白くないからなー!」
「俺の速さはジャパン一だがな‥‥勝負はすぐには決めないぜ。ゆっくり遊んでやるぜぃ!」
「遊ぶといっても、なでなでしたり高い高いをするわけじゃないぞ! 痛めつけてやるということだ!」
「ロースト、説明せんでもいい! とにかく‥‥冷凍様に刃向かうものには死あるのみだ!」
 単に段位だけで言えば、山王や八幡のほうがビーフ特選隊よりかなり上だ。
 しかし、彼らは己の得意分野を極限まで高め、チームとしての連携を取ることでその差を埋めている。
 例えば‥‥。
「ケーケケケケー!! お前が俺のことを一番苦手としているのは知ってるぜぃ!」
「す、ストロガノフ‥‥! 皆さん、なんとか引き離して欲しいでござる!」
「私は無理‥‥! ステーキの相手で‥‥くっ、手一杯よ‥‥!」
「私が援護する! 龍牙!」
「ハッハッハ‥‥! この俺‥‥ビーフ特選隊の赤い防壁、ローストがさせないぜ!」
「おのれ‥‥守護の指輪か何かを大量に仕込んでおるな! ファイヤートラップが殆ど効いていないのじゃ!」
「わ、私も、ランスを放り出せばシールド防御くらいは‥‥!」
「おぉー、いいねいいねぇセイロムちゃぁん。でも防ぐだけじゃあ勝てないんだよぅ?」
「コアギュレイトなんて欲目は出せないかのー‥‥。ほれ、山王殿。治療完了‥‥がふっ!?」
「てめーら、俺も忘れるなよ! グラビティキャノンを喰らえぇーーーっ!」
「‥‥八幡さん‥‥! 地のウィザード‥‥侮れませんね‥‥!」
 乱戦‥‥いや、大乱戦である。
 9対5という大所帯での戦いは、まさに泥沼。
 こちらは八幡の回復魔法で、向こうはリカバーポーションでの回復を交え、傷の絶えない血みどろバトル。
 人数的にはこちらが圧倒的に多いが、何回もかけられたアグラベイションで、ほぼ全員動きが鈍ったのも痛い。
 勿論、個々の腕でも勝るこの面々だからこそ、この状態でも互角で済んでいるのだが。
「ほっほっほ‥‥素晴らしい。流石はビーフ特選隊のみなさんですね」
「くっ‥‥駄目だ、私たちの連携では付け焼刃過ぎる。例によって私は無視扱いだしな‥‥!」
 勝ち誇る冷凍の声に歯噛みする藁木屋。
 彼が人智を越えた超回避力を持っているのは周知の事実で‥‥ちょっと頭のいい相手だと、大概無視される。
 避けるやつにいくら攻撃しても時間の無駄と、囮の役さえ担えない。
 しかも‥‥。
「チョロチョロ動くんじゃねーよ! 魔法なら回避力なんてカンケーねぇぜー!」
「がっ‥‥! か、カリーか‥‥!」
 敵に魔法が使えるやつがいると、あっさり撃破されたりする。
 藁木屋錬術‥‥彼の適材適所はどこなのだろうか。
「藁木屋殿、大丈夫か!? くそっ‥‥骸甲巨兵なしでこれでは、先が思いやられる‥‥!」
「回復助かる、八幡殿。どうする‥‥これに果樹王たちまで加わったら、流石に殺されますな‥‥!」
 途中までは上手くいっていたのだ。
 交戦だといきり立つ村人たちをなだめ、説得し、村から一時避難させ‥‥やってきた冷凍を言い負かし、骸甲巨兵を封じ、向こうから仕掛けてくるように仕向けた。
 誤算だったのは、ビーフ特選隊が思った以上に強かったこと。
 まさか倍近い頭数で挑んだのに、互角に持ってこられるとは思わない。
 まぁ、もう一つ‥‥ビーフ特選隊が押され気味になると、冷凍が骸甲巨兵に何かしらの動きをさせるのだ。
 頭では攻撃してこないと分かっていても、巨大な怨霊が腕を振ったりするとどうしても注意がそちらに行ってしまい‥‥結果、ビーフ特選隊への意識が薄くなり、手痛い失敗をしたりすることになる。
 ふざけた雰囲気のオモシロ集団、ビーフ特選隊。
 しかしその実力は確かであった。
 そして、均衡を破ったのは‥‥!
「ストーム!」
 烈風が吹きすさび、乱戦状態の場をかき乱す。
 ベアータが使った魔法は、敵は勿論味方も巻き込んだが、戦いの流れを変えるのには充分だった。
「あー! し、しまった! あいつはしょっぱなからアグラベイションにかかってたから、もう時間切れなんだー!」
「その通りです、カリーさん。後方に控えてじっと耐えてましたからね‥‥もう一発。ストーム!」
 諦めずに期を伺っていたベアータの気合が通じたのか、ビーフ特選隊全員が吹き飛ばされる。
 しっかり陣形を組めれば、こちらの方が俄然有利なはず‥‥!
「‥‥まずいですね。そろそろビーフ特選隊の手持ちの薬も切れるはず。やはり八幡さんのような回復役がいられると非常に厄介ですねぇ。ここら辺が潮時でしょうか」
 そう呟いた冷凍は、骸甲巨兵に大きく足踏みをさせ、場を緊張させる。
「残念ですが、この村の制圧は断念せざるを得ないようですね。私は部下を大事にする主義でして‥‥死人が出ないうちに退散させていただきますよ」
「逃がしはしません。倒せはしなくとも、ストームで体勢を崩すくらいは‥‥!」
「おやおや‥‥いいのですか? 骸甲巨兵の攻撃範囲はあなたも充分捉えていますよ‥‥ベアータさん」
「‥‥‥‥!」
 そうして、何やら不満を漏らすビーフ特選隊を引き連れ、去ろうとする冷凍。
 その背中に、何の気なしに神木が言葉をかけた。
「藩の記録にも残っていない代物。どうして貴方は知っているのかしらね。貴方‥‥『契約』してるわね?」
「‥‥‥‥。‥‥はて、何のことでしょう。私には分かりかねますね」
 その長い沈黙と、わずかに反応した肩。
 それは、神木のかけたカマを肯定するものなのだろうか。
 兎に角、村は守られた。
 冒険者の知恵と実力が、冷凍の目算を越えていたのである。
 そして、そうそう抜けない伝家の宝刀と分かった骸甲巨兵‥‥果たして、今後の展開や如何に―――