●リプレイ本文
●戦
生か死か。終ってみなければわからないのが戦争である。
平良坂冷凍がかき集めた冒険者崩れは、最早一国の軍勢と渡り合えるほどまでに膨れ上がっていた。
八卦衆・八輝将が率いる丹波藩軍とも互角に戦えるほどに成長した冷凍軍であったが、戦争は数だけで勝敗が決まるような単純なものではない。
指揮官級の達人を根こそぎ捕われてしまった冷凍軍は、数の上でも質の上でも劣っているのだ。
しかし、冷凍軍には切り札がある。指揮が取れていようがいまいが関係ないほど強大な力がある。
やつが手にした巨刀は、たった一振りで十人規模の人間を弾き飛ばすのだ。
八卦衆の炎夜、凍真をはじめ、丹波藩軍は骸甲巨兵を孤立させるような動きをしながら戦況を推移させていく。
そういう戦い方をすれば、必然的に被害も大きくなる。故に『彼等』に二度目のチャンスはない。
『彼等』に求められるのは、骸甲巨兵の確実な撃破!
「どけどけぇぇぇ! 邪魔をすると容赦せんぞ! ‥‥前衛のみんながな!」
「あの〜、八幡さんもお仕事してくださいね〜?(汗)」
「‥‥まぁ、言っている事に間違いはありませんが」
「とにかく今は突破あるのみでござる! 骸甲巨兵にたどり着く前にやられては元も子もないでござるからな!」
八幡伊佐治(ea2614)、井伊貴政(ea8384)、山王牙(ea1774)、久方歳三(ea6381)。
別働隊と呼ばれる、冒険者たちで構成された9人の精鋭。
直接骸甲巨兵と対峙する事になり、最も危険度の高い任を背負った部隊である。
ある程度戦線が硬直したところで戦場を突っ切り、一直線に目標に向って突撃を敢行する!
襲い来る冷凍軍は丹波藩の兵がカットし、道を作り出す。
「推して参る。邪魔をするのであれば容赦はせんよ‥‥!」
「藁木屋君、焦りは禁物だ。我々に失敗は許されないのだからな」
「慎重に‥‥かつ確実に、敵の撃破を!」
「黄泉人のこともお忘れなく。目先の敵ばかりに気をとられては危険です」
藁木屋錬術、蒼眞龍之介(ea7029)、セイロム・デイバック(ea5564)、ベアータ・レジーネス(eb1422)。
冷凍と因縁の鎖で繋がれているかのように、幾度となく運命を交錯させてきた面々。
たった一つの勾玉から始まった因縁‥‥その決着の時は近いのだろうか。
そしてついに‥‥一行は、再び骸甲巨兵の眼前に立つ―――!
●立ちはだかるもの
今更ではあるが、間近で見る骸甲巨兵は大きい。
全長18メートルの骸甲巨兵は、戦場の真っ只中で大暴れしたにも関わらず傷一つ付いていない。
その鎧、その身体の頑丈さは少しも衰えていない‥‥!
「‥‥来ましたね。あなた方には何度も煮え湯を飲まされて来ました‥‥いい加減その腐れ縁も終わりにしましょう」
「な、なんだ!? 骸甲巨兵の中から冷凍殿の声が‥‥!」
「ほっほっほ‥‥骸甲巨兵はこうやって中に乗り込むこともできるのですよ。さて‥‥おしゃべりは止めましょう。ここまで来た以上、あなた方を殺さなければ私も治まりませんからね!」
余計なおしゃべりは命取りになると判断した冷凍が命じると、骸甲巨兵はすぐさま行動に移った。
右手の巨大な刀を振り上げ、その攻撃範囲の長さを生かして先制攻撃を仕掛ける!
標的は‥‥井伊!
「しまった! 井伊殿!」
「ぐっ! こ、これは〜っ!」
井伊の腕ならば、骸甲巨兵の攻撃を受け止めるのは造作もない。
しかし、その受け止める攻撃というのが普通ではないのだ。
大きさ故切れ味こそないが、それが返って鈍刀としての破壊力を増しているのだから始末が悪い!
「くっ‥‥ぶ、武器が‥‥うわぁぁぁっ!?」
井伊が手にしていた偃月刀も頑丈な武器ではあるが、骸甲巨兵の前ではまるで木製。
かつて山王もその攻撃を受けたことがあるが、魔法の太刀ですら使い物にならなくなる寸前に追い込まれたのだから当然か。
いや、違う。どうやら山王の時より威力が高い‥‥!?
「井伊殿!? まずい、死に掛けの上に腕が千切れかけてる! クローニングとヒーリングポーションも使わんと‥‥!」
八幡がすぐさま治療に当たったが、井伊は偃月刀を破壊された挙句に一気に瀕死にされたのだ。
おまけに左腕が取れる寸前になってしまっており、安静にしていなければ元に戻らなくなる可能性もある!
どうやらあの巨体で、スマッシュのような真似まで出来るようだ‥‥!
「井伊さんが無理ならば私が! おぉぉぉぉぉっ!」
一行は突撃開始前に支援魔法の付与を終えているため、セイロムはブレイブランスにオーラパワー付きでスマッシュEXを放つ!
邪魔が入ろうとしたが、それは黄泉人警戒に当たっていた蒼眞、久方、藁木屋がカットする。
足を狙った一撃で、骸甲巨兵の左足首が破壊される!
「流石、オーラパワーつきの攻撃はアンデッドに効果覿面でござるなぁ」
「蒼眞殿、我等もセイロム殿のつけた傷に追い討ちをかけましょう!」
「そうだな。再生能力を使われる前に少しでも傷を広げる‥‥!」
黄泉人警戒組みも追撃に加わり、骸甲巨兵の傷を抉る。
しかし人間もそうであるように、左足が使えなくなった程度では生物は死なない。
左膝をついて立て膝状態になったものの、まだまだ動く‥‥!
「‥‥このまま押し切りましょう。ところでベアータさん、ご親族の方はどうしたのですか?」
「さて、どうしたのでしょうね。『考えがある』と言ってペットのロック鳥に乗っていきましたが」
山王とベアータの会話の答えはすぐに出た。
上空のどこかから、ライトニングサンダーボルトと思わしき閃光が骸甲巨兵の胸部に直撃したのだ。
再生能力で少しずつ回復するとはいえ、達人級のLTBを受けると流石の骸甲巨兵にもダメージは大きい。
「それにしても、本当に大きいですね。あんなのが、人の操るものだとは正直信じがたいです」
リアナ・レジーネス(eb1421)。ベアータとの関係は不明だが、彼女も凄腕の風魔法の使い手である。
ロック鳥に乗って上空からの狙撃を敢行する彼女は、冷凍にとっては厄介な存在だろう。
「まだハエがうろちょろしていやがったのか‥‥! まったく‥‥人をイライラさせるのが上手いやつらだ‥‥。もうここまでだーーーッ! この地域ごと貴様らを、ゴミにしてやるーーーッ!」
しばし動きを止めた骸甲巨兵であったが、冷凍の咆哮と共に無差別攻撃を開始する!
滅多矢鱈に刀を振り回す骸甲巨兵を前に、流石の前衛組も近づけない!
「まるで駄々っ子でござるな‥‥!」
「‥‥確かに、こういう攻撃は厄介ですね‥‥!」
「なーに、リアナちゃんがいれば大丈夫じゃろ。上からどーんと狙い撃って‥‥」
どーん、と大音響がして、上空から巨大な物体が墜落してくる。
それは、リアナを乗せたロック鳥であった。どうやら何者かの攻撃を受けたようだが‥‥!?
『ぐぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ! 貴様ら人間どもの思うようにはさせんぞぉぉぉっ!』
「う‥‥く‥‥! も、申し訳ありません‥‥撃ち落されてしまいました‥‥!」
「あれは‥‥火車だと!? まさかあれも冷凍の配下だと言うのか‥‥!」
「き、京都で〜、死体漁りをする火車がいたと、聞いた事がありますが〜‥‥うわっ!?」
ごぅん、と爆音がして、一行のすぐ近くでファイヤーボムが炸裂する。
どうやら八輝将の真紅が放った魔法がこちらを巻き込んでしまったらしい。
念のために言うが、ここは戦場の真っ只中である。
流れ魔法や流れ矢が飛んでくるのはある意味必然なので、真紅を責めるのも酷な話だ。
「八幡さん、井伊さんの腕は治りましたか!?」
「そんなすぐにはくっつかん! ダメージは回復させたが‥‥って!?」
声をかけられた八幡は、セイロムに向って返答するためにそちらへ顔を向ける。
そこで彼が見たのは、セイロムの背後に迫る骸甲巨兵の刀!
このまま振り切られれば、悪ければセイロムは真っ二つにされる!
「ストーム」
間一髪、ベアータが上方向へ高速詠唱ストームを発動、刀の軌道を逸らすことに成功したが‥‥!
「‥‥! 流れ矢ですか‥‥くっ、こんな時に‥‥!」
その隙を突こうとした山王であったが、どこからともなく飛んできた矢が不運にも命中、挙動が遅れる。
いくら蒼眞・久方・藁木屋の護衛があっても、飛び道具や魔法はどうしようもないのだ。
「よ、黄泉人の姿が見えないでござるな! 代わりに空を飛ぶ火車が出てきてしまっているでござるよ‥‥!」
「っははははは! あの火車も私たちの部下だ! ご希望とあればまだまだ呼んでやっても構わんぞ!」
「『私たち』だと‥‥? 冷凍、言い回しが妙だがどういうことだ!」
「ふっふっふ‥‥いいだろう。では全てのカラクリを明かしてやる」
骸甲巨兵が口元に左手を持っていきその手に降り立ったのは‥‥!
「な‥‥!? れ、冷凍さんが二人いらっしゃいますよ‥‥!?」
『ほっほっほ‥‥どちらかが人間、どちらかが黄泉人と言えばお分かりですか? 私たちはひょんなことから知り合い、意気投合しましてね‥‥そのまま力を合わせ覇業を成し遂げようと協力しているわけです』
「ステレオでしゃべらないでください!?」
『入れ替わるのも黄泉人の力を使えば簡単なことですしね。ちなみに、不死者を操る力があるのは黄泉人のほうの私だけです。まぁ、骸甲巨兵だけは例外的に、人間の方の私でも扱えますがね』
「そ、蒼眞殿、どうするでござるか!? 黄泉人と冷凍殿があそこまで強固な協力体制を築いている上、あんな場所にいられては攻撃も届かないでござる!」
「いけませんね。火車の存在も勿論ですが、長引けば更に余計な配下を呼ばれる可能性もあります」
『ベアータさん、あなたらしくないですね。呼ぶまでもないでしょう? ねぇ‥‥八幡さん』
八幡がぎくりとした時にはもう襲い。
骸甲巨兵は立て膝状態から跳び上がり、八幡と井伊を踏み潰しにかかったのだ!
回復役を潰せば勝利は揺ぎ無い。そう考えるのはごく自然なことである。
「ちぃぃぃっ! 井伊殿、踏まれるよりはマシと思っておくれ!」
「なっ‥‥八幡さん〜、何を〜!?」
「あー‥‥これは、死んだかなぁ」
ぐしゃっ‥‥。
不気味な音が響き、井伊を蹴り飛ばした八幡だけが骸甲巨兵に踏みつけられた。
立て膝状態からなので、全重量を浴びせられたわけではないが‥‥!
足が退かされたあとには、血を吐いて意識を失った八幡だけが残されている‥‥。
「い、生きてはいますが、当然虫の息です。急いでポーションを!」
「‥‥リアナさん、私のを使ってください。まだ八幡さんに脱落していただくわけにはいきませんから‥‥!」
八幡が持っていたポーションは大概が踏みつけられた時に割れてしまったらしく、他のメンバーに貰った方が速かった。
しかし、八幡が意識を取り戻していない以上、回復の頻度は大幅に低下する。それが致命傷にならなければいいが‥‥!?
「くそっ、八幡殿からお借りした道返の石が殆ど役に立っていないではないか!」
『お馬鹿さんですねぇ、それは実力が近しい不死者には有効でも、強大な力を誇る骸甲巨兵には大した枷にはならないのですよ。小細工ごと粉砕して見せますよ』
状況は絶望的であった。
前衛で真っ先に切り込む予定であった井伊は、その力を恐れられ、いの一番に狙われて負傷。
流れ矢、流れ魔法、骸甲巨兵の無差別攻撃などで、一行にはじわじわとダメージが蓄積していく。
更に黄泉人は冷凍とぴったりくっついる上に攻撃不能な場所にいるし、火車という新たな強敵まで現れる始末。
挙句、唯一回復魔法を扱える八幡が意識不明では、最早座して死を待てと言われているようなものである。
しかし、冒険者たちは決して諦めない‥‥!
「支援魔法も切れ、自分と山王さんにオーラパワーをかけなおすので精一杯。しかしみなさん、私がなんとかしますので、どうか援護を! うぅぅぅおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
セイロムは、傷を再生させて立ち上がろうとする骸甲巨兵に向かい、そうはさせじと右足を狙う!
が、位置関係で真正面であったため、敵の迎撃も当然ある!
『ぐぎゃぎゃ、させるものかぁぁぁっ! ぎっ!?』
「させぬのはこちらだ。龍の牙にて‥‥少し黙っていてもらおう」
「私のLTBも追加で差し上げます」
蒼眞、リアナが火車を牽制!
『小癪な真似を! 薙ぎ払いなさい!』
「そうはさせません〜! 右手が使えれば〜、まだ〜!」
「お手伝いするでござるよ!」
「三人でかかれば、逸らすくらいは‥‥!」
井伊、久方、藁木屋が各々の刀を重ね、三人がかりで骸甲巨兵の刀を受け止めて逸らす!
ちなみに井伊の刀は、戦場故に落ちていたどこの誰の物とも知れない刀なのだが贅沢は言えない!
「‥‥届け‥‥届け! このままでは、終れない‥‥!」
山王がチャージング+スマッシュで骸甲巨兵の脛辺りに全力を叩き込む!
オーラパワーのおかげか、はたまた想いの力か。その攻撃は鎧部分を破壊、骨にヒビを入れることに成功!
『お、おのれぇ! まだ左手が‥‥うおっ!?』
「こ、この前見せたはずなんだがなぁ。僕も、攻撃はできるんだ‥‥!」
意識を取り戻した八幡がホーリーで骸甲巨兵の眼の辺りを攻撃、怯ませる!
そして‥‥!
「この一撃に全身全霊を! 因縁を‥‥討ち貫けぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
「風よ‥‥騎士を運べ」
オーラパワー+スマッシュEX+チャージングに加え、ベアータのストームで更に加速!
着地のことなど考えない、捨て身とも呼べる言わば暴挙! しかし!
「うぉぉぉぉぉっ!? ば、馬鹿な! 骸甲巨兵の足が‥‥!?」
右足の脛で真っ二つにされ、骸甲巨兵が地に這い蹲る。
自らも地面に叩きつけられてダメージは負ったが、セイロムは山王のつけた傷を狙い打ち、見事貫いたのだ!
『ぐぎゃ!? 比良坂様! ここは引いた方がよろしいかと‥‥!』
「そんなことは分かっている! 貴様ら‥‥いい気になるなよ! 私たちは必ず戻ってくる。勿論骸甲巨兵もだ! 一先ずの平和をせいぜい楽しむがいい! ふはははははは‥‥!」
突然ボロボロと崩れ行く骸甲巨兵。二人の冷凍はその中から脱出し、火車に乗って逃亡した。
兎にも角にも、最大の脅威は取り除いた。全員満身創痍になりながらも、勝ったのだ。
骸甲巨兵の敗北、そして冷凍の逃亡により、冒険者崩れも全て投降。万々歳とまでは言えないまでも、役目は充分果たしただろう。
「冷凍には逃げられてしまったか‥‥無念だ。‥‥どうした、藁木屋君」
崩れて灰になった骸甲巨兵の跡を調べていた藁木屋に、蒼眞が声をかける。
「いえ‥‥簡単すぎはしないだろうか、と。足をやられただけで全身がバラバラになるものでしょうか‥‥?」
「まさか‥‥再び黄泉返ると?」
「‥‥‥‥」
どうやら、未だ因縁の鎖は断ち切りきれてはいないようではあるが‥‥一先ず、勾玉事件の決着であった―――