【五龍伝承歌・参】頑なな風

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:9 G 49 C

参加人数:9人

サポート参加人数:3人

冒険期間:02月02日〜02月10日

リプレイ公開日:2007年02月09日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「火と水の龍‥‥火爪龍・熱破さんと水牙龍・氷雨くんの二人は、冒険者の皆さんの協力の甲斐あって、現地で上手くやっていけそうな雰囲気です。しかししかしそこはそれ‥‥五行龍も全員が物分りがいいわけではありません」
 京都冒険者ギルドの職員、西山一海。
 彼は自分の担当スペースで、茶を啜りながら友人と会話していた。
「あ、それって森忌のことでしょ。木鱗龍・森忌(もくりんりゅう・しんき)」
 そのお相手は、京都の便利屋の片割れ、アルトノワール・ブランシュタッドである。
 スチャラカな理由でガラリと性格が変わったわりに、随分長いこと元に戻っていない。
 彼女は煎餅などかじりながら、一海に相槌を打つ。
「そうです。丹波の北部に住んでいる風精龍。話を聞く限りでは一番好戦的で厄介な龍ですね」
「でもさ、確か陰陽師兄弟のお兄さんの方が、近隣の村に害はないって触れ回ってくれたんじゃなかったっけ?」
「はい、そのおかげで今まで何も事件が起こらずに済んでいたわけですが‥‥3日ほど前に、とうとう」
 森忌に限らず、五行龍はなるべく人と関わりたくないと思っていた。
 実際問題、好戦的と言われる森忌でさえ、自らのテリトリーである森に入ってこられさえしなければ、自身からヒトに何かちょっかいを出そうとしたことは一切ない。
 話によると、ふらりとやってきた旅人が偶然森へと踏み入ってしまい、森忌に死なない程度に叩きのめされたのだという。
 悪意もなく、知らずに通りかかっただけの人間を攻撃してくるようでは、やはり放置はできないという論理の流れになり‥‥正式に討伐願いが出された、とのことである。
「あーらら。どっちの気持ちも分かるけど、来るべき時が来たって感じかしら」
「そうですね‥‥戦って打ちのめして、改心してくれればいいんですけど、最悪の場合‥‥」
「抹殺、ね」
「そ、そんなストレートに言わないでください。村の人たちだって、地元の人と仲良くやってる五行龍もいるというのは聞いているようですから、無理に殺さなくても構わないって言ってくれてるんですから」
「ま、とりあえず話を聞いて、それで駄目なら戦うしかないわね。手加減できる相手かは微妙だけど」
「まったくで。領地内でこんなに騒動の続く山名豪斬様に、つくづく同情しますよ‥‥」
 新たに紡がれ始める伝承歌‥‥中心にいるのは風の龍。
 果たして、森忌はヒトと和解できるのか。その運命は如何に。
 その歌の主旋律は、あなた方の一挙一動で変わり行く―――

●今回の参加者

 ea1442 琥龍 蒼羅(28歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1774 山王 牙(37歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ea2765 ヴァージニア・レヴィン(21歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea3210 島津 影虎(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea4301 伊東 登志樹(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb0487 七枷 伏姫(26歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb1992 ぱふりあ しゃりーあ(33歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb2483 南雲 紫(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

葉霧 幻蔵(ea5683)/ ウェンディ・ナイツ(eb1133)/ 神戸 新(eb9936

●リプレイ本文

●謎の断片
「‥‥はい? 居なくなった? どういうこと?」
 例の、森忌に叩きのめされた旅人が助けを求めたという村。
 ヴァージニア・レヴィン(ea2765)を初めとする、村での調査兼待機組みは、まずその旅人への接触を試みた。
 しかし、結果はヴァージニアの台詞どおり‥‥。
「妙ですね。ポーションで傷を癒したというのはわかりますが、何故そそくさとここを離れる必要があったんでしょう。どうもその、ふらりとやってきた旅人というのが、なにかうさん臭いような‥‥」
「‥‥怪しいな。限りなく灰色だ。足取りを追えるとは思えないのが残念か‥‥」
 ベアータ・レジーネス(eb1422)の疑問、琥龍蒼羅(ea1442)の思案。
 旅人を保護していたという村人も、首を捻るばかりであった。
「ほ〜っほっほっほっ! どうやらその旅人こそが事件の元凶っ! 巨大な悪の組織の手先と言うわけですわね♪」
「なんですか悪の組織とは。まぁそれはともかく、これは少々厄介な後始末になりそうですね」
 まぁ、ぱふりあしゃりーあ(eb1992)の言うことは極端としても、島津影虎(ea3210)の厄介な事件であるという意見だけは全員の共通意識である。
 何にせよ、情報の絶対量が少なすぎる。
 村人に聞き込みしても、特に旅人のことを覚えていないという人間が多い。
 特徴がないのが特徴‥‥とでもいうのだろうか。
「‥‥仕方がありません。旅人のことは一旦忘れて、村のことを調べてみませんか?」
「よっしゃ、任せろ! まだまだ色んな可能性があるわけだからな‥‥チンピラ魂全開だぜ!」
 山王牙(ea1774)、伊東登志樹(ea4301)の言葉に頷く一同。
 再び村に散って、別の角度から調査しようとした時である。
「っ!? な、何ですの、あれは!?」
「ウィバーン‥‥まさか、あれが森忌さんなのかしら‥‥!?」
 突如、森から姿を現した風精龍‥‥木鱗龍・森忌だ。
 どうやら誰かと戦っているようで、再び森の中に姿を消す。
「ふむ。どうやら、最悪の形‥‥戦闘になってしまったようですね」
「‥‥危険ですね。流石に二人だけでは精霊様の相手は無理でしょう」
「上等だ固羅ぁ! 森忌とはガチでやりあいたいと思ってたんだぜーッ!」
「返り討ちに遭わないといいがな。とにかく、援護に向おう」
「了解しました。風の龍に風の魔法がどこまで通用するか分かりませんが‥‥」
 パフリア、ヴァージニア、島津、山王、伊東、琥龍、ベアータ。
 任せたとはいえ、危険を察知したからには放っておけない。
 何せ相手は、五行龍一の暴れ者、森忌なのだから―――

●魂の律動
「くっ‥‥! ま、待って森忌! さっきも言ったでしょう!? 私たちはあなたと戦う気はないのよ‥‥!」
「そうでござる! 先ほどは蜜柑を美味しそうに食べてくださったでござろう!?」
『だらっしゃぁぁぁっ! やかましいわ固羅ぁぁぁッ!』
 南雲紫(eb2483)と七枷伏姫(eb0487)は、他の面々に先んじて森忌に会いに来たのである。
 遭遇一番、森忌が何かアクションを起す前に七枷が大声で挨拶し、頭を下げたので、森忌は叫ぶタイミングを逸した。
 畳み掛けるように南雲が刃鋼(五行龍の長)のことや、氷雨、熱破のことを話した。
 森忌も森忌で土産としてもらった蜜柑を食べて、大人しく話を聞いていたのだが‥‥突然怒り出し、襲ってきたのだ。
「あうっ!? ま、魔法は避けられない‥‥!」
「上空からのライトニングサンダーボルト‥‥接近戦では南雲殿に及ばないからでござろうか‥‥!」
 そう、森忌は最初、爪や尾による格闘を仕掛けてきたのだが、南雲がそれをひょいひょい回避するのを見て、魔法による射撃戦へとシフトした。
 らしくないと言えばらしくない戦闘スタイルであるが‥‥本人曰く、
『漢は常に全力じゃぁぁぁッ! 誰が相手だろうが負けるわけにはいかんっちゅーねんッ! うぉぉぉ、漢じゃワシゃあぁぁッ!』
 苦手な魔法を連打してまで勝とうと言う姿勢を褒めるべきか‥‥はたまた、わけの分からない理屈をなじるべきか。
 実際問題、何が気に障ったのか南雲たちには分からない。
「南雲殿、ここはきちんと迎撃に回るべきではござらぬか!?」
「わ、わかってはいるんだけれどね‥‥ああやって飛ばれてちゃ、戦闘態勢をとってもどうしようもない。ならいっそのこと、最後まで争う意思を見せないほうが、後々有効かなって‥‥うくっ‥‥!」
 木の影に隠れた途端、南雲がずるずると座り込んでしまう。
 LTBで何度も狙撃されているので、大分身体が痺れていているらしい。
 流石にこの森は森忌の庭とあって、木に隠れ辛い絶妙なタイミングや角度で撃ってくるのが痛い‥‥!
『おんどりゃ、それで隠れてるつもりかぁぁぁッ! ふざけたことぬかした落とし前は取ってもらわんといかんのォッ!?』
 南雲が機敏に動けなくなっているのを感じたのか、急降下してくる森忌。
 このままでは‥‥! そう、七枷が思った瞬間だ。
「だっしゃぁぁぁッ! 生涯、一チンピラ‥‥俺、参上ッ!」
「ほ〜っほっほっほっ! 南雲さん、七枷さん、助けに来て差し上げましたわよ!」
 伊東、パフリアを初めとする村での調査組みが合流してくれたのである。
 8対1‥‥一気に形勢は逆転だろうか。
「伊東の『ちんぴら式、喧嘩の作法』講座! ちんぴらは、まず絡む相手に『オ”ぅ、』と凄みを効かせて声をかけ、相手に自分の事を認識させた瞬間に『んダ、ごラ”ぁ!』と下から寝目上げ、ガンを飛ばす! これで、相手が視線を逸らそうものなら絶好の鴨だ! が、相手もガンを飛ばしてきやがったら、メンチの切り合いだ! いいか!? メンチの切り合いで負けたら勝負は、その時点で負けると思え!」
「冗談をやっている場合か。さっさと戦闘態勢を‥‥」
『ほォ‥‥人間にしちゃあいい根性じゃのォ! ガンの飛ばし合いなら望むところじゃぁぁぁッ!』
「‥‥‥‥」
 思わず肩透かしを食らった琥龍であった。
 伊東と睨みあいを続ける森忌‥‥他の面々は、むしろどうリアクションを取っていいか分からない。
「どうしましょう。この隙を突いて、ストームでも撃ちこみますか?」
「やめたほうがいいんじゃないかしら。『喧嘩の邪魔をした』とか、いらない悶着を引き起こしそうだから‥‥」
「そうですね‥‥ここで手を出すと、始末が増える可能性は高いです」
 ベアータ、ヴァージニア、島津。
 この3人に限らず、伊東と森忌以外は次の一手をどうしようかと考えていたときだ。
「ほ〜っほっほっほ! こうなれば実力行使あるのみですわ! 一気に畳み掛けますわよー‥‥べぶっ!?」
 全く話を聞いていない者が約一名。
 森忌に突撃をかけようと走り出したのを、山王が足を引っ掛けて無理矢理転ばせる。
「痛いじゃありませんの!?」
「‥‥余計なことをしないでください。足手まといになりたいのですか?」
「なっ、よ、余計なことですって!? 向こうだってやる気まんまんですことよ!?」
 パフリアの主張を聞いて、南雲と七枷を含めた7人が、ついついと伊東たちの方を指差す。
『いいツラじゃあッ! ワシも久々に燃えてきたわぁぁぁッ! その面構え‥‥実力も相当なモンじゃろぉなぁぁぁッ!?』
「ハッ、試してみるか!? 漢なら、ステゴロで来んかぃぃぃ!!」
『上等じゃ固羅ぁぁぁッ!』
 妙に波長が合うのか、完全に二人の世界である。パフリアは眼中にない。
「し、失礼ですわね! このわたくしを無視だなんて、許しませんことよ!?」
『じゃかぁしいっ! 黙っとれやぁぁぁッ!』←伊東と森忌の同時ツッコミ
「はうっ!? な、なんですのなんですの、敵味方のくせに! 酷いじゃありませんかぁぁぁっ!?」
「わかったから、パフリア。ほら、泣かないの。登志樹には私が後で言っておいてあげるから。ね?」
「えぐえぐ‥‥」
「‥‥また難儀な方が増えたでござるなぁ‥‥」
 高飛車なわりに打たれ弱いパフリア‥‥彼女もまた、いいキャラであった(何)。
 一方、伊東と森忌はというと、チンピラ同士の殴り合いに興じていた。
 いくら伊東が腕力があるとはいえ、素手では森忌にかすり傷しか与えられない。
 いや、かすり傷になること自体が凄いのだが。
 それに引き換え、森忌の攻撃が伊東にヒットすれば、一気に中傷くらいにはなるだろう。
 しかし、そんなことは関係ないのだ。
 ただ、殴り合いが楽しい‥‥伊東も森忌も、拳でお互いのチンピラ魂を感じ取っている!
『軍配もなしでワシの攻撃を捌くとは‥‥おんどりゃ、手強いのォ!』
「森忌のダンナもなっ! どうだい、俺っちに免じて、ちっとばかり話を聞いてもらえねぇか!?」
『‥‥いいじゃろう。どうやら熱くなりすぎとったようじゃからのォ‥‥さっきの二人にも悪いことをしたわ』
 かくして、8人全員が合流した状態で、森忌との対話が可能となったわけである。
 そして、先ほど森忌が突然暴れだした理由‥‥それを聞いて、一同に緊張が走った。
『誰が好き好んで旅人なんぞ襲うか。そいつがいきなり斬りかかって来よったから返り討ちにしてやっただけじゃい』
 南雲と七枷は『どうして旅人を襲ったりしたのか』と聞いたのだ。
 森忌にしてみれば、自分が悪者扱いされたような気がしたのであろう。
 考えてみれば、森忌が復活してからこの森を旅人が通ったのは、一回や二回だけではないはず。
 今まで騒ぎにならなかったこと自体が、森忌の無実を証明しているのかもしれない。
『ワシも刃鋼の姐さんに、なるべくヒトと上手くやれと言われとるからのォ‥‥手ぇ出されんのじゃったらこっちからも手は出さんわ。村の連中にもそう伝えとけや』
 水掛け論になるかもしれないが、一行の中で森忌の無実はより確実なものとなった。
 森忌に攻撃を仕掛け、返り討ちに遭い、村に助けを求めたと言う旅人‥‥彼は一体、何者なのであろうか―――