【勾玉最終章】対決、果樹王組み!

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 95 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月12日〜05月18日

リプレイ公開日:2007年05月21日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「さてさて‥‥冒険者の皆さんもお忙しい中、精一杯頑張ってくださったおかげでビーフ特選隊の撃破には成功しました。次は果樹王組みと決着をつけることになりそうですね」
 京都冒険者ギルドの奥にある、わけありな依頼人の相談を受ける部屋。
 他の職員や一般人に聞かれたくない話をする場合、ここが使われることが多い。
 今日もこの部屋で、ギルド職員の西山一海、京都の何でも屋の藁木屋錬術、その相棒のアルトノワール・ブランシュタッドの3人による寄り合い(?)が行われていた。
 即ち‥‥丹波藩で反乱を起こした平良坂冷凍への対策会議である。
 ちなみに藁木屋たちの背後には丹波藩主、山名豪斬がいるので、実質丹波藩対冷凍勢力ということになるのだが。
「そうだな。前回は私も何とか役に立てたようで何よりだ」
「今回は私が一緒に行くわよ〜。大船に乗ったつもりでどーんと行きましょ♪」
 ビーフ特選隊の敗北を知った平良坂冷凍は、ますます周辺諸国より冒険者崩れを雇い入れているらしい。
 その中でも最も腕が立つのは、現状ではやはり果樹王、蛇盆、辺時板、弓囲の4人。
 その4人を倒してしまえば、他の冒険者崩れは烏合の衆と化し、丹波藩の戦力で充分駆逐できる。
 そして、その隙を突いて冒険者たちと藁木屋たちで骸甲巨兵を撃破‥‥というのが今のところの青写真である。
「今度は冷凍が丹波商人の寄り合いに出たところで仕掛けるわよ。冷凍のやつ、警戒を強めて村の制圧にいくのは控えたんだけど、流石に商人同士の寄り合いは行かざるを得ないみたいね」
「冷凍の最終目標は丹波藩の乗っ取り。乗っ取った後が焦土では意味がないからな‥‥冷凍は商人や民草へは非情に温和な対応をしている。寄り合いに骸甲巨兵を連れて行ったとしても、寄り合い所付近で骸甲巨兵を戦わせることはできない。そうなれば、頼るは果樹王たちのみというわけだ」
 勿論冒険者崩れもそれなりに連れて行くであろう。今回は敵も必死だ。
 ビーフ特選隊撃破の波に乗り、此度も勝利を飾れるであろうか―――

●今回の参加者

 ea1774 山王 牙(37歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ea2614 八幡 伊佐治(35歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea5564 セイロム・デイバック(33歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea6264 アイーダ・ノースフィールド(40歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea6381 久方 歳三(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7029 蒼眞 龍之介(49歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8384 井伊 貴政(30歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea9150 神木 秋緒(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●待ち伏せ
 丹波藩某所、とある町中。
 普段は何の変哲もないただの町なのであるが、今日は状況が違った。
 町中に聳え立つ、巨大な髑髏武者。即ち‥‥平良坂冷凍が所持する最大の戦力、骸甲巨兵である。
「やーれやれ、町中にあんなものを持ち込まないで欲しいもんじゃのー。家とか踏んだらどうするつもりなんだか」
「家も困るけど、通行人を踏んだりしたら洒落にならないわ。いるだけで迷惑とはあれのことを言うのね」
 八幡伊佐治(ea2614)、神木秋緒(ea9150)が言うように、町中でのこの光景は極めて異常だ。
 しかし驚くことに、町の人間は談笑しながら普通に往来を歩き、怯えて家に引きこもっているような事態にはなっていない。むしろ、骸甲巨兵の足で遊ぶ子供さえいるくらいだ。
「こ、これまた面妖な。この町の人たちは骸甲巨兵を恐がらないのでござるな‥‥」
「恐らく慣れてしまっているのだろうな。商人の寄り合いは基本的にこの町の集会所で行われるらしいから、何度もやってきてはいるものの一度も問題が起こっていない為、認識が緩くなっているのだろう」
 久方歳三(ea6381)が混乱するのは無理もない。たった一体で軍勢規模の相手を薙ぎ払う骸甲巨兵だが、その牙を向けられたことのない人間には危険度が伝わらないのだ。
 蒼眞龍之介(ea7029)の言ったことはまさにそのとおりで、町の人々に言わせれば見知らぬ冒険者が連れている凶悪なペットに比べれば可愛いものなのだとかなんとか。
「アルトさんは全力でやっていいと仰っておられましたが‥‥なんだか、私たちが悪者にされてしまいそうな気がしてしまって、いまいちバツが悪いですね‥‥」
「それはないわね。一般市民なんて現金なものだから、上の人間が変わろうと自分たちが住みよければ気にしないものよ」
 セイロム・デイバック(ea5564)の不安を、アイーダ・ノースフィールド(ea6264)は一蹴する。
 現に、丹波藩が統括していたのを平良坂冷凍が支配するようになった時も、さほどの混乱はなかった。
 もちろん支配を拒む村もあったが、一度受け入れてしまえば意外とすんなり日常が戻ったのだ。
「ん〜、冷凍さんは一般人に益になることはすれ、損になるようなことを控えてますからね〜。不承不承でも、受け入れやすい心境を作っちゃったということでしょう〜」
「‥‥姑息ですね。まぁ、正義を振りかざして支配をしないだけ好感が持てますが」
 井伊貴政(ea8384)、山王牙(ea1774)。
 ちなみに現在、一行は集会所の付近で隠れて待ち伏せしている。
 集会所の前には5人の冒険者崩れがいるようだが、まぁさしたる障害にはなるまい。
 それよりも、一行にはもっと問題だと思われることがあったのだ。
 その人物はおずおずと手を上げると、妙に歯切れが悪く呟いた。
「あ、あのぉ‥‥そろそろ、寄り合いが終る時間に、なると思うので‥‥その‥‥皆さん、準備をお願い、しますね」
『‥‥‥‥‥‥』
「はぅっ!? わ、私、何かまずいこと、言いました‥‥? あぅぅ‥‥」
 ぶっちゃけて言えば、この発言の主はアルトノワール・ブランシュタッドである。
 数日前に性格矯正(?)を行った結果、妙におどおどした引っ込み思案な性格になってしまったのである。
 その依頼に参加していた久方から事前に説明があったとはいえ、彼女を知る人間はまた混乱することになった。
「‥‥え、えっと。では久方さん、隠身の勾玉をお借りします。では、また後で!」
 逃げ出すようにして移動したセイロムを見送り、一同はその場に流れる空気を払いのけるつもりで準備を整える。
 この状態のアルトノワールがどれだけ役に立つかは微妙ではあるが、最早やるしかないのだ。
 気付けば、丹波藩の交通規制が終わったのか、辺りの人通りは無くなっていた。
 そして、冷凍たちが姿を現すのと同時に、一行は駆け出したのであった―――

●誤算、多数
「ほぅ‥‥そうきましたか。山名豪斬も随分と姑息な真似をしますねぇ。皆さん、やってしまいなさい!」
 一行の奇襲にも、冷凍はさして驚いた様子もなかった。予想の範疇だったのだろう。
 そして、この場にいる冒険者崩れ5人+果樹王、蛇盆、辺時板、弓囲で充分倒せる相手だと踏んだ。
 確かに骸甲巨兵は使えない。折角今まで積み上げた一般市民の信用を落とすのはよろしくないのだ。
 しかし冷凍には大きな誤算があった。
 それは後々発覚するが、もう少し後のことである。
「まずは先手必勝だ。龍牙!」
「蛇盆とかいったわね‥‥あなたの相手は私よ」
「味王としては、弓囲を料理したいので‥‥板さん、まず貴方から料理します」
「拙者は雑魚の皆様方を相手するでござるよ!」
「料理とあれば〜、僕も負けていられませんね〜!」
 蒼眞、神木、山王、久方、井伊。
 まずは前衛を担当する5人が突っ込み、戦線の口火を切る。
 が、そこで今度は冒険者の誤算があった。
 久方がさっさと倒してしまおうとした冒険者崩れ5人は、一斉に後退し、果樹王たちの影に隠れたのだ。
 それだけならばまだしも、なんと5人全員が高速詠唱からの魔法を放ったのだ!
「‥‥! シャドウバインディング‥‥!?」
「う‥‥す、スリープ‥‥! 冗談じゃないわ、眠ってたまるものですか!」
「せ、拙者はイリュージョンを受けたようでござる‥‥!」
「僕は平気なようです〜。いっきますよ〜!」
「井伊君、君はコンフュージョンを受けたのではないか!? 君が向っているのは味方だ!」
「あ、あれ〜!?」
 前衛組みは、基本的に魔法攻撃への抵抗力が低いので、運が悪ければ全員一気に魔法にかかることもある。
 今回は神木が抵抗に成功し、蒼眞は射程外だったようだが。
「ほっほっほ‥‥前衛には果樹王さんたちがいますからね。彼等を補助できるよう、魔法に長けた方たちを予備戦力として連れてきたのは正解でした。作戦勝ちというやつでしょうか?」
 町中で襲われた時のことを考え、広範囲に被害が出るような攻撃魔法ではなく、精神系の魔法を使う冒険者崩れをわざわざ選んだというのだからまたタチが悪い。
 まぁ実際問題その作戦がピタリとはまったのだから何も言えないが。
「馬ぁ鹿が! 冷凍様を暗殺しようなんざ、浅はか過ぎるぜ!」
「フ‥‥醜いな」
「‥‥がっ‥‥!」
「しまった! 山王さん!」
 果樹王がスマッシュの一撃で山王を重傷に追い込む。
 さしもの山王も、身動きが取れないのでは回避も受けもあったものではない。
 神木が気付いた時にはもう遅く、更に蛇盆に足止めされて援護が間に合わなかった!
「ほっほっほ‥‥素晴らしい! 見てご覧なさい、蛇盆さん、果樹王さん! 綺麗な噴水ですよ!」
 冷凍の言うように、山王はかなり出血している。
 なおも動けない山王に、果樹王が止めをさそうとするが‥‥!
「おぉっ!?」
「あなたたちは所詮、でかぶつを倒す前の前哨戦なのよ。いい気にならないで欲しいわね」
 アイーダが弓による攻撃でカット!
 しかし今度は、弓囲が鉄弓でアイーダを狙う!
「させるかッ! ヤツに弓を撃たせるなーーーッ!」
「いいや限界だッ! 撃たせるねッ! 今だッ!『黒い冗談の聖紋疾走(ブラックジョークホーリードライブ)ッ!』」
 なんと、今まで回復役に徹してきた八幡が高速詠唱長射程ホーリーで弓囲の攻撃を阻止!
 鉄弓は重いので、クイックシューティングができないのが欠点だ。
 しかし、八幡の魔力も無限ではない。弓囲の攻撃を邪魔できなくなれば、魔法を受けている前衛組みも含め、被害が増す一方となるのだが‥‥!?
「うぅおぉぉぉぉぉぉっ!」
『!?』
 その時、あらぬ方向から雄叫びが轟き、何者かが凄い速度で弓囲いに突っ込んで来た。
 完全に不意を突かれた弓囲は、当然ながら避けられるはずもない!
「貫け、私の武装オーラ! サンライト・スマッシャーッ!」
 オーラエリベイションを纏い、オーラパワーを付与した日本刀でのスマッシュ突き。
 スピードに乗ったセイロムの金髪が、まるで日光のように輝いて見える‥‥!
 紙のように弾き飛ばされた弓囲‥‥一気に戦闘不能である。
「なんだ!? 一体どこにいた!? 辺時板さん、防ぎなさい!」
 セイロムは、冷凍たちの後方に回ったことになる。
 冷凍は先ほどから動きのない辺時板に指示を与えるが、ここで先ほどの誤算が発覚する。
「冗談じゃねぇ。俺様は降りるぜ」
「‥‥なんですって?」
「沈み行く船と運命を共にする気なんざねぇってことさ。それに元々、俺様はてめぇが気に入らなかったんだ! ざまぁみやがれ! ハッハッハ!」
「貴様‥‥! 拾ってやった恩も忘れて反抗するとは、やはり辺時家の人間はお馬鹿さんばかりですね‥‥!」
「蒼眞さん、敵は浮き足立ってるわ。私たちで遠距離から術者を倒していきましょ」
「承知。アルト君、神木君の援護を頼む。彼女でも果樹王と蛇盆の両方を相手取るのは辛いだろう」
「えっ、あっ、は、はい! が、頑張ります‥‥!」
「くっ、久方さん、そのまま小柄を振り回しながら真っ直ぐ突っ込んで! 井伊さんは、敵を倒すんじゃなくて味方を倒すみたいな思考に切り替えて! それで少しは動けるようになるはずだから!」
「しゅ、粛々と対処するでござる!(血涙)」
「わかりません〜、やってみません〜! 味方を攻撃します〜! ‥‥こんな感じですかね〜?(汗)」
「台詞まで反対にしなくてもいいんですよ!? 私も術者の撃破に回ります!」
「山王殿は僕が引き受けよう。すぐに回復させるから、戦力に数えてやっておくれ」
「‥‥な、何か引っかかりますが‥‥よろしくお願いします‥‥」
 毎度のことだが、今回は狭い町中なのでさらに乱戦である。
 アイーダ、蒼眞、アルト、神木、久方、井伊、セイロム、八幡、山王。
 各々状況はよくないながらも、自分の精一杯で奮闘する!
「おっと‥‥果樹王さんに蛇盆さんよ、思い通りにはさせないぜ」
「辺時板! 貴様、冷凍様を裏切るのか!」
「ふん、最初から味方になった覚えなどない!」
「‥‥こうなっては仕方ありませんね」
 ついには蛇盆や果樹王に攻撃を仕掛け始めた辺時板を見て、冷凍はそう呟いた。
 すると、骸甲巨兵が動いて冷凍をその手に乗せ、移動を始めた!
「れ、冷凍様! 冷凍様ぁーーーっ!」
 見捨てられた形となった蛇盆、果樹王、弓囲と冒険者崩れ。
 こうなってしまうと、もう彼等に勝機も義理もありはしない。
 投降し、丹波藩に捕えられる結果と相成ったわけである。
「助かったでござるよ、辺時板さん。お手伝い感謝でござる」
「勘違いするな! 別にお前たちの味方になったわけじゃない。俺は俺のやり方で冷凍の野郎をぶっ潰す。それだけだ!」
 こうして、辺時板は冷凍を裏切り、丹波藩への投降もせず姿を消した。
 しかし、これで事実上果樹王組みも崩壊し、あとは骸甲巨兵を残すのみ。
 果たして、あの怪物を撃破することは本当に可能なのであろうか―――

「では八幡さん〜、今回の総括を一言どうぞ〜」
「うむ。『料理と菓子作りは似て非なるもの』だろーか」
「い、嫌味が効いてますね〜‥‥」