【五龍伝承歌・参】迷走する風

■シリーズシナリオ


担当:西川一純

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:11 G 76 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月19日〜02月27日

リプレイ公開日:2007年02月27日

●オープニング

世に星の数ほど人がいて、それぞれに人生がある。
冒険者ギルドでは、今日も今日とて人々が交錯する―――

「というわけで、冒険者さんたちの予想通り、非常にキナ臭くなってきたわけです」
「むぅッ! その消えた旅人‥‥どこの手の者かは知らぬが、確かに怪しいッ!」
 ある日の京都冒険者ギルド。
 ギルド職員である西山一海(普通の青年)と、同じくギルド職員の大牙城(虎の覆面を被った変な中年)は、丹波の北部で起こった事件‥‥即ち、風の五行龍について話し合っていた。
 前回、木鱗龍・森忌と接触した冒険者たちは、主に村での情報収集を行い、後に森忌と軽く戦闘した。
 結果、依頼を出したのは村長で、村の寄り合いで決まったことであることが判明。
 また、勝手に森に入り、森忌に死なない程度に叩きのめされた旅人は、いつの間にか村から姿を消していたという。
「世話になっておきながら礼も言わずにいなくなるとは‥‥礼儀がなっておらんなッ!」
「そういう問題ですか(汗)。そんなことより、これからどうするかですよ。チンピラさんのおかげで森忌さんが話を聞いてくれたのはよかったですけど、実際信じられるんでしょうか」
「どういうことだねッ!?」
「いえ‥‥森忌さんが嘘を言ってる可能性は無いかな、と。逆に、村人が嘘をついてる可能性も無くはないわけですし」
「心配ないッ! 漢を目指すものに嘘など有り得んッ!」
「‥‥あのですね」
「それに、森忌殿がそんなに頭が回るとも思えんッ!」
「ひっど!」
 と、そんな時である。
 冒険者ギルドの暖簾を掻き分け、京都の便利屋、藁木屋錬術が慌てて姿を現した。
「一海君、大変だ! 森忌が例の村を襲っているらしい!」
「はいぃ!? なんでまたいきなり!?」
「わからんが‥‥とにかく、風の旋風殿(丹波藩家臣・八卦衆の一人)から情報が寄せられたのだ。現在、丹波藩士たちが急行して対処に当たっていると聞く。話によると、森忌はかなり激昂しているとか」
「怒っているとッ!? 行って確かめるしかないようだなッ!」
 自ら手出しはしないと、自分でも言っていた森忌。
 果たして、今度の彼の行動の裏にあるのは―――?

●今回の参加者

 ea1442 琥龍 蒼羅(28歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1774 山王 牙(37歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ea2765 ヴァージニア・レヴィン(21歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea3210 島津 影虎(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea4301 伊東 登志樹(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea5414 草薙 北斗(25歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6526 御神楽 澄華(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb0487 七枷 伏姫(26歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb1992 ぱふりあ しゃりーあ(33歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

●怒りの矛先
『ドラァァァッ! 邪魔するなら、きさんらからぶっ潰したらぁぁぁッ!』
 道中をなるったけ急ぎ、一行が村に到着した時‥‥すでに森忌と丹波藩士が交戦していたのである。
 数が多く、それほど腕が悪いわけでもない丹波藩士たちだったが、やはり上空からの攻撃に大苦戦していた。
「あっちゃあ‥‥もう始まっちゃってるよ! 速く止めなきゃ!」
「ほ〜ほっほっほっ! 何があったか知りませんけれど、そんな簡単にプッツンしてしまうだなんて器の小さい事ですわね!」
「無闇に挑発するような台詞を吐くな。当初の予定とは違うが、森忌を引き離すぞ」
「‥‥そうですね。村人の避難誘導は丹波藩士に任せましょう」
 草薙北斗(ea5414)、ぱふりあしゃりーあ(eb1992)、琥龍蒼羅(ea1442)、山王牙(ea1774)。
 当初、一行は村で調査を行ってから森忌の下へと赴くつもりだった。
 しかし、村に入った途端に森忌の怒号が聞こえてきてしまったのでは、その作戦はあっさりご破算である。
「森忌のダンナ! こいつはいったいどういうわけだよ!?」
「森忌様、このようなことをしても何も始まりません‥‥!」
 伊東登志樹(ea4301)、御神楽澄華(ea6526)の言葉で、ようやく森忌は一行に気付く。
『あ”あ”!? ‥‥おう、その声は例の根性座った人間かい! 邪魔するならお前だって容赦せんぞ! ワシゃ完全にドタマ来とんのじゃぁぁぁッ!』
 顔はともかく声は覚えていたらしく、森忌は伊東の登場で動きを止める。
 その隙に‥‥といっては変だが、ヴァージニア・レヴィン(ea2765)が丹波藩士にテレパシーの魔法で連絡を取った。
『聞こえるかしら? 森忌さんは私たちが村から引き離すから、村人たちの保護をお願いできる?』
 丹波藩士の一人がこくんと頷いたのを見た後、ヴァージニアがふらりとよろける。
「おっと。大丈夫ですか、ヴァージニア殿。やはり腹が減っては戦はできませんね」
「うぅ‥‥ごめんなさい‥‥」
「ですから、私が保存食をお分けすると言いましたのに。強がるから大事なときにそんな状態になるんですよ」
「はぅ‥‥(ぐきゅるる‥‥)」
 そう、ヴァージニアは保存食の買い忘れでろくろく食事が取れなかったのである。
 島津影虎(ea3210)が後ろから彼女を支えたところでベアータ・レジーネス(eb1422)のツッコミが飛び、ヴァージニアは情けないやら申し訳ないやら、複雑な気分で項垂れたという。
「とにかくだ、暴れてる理由を話してくれ! この前、自分からは手を出さないっつってただろーが!?」
『そうじゃ! ワシから手は出しとらんわい! こんの村のモンがのぉ‥‥ワシに一服盛りよったんじゃぁぁぁっ!』
 この発言には流石に一行もぎょっとする。
 一服盛った‥‥例の、怪しい旅人がではなく、この村の住人が!?
「そ、そんなことってあるの!? だいたい、何を食べさせられたのさ!?」
『蜜柑じゃい! この前お前らが帰ってからしばらくして、この村のモンじゃと名乗る男が来よった! 『先日の旅人の件で騒々しくさせてしまったから、これはお詫びに』となぁ‥‥蜜柑を持って来よったんじゃぁぁぁッ! 食べてみればびっくり‥‥。うまかったぞ‥‥血反吐を吐くくらいになぁぁぁッ!』
「‥‥森忌様、その村人の顔はわかりますか? 上手くすれば見つけて問いただすことも‥‥」
『はっ、きさんらはワシと他の風精龍の区別がつくのか!? それと一緒じゃいッ!』
「だ、だからと言って‥‥森忌様、こんなことをしてもご自分の立場を悪くされるばかりですよ!?」
「伊東殿、草薙殿、山王殿、御神楽殿。後始末屋としての意見を申しますと‥‥言うだけ無駄です」
「で、でも‥‥森忌さんの話が本当なら、森忌さんは被害者なのよ‥‥!?」
 ヴァージニアがふらつきながらも島津に抗議した瞬間。
 空を切り裂いて、ウインドスラッシュと数本のダーツが森忌へと直撃する!
「しかし、一度叩きのめしでもしなければ森忌は話を聞くまい。また、丹波藩への示しもつないだろう」
「ほ〜ほっほっほっ! つまり、ぐりぐり踏みにじって言うことを聞かせると言うのですわね! 望むところでしてよ〜!」
「‥‥俺はそういうつもりで言ったのではないんだが?」
「また村人に化けた何者かが、森忌さんを襲ったんでしょうか? まぁ、今は戦うしかないでしょう」
『上等じゃ固羅ぁぁぁッ! ワシを黙らせたかったら、全力で来んかぃぃぃッ!』
 どうしてこう、森忌は喧嘩っ早いのだろうか。
 ここで少しだけ矛を収め、話をすると言えばいいだけなのに。
 猛り、迷走する風‥‥その辿りつく場所は―――?

●風VS風
「ストーム!」
「‥‥に、合わせてダーツ! 加速してダメージアップですわよ〜!」
『こんなものが通用するかぁぁぁっ! 術者がソニックブームを避けられるかっ!?』
「琥龍さん、危ないっ!」
「助かる、北斗。ならばトルネードはどうだ」
 ベアータとパフリアの攻撃をかすり傷で済ませた森忌は、一転、琥龍にCOで攻撃を仕掛けた。
 そこを草薙が突き飛ばす形でカット、自らは高速微塵隠れで回避‥‥と、お得意の戦法を披露。
「あ、やっべ。森忌のダンナ、今回はステゴロで来ないつもりだぜ!?」
「というか、それが普通でしょう。来ますよ!」
 伊東と島津に向けられた尻尾での攻撃を受け止め・回避し、二人は威嚇のために上空へ武器を振るう。
 攻撃の届かない上空から攻撃してくる森忌に対し、一行は決定的なダメージを与える術を持たない。
 唯一、琥龍や山王のウインドスラッシュだけが高確率でヒットするも、やはりダメージは微々たる物。
「お願い‥‥森忌さん。鎮まって‥‥!」
 必死の思いでメロディーの魔法を使うヴァージニアだったが、空腹も手伝ってか思うように上手く歌えない。
 もっとも、森忌に歌の風流を理解できるかどうかはかなり怪しいが。
「こいやぁ〜、兄弟ぃ! 俺がお前の拳を全部、受け止めたらぁ!!」
『人間のチンピラぁ! 今回はお前ばかりに構っとる暇はないわぁぁぁッ!』
 ぴしゃぁぁぁんっ!
 上空からのライトニングサンダーボルトで、伊東を狙撃する森忌。
 見かねた御神楽が、愛馬『金剛』を駆って森忌を村から引き離そうとする!
 森忌も村の建物に被害を出すのは好ましく思っていないらしく、すぐさま御神楽を追った。
「冒険者からでも、重大な怪我を負う方が出れば村の方には森忌様は恐怖の対象となるでしょう。申し訳ありませんが文字通りの横槍を入れさせて頂きます」
「これ以上は、堅気の衆にご迷惑だ。やるなら森へ行きやしょう、若造ですが、お相手致しやす」
『おどれら、漢同士の喧嘩に水を‥‥とは言わんッ! その漢気に免じて、場所を移動したらぁぁぁッ!』
「暑苦しいですね。何やら山王さんもらしくない言動をなさっているようですが‥‥。なんというか、そのまま前回のように戦闘を止めて頂ければ早いのですが。琥龍さん」
「あぁ、分かっている。ウインドスラッシュ」
 ベアータの合図で琥龍が魔法で援護する。
 しかし、それは一瞬怯むか怯まないか程度の僅かな隙でしかない。
 空飛ぶ敵の厄介さを痛感する一行であった。
「ほ〜ほっほっほっ! どうやらわたくしが恐くて降りてこられないようですわねっ!」
「あ、あのさー、パフリアさん! いちいち挑発じみたこと言うのやめないかな!? かな!?」
『ほぉ‥‥いいじゃろう。なら次はおんどれを爪で攻撃したるわぁぁぁっ!』
「森忌さんも律儀にノらなくていいからー!!」
「北斗‥‥そいつぁ違うぜ」
 ぽん、と草薙の肩を叩く伊東。
「森忌のダンナは、相手が本気でかかって来いと思ってないとノってこねぇ。嘘の挑発には決してノって来ねぇのさ!」
「何の解決にもなってないではありませんかぁぁぁっ!?」
 絶叫してツッコむ御神楽を他所に、森忌とパフリアが交錯する直前‥‥!
「暫く! あいや暫く!」
 場に響いたのは‥‥七枷伏姫(eb0487)の声。
 彼女は一人別行動をとり、森忌の森を捜索していた。
 そういう意味では、森忌が村に襲撃をかけていたのは幸運と言えるかも知れなかった。
「あら、七枷さん。何か収穫はあったのかしら?」
「警戒だけで魔法力を使いきってしまったでござるが‥‥それだけの価値はあったでござるよ」
 そう呟いた七枷の手には、何の変哲もなさそうな蜜柑と‥‥年季の入ったお守りが。
 恐らく、この蜜柑が森忌の言っていた毒入り蜜柑だろうか。
 では、このお守りは‥‥?
「一通り森忌殿の森を探索したら、村人らしき方の遺体を発見したでござるよ。カラカラになってしまっていたので、何日前に亡くなったのかは定かではござらんが‥‥とりあえず、村の方々に検分していただくために拝借してきたでござる」
『何ぃ? ワシの森で死体じゃと? そんなモンちっとも気付かんかったぞ』
「それはそうでござろう。巧妙に枯葉などで隠してあったでござるから、『探す』という気持ちで歩かねば見つからんでござる。ちなみに、外傷はなかったでござるな」
「‥‥森忌様、これでお分かりでしょう。村人ではない誰かが、森忌様と村人とで諍いを起させようとしているのです」
「森忌のダンナ‥‥虚仮にされたってぇんならこのほうがよっぽど虚仮にされたってモンでさぁ」
「こうなると、旅人の方もどこかで死体になっている可能性が高いか‥‥」
『‥‥‥‥』
 流石の森忌も、正体不明の何かが暗躍しているのは悟ったらしく、小さく唸っている。
 そして、村人たちを呼び戻し、森忌も含めた一同での会合が開かれたという―――

●まとめ
 曰く、蜜柑に入っていた毒はトリカブトであった。
 曰く、お守りの持ち主(森の中の死体)は、前回旅人を泊めてやった家の家主であった。
 曰く、死体はカラカラになってしまっており、死後何日経っているか不明。
 曰く、森忌はしばらく森に引っ込むと決めた。
 以上である。
「‥‥え、これで終わりですの!? わたくしと森忌さんの勝負が、とんだ尻切れトンボでしてよっ!?」
「‥‥はっ。後始末屋ともあろうものが、七枷殿にお株を奪われてしまいましたね‥‥」
 各々の主張をさらりと押し流し‥‥時の河は、ゆっくりと続いてゆく―――